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王家の姫君  作者: ユズル
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第十八話「秘密の話」




 そこは庶民にとっては敷居の高い過ぎる高級料理店であった。

 外観は見るからに荘厳な雰囲気を醸し出しており、高級感溢れる二階建てだ。まるでペリプエスト宮殿の似せて造ったような外装が施されている。本物と比べるとかなりの小宮殿ではあるが。

 その建物の表門を、テオバルドは気にする様子もなく平然として通り過ぎていった。アリシアはその場で立ち止る。



「……どうかしたのかい、アリシア?」

「私は入れないよ。身分が違い過ぎる。」

「――ああ。大丈夫だよ、僕がいるからね。」



 そういう問題ではないのだが……。というか、そんな庶民着(かっこう)で行ったら間違えなく門前払いを食らうのではないか――?

 そんなアリシアの心の問い掛けが通じたのか、端や彼女の目線に気づいて感じ取ったのか、彼が口を開く。



「――平気だよ、シア。普段もこの格好で来ているし、僕はお得意様だからね、特別に個室も借りられるんだよ。」



 ……はあ、そうですか。



「遠慮することはないよ。もちろん僕の奢りだしね。」



 それもそうだろう、身分を偽っているわけであるが、今のアリシアは一介の召使いである。値段の桁数が三つぐらい多くなりそうなところで食事などすれば、召使いごときの給料では破綻してしまう。誘っておいて、相手に払わせるのも失礼な話であるが。

 しかしながら、来てしまったならしょうがない。アリシアは早く行こうと急かせるテオバルドに「わかった。行けばいいんだろ。」としぶしぶ承諾した。



「君のそういうところを僕は気に入ってるよ。」



 つくづく思うが、こいつは絶対に垂らしだ。

 ふと、アリシアは王の素行を思い出して、彼と天秤にかけてみた。若干、王の方が断然傲慢さが優っているが、彼の強引なところなどが引けを取らないいい線をいっている気がする。

 アリシアが隣でそんなことを考えているとは露知らず、テオバルドは建物の中に入るように彼女に促した。

 そして、場違いな格好をした二人は吸い込まれるように小宮殿内へと姿を消したのであった。






「これはこれは、テオバルド様。お待ちしておりました。」



 受付の者がテオバルドを見るや否、駆け寄ってきた。

 一瞬、アリシアに視線が注がれたが、彼がひとこと「連れの女性だ」と説明すると、どういうわけか納得して、無条件で二階へと通される。



「急に無口になったね。どうかしたのかい?」



 アリシアは、そう言われてはっとした。無意識的にピクス国の王女としてのベールを被っていたらしい。あまりにも宮殿の内装と雰囲気が似ていたので、錯覚に陥っていたのだ。



「……いや、なんでもない。」



 一番奥の個室に入ったアリシアとテオバルド。

 テオバルドはアリシアをエスコートしテーブル席に座わらせると、接客係を部屋に呼び出し、口々に料理を注文した。そして、アリシアが使いとして頼まれた買い出しリストが入った籠をその接客係に預ける。



「ねえ、シア。――君は城に仕える一介の召使いでしかないだろ。」



 アリシアは演技をしなければならない。

 何故ならこの堅苦しい雰囲気はあまりにも慣れ過ぎていた。



「その身分がつまらないと思ったことはないのかい?」



 テオバルドが何かを言っている。



 ピクス国の王女アリシアは冷静沈着の狡賢い女。一方、召使いのシアは口が悪いのを除けばどこにでもいる平凡な少女。

 アリシアがシアを邪魔し、シアがアリシアを邪魔する。



――この場を何も知らない無知な召使いのシアとしてこの場をやり過ごすのか。

――ピクス国の王女アリシアとして彼に探りを入れるべきなのか。



 しかし、アリシアの迷いは即座に消え去った。そして、今過った考えすべてが馬鹿らしくなった。

 私はピクス国の第一王女アリシアだ。抱えているものの重さが違うのだ。

 たかが、一時の安らぎを得たいがための時間ごときに、シアというありのままの自分自身に縋り付くのは、なんて自分勝手で愚かな行為なのか。

 アリシアはぎゅっと拳を握り締めて、テオバルドの方を向く。



「シア?」

「その、すまない。あまりにも慣れてない環境過ぎて戸惑っていた。……その、緊張しているんだ。」



 きょろきょろと落ち着きのない様子のアリシアに、テオバルドはクスッと笑みを見せる。



「さっきの話の続きに戻りたいのだけど、いいかな?」

「……ああ、大丈夫だ。」



 アリシアがそう言うと、テオバルドはテーブルに両肘をついて手を組んだ。じっと、アリシアを見つめてくる。



「――実はね、こうして個室を取って二人きりで食事しようと言ったのは、何も君とただお昼を一緒に食べたかったからというわけではないんだよ。」

「……ちょっと、待って。どういうことだ?」



 思わず前のめりになる姿勢をぐっと堪える。相手に不信感を持たせないためにも、シアは一定の感情をキープしなければならない。



「シアに協力してもらいたいことがあってね。」



 君に協力だって? 冗談じゃない、とアリシアは手を軽く振って言い退ける。

 内心では、その協力(・・)がどんなことなのか知りたくて体が疼いているのだが……。



「君は、宮殿には自由に出入りできるのかい?」

「……何でそんなことを君に言わなければならないんだ。」

「シア、僕の質問に答えてくれないか?」

「……私はそういった怪しい話には乗りたくないし、聞きたくもない!」

「――シア、これは君のためでもあるんだよ。僕はどうしても君を一介の召使いどまりにしたくないんだ! 僕の気持ちがわかってくれるだろ……?」



 わかりたくもないわ! とは、口に出さなかったがアリシアは拒否の態度として、彼から視線を逸らした。

 すると、彼は椅子から立ち上がり、体を前に傾けてアリシアの二の腕を掴んだ。そのまま腕の関節、手首へと手をずらし、最後は彼女の手を両手で握り締めてきた。そして、強い眼差しでこちらを見てくる。



「うっ……自由とまではいかないけど、ある程度なら可能だ。けど、私は、変なことに巻き込まれたくはないんだ。」

「君の身の安全の保証は僕が必ず守ってあげるよ。だから、僕に力を貸して欲しい。」



 もしこの話が、アリシアにとって不利益になるのであれば、彼を切り捨てる覚悟はできている。自身の安全を確保した後、情報漏えいを迷わず行うだろう。

 しかし、仮にアリシアにとって、いやピクス国にとって利益をもたらす内容であるならば……。



「……話を聞いてから判断したい。だって、こんなことを急に言われても困る。」



 それでもいい、聞いてから判断してくれ。と、テオバルドはアリシアに言うと、その内容を話しはじめた。

 それはアリシアにとって思いもしない話だった。

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