第五章 砲撃要請
五年兵の軽機関銃手が倒れたあと、誰もすぐには動かなかった。
十一年式軽機関銃の銃身から、細い煙が立ち上っていた。
加熱した冷却フィンが、カチ、カチと乾いた音を立てる
源蔵は、倒れた男を見た。
それから、伍長が倒れている場所を見た。
二人。
八人いた分隊は、もう六人になっていた。
「佐伯上等兵」
背後から声がした。
「お前が先任だ。指揮を執れ」
源蔵は短くうなずいた。
さっきまで先任だの軍隊の飯だのと騒いでいた連中も、今は黙っていた。
命令を待っている兵たちの顔を見回す。誰もが、次に誰が撃たれるのかを考えていた。
源蔵自身も同じだった。
敵がどこにいるのかもわからない。
それでも、あの男がまだこちらを狙っていることだけは確かだった。
源蔵は周囲を見回した。
敵の姿はない。
だが、敵がいなくなったわけではない。
南京市内に立て籠もる中国軍の残存部隊を、十二月中に徹底的に掃討せよ。命令は明確だった。
勝手に退くことはできない。
任務を放棄することもできない。
そして、目の前には、狙撃された味方の死体が横たわっていた。
このまま見逃せば、また誰かが撃たれる。
源蔵は三八式改狙撃銃を下ろした。
「伝令」
一人の兵が顔を上げた。
「分隊の位置と敵の推定位置を地図に記す。司令部へ持っていけ」
「はっ」
「それから、曲射歩兵砲の砲撃を要請しろ。前方観測に必要な無線機と要員も頼め」
兵は一瞬、ためらった。
「砲撃ですか」
「ほかに何がある」
「いえ……」
「敵は狙撃手だ。こちらが姿を見せれば撃たれる。見えない敵を探して、これ以上死人を増やすわけにはいかん」
源蔵は、陳の潜んでいると思われる区域を地図に記した。
その手は、もう震えていなかった。
さすがに拳銃で狙撃されたとは口が裂けても言えなかった。
伝令は地図を受け取ると、身をかがめて走り去った。




