第四章 飯の数
「弾を無駄にするな!」
源蔵は振り返らずに軽機関銃手に怒鳴った。
「うるせえ! 敵がいるんだぞ!」
「見えない相手に撃ち続けてどうする!」
「俺に指図するな!」
軽機関銃手が銃声に負けない声で怒鳴り返した。
「俺は五年兵だ! 四年兵のお前に指図される覚えはねえ!」
源蔵は一瞬、言葉を失った。
伍長が死んだ。
敵は見えない。
その最中に、兵隊の年季を自慢している。
だが、笑っている場合ではなかった。
「伍長が戦死したんだ。指揮は誰が執る!」
別の兵が叫んだ。
「俺のほうが先任だ!」
「何を言う。俺のほうが軍隊の飯を食ってる年は長い!」
「お前、今は飯の話をしてる場合か!」
「先任が指揮を執るのが軍隊の決まりだろうが!」
七人の上等兵が、七人とも自分に指揮権があるような顔をしていた。
源蔵は思った。
敵に撃たれる前に、こいつらは自分たちで戦争を始めるつもりらしい。
「いいから、少し黙れ!」
源蔵の声に、ようやく何人かが口を閉じた。
「敵はまだそこにいる。姿を見せなくなっただけだ」
「だから撃ってるんだろうが!」
軽機関銃手は、なおも引き金を引いていた。
機関銃の発射音が途切れない。
弾丸が土壁を削り、瓦礫を砕く。土煙が立ち上り、風に流されていった。
「やめろ! 弾がもたん!」
「五年兵に命令するな!」
その言葉を最後まで言い終える前に、軽機関銃の音が止まった。
男の身体が、銃に覆いかぶさるように崩れた。
一発だった。
源蔵には、どこから撃たれたのかもわからなかった。
軽機関銃手は動かなかった。
先ほどまで自分の経験を誇っていた男が、今は何も言わない。
誰も、すぐには声を出せなかった。
源蔵はスコープを覗いた。
瓦礫の向こうに、何も見えなかった。
陳は、そこにいるはずだった。
だが、どこにもいなかった。
源蔵は唇を噛んだ。
あの男は、こちらが何を話しているかなど気にも留めていない。
指揮権も、先任順位も、兵隊の年季も関係ない。
陳にとって、こちらはただの標的なのだ。
源蔵は照準を動かした。
今度こそ、見つけなければならなかった。




