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ドクハク

今回はユイト(勇者)視点のお話。次回はアリサに戻ります




 パチパチと火花が爆ぜる音が辺りを満たす。それから、夜らしい冷えた風が通り過ぎていく。その様子を仲間たちで囲いながら、談笑するのは冒険が始まってから、しばらくしてだったな、と思いだし、笑いを浮かべた。



「…ユイト、これで本当に良かったのか?」



 そう、魔法使い――アイクが問いかける。王命としては【魔王を倒せ】だとしても、魔族の技術には目を瞠るものがあると実感した。


 人間よりも魔力量が多い故に、戦闘面では後衛が強いという魔族。伝聞では何よりも恐ろしい存在だと言われはするが、召喚前に見た話が今でも頭をよぎる俺としては、そんなことはないと思う。それが、小説家が書き上げた【空想】だとしても、だ。



「…アイクも…みんなも分かっただろ?俺たち人間じゃ、技術面でも、魔法に精通した人もまだ叶わないと」



「…それはそうだけど…」



 目を逸らすアイクを横目にしながら。俺が思うのはあの……魔王の少女のこと。召喚前の世界――【日本】での、俺の実家の家業が神社経営だった故か、人の内面を見抜く才能だけ得てしまった。家業を継ぐには、霊感だけではなく、霊力が必要だったのに。


 それも関係があるのか、俺はこちらの世界に来てから魔法を未だに使うことができない。最初は、



『異世界転移だ!!』



 とか。はしゃいでいたけれど、自身の能力を舐めていたことに気づき、嘆き、それから仲間たちに励まされたのは意外と最近のこと。


 …にしても、だ。魔王の少女を一目見たときに、惹かれるとは思わなかった。今では、好きで好きで堪らなくて。いつか、独り占めできないだろうか、と行き過ぎた願いを抱えている。それが、ただの……共感なのか、何なのかは分からないけれども。



「…にしても、よ。ユイト、貴方…まさか魔王に求婚するなんて…」



 そう、頭を抱えながら呟くのはサクラ。



「たしかに…ユイトにしては思慮に欠けた言動だったかと…」



 と、アラン。


 みんな寄って集って俺を貶さなくてもいいじゃん?とか言えば、今は殴られるのは目に見えているのでお口チャック。もごもご…と一人遊びしていたら、サクラから、余計なことしない!と肘鉄を食らってしまった。……思ったより痛いんだよな…とベタな感想は置いておくにしても。


 カタリ、とポーチから取り出したそれを見やる。それは、魔王に母と呼ばれていた女から連絡用に、と預かったものだった。見た目としては、小さめな液晶に加え、十個の番号を示した数字の盤、それから小さなアンテナみたいな棒がついている。…やはりこれは、見れば見るほど、俗に【ガラケー】と呼ばれていたあれを想起させてくる。


 製作者はガラケーを知ってたのだろうか…


 そんなことを思いながら、アランの言に言い返す。



「元々の性格よりも馬鹿っぽかったけどさ。あれも俺は俺だよ。」



 …まぁ、初恋だからね。と。今思い返しても耳が熱を帯びるような、熱情。それから、彼女への思慕。思いを募らせても、限りないほどの愛おしさを胸に秘めて、空中で人指し指をくるくると回した。



「……でも、俺…ひとつ気になったことがあるんだよな」



「へぇ…?何が?」



 ポツリ、とアイクが呟くように零した。パチパチと炎の爆ぜる音はどんどん小さくなっていく故か。先ほどまでなら掻き消されそうなほど、小さな声を俺の耳は拾い上げた。

 思わず、何が?とは聞き返したは良いけれど。アイクは少し考える素振りを見せている間に、気の利かせたサクラが薪を継ぎ足しているのが目に入る。心の中で、ありがとう、と感謝を述べながらアイクの二の句を待っていた。



「魔王にしては……幼すぎる。俺たちが聞いていたのは、山のような大男だとか…そういう話だっただろ?」



「……たしかに。その点は僕も引っかかっていました。さすがはアイクだよね」



「…ちょっ…やめろって…」



 そこの双子は何してるんだか、と。サクラとともに苦笑しながら、天を仰ぐ。


 幼すぎる…とか、考えなかったなぁ…。


 なんせ、一目惚れだったし。と、自身を正当化するような理由――御託を並べて。これも何度目だったか、と頭を振った。



「…そもそも、さ。魔族たちは俺たちが来ても何ら変わりない生活を送っていた。技術はもちろん、ラファール国よりも上。おかしな点なんて、いくらでもあったよね」



 全員に目をやれば、彼らはふいっと目を逸らした。各々、思うところもあったのだろう、と思って。俺も目を伏せた。


 とはいえ、俺自身もおかしな自覚はあって、乾いた笑みを浮かべる。今まで、一目惚れとか全く信じていなかった癖して、自身がその状況に陥れば、信じる。それは…なんて馬鹿らしいのか。



「………やっぱりここに来てから、おかしなことばかり続くなぁ」



 ひとりごちた声は。火の温かみを感じさせないほど、冷たい風によって攫われる。ただ、その様子を眺めることしか、しなかった。否――できなかったのだ。



「…そういえば、アイク。貴方の転移魔法でラファール国にすぐに帰れたんじゃ……」



「「「あっ」」」



 勇者パーティーの夜は更けていく。ヒーラー――サクラの…たった一つの呟きによって、俺たちが気づいた声だけが、今度は夜の闇に溶けたのだった。





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