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悪寒

アリサ視点おかえりなさい

そしてはじめまして。アリサの幼馴染。





ぐるぐるぐるぐる。部屋の中をただただ歩き回って、どれくらいが経過しただろうか。太陽は天辺にあったはずなのに、気づけば傾いていて。時の流れが早すぎるのかは分からない。でも、たしかに……私が気にしすぎなだけなのかもしれないけれど。



「……姫様、いつまでそうしているのですか?」



「……サラ。私は、ただ……」



彼女――サラは私に問いかける。怪訝そうに……それでいて、苛立ちを隠せていない。あ、またやっちゃったな、という自覚と、悪寒に揺れていて。私にはどうしようもなかった。


サラは私の幼馴染で、侍女頭を務めてくれている。私とは、年齢はあまり変わらないはずなのに、強かで尊敬できる人。ただただ、ずっと私が慕い続けてるだけなのだけれど。



「あー……もうさ、そこまでウジウジする必要ないんじゃないの?気になるのなら、その魔道具使えばいいわけだし」



侍女ではなく、ただの幼馴染の"サラ"として軽々しく、言ってくれるけれど。そんなに、簡単にはいかないことくらい、彼女も分かっているはずなのに。なんて、毒づいてみた。現実はなんら、変わることもないのに。


あの日、私がなぜか求婚された日。勇者一行に貸し出した魔道具は遠隔で通信できるような機器。まだ、魔族の一部層にしか普及はできていないけれど、近い将来は魔族全員が持てるようになる予定だ。それまでに、それ関係の整備をしなければいけないと大臣が、困っていたのが記憶に新しくて、思わず笑みを浮かべる。……でも、私は通信機器をユイトに貸し出した時、彼が微妙な顔をしていたのがずっと引っかかっている。


何か、既視感でもあったのだろうか。


なんて、思ったけれど、ラファールには似たような機器はまだないらしく、首を傾げるだけだった。それならば、いつかはこの通信機器も同盟の証として輸出されることになるだろう。というか、そもそも……



「私が気になってるのは、そこじゃなくて」



「…もしかして、例の求婚されたとかいう、勇者サマが心配なんだ?」



「それは違う」



キッパリ。即答で否定すれば、サラはユイトを案じてか、かわいそー、とだけ呟いていた。そこに感情移入しなくてもいいのに。


いつの間にやら、私はぐるぐると部屋中を歩き回っていたのに、足を止めていて。サラが淹れてくれた紅茶を啜っていた。記憶がなさすぎて怖いけれど、サラのことだから私を誘導したんだろうな、なんて過って。…幼馴染ってこういうところが厄介だと私は思う。



「私の一存でこの国の行く末を決めてしまって、その罪悪感……というか、なんというか……」



「別にいいんじゃないの?」



え、と音を零した。そんな簡単に、とは思うけれど。私をまじまじと見つめるサラの目が純粋にこちらを見ていて。どうにも、気まずくて目を逸らす。



「だって、アリサ様は今、魔王様の代理なわけでしょ?なのに、自分の一存のせいで、だとか。そんなのでくよくよしてても何も変わらないよ?」



ぱちり、と一つ瞬き。それから、呆然。納得をしてしまった私がいるのだから、どうしようもない。

……たしかに、私の考えすぎだったのかもしれない。そんなことを不思議と思わせる力を持つ、彼女にますます敬服するしかなくなってしまった。もう、尊敬を超えた何かだと、どこかで笑いを浮かべながらも、だ。



「……そっか、そうだね。私は私の選択を後悔しなくてもいいんだ」



「うん。むしろ、今までが気にしすぎだったんだよ」



呟くように言った、私の言葉にサラは気にしすぎだと笑って返す。当の私はといえば、今までの自信のなさはどこへ行ったのやら。今度は、今なら無敵だという謎テンションに苛まれている。さすがはサラ様恐るべし。


ひとり、納得している間に紅茶はとっくに冷めてしまっていた。それに口をつける気にもなれず、放置して。もったいない、とは思うけれど、王族としての矜持とかが関わってくるから、そういうのはやってはいけないと教師に教わった。そんな理由で放置してしまうのはいかがかなものだろうか、とは思う。そんな理由とか言うのも失礼だけど。



「そういえば、あの勇者サマ?がここを発ってから一週間経つよね」



ふと、サラがそう呟いた。そう、彼らがこの城を発って既に一週間が経過しているのだ。経過しているだけなら、まだ良い。私達魔族に、変なことが起こり始めているのだ。


コクリ、とサラの言葉に頷いて、窓の外を一瞥する。もう既に斜陽の光が差し込んできていて。星々が煌めき始めている。どうやら、今日は新月らしく、ぞわりと背筋が理由もなく粟立ってしまう。それも、近頃起きている異変のせいだろうか。なんて、首を傾げてみた。



「――――ひ、姫様!!」



バタバタと大勢の人々の足音が廊下を響き渡らせる。先程の悪寒がよぎって、ひとつ息を呑んだ。



「城下町で、"魔物化"が!!」



予感は的中。顔を青ざめている暇なんて、ない。


サラと目だけで意図を交わして、叫ぶように返事をする。



「至急、わらわをそこに案内するのだ!!」



このときの私はまだ、世界全体に渦巻く。悪意の真相を知る由もなかった。ぞくり、とした悪寒の正体も確かめる間も無く、駆け出して行くのだった。






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