↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
代理魔王の恋愛事情  作者: 天夜ゆる
桃色の桜
PR
16/18

狂花水月



ひゅ…と息を呑んだ。今まで、隔絶されていたアメジアとラファールを筆頭とした周辺諸国。その中で、アメジアに入国でき、白い目で見られることのない……と少し考えればわかること。それすらも考えず、ただロゼさんの話に耳を傾けていただけの私は――一体、何だったのだろうか。



「フリューリム?」



サクラお姉様が首を傾げた。突如として、出てきた謎の語り文句。それは、私にも分からないことに違いはなかった。


そんな私たちを差し置いて。ロゼさんも、ルヴァと名乗った――黒煙を操る男も、ただ静かにこちらを見据えるだけ。そんな、非現実感にぞわりとしながらも、私はローブの中に隠した通信機器を密かに操作して、彼(・)に伝言を残そうとしたけれど。機器に触れた私の指は、たしかに――震えていた。



「まぁ、お姉ちゃんたちは知らなくていいことだよ。ルヴァ様も、主様もみーんな!」



「そうですねぇ…。ワタシが先日言ったことが変わらず、とだけ言っておきましょうか。勇者は我々の思惑通りに動いている……ただそれだけなのです」



狂ったように。彼らは笑みを浮かべた。ルヴァは前回対峙したときとは違い、煙を不定形にしているため、本当にそんな表情をしたのかは分からないけれど。でも、なぜか"嗤った"ということだけは分かってしまった。


震えながらも、私の魔力を乗せて通信機器で彼に伝言を残そうとしたけれど。魔力量を誤ってしまったからなのか……それとも、ロゼさんが第一人者だったからなのか。彼女は少し、目を見開いた。



「――姫様、無駄な悪あがきはやめたほうがいいのでは?」



そう言うと、彼女は無言で魔法弾を飛ばしてきた。避けるのに手間取って、通信機器を隠し持っていた方のローブが燃えた。その反動でコトン、と通信機器は地面を跳ねた。


あ、と思う間もなく。私が先程まで操作していたはずの通信機器はロゼさんの手の中へ。妙に冷静な頭は、転移魔法の応用か、としか思えなかったけれど。ぞわりとロゼさんの笑みに悪寒を感じて、一歩後ずさった。それが、何を意味しているのかなんて手に取るように分かってしまうほど。私は臆病には変わりないらしい。



「……救援を求めたところで無駄ですよ」



ぼそりとロゼさんは呟いたかと思えば、通信機器を破壊した。その破壊方法は彼女の容姿からは想定もできないほど、力技で。そのアンバランスさが気味が悪い。――いや、気味が悪いなんて言うのも大変失礼だけれど。


王族に支給された通信機器は、内部の情報を機密にしながらも送ることのできる特殊な品で。その分、耐久値も高めに設定されているはずなのに。彼女はそれを意にも介さず破壊できるほど。そんな力はどこで得たのかが私には皆目見当もつかない。


それが、お姉様から教えていただいた――ロゼさんの過去に関する話から勝手に私が作り上げた絵空事(・・・)なのかもしれないけれど。



「もしかして……ユイトたちに奇襲を仕掛けたのも……?」



思い返すように、お姉様は口元を押さえながら零した。思わず、お姉様の方を向いてしまって、足元をすくわれる。よそ見をしていたら――確実に殺される。ただ、それだけは確かなのだと彼らは言外に忠告してくれるのだから……まだ優しいのかもしれない。



「あぁ……勇者殿はワタシが魔物を転移させましたねぇ。それが何か問題でも?」



「問題しかないじゃない…っ!私がロゼを追いかけるのを大変なのに快諾してくれたのに…その元凶は貴方達だったんだから……っ!!」


悪びれずに淡々と言葉を紡ぐルヴァ。それに対して…怒りを顕にしつつも、踏み出すことをせず。ましてや、自らの手のひらに爪が食い込むことを厭わないお姉様。この対峙について、私には何も触れられないのかもしれない。



「だから?お姉ちゃんは私に勝手に責任感じて追いかけてきただけなのに?」



ムードは険悪。ロゼさんの紅い瞳は光を既に失っていて。明るすぎる月明かりとは裏腹に濃度を増すその瞳が――不気味で仕方がない。やはり、その異常性を感じて、ひとつだけ……固唾を飲みこんだ。



「わた…しは……」



「……言い訳なんか、聞きたくない」



冷えた声が夜風に乗って滑り込んできた。何か、不穏な気配を察知して、手を伸ばそうとしても、手遅れなのは分かってしまって。また、自己嫌悪に苛まれて。結局、私は……一人じゃ何もできない、無力な存在なのだと分かっただけだった。


俯いていたロゼさんの肩は震えていて。それは怒りによるものなのかすら判断できず。ただ、風にたなびく彼女の桃色を目で追っていた。



「――お姉ちゃんなんか……だいっきらい!!」



そのシャンパンガーネットは濡れていた。彼女の頬を伝って、落ち。そして、月光を乱反射させるだけのその雫は――たしかに、彼女の涙だった。


大嫌いだと宣った彼女は、杖を振りかざして叫ぶ。



「星弾(スターダスト)っ……!」



知らない魔法。それ故に、軌道は、彼女の心情のように。誰にも計り知れないことだけは確かだった。





姉妹喧嘩に挟まるルヴァは何がしたいのか

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。