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代理魔王の恋愛事情  作者: 天夜ゆる
桃色の桜
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13/15

"excuse"

これは、とある少女の黙示録。



不気味なほど、月明かりの差さない夜だった。窓から空を見上げても、雲一つないのに、月だけがない。そのおかげか、星々が綺麗に見えて。ほぅ…と息をつく。


この暗いとも言い切れない宇宙(そら)の下に出て、はしゃぐ私よりも年上の子供。そんな彼らが羨ましくて、窓を閉じる。カーテンまで閉めてしまえば、きっと。……もう、私は羨ましいという感情を抱かなくて済む。そんな似つかわしくもない、不相応な気持ちと膝を抱えて。ひとり、ベッドの上に倒れ込んだ。



「……お姉ちゃん」



ぽつり、とひとつ。生まれた頃から病弱な私を気にしてくれる唯一の肉親を呼んだ。お母さんもお父さんも、物心がついた頃にはもういなかった。だから、なんで……こんなに病弱に産んだのか、と怒りをぶつけられるような人もいなくて。私の気持ちはずうっと宙ぶらりん。お姉ちゃんは私を必死に育ててくれたというのに、私が病弱なあまり、苦しい思いを何度もさせてしまっている。なのに、その本人は



『私がやりたくてやってることだから……貴方は気にしなくていいのよ』



と。いつも、いつも。彼女は私に弱みを教えてくれない。本当はもっと、子供らしいことができたのに。三歳差というのも、あまり年の差なんてないのに。むしろ、お姉ちゃんがおかしいのだ。


ひとりきりでたった三歳下の妹を育てられるほど、子供には能力はないはず。なのに、笑いかけてくれる。辻褄が合わない……というより、おかしなところが多すぎるだけ。案外、簡単な話だった。



「なんで……頼ってくれないのかなぁ……?」



――私が頼りないから?それとも、使命感から?


考えても考えても、答えの出ない問い。それを簡単に捨てるわけにもいかず、さらにきつく膝を抱え直す。



「お姉ちゃんは、私のことなんか……きっと大事じゃないんだ。だから、今夜もお仕事でいないんだ……」



思い返すは、先程の夜空の下ではしゃぐ子供。本来ならば、私たちもできたはずなのに。不運すぎる境遇のせいで、妬み嫉み……その果てには、何が残るのか。それは……何も残らない。それが、正解だなんて、最初から全部わかっていた。



「……アナタに救いの手を差し伸べて差し上げましょう」



「だ……っだれ!?」



突然、カーテンが音を立てて揺れた。閉めていたはずの窓は明け放たれていて。声をかけられるまで、その違和感を感じることもなかった。きっと……私はこの声の主には勝つことなどできない。


月のない夜のはずだった。灯りを消した部屋の中では、星々の明るさにはどうにも勝てることはないようで。私は窓の縁に立つ人影を……穴があいてしまうのではないか、というくらい見つめ続けた。



「そんなに熱烈に見つめなくとも、ワタシは逃げませんよ。だって……ワタシは――」


――アナタを救いに来たのですから。



お姉ちゃんがいなくて。寂しくて空いてしまった私の心の穴。果たしてそれは、誰なら埋めてくれるのだろうか。よく言われるような物語の王子様なんかじゃなく。ただ、それがよく知らない人だっただけなのかもしれない。



「あぁ、申し遅れましたね。ワタシの名は――――」



風が吹き込む。星々の微かな明かりが乱反射して、彼の素顔と目が合った。その余りにも無表情な顔にどきり、としてしまう。


――現実味がない。


もはや、生死の概念すらもどうでもいいかのように。声だけ愉しそうに笑う。異常性に嫌な汗が背中を伝うのを感じながら、ひとつ息を呑んだ。



「……あなたは、私にどうしてほしいの……?」



「おや、ワタシとしたことが言い忘れていましたか。そうですねぇ……アナタには、ひとつ事実をお教えしなければいけませんね」



事実とは一体何なのか。分からなくて、首を傾げるけれど、声だけ愉快そうに彼は嗤う。相変わらず、表情は変わらないまま。


お姉ちゃんが、もし。私に隠し事をしていたのなら?そんなことが脳裏をよぎった。私にとって、お姉ちゃんは世界の全てで。正しいものだという感覚が抜けない。なのに、この人が私を外に連れ出してくれると言う。私は、どっちを信じればいい?



「……っと、失礼しますね」



彼は私の前髪を口調からでは感じられないような、少し荒っぽい手つきで上げた。サイドに分けていた髪がはらり、と一束落ちてきて。視界に自らの桃色が入ってきてしまった。



「アナタは多分自覚がないでしょうが……」



「…何が…?」



「アナタには……魔族の血が流れているのですよ」



知らない。そんなこと。魔族なんて、聞いたことしかないけれど、私たちの国と敵対している種族で。お姉ちゃんが、魔法の練習をしているのも、その人たちに勝とうとしているからで。そんな血なんて……いらなかった。



「……誤解されては困るので一応言っておきますね。魔族は、アナタ方とは敵対関係を望んでいません。魔素という物質をご存知でしょうか?」



「まそ?」



「ええ。魔素の影響を受けた無機物を魔物と呼びます。その魔物には理性がない。無差別に人を襲う。そんな彼らをアナタ方が勝手に魔族の仕業だと勘違いしているだけなのです」



……わからない。知らない単語を並べられても、私には理解のしようがない。彼の述べた事実は事実なのかもしれないけれど。私はそれを確かめる術など、身体的に持っていなかった。


その気まずさからか、目を逸らしていると彼はああ、と納得したような声を零した。どうやら、彼は合点したらしい。私の病弱も分かってしまったのだろうか。


コツリ、と彼は一歩分、私から距離を取った。お医者さんも匙を投げるほど、この原因不明の病に罹りたくないからだろうか。やっぱり、どんな人もそんなものかと落胆してしまった。



「少し……いいですか?」



彼は小さくそう呟くと、纏う雰囲気をぶわり、と変えた。鳥肌が立つ。風はすでに吹いていない。先程距離を開けた分、詰め寄って。パチリ、と指を鳴らした。その瞬間、私の身体はふわりとした浮遊感に包まれて、今まで感じたことのないほど、身体全体に元気を感じてしまった。



「え……あ……なんで……」



「アナタ、身体中に使い切れていない魔力が溜まりに溜まって身体に不調をきたしていたみたいですねぇ」



ふ、と彼は微笑むように息を零した。その優しさになぜか、泣きそうになってしまって、布団を頭から被った。照れ隠し……いや、きっと。ただの誤魔化し。そう、言えばいいことにようやく気づいた。


月明かりのないこの晩に、彼はなぜ私の元に来たのか。私の月にでもなろうとしてくれたのか。きっと、違うけれど。確かに私は救われたのだ。助けてほしい、と御託を並べた言い訳も、誰より理解を示してくれた。



「――それで、ロゼ(・・)さん。アナタはワタシとともに来てくれますか?」



仰々しく差し出された手を恐る恐る握る。星々は、罪もなくただ煌々と、煌めいているだけだった。




二章開幕ですっ!

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