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代理魔王の恋愛事情  作者: 天夜ゆる
新月の舞踏曲
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12/13

明星ニ賭ケル



「……え?」



間の抜けた声。素っ頓狂すぎて、目も当てられない。表現方法なんて、たくさんあるけれど私の語彙力ごときじゃ表現しきれない。ただ、一つわかることをあげるとするならば、"サリア"だと名乗ったこの男が――ラファールの第一王子であること。ただ、それだけ。



「あっははははは!アリサ嬢、君…ほんっとに面白いね…!」



ひとり笑い転げているこの人は、先程の少女と本当に同じ人物なのか。疑わしくて、でも違う。この目でたしかに、変わる瞬間を見たのだから、間違いは絶対に――ない。


驚きのあまりか、私の心臓はドキドキと音を立てている。口から心臓が出そう、だと揶揄した先人はこういう気持ちだったのかもしれない、と知りたくない形で知ることになってしまった。



「……ああ、すまない。僕はサリア・ラファー。先程も言った通りこの国の第一王子兼、第一王女だよ」



「……兼?」



「君も見ていただろう?僕の姿が変わるところを」



わざとらしく。それでいて、至極真面目に。裏の読めない彼は何がしたいのか。私には……分からない。


でも……たしかに、姿が変わるのは見ていたけれど、原理などは何一つわからなかった。多分……変わるときに触れていたピアスが関係あるのではないか、と思わなくもないけれど。その石自体からは魔力は感じられない。だから、余計に首を傾げずにはいられない。



「……ん?ああ、僕のピアスか。この石は少し関係があるんだよね。そもそもこの石に込められた思いが――」



「サリア様!何してるんですか!?」



「うわっ」



どうやら、ユイトが私たちに気づいたらしかった。たしかに、遠目じゃ密会に見えるかもなぁ…なんて。他人事じゃないはずなのにやけに俯瞰して思えるのは、帰宅願望があるからだろうか。それとも、厄介事に巻き込まれたくないだけなのか。答えなど、分かりやしない。



「……彼女は――アリサは、俺の婚約者なんで……あまり近づかないでください」



「……へぇ?」



私とサリア様の間に無理やり割って入ったユイトは、ギリ…と歯を噛み締めながら小さく睨めつける。その様子を見たサリア様はといえば、興味深そうに眉を上げたあと、ニヤリと口元を歪ませる。また、その様子にゾクリとして。目の前にいるユイトを突き放さずにもいられない。


自らの居た堪れなさからじゃない感情は……こんなにも気持ち悪いのか、と。内心毒を吐いた。



「それなら……」



こつ、と一歩。楽しそうにくるくると回した人さし指は彼の耳元で止まった。



(わたくし)なら問題ありませんよね?」



ニコリ。そんな、擬音語が聞こえてくるほどの笑みを浮かべたサリア様はシャンデリアの光を受けて、金のように輝く髪の毛先をくるくると弄り始めた。なんだかんだ、慣れてはいないのかもしれない、そう思いながら。



「そういうことじゃないんですよ……。俺は、アリサの周りに男がいることが……」



「でも、今私は女性ですよ?」



う、と。うめき声ともつかない声を上げたユイトを少しの哀れみの目で見捨てておいた。自業自得、言い表すには今度は表現が多すぎる。


項垂れているユイトとは相反して、サリア様は私を抱きしめて楽しそうに笑っている。私の方が身長が高いからか、抱きしめる……というよりも、抱きつくという表現の方が正しいのかもしれないけど。



「……いや!中身は変わらないじゃないですか!?」



「あら、バレてしまいましたのね」



もしかしたら、と一つよぎった。それが正しいなんて確証はないけれど。ただ、今までの口調、行動……言い出してしまえば、キリがない。サリア様はサリア王子……そして、王女として二面性を兼ね備えて生きてきた。本当に、それだけでいいじゃないか。



「……サリア様。わらわは……貴方がこれまでどう生きてきたかなど、存ずることはありません。ですが、同盟国として。ひいては、わらわにとっては唯一の同じ立場のヒトとして。これから仲良くしてはくれませんか?」



一歩。歩めば、何よりも簡単なことはない。魔族も人も、初めの一歩に怖気づいて、何もできなくなってしまう。それくらいは、この数日で分かったこと。


ドキドキ、と心拍の音が耳まで聞こえてきて。死んでしまいそう、だなんて冗談にもならない。でも、私にとって唯一の姫――そして、王子として、"国民の期待"を背負う立場は替えが利くことはない。願うことくらいは簡単なことでも、それを叶えようとする労力は、当人にしかわからない。重ね合わせた自らの手は震えていた。



「……もちろんですわ。私……いや、僕も……同じことを願っていたよ」



いつの間にか、王子の姿へと戻っていた彼はデマントイドガーネットを歪めて笑う。国同士の同盟が元の願いならば、時期王同士が仲良くないわけにはいかない。それくらい、世間は許してくれるはず。



「……そっか、俺……気づけなかったんだ……また(・・)……」



ぽつり、と落としたユイトの声は、夜空に明るく輝いた星々。それから、半月へと吸い込まれていった。





これにて、一章はおしまいっ!!



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