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代理魔王の恋愛事情  作者: 天夜ゆる
新月の舞踏曲
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11/13

デマントイドガーネット




ユイトの発した、ラファール国第一王子の話にだけかけられた……謎の認識阻害の魔法を察知してから早幾日。あのときのうるさいほどのユイトの喜びようはこれのせいか、と半ばげんなりしている。


どうやら、あの時…私が母様に問われたのは『婚約者はユイトの提案したように、ユイトでいいのか』ということだったらしい。聞き取れなかったから、だとかそういう建前が効かないが故に。私とユイトは婚約者になってしまったらしかった。



「はぁ……」



「何回目?そのため息……」



数えてない、と振り向けばラファールまで私と共についてきたサラがいて。それだけが救いかもしれない、とひとりごちる。知らない地に一人で国を背負って立つことになるのだから、精神的疲労は洒落になるものではなく。今の今まで吐いてきたため息は、すべてがその重みなのだと実感した。



「そんなにため息吐いてたらさ、駄目だよ。――主賓サマなんだから」



「わかってる…わかってるもん…」



「……はいはい。なら、早く着替えちゃうよ」



ぐずぐずに溶けてしまった精神力はどこへ行ってしまったのか。半ば無理矢理、立たされるようにして国主催のパーティのための衣装を着せられる。いつもの服はほぼ私の機能性重視だから、駄目だと言われてしまった。さすがに、主賓だからやめろ、とも言われてしまった。解せない。


されるがままに。サラの挟む軽口に返しながらも、パーティからは逃げられないことにどんどん憂鬱になっていく。考えるは、どうやって早めに抜け出そうか、ということ。でも、主賓はきっと抜け出せない。その繰り返しでどんどん憂鬱になっていくのだから、どんなにそれが馬鹿らしいことか。



「はい、あとはメイクね」



ファンデーションとかいう粉で肌を白く見せるのだとかいつかのサラが解説してくれたけれど。その時の私には縁もゆかりも無い話でほとんど聞いていなかった。今も無いことには変わりないとはいえ、これから頻度は少し増えてしまうだろうな、とよぎる。婚約者が建前上でもできてしまうとなると、きっとそんな簡単に今までのようにはいかなくなる。それくらい、分かってる。


これが最後の仕上げとばかりに、サラは私の唇に紅を落としていく。触覚だけで終わりを察知して、閉じた瞳を開く。そこには、やけにドヤ顔をしたサラがいて。彼女の持っている鏡には、金色の瞳を宿した黒髪の少女が佇んでいる。『立てば芍薬座れば牡丹』まではいかないけれど、目を当てても痛くはないような容姿がそこには出来上がっていた。



「……アリサはさ、かわいーんだから自覚持ってよ」



ぽつり、とサラの零した声は私には届くことなく、霧散してしまった。






◇ ◇ ◇






「――――隣国、アメジアとの同盟を期し、此度我が国の勇者……ユイトとアメジア国皇女アリサ殿が婚約者となった。これからも、ラファール…そして、アメジアに繁栄がもたらすよう、祝そう」



ラファールの国王様がそう言ったと同時に、パーティへと呼ばれた貴族達がパチパチ…と拍手をしだす。初めのうちは少なかった空気の破裂音は、気づけばホール全体にも轟くほど。その様子を傍観するように眺めていれば、国王様が乾杯の音頭を取るらしい。そのタイミングに少し慌てふためきながらも、



「……乾杯」



と。正直、私自身も分からない勢いで腕を掲げた。



それから。しゅわしゅわとした飲み物をが入っていたグラスを執事さんに渡して、ホールの端っこで私は休んでいた。挨拶回り、挨拶回り、挨拶回り……いくら何でも無理がある、とひとり毒づいてみる。その毒にはどうにも、苦みしかないようで。いくらそのままでも埒が明かないと、吐き捨てた。



「……正直もう帰りたいなぁ…」



「もう帰ってしまうんですの?」



「〜〜っ!?」



びくり、と肩が跳ねる。背後から、鈴の音のように綺麗な声が飛び出してきたのだから、驚くのも隠せない。失礼に値してしまわないだろうか、と内心びくびくしながら。振り向くとデマントイドガーネットのような瞳がこちらを不思議そうに見上げていた。



「そんなに驚かないでくださいな。貴女はたしか……アメジアのお姫様でしたか」



「ええ…まぁ…」



「なら、ちょうどいいですわ!(わたくし)貴女とお話してみたいと思っていましたの!」



綺麗な瞳が瞼に隠れてしまうほど、嬉しそうにする彼女は一体何者なのか。ぐるぐると渦巻く疑念……それから、恐怖心。それらに取り残されながらも、私は彼女の隠されてしまった瞳から、ひいては耳で揺れるピアスの装飾から目が離せない。



「あら、申し遅れました」



そう、彼女は思い出したかのように呟く。それから、目を細めて笑った彼女にゾクリ、としたものを感じながら一挙手一投足すべて見ていて。ニヤつくとも言い切れない笑みを浮かべた彼女――彼は、自らのピアスに触れると、



「ラファール国第一王子(・・・・)兼、第一王女(・・・・)のサリア・ラファー……以後お見知りおきを。アリサ嬢」



先ほどの少女とは姿を変えた青年が、私の頭上で食えない笑みを浮かべていた。






デマントイドガーネットの石言葉は友愛、真実、勝利、実り



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