第九話:ダイヤモンドの光と、旅立ちの夢
1. 共通の景色
クォーツ伯爵家への裁きが下され、夜会での婚約披露も終えた数日後。離宮には、以前よりもずっと穏やかで、満たされた空気が流れていた。
エララは、いつものようにダリウスの私的な書庫で本を読んでいた。手にしているのは、西方の『白銀の国アストラード』の歴史と文化について書かれた、分厚い専門書だった。この本の隅には、ダリウスがつけたと思われる、細かく几帳面な書き込みが残っている。
書斎での公務を終えたダリウスが、静かに書庫に入ってきた。
「エララ。まだ読んでいたのか」
ダリウスは、そう言ってエララの隣に座り、彼女が読んでいる本のタイトルを横目で確認した。
「アストラード。それは僕が、まだ王太子としての職務に就く前に、為政者の好奇心を満たすために読み込んだ本だ」
エララは顔を上げ、彼のダイヤモンドの瞳を見つめた。婚約以来、彼女の無表情の仮面はほぼ外れており、その表情には穏やかな喜びが滲んでいた。
「はい、殿下。この国は、四季が豊かで、人々が信仰ではなく、論理と芸術で生活を構築したと書かれています。……わたくしの、いつか行ってみたいと夢見た場所です」
2. 愛の解明と、旅の提案
ダリウスは、その時のエララの心からの純粋な憧れを、ダイヤモンドの眼で捉えた。彼の瞳には、彼女の魂の奥にある、「外の世界への静かな希望」が、以前よりもずっと鮮明に映っていた。
「知っていたよ。君がこの書庫で、この手の本を熱心に読んでいることを」
彼は、エララの手を取った。彼女の指には、彼の命を懸けた誓いであるジェムエンゲージが輝いている。
「君がこの本を読んでいる時だけ、君の表情から『無機質さ』が完全に消える。僕の好奇心(解明欲)は、その瞬間の君の純粋な光を、これ以上ないほど美しい真実だと解析した」
彼の言葉は、愛の告白であり、同時に緻密な解析だった。
「だから、提案がある」
ダリウスは、清廉な王子の顔から、愛する者を見つめる一人の男の顔になった。
「僕たちの新婚旅行だが、アストラードに行くのはどうだろう。もちろん、王家として最大限の警護はつけるが、君の行きたい場所、君が読んだ本に書かれていた場所を、僕と共に巡ろう」
エララの瞳は、驚きと感動で大きく開かれた。
「新婚旅行……アストラードに……?」
それは、彼女が虐げられていた頃、「飢え」と「恐怖」から逃れるために、文字の中にだけ求めた叶わぬ夢だった。その夢を、彼女の孤独と真実を理解し、命を削って守ると誓ったこの完璧な王子が、今、叶えようとしている。
エララの表情は、この上ない暖かい笑顔になった。その笑顔には、長年の重圧からの解放と、ダリウスへの深い愛情が詰まっていた。
「ダリウス様……ありがとうございます。わたくしの、一番大切な夢です」
彼女のクォーツの魂は、ダリウスの完璧な愛情と献身を倍増させ、その波動は、彼の孤独で安定した心を温かい幸福感で満たした。
ダリウスは、彼女の額に口付けを落とした。
「君の夢を、僕のダイヤモンドの光が、現実に変えてみせよう。永遠に」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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次回作は6/16(火)22:40より連載開始します。
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