第六話:ダイヤモンドの光、真実を映す
1. 巫女の系譜と、増幅器の真実
ダリウスは書斎で、ルーファス、サイラス、アレクセイ、三人の弟たちから上がってきたクォーツ伯爵家の調査報告書を前にしていた。報告書には、エララが受けてきた虐待、食事抜きによる衰弱、そして異母妹のための悪役強制の全貌が、客観的な証拠とともに記録されていた。
(清廉な魂を持つ彼女に、ここまで非道な仕打ちを……)
正義感と、前夜に受けた純粋な感謝の感情が、ダリウスの行動を後押しした。彼は、直接エララに会うことを決めた。
ダリウスは、書庫で本を読んでいたエララを訪ねた。
「エララ。僕は君の周囲に渦巻く、巨大な闇の正体を、ある程度把握した。だが、君自身の真実を、君の口から聞かせてもらいたい」
ダリウスのダイヤモンドの瞳は、彼女の心の奥深くまで見透かそうとした。エララは、自分が初めて信頼できる存在に出会ったことを理解した。彼女は、実母から聞かされた秘密を、静かに語り始めた。
「わたくしの母系は、古くからの巫女の血脈です。それは、人の感情や、力ある神官の能力を増幅させる役割を持っていたと聞いています。母は、その力を『神聖な増幅器』だと……」
エララはそこで言葉を詰まらせた。
「しかし、その力は、悪意や憎しみといった負の感情も増幅させ、わたくしの外側へと倍増して反射させてしまうのです。だから、わたくしは周りにいるだけで、悪意を強めてしまう……」
それが、彼女が感情を押し殺し、無機質でいる理由だった。感情を揺らして力が暴走するのを恐れたのだ。
2. 決定的な瞬間の目撃
ダリウスの頭脳は、即座にすべてを繋ぎ合わせた。
(なるほど。彼女自身が闇を放出しているのではなく、周囲の闇を倍増させて反射する。だから、彼女の魂の核は清廉な水晶のままだったのか!)
ダリウスが真実を理解した、その時だった。離宮の侍従が、緊急の報告を持ってきた。
「殿下、クォーツ伯爵夫人から、エララ様宛に手紙が届きました」
侍従が差し出した手紙をエララは受取り、その場で開封した。内容を読んだエララの顔が真っ青になる。
「なんて書いてあるんだ?」
「……『すぐに伯爵家に戻って王太子殿下との婚約を解消しろ』と」
振るえる手から手紙が落ちる。その瞬間、ダリウスのダイヤモンドの瞳に、信じられない光景が映った。
エララの周りの空気そのものが、伯爵夫人からの『憎悪』と『嫉妬』を倍増させ、巨大な黒い稲妻のように荒れ狂った。彼女の無表情な外見とは裏腹に、その闇のエネルギーは、ダリウスの魂を押し潰しそうになるほどだった。
「ッ!」
ダリウスは一瞬、息を呑んだ。
彼は、エララに向けられた悪意の真のサイズを、初めて身体で理解した。彼女は、この耐え難い憎悪の嵐の中で、感情を殺して生き延びてきたのだ。
3. 「解明」から「守護の愛」へ
ダリウスは、床に落ちた手紙を素早く燃やすよう侍従に命じ、静かにエララに近づいた。彼女は、怯えているにもかかわらず、無表情を保とうと硬直している。
ダリウスは、彼女の冷たい頬にそっと触れた。
「エララ。もう、そのように感情を殺す必要はない」
彼のダイヤモンドの瞳は、もはや「解明」の光ではなく、圧倒的な「愛」と「守護」の光を放っていた。
「君の真実は、僕のダイヤモンドの眼が証明する。君は、世界中の悪意を映す最も清廉な水晶だ。その神聖な力を、これ以上、汚れた感情のために使わせてはならない」
彼は、彼女を強く抱きしめた。それは、感情的に安定していた優等生、ダリウスが初めて見せた、非論理的な衝動だった。
「僕が、君を倍増した悪意から守る『完璧な盾』になる。君はもう、孤独ではない。僕の隣で、君の愛する本を読み、君の清らかな魂を保っていればいい」
エララは、抱擁の中で、ダリウスから発せられる圧倒的な「安心」と「庇護」の感情の波動を感じた。彼女の体質は、それを倍増して受け止めた。
(ああ……この、温かく、絶対的な安らぎ……)
彼女の硬直していた感情の凍土が、ダリウスの真の愛によって溶かされ始めた瞬間だった。




