第二話:ダイヤモンドの檻
1. 王子の強引な「解明」と、令嬢の困惑
舞踏会のフロアで、ダリウスが発した「婚約」という名の「観察許可証」に、エララは困惑に囚われた。
(なぜ、わたくしに? この方は、わたくしが妹の引き立て役として、わざと嫌われる行為をしたのを見ただろうに……)
ダリウスのダイヤモンドの瞳に、何の打算も、軽薄な色恋も見えなかったことが、余計にエララを混乱させた。彼女の体質(感情の反射)は、彼の心を探ろうと試みたが、ダリウスの心は清廉な理性と、燃えるような「好奇心」に満たされているだけで、解析の糸口が見つからない。
「……殿下。そのような冗談は、わたくしのような者に…」
エララは辞退しようとしたが、ダリウスは彼女の言葉を遮った。
「冗談ではない。君は僕のダイヤモンドの眼が初めて捉えた解明不能な真実だ。君が僕の隣にいることは、王家の未来と僕自身の公正さに必要だ」
彼はそう断言したが、その瞳の奥には、「この謎を解き明かしたい」という、為政者としては非合理的な、強烈な個人的な欲求が炎上していた。
そして、エララの意思とは関係なく、彼女の父であるクォーツ伯爵が動いた。
「この光栄、身に余る! エララ、直ちに殿下の意向に従いなさい!」
伯爵は、王太子からの突然の申し出を家門復興の絶好の機会と捉え、即座に応諾した。
2. 継母たちの激怒と、着の身着のままの追放
伯爵の応諾は、継母と異母妹の怒りを爆発させた。
「ありえないわ! 殿下が狙っていたのはこの私よ! あの出来損ないのくせに!」
「落ち着きなさい! でも……なぜ、あの出来損ないが!?」
しかし、王太子の決定と伯爵の意向は絶対だった。継母は、せめてもの罰として、エララの王宮行きを準備することさえ拒否した。
「良いわ。勝手に王宮に行けばいい。ただし、一着のドレスも、宝石も、持たせるものか」
エララは、舞踏会で着ていたドレスと、小さなポーチ一つという着の身着のままの姿で、伯爵家から王宮の離宮へと送り出された。
(これでまた、ご飯を抜かれる心配はなくなった。それが、わたくしには何よりも重要だ)
彼女の心は、婚約への高揚感ではなく、生存への安堵と、訳の分からない状況への困惑で満たされていた。
3. ダイヤモンドの檻、エララを迎える
ダリウスの離宮は、王宮の奥まった場所にあり、静寂に包まれていた。
エララが連れて行かれたのは、豪華ではあるが、まるで鑑定品を保管する棚のような、清潔で無機質な一室だった。
彼女を待っていたのは、ダリウス自身だった。彼は、エララが着の身着のままで、ほとんど何も持たずに来たことを一瞬で把握した。彼のダイヤモンド眼が、彼女の瞳の奥に、飢えへの恐怖と生存への執念が根深く刻まれていることを映し出す。
「ようこそ、エララ嬢」
ダリウスは、そう言って一冊の厚い報告書を机に広げた。
「君との婚約は、僕の好奇心に基づいている。君は、僕がこの世界で初めて出会った矛盾の集合体だ。僕はこれから、君という現象を徹底的に観察し、解明する。僕のそばでは、君は決して飢えることも、傷つけられることもない。だが、その代わり、君の真実を、僕から隠すことは許さない」
彼は、彼女の目を真っ直ぐに見つめた。
「君は、僕の『解明欲』の唯一の対象だ。そして、君は今、僕の檻の中に入った。さあ、始めよう。エララ。君の真実の探求を」
彼女の「生存の安堵」は、彼の「解明の熱意」によって、新たな「不快な緊張」へと変わった。




