18.それでも世界は彼を求める
今回はインチキしました。これ以外思いつかなかったので、ちょっとだけずるさせてください。
流し込まれた記憶を漂うタルバを尻目に、アタナシアは歓喜に打ち震えていた。
「ついに手に入れたぞッ!……創造神の魔人、その肉体をッ!奴はやはり魔人としては経験が浅い。それに俺のテリトリーというのも追い風となった。間抜けな男だ」
創造神の魔人タルバ。やつの狙いは今後調べなおすとして、今は奴の肉体を入手できたことが最大の幸運と言えるだろう。
俺の権能『死魂支配』は死という概念と魂に関連したものを支配下に置くことが出来る。それは恐らく魔人であっても不利な状態では抗うことは出来ない。
神は直接世界に関与できず、俺が魔人だからと言って直属の魔人ではない俺に対して創造神が何かしら制裁を加えることは出来ない。もし神同士で何かしら非常事態でも発生していれば死神様から俺にアクションがあるだろう。それも今はないと考えるとこれは許可された範囲内での行いといって相違ないだろう。
死という概念と魂を操作することによって世界を騙し、死体として蘇らせ魂操作で自我を持たせる。実験を繰り返したことで自我は魂の状態によって保持されることがわかっている。
タルバは現在ゾンビたちの記憶を流し込んで、脳の負荷を莫大にしている。魔人だから死亡していないだけで、人間では数秒で脳の神経が焼き切れているレベルだ。
ゾンビの集合体に取り押さえさせ、タルバの肉体は眠っているかのように力が入っていない。タルバの入手というのは魔人の力関係を一変させる切り札だ。カナン、イグニストゥス、ヘクター、イフィンティブの4名に対して行動を抑止できるし、アステールの計画も推し進められる。
タルバを完全に支配できればカナンであってもおいそれと手出しは出来ない。これはアステールとグラヴィタに連絡を入れておくか。いや、魔人を支配するのは初めてだ。ここは慎重にことを進めねばなるまい。
ゾンビが纏わりつき、球体の中心にタルバを固定してゾンビたちを押し固めていく。
あとは俺がタルバの魂に干渉するだけだ。魂の書き換えを行い、魂に俺への反抗を縛る契約を書き加えればタルバを手中に治めることが出来る。もちろん、自我がある状態でだ。
そうすれば表向きタルバが俺と協力しているだけという言い訳が成り立つ。それにタルバにも嘘をつかせればカナンはきっと従うはずだ。
カナンとタルバの関係性はタルバの記憶を読み取るか、話させれば把握できる。イグニストゥス、ヘクター、イフィンティブは俺の権能を解除できる力はない。
しいていうならばカナンの破壊の権能ならば精神に干渉しているこの権能自体破壊できるのかもしれないが、誤ってタルバの魂を破壊してしまえば元も子もない。
直せと言われても流石に破壊された魂は治せないし、そもそも魂の修復など出来るとは思えない。魂というのは作り出すことも治すこともできないのだ。一度欠けてしまえば二度と直らず、どうなるか不明。
魂に傷をつけた人間は即死してしまった。魂とは生命活動に直結しているのだろう。だから世界の生死の判定が魂に刻まれた状態に左右されるし、肉体など他の要素によって最終決定されているのだ。
魂に干渉できるというのは破格の権能だ。ただし戦闘中にはほぼほぼ役に立たない。魂に干渉するというのは相手の格に寄るからだ。
もちろん、人間ですら通常時は干渉することが出来ないようになっている。例えば意識を失わせるとか瀕死の状態に追い込み、なおかつ権能に集中する必要がある。面倒だろう?
人間の場合は意識を失わせれば魔人と人間にある存在としての格が違うためかすぐさま干渉できるのだが、魔人となると同格の相手。ましてや創造神の魔人となれば格上だ。
だからゾンビたちの記憶流入で精神的なダメージを与えつつ、意識がなくしている。あとは俺がタルバの魂に干渉し、権能で支配すれば完了する。
アタナシアは悠然とした足取りでゾンビたちの中心部で身動きを取れなくなっているタルバに手を伸ばした。
――――――――――――――
(ここは……魂に干渉したはずだ。しかし、なんだこの光景はッ!!)
タルバの魂に干渉したアタナシアは見たことがない世界にいた。今までいた自分の居城ではない。
大きな湖が正面に見える。その湖には崩れた建物の残骸が湖面から顔を出していた。
アタナシアは見たことのない湖のほとりに1人立っていた。他には誰もいない。
(確かにタルバの魂に干渉した……だが、なんだこの光景は!未だかつて権能を使用してこんなこと起きたことなど無いぞっ!)
アタナシアは焦っていた。人間の魂に干渉しても自分自身の肉体感覚が途絶えることなどなかった。
手順としてはシンプルだ。現実世界の肉体で集中し、脳内に相手の魂のイメージが届き、その魂に自分の意図した内容を念じる。そして魂に念じた内容が上書きされる。
また相手の魂の情報を読み取ることだってできるが、神々にとって都合の悪い内容は見れないようにフィルターがかけられている。
それが『死魂支配』の使用方法だった。断じて魂に干渉した段階で別世界に飛ばされることなどなかったからこそ、彼の心は焦燥で満ち溢れていた。
突っ立っていてもらちが明かない。ここはどこなんだ。転移とは少し体の感覚が違うな。
肉体ごとどこかに飛ばされたなら俺やタルバでも感知できない上位存在ということになるが、神々が割って入るようなことはしていない。ただ戦っていただけだ。
自分の肉体を叩いたり、殴ってみると痛みを感じなかった。痛覚が遮断されているのか?それとも現実世界ではない?
湖面に近づき、自分の顔を見てみるが生まれてこの方見てきた自分の顔だった。
(どうなっている!?タルバはどうした!もしも奴の精神世界なら奴の魂があるはずだ……だが巨大な湖と建築物の残骸しか見当たらない)
前代未聞の事態であってもアタナシアは徐々に平静を取り戻していった。ここにアタナシアを害する敵がそもそもいない。
痛覚が遮断されている野かと思えば、少し自分の体が透けていることに気づく。やはり精神世界なのか。
湖を少し離れると真っ暗闇が突如と広がった。
(ここから先は侵入できないということか。それとも精神世界の端ということなのか?そもそも精神世界などあるのか?魔人だからか?)
仮説を立てることに比例して疑問は増殖していく。ここには正解を教えてくれる教師や智者はいないのだ。
しかし、アタナシアはタルバの精神世界であると仮定して、精神世界を探索することに決めていた。彼の噛んげえとして例え精神世界であっても魂は誰しも持っていると想定した。
人間が精神世界を構築できなかっただけで、魔人は精神世界を所有しているのかもしれない可能性が妥当と判断したのだった。
精神世界の限界があること、そして精神世界の中心にある謎の湖。恐らくここら辺に魂があるはずだ。建物の残骸は魂を隠すためのものだろうか。
俺は湖に浸かりながら中心部を目指した。湖は意外と浅く、膝下が浸かるだけの深度しかない。入っても何も起きなかった。
警戒して損をした。俺は次に残骸の欠片を手に取り握り潰してみる。手の隙間から砂のように砕けた残骸が零れ落ちるだけで何も起きなかった。
また何も起きなかったか。ということは、何をしても反撃は無いのかもしれない。実際タルバは意識を失っていた。正確には膨大な情報量を頭に流し込まれて自意識を押し潰されていた。
「警戒を怠るわけではないが、さっさと魂を探して上書きするとしよう」
大股でどんどん進むアタナシアだったが、中心部に近づくにつれて白い靄が立ち込め始める。
そして気づいたときには真正面にある残骸の上に人影を見つけたのだった。気を張っていたにも関わらず、俺は気づくことに大きく遅れた。
「誰だッ!!」
俺は柄にもなく驚いて声を荒げる。自分でもなぜこんな驚いているか不思議なほどだった。
人影は片膝をたてて、こちらに頭を動かした。白い靄に隠されて黒い影しか見えない俺にはあまりにも不気味に見えた。影は残骸の上に座っており、俺は影を見上げた。
(君は……タルバが戦っていた魔人の……)
人影の言葉は途切れてしまい、明瞭には聞こえなかった。ただ若い男の声だった。影でしかないが、青年に見える。
そして人影の発した内容はまるで俺とタルバの戦いを見ていたかのうような口ぶりだった。突如として心に不安がせりあがってきた。
未知の相手とはこれほどまでに恐ろしいと思うのか?魔人になってカナンに会ってもこんな感情になったことなどなかった。状態異常にかかっていると言われてもおかしくないほど、心が乱れていた。
(そうか……君は魂に干渉できてしまうのだね……どうしようか……)
(どうしようか?どうしようかだって?こいつ俺が魂に干渉できることを知っていて、更に何かしようというのか!)
俺は臨戦態勢で人影を睨みつける。腰を落としていつ飛び掛かられようと反撃でき、魔法を撃たれても回避できるように片足だけ残骸に乗せ、翼を生やす。
精神世界でも魔人の身体能力は行使は可能なようだ。
しかし、人影は俺の様子を見ているようだった。そして一拍置いてからどこかに顔を向ける。
(これではタルバに勝ち目は残ってないな。とはいえ、結果的に君と戦うように仕向けた自分がどうこう言える立場でもないか……)
次第にはっきりと声を聞き取れるようになってきた。いや、正確にはこいつは話していない。直接脳に語りかけているようなイメージだ。
「……仕向けた?タルバに目的があったようだが、それはあんたが頼んだのか?」
(違うね。私は自分が感じたことを彼に共有したに過ぎない。それは本来彼が気にも留めないことだった。しかし、私の感情に充てられて彼も同じ感情を抱いた。そして君と戦う選択に行き着いた。それだけだよ)
「感情……?精神攻撃をかけていたということか?」
(攻撃……受け取り方次第だね。さて、誰もここに来てはいけなかった。来れないはずだった。だが来てしまった。そして君を素通りさせてしまえばもうタルバは使い物にならない)
「その通りだな。だが、神ですらも干渉できないだろう?私の神を魔人にした死神ですら直接干渉できないのだから、これも仕方のないことだろ」
(確かに。その通りだ。だ、そうですよ。どうしますか。あなた次第ですよ?)
人影が突然誰かに話しかけた。俺は残骸の上に座る人影がどこか別の方向を向いた。俺もつられてその方向を見る。
さっきまでは人影と俺だけしかいなかった。いないはずだった。だが、いつの間にか湖の上に白い靄に包まれた人型の光が存在していた。
(彼を失うわけにはいきません)
澄み渡る美しい女性の声だった。あまりにも清廉なその声に聞いた俺は警戒を解いてしまいそうになっていた。慌てて身構えるが人影が女性に答えた。
(そうはいっても出来る手段は限界があるのでは?私はこの魔人と戦えない。彼は肉体があり、私にはない)
(そうですね。ただ手段はあります。借りればいいのです。そしてあなたもその朧げな姿から確かな存在に戻しましょう。かつての姿に)
女性がそう告げると、眩い光が世界を包んだ。そして俺は現実世界へと意識が引き戻されるのだった。
――――――――――――――
(彼の魔人はこの精神世界から追い出せましたね。さて、次はあなたです)
(創造神様、よろしいのですか?私は一度死した身。それに魂を完全な形に戻せば世界に不都合が生じます)
(あなたを蘇生するわけではありません。アンデッド達を封印した状態は維持します。その上であなたにはタルバの魂の番人となってもらいます)
アタナシア=グラニエを追い払った創造神様は、俺にそう言った。あくまで現世に蘇生させるわけではないということだ。それに借りると言っていた。
やっと創造神様の考えがわかった。たしかに、借りればいいのだ。それに私は彼の魂が損なわれず、死なないようにすればよい。窮地を脱したら私は引っ込むとしよう。
(面倒な手続きは創造神の特権を使用して全て理を書き換えることとしましょう。それに加護も彼のものなのでそっちも……)
誰にも聞こえない声が世界に響く。
――創生ノ神ニヨル世界ヘノ干渉を確認
――創生ノ神ノ特権ニ基ヅキ、コレラ全テヲ承認
――対象 タルバ=ゼノ
――概念、魂ノ番人ヲ創生……成功
――特定ノアンデッドニ対シ、創生ノ神ノ契約ヲ付与。……成功
――魂ノ番人ヲ作成。神銀ノ心臓ヨリ魂ヲ抽出。不足情報ハアンデッドカラ強制抽出。……成功
――魂ノ再構成中……成功
――魂ノ入レ替ワリニヨリ、加護『世界』解除。権能、能力、肉体ニ対スル弱体化を解除……成功
――人格ヲ再現。疑似人格ヲ魂ニ付与。……成功
――タルバ=ゼノノ自我及ビ魂ニ甚大ナダメージヲ確認。バックアップヨリ再構築……成功
――タルバ=ゼノカラ肉体ノ支配権ヲ一時的ニ譲渡。……成功
――理ヲ再構築中。
――理ヲ再構築中。
――理ヲ再構築中。
――理ヲ再構築中。
――理ヲ再構築中。
――理ヲ再構築中。
――理ヲ再構築中。
――理ヲ再構築中。
――理ヲ再構築中。
――理ヲ再構築中。
――理ヲ再構築中。
――理ヲ再構築中。
――理ヲ再構築中。
――理ヲ再構築中。
――理ヲ再構築中。
――理ヲ再構築中。
――理ヲ再構築中。
――理ヲ再構築中。
――理ヲ再構築完了。申請ヲ全テ完了。理ノ書キ換エヲ終了シマス。
――非常事態ニツキ、魂ノ番人『古ノ勇者』強制起動。
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