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へっぽこ魔人生  作者: 岸辺濫瀟
第6章
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11.男の回想

 アタナシア=グラニエは元は人間であった。しかし、俺が生まれた環境は戦乱の時代であり、魔物も人間も大差がなかった。両者共に自分に害意を持って襲い掛かる。それだけが俺の脳にこびりついた。


 俺が戦いに身を投じる根本のきっかけは故郷が消滅したことだった。戦火に包まれたわけでも、魔物に荒らされたわけでもない。文字通り消滅したのだ。


 当時『収縮生誕』による災害級魔物の出現によって俺の故郷に災いが忍び寄っていた。俺は家族と共に街から離れ逃げていた途中、俺の故郷は災害級魔物と共に消えた。

 魔人になってから知ったが、カナン=アズールが()()したとのこと。魔物と街が消滅したが、俺は運よく生き延びた。


 俺は家族と近隣の街へと移住することになった。安堵と明日への不安が押し寄せてくるもまだ希望は残されていた。

 移住先の街は比較的大きな街だったこともあり、富裕層も平民も多くいた。人が多くいるということは冒険者という当時は何でも屋に近いような仕事もあった。


 だから仕事はあるにはあった。街内で不人気な仕事は重労働の割に賃金が低くよそ者の俺でも就くことができた。日中は荷物の運搬や便利屋として働き、夜中は見張りを率先して行った。俺の両親は学があったため、家庭教師として働き口を見つけた。


 よそ者の俺達家族であったが、両親が賢かったことや俺が積極的に仕事を担当し、街に溶け込もうとしたことで徐々にわだかまりがなくなっていった。


 木と石壁で出来た藁の屋根の家で、以前住んでいた家とは貧相になったが家族仲は暖かかった。貧しさの中でも俺たちは勤勉に働いていることが誇りだった。


 数年が経過したころ、両親が風邪で体調を崩した。街で流行病が蔓延したのだ。初期症状はただの風邪。肉体の免疫力が低い者は早い段階で死亡した。


 だからただの風邪と思われていたし、特殊な病だとは誰も思っていなかった。街の人たちの中には亡くなる人もいたが、こればかりはどうしようもないと受け入れていた。高熱による複合的な体調不良で薬もなかった。


 俺にとって不幸だったこととしては俺の両親は免疫力が強かったせいで流行病の末期症状まで表出したことだった。肌が硬化してボロボロと崩れ落ち、徐々に体を欠損していく恐ろしい症状に俺自身も恐ろしく感じていた。

 加えて咳が止まらず吐血と嘔吐を繰り返し体調を崩していった。毎日両親は息苦しそうに寝込み、そんな俺たちに街の人々は冷たかった。


 冷たくなった原因は明白で、両親が家庭教師として働いていた富裕層の家が扇動していた。その一家は俺の両親が働いていたことを醜聞と捉え、騒動を大きくして自分たちが被害者の立場であると主張していた。家で動けない俺の両親は彼らの一方的な主張に対抗できるはずもなく、俺も仕事と両親のケアで疲弊していった。


 未知の病ということもあり、病を患った両親に対して風当たりは酷く、家には石が投げ込まれ、借りた家は隙間風がよく通り抜けていた。両親が亡くなるころには借りた時とは様変わりしていた。


 薄汚れて見栄えが悪く、誰も近寄らない呪われた家、当時そう言われていた。それでも俺は働いた。勤勉に働いていることが誇りと思っていた当時の俺は、街に流れ着いた時と同じように率先して働けば受け入れて貰えると思っていた。


 学校にも通っていなかった俺にはこれしか成功体験がなかった。これしか解決の糸口を見つけられなかった。例え石を投げられ、罵詈雑言を浴びせられても、何も悪いことをしたわけでなくとも可能性を信じていた。大衆が一丸となった時の力を知らなかった。


 だがそんな生活は長く続かなかった。両親が死亡した。固まった泥のように布団の上で砕けて散った。今思えば呪いの類だったのだろう。災害級魔物の置き土産だったのか、はたまた恨みを買った誰かかはわからない。


 だが事実として俺には親戚や兄妹の類がいなかったことで、18歳にして天涯孤独の身となった。夜風が体を冷やし、どの季節も寒さに凍えていた。親だった物体が隙間風に吹かれて外へ消えていくのを呆然と見るしか出来なかった。希望なんてどこにもなかった。この街で生きていく未来も見えず、俺は八方塞がりにあった。


 能力を授かるも、何に活かせるのか判断がつかず。冒険者になろうかと思ったが、この街ではそもそも嫌われているせいでまともに取り合ってくれない。


 俺のように学がないものでももうこの街にはいられないことはわかりきっていた。なけなしの金と必要最低限の持ち物だけで夜逃げするように街から逃げた。


 それからの記憶は朧げだ。気づけば幾つか先の街に辿り着いていた。辺境と呼ばれる場所。魔物に出会わなかったことは幸運だった。


 どうやら当時大規模な魔物狩りを行った直後だったようで、タイミングがよく到着したとわかった。


 親類縁者も頼れるあてもない俺には自分だけを磨くことしかなかった。すぐに始められる仕事で得た金を切り詰めて貯金した。


 少しずつ装備を購入して、安全な範囲で魔物を倒していた。そして冒険者になり、ただ強さを求めた。誰にも縛られずに生きることが信条になり、両親を追い詰めたあの街を1人で潰せることを目標にした。


 転機もまた突然だ。俺は老化しなかった。60を越えても20代と同じ見た目で健康そのものだった。


 年々魔力は増加して、得意属性の魔法は全て使えるようになった。1人で国を相手取れるとも評されたほどだった。


 自分自身は何とも思っていなくとも、ここでも群衆の目線が足を引っ張る。人間で老化しないというのはありえない話だ。


 俺は人間の両親の話もしているし、異種族の特徴もないことから段々と化け物扱いに変貌した。俺と同い年の人間は腰が曲がり、白髪に染まりだした頃あいだ。どう比較しても異常さが際立つ。


 最初は面白おかしくした冗談が流布して、それが悪化していった。根も葉もない俺の血を啜れば不老不死だとか、食えば老化しないとか、人間に化けた怪物だとか。


 大体は俺の老化しないことや人外であることを指摘する内容だった。


 その時点ではまだ魔人ではなかった。だからこそ俺自身もなぜ自分が衰えないのか疑問だった。それはそれで恐怖ではあった。今日老いなくとも明日老いるかもしれない。もしかすれば死ぬ直前まで老いないだけというのもありえた。


 魔人ではない時点で俺の身体的な異常はあった。傷を負っても即座に再生する。病気にもならない。どれだけ動いても疲労も溜まらない。なんなら筋肉痛にすらなったことがない。昔は体が丈夫だと思っていたが、それでは説明がつかないことが多い。体が上下で真っ二つになったときも千切れた体をくっつけたら綺麗に修復した。俺の能力は再生能力ではないため、この時点で俺は人間ではなくなっていた。


 いつからか人間じゃなくなった俺は街を転々として流浪の旅に出た。どこにいても定住できないことが何よりも悩みだった。街という人間の生活圏でわらわらいる人間を常に警戒して生きるのはストレスだった。街に入れば冒険者としての名前で噂に辿り着かれ、噂を信じた金持ちや貴族の襲撃に辟易していた。

 毒を警戒するために銀の食器を携帯するようになり、食べ物は買えなくなった。全部自分で調達して敵がどこにでもいる街に住む理由がない。


 そんな時に魔人になって人生が変わった。普通に死ねない俺に死神からのお告げがあった。それと同時にデモニックウェリタスで魔人化が行われた。


 俺が魔人になれた理由は俺の肉体にあった。人間ではないことはわかっていたけれど、故郷に現れた災害級魔物の影響だった。再生能力と呪いを持った災害級魔物はカナンに破壊されたが、その影響が消滅したわけではなかった。


 俺たち家族にその力の一端が宿ってしまったそうだ。特に俺に。


 そのせいで俺たち家族は高い肉体再生能力によって流行病に抵抗できてしまった。両親は俺ほど再生能力を引き継いでいなかったせいで流行病に倒れてしまったが、俺がどれだけ両親の介護をしようと流行病に感染しなかったのはこれのおかげらしい。また流行病には俺の両親ほど悪化するものではないとも教えてもらった。どうやら俺が再生能力を、俺の両親が呪いをメインで引き継いだせいで体調を崩した時にその力が覚醒したとのこと。


 結果として流行病の症状と錯覚してしまったが、実際は災害級魔物が所有していた呪いそのものだそうだ。


 死神としては死んでしまった両親はともかく、生きている俺をどうするかで困ったらしい。頭を吹き飛ばさない限り死なない存在が生き続ける奴がいると輪廻転生の輪が崩れるらしい。魔人や神の介入がある存在はべつとして、通常の人間が死なないというのは死んだときにどうしていいかも決まっていないらしい。


 丁度魔人の席に空きがあるから魔人にしてしまえば丸く収まるということで俺は魔人になったらしい。デモニックウェリタスで失敗して死んでもそれはそれでラッキーだったという側面もあるだろう。


 これで死んでいたらたまったものではないが、過ぎたことは水に流すことにした。それに権能を研究することの方が俺にとっては興味を引いた。疑似的に生死を操れるというのは今までにない楽しみだった。アンデッドを作成するのもどこまで高性能なアンデッドにカスタマイズ出来るかもトライアンドエラーの中で改善していく様はいい刺激になった。


 それに人間嫌いになりつつあったことも相まって、権能の行使に抵抗は無かった。最早人間は道具にしか見えなくなっていったのもそのころからだ。


 命というよりも魂に干渉する権能という表現が適している。俺の権能は魂の状態を書き換えることで世界に対して死者を生者として誤認させる。そして魂を肉体と紐づけるようにすることでアンデッドは出来上がる。ただここに自我は存在しない。


 これが権能を使用した場合のアンデッド作成手順だ。当初はこれに時間がかかったが、今では流れ作業でサクッと作成できるようになった。


 熟練した最近では意識しなくとも発動だけすれば範囲内の死者をアンデッドにすることも可能だ。


 通常の死霊魔法は強制的に死後の世界から魂を呼び出し、死者の状態で物体に定着させるため、自我の付与は不可能だ。この世界の法則として生者にのみ自我を所持させるルールがあるみたいだからだ。ここが最大の違いだ。


 魂に干渉して書き換える権能であって、死者を操るだけの権能ではない。だから生者も操ることが可能だ。ただし死者のほうが書き換えられる範囲が異なる。それこそ支配するという点ではアンデッドにしなければそうそうできない。


 瓶売りの翁は例外として、この都市は全て手中にある。人としての心が失われつつある俺には人間の倫理観はゴミくず同然だ。もし優しさがあるとすれば自我を付与しても行動を縛っていないことだろうな。必要なことはやってもらうがそれ以上を求めいない。


 これにはきちんとした意図がある。この都市はほとんどがアンデッドで構成されている。外部からくる人間に怪しまれないこと、そして活気があるように見せかけるには人間らしい行動をしてもらわなければ困るのだ。行動を縛ってしまえば自然さが損なわれる。方向性だけ抑えて、禁止事項を作るだけ。


 こうして出来上がったのがリバティであり、俺の家族を追い詰めた場所の末路だ。元の人間たちは当然いないし、その子孫というわけでもないがな。


 手ごまを増やして疑似的な人間の生活圏を作成するというゲームはタルバの乱入によりゲーム性を変えざるを得ない。個対群の消耗戦を仕掛けてみて奴の人間性を見てもいい。精神的に揺さぶれれば重畳。あとは俺が戦えばいいのだ。


 この城に辿り着くまでにアンデッドの大群と違法風俗街を通るはず。少しでも隙を作らせ、精神に干渉しやすくしておく下準備を施せれば勝ちの目はある。力で勝てなくとも搦め手で勝つ。かつて俺の家族を追い詰めた人間たちがやったように数を向ければ罪悪感が強まるかもしれない。使い捨ての道具だから有効活用しなくてはな。


「強制支配、実行。目標タルバ=ゼノ。」


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