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へっぽこ魔人生  作者: 岸辺濫瀟
第6章

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12.大群

 店を出たタルバに向かって大量のアンデッド達が全力で走って向かってきてた。正面から眺める人間の大移動に驚きながらも意外に冷静に光の粒子化で捕まえようとしてくるアンデッド達を掻い潜る。


「どこにこんなアンデッドがいたんだよ……今日見た人影の何十倍もいるだろ……これ」


 アンデッド達はタルバの体が浄化能力を発していることなど露知らず、一心不乱に取り押さえようとしてくる。アンデッドの性別、年齢はまばらで女性が多いのはここが風俗街だからだろう。どれだけ掴もうとしても掴ませないタルバはというと攻めあぐねていた。


(光を発して浄化できるかもしれないが、アタナシアとの戦闘で使える選択肢を減らすのは悪手だ。俺の光は無制限じゃないのがネックか)


 逃げても逃げても追い縋るアンデッド達。いつの間にやら通りの真ん中で四方八方を取り囲まれてしまう。翼を広げて飛び立とうにもまだ不慣れなせいで粒子化と併用が出来ない。


 魔人の肉体は制御が難しくて使いこなせない。溢れ出るパワーのせいで力の指向性を付けづらいのだ。


 イメージとしてジャンプしてもジャンプの方向を自分で定める前にジャンプしてしまうのだ。斜め前に飛び上がって物を飛び越えようとして真正面に飛んでいったこともある。最早突撃でしかない。


(いや避ける必要はないな。相手は敵で俺の体なら浄化できる。ついつい人間の時の癖が残ってるな)


 四面楚歌の状態でも魔人という肉体的アドバンテージと権能による優位で欠片も焦らなくなっているタルバは効率のよい浄化を考え始めた。そんなことをしながらもアンデッドは迫りくる。深くかがんで垂直にジャンプすると50mくらい飛び上がり、すぐさま翼を広げて空からアンデッド達を見下ろす。


 タルバがいた場所に殺到したアンデッド達は空を飛ぶタルバに手を伸ばすことしかできない。呻き声がアンデッド達それぞれから漏れ出る姿は到底自我が残されているとは思えない。


 アンデッド達の中には当然今日タルバを店に呼び込もうと客引きをしていた女性たちもいた。彼女らも例にもれず人だかりに押されながらただただ手を伸ばしている。


「物悲しい光景だ。創造神様は自我があると言っていたが、アタナシアの一存で消せる自我のあるアンデッドに人としての尊厳も無さそうだ」


 アンデッド達は届きもしないタルバに手を伸ばしては少しでも近づこうとジャンプしている。またタルバが眺めている間もどこからともなくアンデッド達は増え続けていた。そしてアンデッド達はジャンプや押し潰されたアンデッドの死体が自然と積み重なり徐々にだがタルバに接近してきていた。


 アンデッドたちは死体の塔を打ち立てていく。タルバの真下に集まるアンデッドたちは衝突して死体が落ち、それを越えたアンデッドがまた登ってきては土台になっていく。


「見ず知らずの人間だけど、これは気分が悪い。体を欠損してもひたすら手を伸ばす姿は痛ましい。人の生き死にを今更どうとも思わないが、死んでからも使われ、束の間の自我を持たされては消されるなんてごめんだ」


 自我があると聞いていたから出来る限り苦しまずに死ねる方法を探していたのだが、自我がないのなら気に掛ける必要などない。肉体変化で圧殺するだけで終わりだ。肉体変化の制約として他の生物に変化するにはその生物と接触している必要があるが、自分の体を大きくするなどは制限がない。もちろん、巨大化、縮小化するにしても限界は存在する。


 肩まで腕まくりをした俺は右腕を急激に大きくしていく。体がアンバランスになっても持ちこたえられるのは魔人の膂力のおかげだ。


 巨人の腕に相当するサイズになったタルバの腕は振りかぶることもなく、ただ自由落下で地面に向かう。右腕だけ光を発するようにして浄化を促しながらアンデッド達に衝突する。


 紙で出来た箱を潰すように砕けては消えていくアンデッド達。アンデッドと接触している部分からは焼けるような匂いと一層大きな呻き声がしては消えていく。程なくして地面に到達した俺の腕は大地に突き刺さる剣のようだった。仲間のアンデッドが消えていく中でもひたすら俺の腕に手を伸ばしては勝手に浄化されるアンデッド達。


(これで彼らは救われるのだろうか。絡繰りがわからないが、肉体を欠損してもアタナシアが生きている限り囚われ続けるのであれば、これでは意味がない)


 どんなことにも原因がなければ発生はしない。そして今なお消えていくアンデッド達の親玉はアタナシア=グラニエという死神から権能を持たされた魔人だ。


 アタナシアが死ななければ解決には繋がらない。敵わない敵なら逃げるが、幸いにも優位が取れる。権能の相性が抜群だ。


 アンデッド達は問題なく対処できそうだからあとは戦闘面か。魔法と肉弾戦で決着するはず……無理そうじゃない?


 アンデッドはよくても、魔人本人が浄化できるわけがないし、そもそも創造神様の話では権能が強力だとアンデッドも浄化できないと話していた。だったら魔人本人にはそもそも効かないのでは?


 魔人があっさり浄化されてるような存在じゃないだろ。なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろうか。


 切り札が必要だな。勝負に絶対はないけれど、勝ち目のない戦いに挑むことほど愚かなことはない。急ごしらえの切り札で倒せるほど魔人も弱くはないはずだ。俺が単独でできそうなことはアンデッドの浄化だけだな。


 神器か、他の魔人を呼ぶかだな。神器はそうそうあるものではないだろうから、誰かを呼ぶしかないな。


 カナンか、鍛冶屋の爺さんか、ヘクターか、イフィンティブだな。しかしカナン以外は連絡手段がない。カナンが協力してくれれば倒せる。それは恐らく確実だ。しかしカナンが頼まれてくれるのかは微妙だな。いや、頼んだ後が怖いというのがある。


 カナンは俺に対して良く思ってくれているし、頼めば了承してくれるだろう。これは驕りではないと思う。ただ今現在カナンに貸しを作っていないから対等で居られるのだと思う。カナンは理性的で倫理観がしっかりしているから力で解決しようとはしないけれど、貸しを作ってしまえばいつ返せと言われるか、何をしろと言われるかわかったもんではない。


 俺はまだ魔人という存在を信じられないのだ。どんな人間にも過去があるように魔人だって魔人以前の過去がある。その時どんな人生経験をしていたかで価値観が変だったりするだろう。


 例えばだ、今の時代では殺人は当然罪として罰せられるが、それが数百年前の別の国でも殺人が罪になったかは定かではない。条件付きで殺人も良しとされたかもしれない。


 ましてや古の勇者と魔王の戦いで荒廃した世界にまともな世界があったのかも怪しいし、魔王が倒される以前の世界を生きていたカナンがどのような世界で生きていたのかも俺には知る術がない。


 古の勇者が魔王を打ち倒したことで世界のルールは一変した。公衆衛生の考えの浸透もそうだが、身分社会が少し緩和した。以前として貴族に歯向かうことは死刑だが、それでも平民から貴族になる道が作られた。


 古の勇者は貴族にならなかったが、それまでの血統主義に基づく貴族制から特別優秀な者を国に抱え込むために貴族にするという能力主義的な思想へと変貌していた。古の勇者1人の功績で世界は変わった。そして現代になってもその変化の波は途絶えていない。


 平民は冒険者になることで土地に縛られることなく移動することも可能となり、貴族はあまり重税を課さなくなった。それでもいまだに血統主義に固執する残党貴族達は存在する。


 それが貴族派であり、今なおベゼル王国では残り続けている。ヴェルフ帝国では皇帝の独裁政治に変わり、貴族とは名ばかりのものとなっている。


 今の世界は古の勇者が持っていた異世界での倫理観や概念、考え方などが浸透したのであって、それ以前の世界は噂程度にしか知らないが、女性の立場が男性と比べて低かったとか仕事に立場や家系、身分が密接に関係していたとか、今では罪になることでも昔は罪ではなかったとか。


 だからこそ、カナンが怖いのだ。カエデがいることによって非常識なことが低下しているみたいだが、それでも伝え聞く話はどうしたっておかしい。魔人としての力はもちろん、他者に対して勝ちを感じていないように見える。それこそどうでもいい存在にしか見えてないような気がしているのだ。


 昔からの付き合いのあるヘクターやイフィンティブ、鍛冶屋の爺さんはそれなりに仲良さそうにしているが、中々に暴力的なコミュニケーションを取っていたからな。


 カナンにとってパンチやキックといった攻撃に対して罪悪感を感じていないだろうし、魔人だから別にいいだろうという考え方が透けて見える。多分魔人じゃなくても死んでも仕方ないくらいに思ってそうだ。ヒステリックではなく理性が残っていても手が出てしまう女性って怖くないだろうか。


 大陸を軽く滅ぼせる女性で精神性がおかしいとなれば貸しを作ることにおっかなびっくりしてしまうのも当然と思ってほしい。


 お金も立場も力もある女性は何を求めるのだろうか。そして貸しを作ったとして返せるとは思えないんだよな。


 持っているものといえば創造神様の魔人という立場だけだからな。実力無し、金無し、身分無し(冒険者証を喪失したため)、甲斐性無し、根性無しと無いものばかりだ。


 そもそも自分が結果的に喧嘩を吹っ掛けてしまっている魔人を倒す手段に最初から他人を当てにしているだけでもう情けないことこの上ないな。


 こんなことを考えながらもアンデッドを浄化している腕にはアンデッドが群がっている。アンデッドキラーとしてはいいんだがね。


 なんか理由付けて戦ってもらうように誘導するにしても今日カナンは予定があるらしいからなぁ。


 鍛冶屋の爺さんに頼み込んで戦ってもらうか。そうしよう。あの爺さんなら俺に割と優しいし、テストの時も助言くれたからな。


 今回も助けてくれそう。まずは城下町に相当するこの風俗街のアンデッドを浄化して、違法のほうも消して、爺さん連れてきて決着としよう。


 爺さんの貸しの方がカナンに貸し作るよりも百倍はマシだ。カエデもどのみちカナンに味方するからな。


 それよりもカナンと昔距離を取っていた爺さんのほうが俺は安心できる。


 鍛冶屋の爺さんVSアタナシアの戦いを俺は全力で支援するぞ。目つぶしくらいなら出来るし。

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