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へっぽこ魔人生  作者: 岸辺濫瀟
第6章

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13.2人組と再会

 自分が敢えて戦わない決意を確固たるものとしたタルバは自分のいた風俗街のアンデッドを浄化し終わっていた。


 都市自体にはまだまだアンデッドの気配を感じるものの、自分の方に向かってくるアンデッドはいなくなっていた。浄化に使用した光は周囲のランタンの光や魔力で動作する街灯も大陸は違えど、使用されていることから使用した分は充分補充できた。


 光という世界に普遍的に存在する力だったことが俺にとって幸運だったかもしれない。


 ポケットに手を突っ込みながらリバティの街を練り歩く。俺が通って来た道には1人も生物はいない。ゾンビも全て浄化されたからかゴーストタウンと化していた。


 人だけが忽然と消されたように明かりだけがついた建物たち。木製の居酒屋では外にまでテーブルがあり、卓上にはまだ湯気の立ち上る熱燗や串焼きが残っている。他にも立ち並ぶ居酒屋や風俗、どの店を取り上げても俺が浄化したゾンビたちがいなくなってしまったことで廃墟となっていた。


 寂しい光景になったものだ。ちょいと串焼きを拝借して食べながら城を目指して歩いていく。


 一般風俗街は少し外れたところにあり、実は違法風俗街は城のすぐ近くで管理されている様子。浄化したゾンビの中にこの街の簡易地図を持っているやつがいたので知ることとなった。


 それにしても、違法風俗街って多分この都市に入る時に聞いたようなことを実行している場所だよな。十中八九そうだとしか思えない。


 他所から連れてきて自分好みに変えることが出来るとかいういかれた話の源泉。だがゾンビに変えているというのであれば納得はできる話だ。快不快は別の話だが。


 人間を連れてきてアタナシアが自我のあるゾンビに変貌させる。そのゾンビを支配下に置き、命令を与えることで客たちの望む姿に最終調整出来るようになっている絡繰りみたいだ。客たちはゾンビだとは知らずに人間のような温もりや感覚の再現を生きていると錯覚して行為に及んでいるみたいだ。


 おぞましいな。人間たちもまさか自分たちがゾンビと行為に及んでいるとは思っていないはずだ。アタナシアがやらせていることは生者への冒涜だ。ゾンビの体が腐敗していれば何がとは言わないがネチョネチョになるかもしれないし、腰が当たったときに弾け飛んでもおかしくない。


 アタナシアの権能で強化されていたのだろうが、それにしたって倫理観を捨て去った異常者でしかない。死神から権能を貰っているからといってこれは世界の摂理を馬鹿にしている。しかし感情論を抜きにして超合理的考えで捉えれば得しかない。


 やつの権能がどこまで自由度があるのか不明だが、ゾンビなら肉体欠損を補える可能性が高いし飲食も不要。脱走の心配や客に攻撃をする心配も権能由来の命令で縛れば心配ない。


 ゾンビを使っている間、アタナシアに損は無い。人間たちがゾンビの素材となる人間を連れてきてくれるわけだし。


 ゾンビを作るだけの権能ではないと思うが、それにしても自由度の高いゾンビを大量生産できるとはあまりにも影響力のでかい権能だ。幸いなこととしては、アタナシアが積極的に侵略をしてゾンビの大群を作成していないことか。この大陸にまだ人間が生息できているのは他の魔人との兼ね合いとアタナシアの野心が侵略方面に向いていなかったからだろうな。


 魔人のテリトリーじゃない場所ならばどこにでもあるからな。ゾンビの大群を使って敵側の人間をどんどんゾンビに変えて同士討ちをさせればいいのだ。


 少しでも躊躇してしまえばこちらのものだ。戦場でためらうことは死に直結する。そして死んだ人間がゾンビに変わってさらなる侵略に加担させる。ゾンビ側の兵力は大量に殲滅されない限り、減ることはないだろうからな。


 悪夢のようなサイクルだな。串焼き食いながら考えていたけどちょっと嫌な感じだ。


 食欲は減退するけど、串焼きはタレがかかって妙にうまい。小汚い感じの居酒屋は何故か綺麗な店で食う飯よりも旨く感じるんだよなぁ。汚く見えるだけで汚れに旨味でも詰まっているのだろうかね。


 食べ終わった串を適当に投げ捨て、また通りがかった店に残されていたスープを拝借して一気飲みする。ついでに手が付けられてなさそうなビールを喉を鳴らしながら流し込む。こうなったらやけくそだ。無銭飲食くらい可愛いものだ。


犯罪歴でいえば窃盗、器物破損、街の汚染に誘拐と暗殺。パッと思い出すだけでもこれだけあるんだしここで生活していただろうゾンビを浄化しちゃったから完全犯罪成立だな。


 犯罪がばれる理由として目撃者がいるからだ。生物が存在しない状態になったらなんでもできる。普通はそんなことしたら処刑されるだろうけど、魔人の都市で非人道的な行いがされているのだから無問題だ。


 この通りを歩くだけで色んなものが食えそうだな。おっ、炒飯が残ってるな。肉体変化で口を大きくすることで一気に食べる。他にもパンやつまみ、スープに酒、異世界から齎されたラーメンにカレーとあらゆる飯が置き去りになっている。


 食べ物がもったないな。どんどん食べていこうか。肉体変化で一気飲みならぬ一気食べで文字通り胃に流し込むことができるようになったのは大きいな。それに魔人の肉体って地味に燃費悪い。


 権能を使った後だからか少しエネルギーを消耗していたと思うんだ。光の補充は出来てもエネルギーの補充は出来ていなかったからね。大悪を誅するためには必要な前準備さ。

 

腹が減っては戦はできぬと異世界ではいうらしいじゃないか。


 少し歩いてはその辺に置いてある飯をパクっては食べ、後ろにゴミを投げ捨てる。ついに違法風俗街の壁に突き当たったので、殴ってぶち抜いてみた。


 さぁ、このくそったれな街を拝見と行こうか。


――――――――――――


 違法風俗街は一般風俗街とは趣が異なっていた。一般風俗街は他の街と似た様々な店が立ち並び、風俗店以外にも居酒屋などの飲食店や小物や雑貨を売る店もあった。しかし違法風俗街は異世界の街並みを再現したのか、長方形のビル群が左右対称に奥の方まで並んでいた。


 こんにゃく色のビルに等間隔で窓が取り付けられ、カーテンで隠されて中が欠片も見えない。道はアスファルトで舗装され、路肩にも几帳面に街灯とゴミ箱が設置されている。


 街灯の近くに不自然に植樹された樹がある。異世界では街の中に植樹するという文化があるらしいが、まさにこれだ。そもそも街の外にいくらでも樹はあるから街に樹がある必要性はないのだが、異世界ではこれが普通らしい。だったら最初から樹を伐採しなければいいのではとか思うのだがそこはそうゆうものだと受け入れるほかないな。


 そして俺は気休め程度に透明化をかけて道の端をこそこそと歩いていた。人気が無い無機質な街並みに見えてちょくちょく手を組んだ男女を見かける。あれが多分この街で調整された人だったゾンビなんだろう。心なしか目が死んでいるように見えた。


 ビルの1階に見たことがない店が入っている。ガラス張りで外からでも中が見えるその店には食べ物や飲み物、消耗品などなんでも売っている万事屋だった。小さな街ではなんでも売っている店として万事屋があることは珍しくないのだが、この街には同じような店が幾つもある。それに飲食店らしきものは見えないが、食べ物を運ぶ人もいる。一般風俗街にはなかった街の景色がここにはあった。


 また先の一般側との違いとして街があまりにも静かだということも挙げられる。それがよりこの街の異質さや不気味さを際立たせていた。


(あれは……街に入るときに話していた2人組だな……あいつらこっちに来ていたのか。またあいつらの話を盗み聞きしてみるか)


 リバティ外で会った太った男と痩せた男の2人組は顔を紅潮させて興奮気味で話していた。身振り手振りに熱が入っている様子から相当のパッションが込められている。


「あの話、嘘じゃなかったんだな!!この街に連れてくればどんなやつでも思い通りに出来るなんて――最高すぎだろっ!適当に買うよりも絶対連れ込んだほうがいいに決まってる!!」


 太った男が信じられない物を見たように痩せた男に向けて話している。それを当然のように受け入れる痩せた男。


「だから言ったじゃねぇか。俺も直接来るまでは半信半疑だったが、噂は本当だった。見ただろ?あの男女たちを。男だろうが女だろうが自由自在だ。受け答えもしっかりしている。俺たちはこっちの街に通された。つまり権利を与えられたんだ、支配する側のな。これを利用しない手はないだろ?」


「だなだなっ!適当に買って遊ぶだけじゃ満足できねぇって!ここに預けられるなら何人だって連れてくれば楽しめる。要らなくなったら処分も請け負ってくれるなんて完璧だぁ!」


 指折り数える太った男を冷めた目で見つめる痩せた男。かかとをあえて擦り当てながら歩く男たちは街角を曲がり、どこかあてでもあるように迷いのない足取りでどこかへ向かっていた。


「今日はあの店で終わりだな。今回は買うだけで終わりだが、次は直ぐにでも計画を建てて来るとしよう」


「あの高級店だなっ!胸のでかい女で頼もう。道具もレンタル出来るんだ、幾らでも外じゃ出来ねぇことやってかねぇとな」


「やり過ぎも程々にしろよ。噂程度だがあまりにも扱いが悪い客は消されるって話だ。俺たちはここの街じゃ新参者なんだ。謙虚にやらねぇと」


「わりぃ。気が逸っちまってつい。安い店じゃないんだから店に聞けばどこまでやっていいかのラインは教えてくれるだろ。問題ないって」


 両手を合わせて謝る太った男は懐から瓶売りの爺さんが売っていた小瓶を幾つか取り出し、明かりにすかして眺めている。


「おい、落とすんじゃないぞ。それ1つでいくらすると思ってるんだ。眺めたって変わらんぞ」


「いいじゃねぇか。使う前にどんなもんか見とくのも大切だろ?品質が悪くなさそうだが、再現はできねぇもんかな」


 小瓶を振って中身の液体をチャポチャポさせている。俺の持っている小瓶も同じ色だが、中身の液体は俺がキラキラ輝くピンク色で、太った男の小瓶はどす黒い紫色だ。毒と見間違えそうな濃さに呪いでも込められているのじゃないかと邪推してしまう。


「媚薬にしては色が汚いもんだな。どうなってるんだ?」


「その小瓶にはグレードがあるらしい。色の鮮やかさで効能が変わるんだとさ。俺たちは新参者だから最低グレードなんだろうよ。最高グレードの小瓶を手に入れられたらそれはもう相手の反応は素晴らしいものらしい」


「うっひょ~楽しみが増えたなぁ。この小瓶でさえ充分楽しめる効果があるのに、その上があるなんて夢があるな」


 2人はとあるビルの前で立ち止まると、1階に設置されている看板を眺める。指さし確認して目的の階を探し当てると、階段を登り始めた。3階にある『一夜』。そこが彼らの目的地らしい。俺も一緒に入ってみるか。


 俺も彼らに追従するように店内に潜入を試みた。あとで鍛冶屋の爺さんが燃やし尽くしてしまったら実態がわからないからな。ここは一つ、実地調査をしてこっちの街で行われていることも自分の目で確認してからやらないとな。


 いつでも止められるからこそ、やり過ぎてもよくない。隠蔽されてしまえばそれまでだ。どうやらアタナシアは違法風俗街ではゾンビたちをけしかけてこれない様子。だとしたらここのゾンビはさっきの一般風俗街とは何かが違うのかもしれない。


 もしもの時に備えてゾンビたちを調査しておくことは有益な結果に繋がりそうだ。もしここのゾンビが特別製なら俺の権能が通じない可能性がある。それは創造神様が話していたからいたってあり得る。


 もし城で大挙されては敵わん。有効打は先に用意しておきたいところだ。

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