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へっぽこ魔人生  作者: 岸辺濫瀟
第6章

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9.一旦休憩

 その検知は突然だった。アタナシアにとっては初めて手下が浄化されたという経験だった。

 地下のアンデッドのところへ赴く途中、アンデッド感知網に引っかかる異質な魔人の存在を見つけた。例の魔人、タルバだった。


 テストで不可思議な現象のみを残しクリアした男。元々の経歴は少し有名な物語のモデルでただの冒険者。偶然の産物で魔人になったとしか思えない男がリバティに突如やってきたことは驚かされた。


「何が目的だ?」


 純粋な疑問が浮かび上がる。次期魔人王に推薦される存在が他の魔人のテリトリーに侵入してきた。

 魔人のテリトリーを知らないはずがない。魔人に備わる感知能力を使えば権能や魔人の存在を見つけることが可能だ。


 イフィンティブ=ギャッジのように別空間にいればもちろんわからない。だが俺の場合ここにテリトリーを持っていることを魔人側は知っている。

 この都市自体に調査に来られたことも侵入されたこともないが、アンデッド達に権能を付与している関係で気配でばれてしまう。


「厄介な奴が来た。他の魔人のテリトリーを侵すことは敵対行為に近い。やられる前に先制しておくか、牽制が必要だな」


 目を閉じて権能に集中する。操るは風俗街のアンデッドたちだ。

 積極的にタルバを誘惑させてタルバの目的を探らせたい。不確定要素は門番だ。奴がどちらに案内するかでプランが変わる。難儀な存在が残ってしまった。まさか権能の支配を無効化するだけではなく、逆にこちらを攻撃してくる。


 あの胡散臭さといい、直前まで姿を消している力といい地下のアンデッドとは違うこの都市の異物だ。奴をアンデッドにしてしまったことが最大にミスだ。

 俺が消そうとすれば姿を消し、権能での干渉は無効化。アンデッドにしてしまったことで死なないという俺では勝てないが無害な存在。それが瓶売りの翁だ。


 名前も知らないが風俗街で使用する特殊な薬を売らせている。これは俺からの最大の譲歩だった。

 瓶売りの翁は俺の行いを咎めることもない。アンデッドの風俗街についてもどうも思ってないように見える。だが俺に支配されることだけは徹底的に抵抗する。


 奴の目的もまた不明。イレギュラーが3体いることになってしまった。

 あの翁が合法・非合法どちらの通りに案内するかで目的が少し絞り込める。非合法に行けばまさにそうゆうことだ。

 タルバは手に入れたい相手がいるということだ。この都市の噂はアンダーグラウンドの世界にばら撒いている。耳聡い者は知ってる。


 だが問題は合法のほうだ。純粋に風俗で遊びたいという理由なわけがない。魔人には生物的欲求が少ないようになっているからだ。

 それに敵対的な態度を取った相手の領域に突如飛来して、権能を用いて都市に入り込んでいる時点でありえない。


 タルバの目的はこの都市にあるのか?まさか地下のアンデッド?だがあいつは最近手に入れたばっかりだ。あまりにも情報を入手するのが早過ぎる。

 あいつの確保には万全を期したはずだ。それこそ対魔人の対策も施した。カナンでさえも見破ることなどない。これは断言できる。


 今もなお都市を悠々と進むタルバ。感知網からの警告が多すぎる。脳に直接送られてくる情報を無理矢理シャットアウトして位置だけ把握するに留める。

 他の要素はなんだ?俺か?いや、態度が気に食わないというだけでわざわざ先制攻撃をけしかけるとは思えん。あとは瓶売りの翁か。


 思いついたと同時に感知網によって瓶売りの翁とタルバの接触が確認される。ついこの間までただの人間だったくせにやることが世界のバグだ。

 行動基準も導き出す結果も論理だてて説明できない。人柄も創造神から与えられた使命もわからず。


 ついつい眉間に皺が寄り、権能の過剰使用で頭痛がする。アタナシアは常に権能で都市のアンデッドを管理しているため、キャパシティーの大半が稼働中だ。

 自分が権能をフルで使いたい際には細々とした付与してある権能を回収してリソースを生み出す必要がある。


 常時稼働型の権能だからこそのメリットでもありデメリットでもある。頭痛くらいならば大した問題ではない。

 それよりも優先すべきはタルバだ。やつが行動しているということは付属してカナンが襲来する可能性が大いにある。あいつはタルバという存在に異常な執着を見せている。

 俺が魔人になってからの感覚でしかないが、カナンの入れ込み具合が常軌を逸している。それは魔人王に据えるという話からしてそうだ。


 俺個人としては王に誰がなろうが知ったことではない。ただ経歴も実績も曖昧で古の勇者のような大器でもなければ魔人以前はただの冒険者。当時の実力は中の上程度。

 可もなく不可もなくだらだらと冒険者を続けられてしまった男。それが俺からの評価だ。確かにテストはクリアしたが、俺たちは誰一人結界内で何が起きてあの現象が起きたのか把握できなかった。


 だからこそ、俺はまだ疑いの余地が残されていると思っている。魔人になった経緯もヘクターがちょっかいをかえただけ。魔人の気まぐれで人間を辞めてしまった。そしてたまたまデモニックウェリタスの拒否反応が無かった。正直運があまりにも良いとしか思えない。

 タルバには常に魔人が付いている。カナンを筆頭にヘクター、イフィンティブ、イグニストゥスまでもが既知の間柄だった。ここは魔人の中でも穏健派と言えるだろう。

 アステールを筆頭とした俺やグラヴィタは過激派。テッラ、アックア、ローク、サジェスが中立。マルスは気分次第といったところだ。


 魔人の勢力図はタルバの登場で一変した。そもそもカナンとイグニストゥスは相互不干渉を貫いていたはずだ。それにヘクターやイフィンティブはふらふらしていて誰か側につく魔人でもなかった。

 今まではこの4人の魔人は勢力を作るというより、それぞれが独立して存在し、必要に応じて介入する。そんな立場を取っていた。だが、タルバという男の登場で急速に結束力をつけていた。


 カナンは原初の魔人と称されるほど魔人としての歴は長い。だからこそ魔人の中では纏め役だった。力で従えさせることもできるストッパーだ。

 もしも魔人の王を決めるなら一番近い存在がカナンだ。カナンが王になるとなれば俺やアステールやグラヴィタが徒党を組もうが変わらないと思われる。それほどまでに破壊神の権能は桁違いとの話だ。


 魔人大戦時からの魔人はイグニストゥス、ヘクター、イフィンティブだけだ。それ以外の魔人は大戦後に生まれた。いや、先代の魔人たちがカナンによって滅ぼされたことで空きが生まれただけだ。

 魔人の強さが時間経過と関係するわけではない。しかしカナンが全力で戦っている姿を見たことがあるのは先の3人だけだ。

 そしてカナン自身は魔人たちが好き勝手するのを放置している。アステールのように野心を燃やす者だっているのにだ。


 カナンの立ち回りと実力を肌で感じたことがないという事実がアステール、俺、グラヴィタのような反タルバの反乱分子を生み出している。俺自身あんなやつの下につくなんてごめんだ。

 俺はもう二度と誰の下にもつかない。そう決めている。人間だったころのことをふと思い出して心が沈んでいく。


「テリトリーに入ってきた以上、対処せねばなるまい。いづれ戦う時がくるとは思っていたが予想より早かったな」


 アタナシアは合法風俗街に通されたタルバに向けて、アンデッドたちを仕向けた。あくまで内密に。


――――――――――――――


 危うく亡者と体を重ねかけた俺はベッドで一息ついていた。まだテーブルに置かれていたままの《ブラッドティアーズ》と《アワアイズ》を酒瓶を傾け直接飲んでいく。

 むしゃくしゃしていると酒が欲しくなる。赤ワインも白ワインももはや味とかどうでもいい。最初飲んだ時と違って何も効果が出ない。魔人の肉体適応能力高すぎない?


 もしアンデッドとスケベなことをしてしまったらある意味では神秘的かもしれないなとすら思い始めていた。生者と亡者が生命創出の営みを行うんだぞ?結果は何も生まれないのだけれど。

 陰と陽の交わりみたいな言い方をすれば中々スマートかもしれない。残念ながら交わる前に天に召されてしまったわけだが。


「創造神様も早めに教えてくれても良かったんだけどなぁ~それにしても《ウォラキアの指輪》でなんで確認できなかったんだろうな~」


 逃げるでもなくだらだらと酒を飲んで呑気に自分を見つめなおす。アンデッドだったから殺してしまったことへの罪悪感は無くなっていた。

 創造神様はあまり俺自身に与えている加護や使命、権能について教えてくれない。好きなようにやれば自ずと望んだようになるらしいけど、俺視点ではさっぱりだ。

 加護が俺を意図的に弱くする力というのはわかっている。使命は不明。権能は《ウォラキアの指輪》で光の力で出来ることも調べてあるけど、攻撃能力無いからなぁ。


 明らかに加護が原因なんだが、創造神様が俺に与えたということは使命に関係するのかもしれない。そうなんとか不満を飲み込もうとした。


「それにしたってさぁ…強さで前面に押し出してどや顔しながら颯爽と登場してみたいもんだ。ドーンと一発威嚇攻撃挟んで威圧してビビらせたいよな~」


 せっかく魔人になったのに俗物的なことしかしていない。やっぱそろそろ世界を変える感じで動き出してみる?でも俺そんな強くないしなぁ。

 小市民的な生活をつつましく送ることがベストという結論に堂々巡りしては行き着く。


 浄化する力が備わってるとは知らなかった。アンデッドに直接触れることで浄化できるならば古の勇者のアンデッドも浄化できるかもしれない。各地に放浪しているというあれだ。

 聖水や浄化魔法を使わなければアンデッドは浄化できない。でも俺一人で、しかも触れるだけで浄化できるならば無類の強さを誇る。

 アンデッドを浄化して回る聖人として各地を放浪してみるのも悪くないだろう。


 俺の知り合いが多いセントラム大陸に行かなければ身バレの心配もない。身分証はないけれど権能で侵入は楽だ。

 アンデッドが多発している地域で崇められ、自分のテリトリーを持つのもありだ。廃城は拠点として悪くないがテリトリーとして城だけでベルルム王国がある島を統治しているわけじゃないんだ。


 それに廃城は空間魔法が施されているようだし、カナンはべつとして、俺や配下の三人以外には開けることは出来ないはず。

 だったら拠点を放置しても問題ないとすら思える。あの廃城設備としてはいいんだけど、自由が無いんだよ。一軒家買ったけど、家族に全て使われてて自分の部屋すらないみたいな肩身の狭い父親みたいになってるからな。


 旅したくなるな。城という帰る場所があるのはもちろんいいことだけど、せっかく魔人になって無茶な戦闘も旅行も出来る。金はないけど魔人に勝てる人間もそういない。

 逃げに徹すれば余裕で撒ける。カナンという最期の切り札もいるからセーフティは万全だ。


 おっぱいを追っかけてこんなところに来たらくそみたいな目にあってるし、下心を前面に押し出すとダメみたいだ。ここは世界温泉旅をして温泉紀行でも執筆しようかな。

 世界中の温泉地や銭湯の情報を纏めた銭湯列伝とかさ。俺はあったら絶対買ってた。


 怪しげな赤ワインと白ワインを飲み干して勢いよく立ち上がったタルバの目は未来を見ていた。ポケットに使わなかった瓶を忍ばせてタルバはそっと部屋から出ていった。


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