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へっぽこ魔人生  作者: 岸辺濫瀟
第6章

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8.無念

 ち〇この自然治癒に数分を要した。幸いにも魔人の再生能力とは目覚ましいものがあり、皮で防御されていない部分についた擦り傷たちはみるみるうちに復元した。

 復元している最中から徐々に血が漲り、今では立派に天を貫く意思を感じさせながら凛としてそこにある。


 俺は閃いてしまった。服が脱げるのであれば、体に付着した水滴も粒子化で落とせるのではないか。この権能はまだまだ未解明な事も多い。トライアンドエラーも少し楽しみではある。


 思い立ったが吉日ということでさっそく脱衣所で粒子化を試みる。体全体を光の粒子に変えて数歩先に粒子の状態で移動する。すると見事に水滴が雨粒のように床に落下した。

 実験は成功だ。これで体に付着したものが有害であった場合でも粒子化で逃げられるわけだ。それは拘束具も例外ではない。


 魔人を捕らえられる道具があっても権能が無効化されない限りは逃げることは出来る。退路を常に確保できるというのは強みだ。

 まさかスケベな目的で別大陸まで来たお土産に権能の利用法を思いつくとは……可能性しかないな。やはり俺は創造神様に見出されただけはあるのかもな。創造力はピカイチだ。


 タオルを腰に巻き、いつでも出撃可能な準備は出来ている。脱衣所から股間にテントを張りながらも威風堂々をモットーに部屋を歩く。

 ベッドに腰かけるファラを見ると、少し髪が濡れていた。もしかして嬢は別の場所で客と同じタイミングで清潔にするのか?湯上りのようでこれは良い。ほんのり肌が赤いのもセクシーさを引き立たせるポイントだ。


 胸元と臀部を隠すようにバスタオルを巻き、長い髪を耳にかけて上気した耳元はかわいらしさを演出する。髪で遮られない美しい首元、うなじは扇情的で心のファンファーレが鳴りやまない。

 鎮まれ心臓よ。ちょっと股間に血を送り過ぎではないか。さっきから股間を支柱としたピラミッドが出来上がってしまっているではないか。そう、ここは紳士的にスタートを切らねばなるまいて。

 武人として静まり返った水面のような平静を取り繕わねばな。例え虚勢でも。


 魔人の肉体の制御をしながら楽しむという高度なことをするのだから、快楽に欲望に負けてはならない。俺はおっぱいに抗うぞ。


「じゃぁ……さっそく……」


 俺はここ数カ月求めていた女体の魅力に対する希望と肉体制御を誤れば殺めてしまうという緊張感を抱きながら両手をワキワキさせてファラの両胸に手を伸ばした。

 少しずつ近づく手と胸の距離。近づくにつれてファラはタオルを取り払った。ここが俺の目で見たクライマックスだ。

 ついつい手の感触を鋭敏に感じ取りたくて目を瞑った。俺の触覚は冴えわたり、手に吸いつくような形、重量感に歓喜した。


 シュー…シュー…シュー…。


 手に触れた。ファーストインプレッションはこの世に生まれて良かったという人生への感謝。素晴らしい女体との出会いに乾杯したい。

 少しずつ指を動かしてその柔らかき果実を堪能しようとする。


「うぅ……うぅうぅうううぅぅぅう……」


 ファラの身悶えするような声が耳を刺激してより俺を高ぶらせる。なんと良い反応何だろうか。触覚でも聴覚でも楽しめるとは――パラダイスだ。

 残るは味覚、視覚、嗅覚か。味覚は無理だとしても視覚と嗅覚はいけるか。


 シュー…シュー…シュー…ボロッ――。


 目を開けるだけでも胸の高鳴りが凄いな。心臓がはち切れそうな気がする。臨死体験をしたかのように心臓がバクバクと警告しているみたいだ。そんなに俺は興奮しているのか?

 案外脳みそは冷静なんだがなぁ。さて手の感覚でも楽しんだし、そろそろ視覚でも楽しむか。いざ、エロ可愛い女性の御姿拝見だ。


 俺は目を開けると――そこにはベッドに仰向けで倒れ込むファラと俺の手中におっぱいがあった。

 意味がわからんのだが。ファラは事切れるようにしてベッドに倒れている。彼女は胸が抉れたようにボロボロになり、その付いているはずの胸は俺の手の中にあった。


(やばい!つい力加減をミスっちまったか!?くそ!)


 脳内を緊急事態宣言が駆け巡る。手とファラの胸元から煙が立ち上っているが、俺の内心はそれどころではなかった。俺は確かに力を制御している。

 現に指先を少しだけ、ほんの数センチだけ動かしただけだ。握り潰したわけでも、抉ろうとしたわけでもない。


 しかし、現実にファラは胸を削り取られて絶命している。胸元は煙が焚火台のようにくゆらせている。

 さらに俺の手元にはさっきまでおっぱいだったものが、徐々にそのサイズを小さくして消えかけていた。まるで溶けるように。


 (おいおいおいおい。どうなってんだよこれは!聞いてねぇぞ!おっぱい触ると呪いでもあったのか!?)


 事態をどうしても飲み込めないタルバ。衝撃のあまり股間は縮こまっていた。気づいたときにはおっぱいだったものは欠片しか無くなった。グッバイ、おっぱい。


 俺が右往左往している間におっぱいだったものは雲散霧消してしまった。ファラの胸元は抉られたかのようになっているが、よく見ると炎で焼かれたような焦げ跡がある。

 先ほどまではフローラルな素晴らしくいいにおいだったのに、今や生ごみが腐ったような腐乱臭がベッドから部屋中に蔓延している。


「おい、ファラ……嘘だよな?まだお触りしただけじゃないか。力加減は間違えていなかったじゃないか。まだまだ夜はこれからじゃないか!どうして……誰がこんなことを――」


 言わずもがな自分しかいないがそれでも現実から目を背けたいものだ。おっぱい触ったら人が死にましたなんてあると思うか?死因はこの惨状を一目見ればよくわかるけど。

 おっぱい殺人事件……俺はただ――おっぱいが触りたかっただけなのに!!


「くそっ、何がどうなってるんだ?というか何で死んだんだよ。しかも本当に脈も無い……」


 大の字で胸部を抉られた死体はただそこに存在する。そして犯人は俺しかいないだろう。となれば俺はここでもお尋ね者になってしまう。

 それでいいのか?でも俺は何で死んだのかわからないんだ。魔法や身体能力で攻撃したわけじゃないんだ。俺の脳内はこの不可解な現象を解き明かそうと必死だ。


「とりあえず、目だけは閉じてあげるか、せめてもの配慮だ。まぁどうするかは別だが」


 俺は手でファラの見開いたままの目を閉じようとそっと触った。顔を縦にスワイプしたとき、俺は不自然な音に気づいた。


 シュー…シュー…。


 俺はなんだか嫌な予感がした。予感というよりも確信に近かった。俺はゆっくりと手を離すと、顔が焼け爛れた死体になっていた。


「うっそだろ……」


 何が原因なんだ?俺か?俺なのか?

 もしかして魔人が人間の素肌に触れると拒絶反応が起こるとか?でも三竦み戦争の時はなんともなかったはずだ。それに三人娘も火傷を負った覚えはない。


 ただでさえ足りない学の浅薄さ如実に現れてしまう。困ったときに頼れるのは自分だけというが、それは今まで培った経験や知識も込みだ。そういった意味では冒険者としての実地・実践経験はあっても知識的なものは俺にはなかった。


(やってしまったようですね……タルバ……)


「そっその声は創造神様!どうなってるんですか!女の子がおっぱいもげて死んでしまいましたよ!」


(見ていましたよ、最初から。その者が死んだあるい成仏したのは当然の摂理なのですよ)


「どういうことですか?彼女は人間でした。現に体温も肌の柔らかさも人間そのものでしたよ」


(私の与えた権能は光に由来するものです。あなた方の概念では光、太陽、雷など別のものとして捕らえているようですが。それら全ての効果を含有しているということです。残念ながらあなたは加護の影響で本来の力を発揮できませんが、どうやら本来の力の一端が漏れ出てしまったようですね。その前に彼女がどういった存在だったのかも教えなければならないようですが)


 創造神様はなんで今更出てきたんだとも思ったが、なぜファラが死んだか教えてくれた。名探偵創造神様によるおっぱい殺人事件の謎解きが幕を開けた。神様が全容知らなかったらそれはそれで困るけど。


(まず彼女は死神の魔人によるアンデッドでした。ただ魔人の権能によって人間素材として生きた状態でアンデッドにされたせいで自立思考可能なアンデッドでした。そして権能の影響で人間と同様に体温や五感を所有していたのです)


(そして死んだ理由としてあなたの権能に由来します。タルバ、あなたが素肌で彼女に初めて触れたのが先ほどが初めてだった。だから浄化されてしまったのです。)


「浄化!?俺は浄化魔法は使えませんよ?」


(浄化魔法と呼ぶものは私の力の一端を無理矢理魔力で補って再現している代物です。故に、あなたは権能として所持し常に身体を身にまとっているようなものです。イメージとしてはあなた自身が浄化の光であり、光量を上げればアンデッドは皆消滅します)


「誰も攻撃できないと思ってた権能がまさかアンデッドキラーだったとは……」


(基本的にただのアンデッドはあなたに触れることは出来ません。ただ魔人の権能が強力にかかっているアンデッドなどは別です。そんなわけで彼女を殺したのはあなたになりますね。次から次へと人に不幸を運ぶ姿に私は悲しくなってますよ。それにこんなとこではなく、カナンに突撃すればよかったではありませんか)


 創造神様は空から見てるだけだから心なしか楽しそうに俺を揶揄ってくる。カナンに突撃だと?それは自爆特攻というのだ。それに疫病神みたいなことを言わないでほしい。そんな神様いないっぽいけどさ。

 殺したとは人聞きの悪い言い方だな。結果論だがアンデッドを浄化して昇天させてあげたのだから、賞賛されてもいいのでは?


(それに自我がある、と言いましたよね?普通のアンデッドは自我がなく地上に縛られる苦痛があり、浄化が肯定的に捉えられるのです。今回は自我があるので真逆ですね。むしろアンデッドにはなっているけれど、人間らしさを損なわずに生活していた女性を問答無用でいきなり浄化したのですから、殺したというのは適した表現です)


 今日の創造神様は辛辣だな。この前お遣いとしてスライムを退治したのだから、優しさがほしい。


(あなたがこのような場所に下心満載で赴いていなければ優しかったかもしれませんね。あなたがここへ向かう道中を見ていましたが、それはそれは滑稽な顔でありえないほど鼻の下が物理的に伸びていたではありませんか)


 鼻の下が物理的に伸びるわけないじゃないですか。肉体変化で意図的に変化させないと無理ですよ。


(魔人の肉体というのは柔軟に出来ているのですよ。人間なら肉体的限界で一定の長さで止まることでも、肉体制御の甘いあなたでは伸び続けてしまうこともあるのです。自分の身体的特性を把握していないあなたが、完璧に制御できるわけないじゃないですか)


 これは新たなお説教フェーズか?創造神様も見てたなら早く止めればいいじゃないですか。ここに来るのがダメならダメと言えば俺だってここに来ないですよ?


(来るのがダメなのではないですよ。欲望というものは誰にでもあるものです。それを満たそうとすることは至極当然のことでしょう。ただみっともない姿を晒すことは別件だと言っているのです)


 えー、大変申し訳ございませんでした。以後、気をつけさせていただきます。俺は心の中でそう唱えるとベッドに正座して土下座をしておいた。謝罪のスタイルは異世界ではこれが最上級らしい。

 仕事でミスをしても土下座というこの謝罪スタイルを貫けばかなり留飲を抑えられるそうだ。このポーズは魔法でもなんでもないんだが、凄い効果だ。流石異世界。お菓子もあれば完璧だった。


(ここからは見ないであげますから、好きにしていいですよ。みっともない姿だけは禁止ですが)


 創造神様の声はこの後しなくなった。本当にどこかへ行ってしまったみたいだ。さてさて、ファラだった人型死体の処分を開始するとしますか。

 逃走は粒子化で万事OKだ。死体の処分だが、おっぱいが消失したことから触り続ければ肉片一つ残らず消し去れる可能性が高い。それにアンデッドの街なら俺は無双できるじゃないか。


 闘争意欲よりも逃走意欲が勝る辺りバトルジャンキーにはまだなっていないようだ。こんなところで活躍したところで嬉しくない。それに死神の魔人のテリトリーに入ってしまっているみたいだし。

 アンデッドの1人や2人いなくなっても仕方ないとか割り切ってくれないかな。いや、まだ俺が来てることってばれていないのかもしれない。


 そう思うと心が軽やかになった。さっさと死体を御触りして隠滅しながらとんずらしよう。手だけだと消えるペースが悪いから全裸で抱きついてみる。

 死体抱き枕は発煙しながら縮小していき、俺の皮膚に触れていないへそらへんやふくらはぎなどが残った。それも両手で持ってささっと消していく。マグマになったかのような錯覚を得た俺は服を着て心を落ち着かせていた。


 よくよく考えればあのまま行けばアンデッドとHすることになったのか。人間の五感のうち必要な部分を付与していたみたいだから気づかなかっただろうな。

 自我もあった、少しだけ会話もした、そんな相手を事故とはいえ人生を終わらせてしまったのか。行き着く先は変わらなかったけれど、後味が悪い。


 死体があったベッドの場所をさすっていると、妙に心臓の音を感じる。圧縮した空気を撃ちだしたような衝撃を放つ心臓は何かを訴えかけるように鼓動を続ける。血の巡りが良くなったからだろうか。

 目に力が入り、自分の意思よりも見開いている。そして何より全身が逆立つようにピリピリとしたしびれが俺を取り巻いていた。

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