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へっぽこ魔人生  作者: 岸辺濫瀟
第6章

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7.前準備

 お店を案内しながら彼女は軽く自己紹介をした。茶髪の彼女の名前はファラといい、リバティ生まれリバティ育ちの生粋のリバティ娘だった。

 腕を引かれたまま店に入ると、一階は暖炉のある普通の家の様相で、暖炉の前に温まっている老婆がいる。何枚も重ね着をしてもなお寒いのか異様なまでに暖炉に近づいている。ゆりかごのように揺れるイスを前のめりに座りながら、火に直接手を当ててる。


 火傷してもおかしくない距離だが、ファラは気にも留めずに階段をあがっていった。石と木で出来た昔ながら作りで、少し年季が入っている。清掃が行き届いているため建築物としての築年数を感じさせない。通る廊下は要所要所で魔法陣が設置されており、セキュリティも意外と良いようだ。魔法陣は無属性が多いが、水属性も混じっているな。火災発生時の消火用かな?


 通りで見てきた他の店は高級感漂う店舗もあったのだが、ここはどうなんだろうか。そこまで期待できないとは思いつつ、ファラの対応を見るにサービスは丁寧そうだ。

 そういえば他のお店は魔法陣まではパッとみ無かったなぁ。表面上は質感高めでもハリボテだったのかもな。ファラの店は無属性の魔法陣が設置されているから、もし力加減をミスっても大丈夫そうだ。


 2階に上がり幾つか部屋を通り過ぎて、最奥の明らかに高そうな特別仕様の部屋に通された俺は衝撃を受けた。豪奢で調度品が白磁で統一された部屋。風俗店とは思えない純白の空間。天蓋付きのキングサイズのベッド、ジャグジー、シャワールーム、ソファに魔力冷蔵庫やワインセラー、果ては金庫まで完備だ。俺は甘美な楽しみを待っていたんであって、完備された部屋をご用意されても困ってしまう。俺ここでスケベなことすんの?


「お部屋はこちらになります」


「あの~ほんとにここでするの?」


「はい、そうです。今回ご用意できる最高級のお部屋です。グレードが良くて困ることは無いと思いますけど……」


 ファラは良い部屋を案内してくれているし、部屋が思ったよりも良過ぎたからサービスは無理とは言えない。俺は何も指定すらしていないのだから。こういう時ってムードって大事じゃん。

 エロ道具も無いよ?見渡した感じの設備はただのいいホテルなんだが。入る店間違えたかな。


「ひとまず休憩しましょう。お時間はたっぷりありますから。ワインでもお飲みになりますか?」


「じゃあ貰おうかな」


「拘りとかありますか?こちらでご用意しているワインはセントラム大陸、バルガラ大陸どちらでも希少性の高いものです。何でも言ってください」


「こだわりはないから何でもいいよ。時間ってどのくらい?」


「ではとっておきのワインにしますね。私のお店は門番の方が許可した方以外来れないのです。だからお客さんもそう多くないのでお答えとしては数時間というところでしょうか」


 せいぜい1時間~2時間だと思っていた俺は想像以上の時間の長さに驚かされる。これお客さんの回転率悪いだろうから顧客単価で利益を出しているのか?

 もしかするとブラックな店に入っちまったのか?そうなるとまずいな。でも魔人の力もあるわけだしなんとかなるか。お楽しみタイムを過ごしてからでもいいだろう。


「こちらのワイン、《ブラッドティアーズ》というワインになります。特殊な果実を用いた一品で素材の良さを活かすために何度も試行錯誤され完成したとお聞きしています」


「物々しい名前だけどワインの色が赤色に近いからか。こんなサービスして利益出るのか?この瓶1個では店が損してしまうだろう」


「大丈夫なんですよ。この都市の構造として多くの商売人の方とのコネクションがあります。それに短期的な利益の追求ではいつか財政難になってしまいますから」


 笑顔でワインをグラスに注ぐファラ。俺はソファに腰かけて力が抜けている。背もたれに両手を預け、背泳ぎの恰好で粘性の高いスライムのように溶けていた。外では気を張るけれど一度屋内に入ってしまえばもういいだろう。この娘が危害を加えてくるとも思えないし、それに魔人の力で傷つけないことのほうが心配だ。


 ファラから差し出されたグラスを不用心にも一気に飲み干す。特殊な果実を使っていることもあってかぶどうのような酸味は無く、むしろドロッとして喉につっかえるような感覚だ。味としては甘い。けれどそれは果実の甘さではなさそうだ。この味は罰ゲームで飲むような物であって決してワインとは別のジャンルに位置する。


 ワインの色や名前のせいで飲んでからのイメージは生物の血を加工して味付けしたようなワインと呼称するナニカだった。胃に到達したこの液体が消化され始めると俺は汗が止まらなくなってきた。全力疾走をした後のように皮膚の汗腺が開く。毛穴から汗が押し出されてくる。


 体が火照り、視界が少しだけぼやけるが直ぐに元の状態に戻った。何だこの酒は。度数が桁違いに高いか毒物でも入っていないと説明が付かないな。


「これ、なにか入れた?」


「このワインは興奮する作用があるのです。これから致すにはぴったりではないでしょうか。それに外から来た方はお疲れですから。ナニとは申しませんがお疲れで元気がなく楽しめないことも多々ありますので」


 どうやらこのサービスもこの店を楽しむための一環だったようだ。毒物ではなく、疲労回復や滋養強壮に抜群の効果がある素材が使われているご様子。昔から精力がつく食材もあるからな。それを圧縮して加工したものだったら納得の効果だ。でもこれは常人には飲めないのでは?魔人の俺でさえも一瞬もってかれたんだぞ?


「ちょっとこのワインきついな。他に何かある?」


「それでしたら《アワアイズ》というものもありますよ。こちらは白ワインになります。さっぱりとしたお味のものですので先ほどよりは楽しめるかと」


 ファラは俺の返事を聞く前にワインをあけ、新しいグラスに注いでいく。並々と注がれたそれを俺はまた何の疑いもなく口に運んだ。

 喉を貫くような爽快さが食道を通り抜けた後にも残り、劇物を誤飲したような気持ちにさせられる。味は全くわからない。味蕾が絶滅したように呼吸するだけで口腔内が冷たく感じる。

 本当にワインなのか?これは。さっきのも今のも常飲するような代物じゃないぞ。致す前にこんなもん飲んでたら心も股間も萎えてしまう。シナシナだ。


「これは本当にワインなのか?」


「はい。そうお聞きしています。私自身はキャストのため飲むことが出来ませんが、お客様はよくお飲みになりますよ。常連の方ほど特に……」


 これって飲み続けると癖になってやめられなくなるタイプの酒か?中毒性があるといえばあるな。他の飲み物では味わうことのできない感覚ではある。

 酒やタバコみたいにはまってしまうのは避けたいな。ここに来られないとそもそも入手方法がわからないからな。ここにはバルガラ大陸の流通あるから手に入るのであって、俺が手に入れるにはちと骨が折れる。といっても空飛ぶかラキに頼むかだな。


「酒はもういい。シャワーでも浴びてくるとしよう。入る」


 俺は一刻も早く喉元を通過してしまった気色悪いワインの感覚を払拭したくて洗面台へと向かった。最近編み出した技で自分の肉体だけを粒子化し、服を意図的に光の粒子に変化させないことができるようになった。このおかげて風呂に入るときの服を脱ぐという動作がいらない。

 説明するよりもやったほうはやいか。体が一瞬ピカっと光ると足元に衣服が!

 これぞ新時代のイリュージョンだ。俺旅芸人になれるかもな。体に剣が刺さるやつとか本当に種も仕掛けもなしで生きていられるし。


 しいてこの技のデメリットを上げるとするならズボンのベルトが締まったままなので、次着るときに一度外すとかアウターにトップスの袖が入ったままになるとかその程度だ。創造神様の権能の無駄遣いもいいところと思うだろうけど、これ以上に有益な使い方があるなら教えてほしい。


 割と最近編み出した技の中では力作で自信があるんだが。光になれても熱はないから虫眼鏡で太陽光を収束させることもできないんだぞ?俺は歩くランプか何かかな?


 その辺にあった籠に衣服をぶっこみシャワールームに消える。ジャグジーは流石にプレイ用かなと思ったからな。

 備え付けの石鹸を使って体を清めていく。マナーとしては悪いが、シャワーから出るお湯で口をゆすぐ。なんなら少し飲んで食道に滞在する悪しき感触達を流し込もうと試みる。

 普通に流し込んだだけでは消えてくれない烙印のような不快さが残っていたため、仕方なく肉体変化を使用して口を大きく、食道を拡張してシャワーヘッドを口から突っ込み、原因箇所に直でお湯を当てて流していく。

 魔人の体って便利だよな。人間辞めたって散々思ってたけど、シャワーヘッドを直飲みして内臓の変な感覚除去を出来るとはな。可能性の獣だな。

 大分胃に湯が流れて貯水タンクみたいな腹になっているので、軽く腹をぶん殴って胃に入っていた液体全てを吐き出す。


 シャワールームの床には湯と一緒に吐き出されたまじりあうワインが流れていく。なんとなーくぼーっと眺めてみると、ワインが泡だって蒸気に変化していく。決してお湯の温度が高温というわけではない。つまりあのワインは飲んでいい代物じゃなかったようだ。サンキュー肉体。正常なアラートだったんだな。


 さっさとシャワーから出て、部屋の調査が必要かもな。ワインからしてやばいからな。てか、こんな劇物・毒物をワインというのは最早冒涜なのでは?

 ワインに見えるように着色した液体をボトルに詰めただけじゃねぇか。ブドウとか栽培している人に怒られてしまえ。


「いや待てよ、これを常飲している奴らがいるってことは変な作用があるんじゃないか?それにこの店は通りの端だ。人目につかないしうってつけか?」


 立地も真っ黒な奴らには完璧、人目に付かないでいかれたものを出しても口をつけてしまったらもうだめってことか。俺が魔人じゃなかったら今までの連中と同じで仲間入りという算段だったのかもな。

 問題はファラが知っているかどうかだな。これからおっぱいを触る身としてはスケベタイム前か後に聞くかで立場が変わる。パワーでごり押しで突破もできるがな。願わくば時々利用させてもらいたいので荒っぽいことは避けたい。むしろ行きつけの店は作っておきたいまである。


 このシャワータイムだけが決断までの猶予だ。極論決めなきゃいけないことはおっぱいを揉むか、諦めるかだ。俺はスケベな男ではあるが勇気の撤退という選択肢を残していた。俺の脳みそはその決断を下そうとしていた。だがその決断に待ったをかける存在がいた。そう、俺の息子が異議を唱えるがごとく、ムクムクとそそり立ってきた。美しい斜め45°だ。光速で移動すれば逆流れ星として空へと飛び立ちそうな佇まいである。

 それに加えて、俺の心臓が戦略的撤退という考えを過らせた瞬間、お前マジかと言うかのように鼓動が数舜止まっていた。神具でも不整脈みてーなことって起きるんだな。


 これにより、俺の脳、息子、心臓による多数決の結果、俺はおっぱいを揉むことにした。勇気の撤退?意気地なしの間違いじゃないか。大陸を渡り(ちょっと空飛んだだけ)遠路はるばる辿り着いた地で(1時間もかかってない)最高級の歓待を受け(ワインが劇物の時点で怪しいけど)かわいらしい娘が俺のシャワーが終わることを待っているんだぞ?

 この程度の胡散臭さなどどうとでもなるはずだ。流石にそんじょそこらの人間に負ける気がしない。


 俺は止めどなく流れていたシャワーを止め、タオルをがさつに掴むとガシガシと体を拭いていった。ごわごわしたタオルが元気な息子に触れて少し痛かった。魔人になってもち〇こは強くならないんだな。魔人になったから大丈夫かと思って、勢いでゴシゴシしたら血が出てきた。股間から血を滴らせてしまい、もう一度シャワールームへと戻って、床に座ると座禅を組んで自然治癒するのを待ったのだった。


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