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へっぽこ魔人生  作者: 岸辺濫瀟
第6章

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6.街角の翁

 例のごとく創造神様から賜った便利な権能のおかげでぬるっと侵入に成功した俺はひとまず散策を開始した。大抵の風俗店というのはメインストリートにないはずだ。

 だからこそ、どんなところか興味があった。他大陸にまで噂が聞こえる最大の風俗都市と言っても過言ではない場所だ。その都市でどんなものが売られているのかという好奇心はある。


 地域によって特産品は異なるように大陸が違えば気候も当然違うわけだ。この都市は風俗を主産業として据えているわけだが、周囲の国家や都市は違う。主産業が風俗となると当然輸入の割合が高くなるはずだ。結果としてこの都市には周囲の特徴的な産物が集まるのではないかと予想していた。


 行き交う男どもをかき分けて進んでいくが飲食店や雑貨店が多いな。呉服店は数少なく武具防具店に関しては1件も見当たらない。大陸が違えばここまで様相が違うのか。ヒルドやタットルンとは大違いだな。

 ふらっと立ち寄った雑貨店に入ると棚には所狭しと見たことのない紫色やピンク色の液体が封入された瓶が並べられていた。それも中々の金額だ。


 人差し指サイズの瓶が異常な価格で売られている光景は既に異質そのものだ。その異質さを引き立てるように雑貨店の内装は暗くじめじめしたものだった。木製の建物だが壁に小さな穴が見え隠れしている。1階しかないにもかかわらず妙に高い天井と屋内中央付近に唯一の光源として設置されたチカチカ点滅する豆電球が怪しげな雰囲気を作り上げていた。


 メインストリートは大変込み合っているが誰もこの雑貨店には入ってこない。まるでこのお店自体が見えていないかの如く。

 皆が素通りしていく光景を店のドアに付属した小窓からちらりと見やる。そんなとき不意に声をかけられた。


「おや、見ない顔ですね。あなたはどこから来られたのですか」


 人の気配すら感じなかった店内に突如現れたおじいさんがいた。それも俺の目の前に。

 俺は驚いて声を出せずにいた。正直失礼でしかないがただただおじいさんの皺が刻まれた年季を感じさせる顔と目が開いているのかもわからない糸目を見つめるしかなかった。


「すいませんね。最近は特に込み合っておりまして歩くのも四苦八苦したことでしょう」


 流石の俺もずっと黙っているわけにもいかず、吃驚して声が出なかった恥ずかしさをごまかすように強めの咳ばらいを挟んで話し始めた。


「その口ぶりからするに以前はそうでもなかってのでしょうか」


「えぇ。以前は普通の都市でしたよ。市長様の治める独立都市としておりました。しかし昨今は周囲の状況でも変わったのか急に都市に来られる方が増えたのです」


「それはまた不思議なことですね。自分が聞いた話だと特に変わったことがないと思うのですが」


 俺はこの都市の噂は大分前から知っていたし、待機列で聞いた話もまさにドンピシャでその話だった。この都市が路線変更したとも聞き及んでいない。

 世間一般に浸透しているわけではないが、それでも一定の人気を維持しているはずだった。だからそこまで大人気都市というわけでもないと思っていた。

 素朴な疑問を目の前の名も知らないおじいさんに問いかけてみる。


「さぁ……ただ……そうですね。何でも新しいサービスを始めたとかなんとか。私も然程詳しくありませんが、この店の裏口から裏通りに出るとすぐにわかると思いますよ」


 妙に自分が知らないことを強調した老人は裏通りで人気の理由があることを知っているようだ。あくまで知らない体裁を装っている。真っ当というよりはグレーな何かがあるというわけだ。

 上の権力者には悟られたくないが、ばれたときに知らぬ存ぜぬで押し通せるようにと。ここは独立都市だからか貴族社会ともまた異なるようだしそれが通用するのかもな。文化や風習、考え方の違いというものに起因するのかもな。


「裏通りねぇ。それは裏口の方に店出て行けってことかい?」


「いえ、この店の裏口から行かなければならないのですよ。あなたの場合は一般客とは少し趣が異なるようですので」


「俺も一般客の1人なんだが?」


 老人の慧眼では俺はただの客ではないらしい。もしかして魔人であることがばれたのか?いや、人間にわかるほどわかりやすくはないはずだ。ましてや相手はただの一般市民の老人。

 もしかしてこの都市は尻派が作り上げた場所なのか!?それは由々しき事態だ。胸派の俺としてはやはりおっぱいがいい。むしろおっぱいがいいまである。

 胸派は立ち入ってはいけない場所だったとしたらどうして胸派だとばれたのか気になる。どちらにせよもう少し聞いてみるしかない。


「あぁ。この都市での一般客は外界での悪人ですので認識の齟齬が生まれているようですね。あなたはそうじゃないようですから、趣が異なると言ったのです」


「悪人が一般客とはどういうことなんだ?」


「グレーなことも表沙汰に出来ないことも多々あるということです。そしてそっちの道の人間はこの都市に来て遊ぶのではなく、持ち込んだ物で遊ぶのです。そのための場所も時間も先に準備しているのです。あなた様のように自由にとなると範囲があり、知らない人間が好き勝手遊べるというわけでもないのです。だから私がある種の門番となっているわけです」


「俺は合格か?」


「あなた様を評する立場にはおりません。ただ規定に達しているためお通りいただきたいというところです」


 この老人が桃源郷の門番を担っていたそうだ。誰も入ってこないこの店が入り口とはな。魔法で細工をしているのか?

 細い老人が門番と言われても雰囲気がないな。だが思わぬ情報だ。悪人は店で遊ぶのではなく、この都市で外部の目を掻い潜って自分の連れてきた相手と遊ぶと。それがどのくらいの割合なのかでこの先の治安が把握できそうだな。でもほとんど来ないのであれば俺は良心的な店で他の客を気にすることもなく楽しめるわけだ。


 それにこの門番を見つけて規定に達しているかで足きりがあるとは知らなかった。俺はなんで合格なんだろう。規定というものが気になる。

 話しぶりからすると俺を少なくとも悪人じゃないと判断している。それは他の一般客が持ち込むから逆説的に俺がそうではないという二元論になっているのかもしれない。


「あなたが何故門番なんだ?いっちゃ悪いけど屈強なわけでも威圧的なわけでもない。不思議な老人という印象だ」


「ハハハッ。確かにそう見えるでしょうけど、目に見えるものだけが全てではないことをあなたはご存知のはずですよ」


 片目だけ見開いて老獪さを垣間見せる老人に俺は一瞬気圧された。この爺さんは何者なんだろうか。純粋な力というよりは年の功を感じさせるのらりくらりとした対応。それでも締めるところはきちっと締めてくるあたり雰囲気を一変させるこの老人は変な力でも持ってそうだ。


「詮索はお互い辞めとくとしよう。俺は遊びに来て、あなたは俺を通すことにした。それ以上でもそれ以下でもない。そういうことにしよう」


 老人は満足げに頷いて俺を店の奥へと案内する。店内に配置されているピンク色の液体瓶を数本手に取りながら奥へと進む。俺は購入予定はないのだが押し売りかな?

 裏口のドア前で老人は立ち止まると、先ほど手に取ったピンク色の怪しげな液体瓶を俺に握らせた。


「購入する気はないのだが」


「いえ、遊ぶにはどのみち必要になります。それに通る方には無条件でお渡ししているのですよ。不合格な方は購入しても通れないのですけどね」


 この瓶は通行証か遊ぶための道具のようだ。3本の瓶が意味するところはなんだろうか。3店まで梯子OKとかか?3店で足りるのだろうか。魔人の本気の精力はいかほどになっているのか、自分で自分がわからない。

 でもまぁ、股間を振りかざして遊ぶだけだと思えば細かいことも直ぐに脳みそから抜け出ていった。何と言ってもこの先に楽園があるのだ。こんなところで二の足を踏んでいる場合ではない。


「感謝する。どう使えばいい?」


「相手に渡せばいいのです。なーに潤滑剤みたいなものですよ。働く側も客側も双方のためです」


「そうか。後はよさそうなところに立ち寄るだけでよさそうだな」


「未だかつて体験したことがないお相手があなた様を待っておりますよ。ではいってらっしゃいませ、タルバ様」


 ドアを開くと日が高いはずの時間だが夜中のように薄暗く、右を見ても左を見ても多種多様なHなお店が立ち並んでいた。客引きが片っ端から歩いている男に声をかけては店に誘っている。男たちはまんざらでもないように手を引かれていった。まるで誘蛾灯に集まる蛾だな。こんな意志薄弱な男児では極上の体験をくまなく探すこともできまい。


 俺は彼らのようにはなるまいと心を鋼のように固め、鉄格子を降ろし、南京錠でロックをした。この三重壁の心を破壊できるのであれば仕方あるまい。心だけ固めてもしょうがないので、顔面を岩石のごとく押し固めて見ている。今の俺は渋い面したおっさんだろう。ワイルドさが醸し出せていれば上出来だ。


 俺は客引きの声を無視して常連のごとく大股で堂々と一点を目指す。どこか知らないけど一番端の店まで行って吟味しながら反対端まで行くのだ。俺は誰かかが言っていたというだけのあやふやな情報ではなく自分の目で見て決めたいのだ。男ならきっと共感してくれるだろう。人間の男は連戦出来ない奴なら一発しかない弾でクリティカルヒットを狙うのは至極当然だ。

 不完全燃焼で店を後にするあの何ともいえない微妙な後ろ髪惹かれる気持ちは味わったことがあるやつにしかわかるまい。



 俺を自分の店に引き込もうときわどい恰好の女性たちが手を絡めたり、前を通せんぼしてかわいらしく上目遣いで話しかけてくる。それ以外にも自分のスタイルを駆使して体を押し付けてくる女性から抱きついてくる女性など千差万別だ。これは店のカラーを表していそうだ。見目麗しい花々が妖しい誘いを仕掛けてくる。

 どこからか香る強烈な甘い香りが鼻孔をくすぐるが、その中にどこか生臭い牛乳のような香りが混じることにも気づく。

 風俗街でも酒は提供されている。だからゲロでも吐いているやつがいるようだ。


 あまり手荒に振りほどきたくなかった俺は体を光の粒子に変えてすり抜けていく。女性たちは狐に化かされたように目を見開いて驚き、俺の後姿をつい振り返ってしまっていた。多分俺が同じ立場なら同じように驚いて見てしまうから視線を感じるけれど文句は言えない。


 光の粒子を体に纏ってただ一直線に端を目指した俺は、ついにこの風俗通りの終端に辿り着いた。終端といえどもここから反対に歩くのだからこれが終わりの始まりだ。

 全身に血が漲(みなぎ)り、噴き出しそうなエネルギーを感じながら目指す場所を探して一歩踏み出そうとした。


 その瞬間、不意に腕を引かれて振り返ると他の客引きと比べて少し控えめに俺を引き留める女性が目に入った。散々客引きがいたが特にきわどい恰好でも露出が多いわけでもない。普通の落ち着いたワンピースを着て茶髪の長い髪を1つに纏めている。風俗店で働いているには普通の見た目で、だがこの通りに店があり俺の腕を引く以上はきっとこの娘もそうなんだろう。


「ごめんね。先を急ぐから」


 そう言って有無を言わせずに通り過ぎようとしたが、なんでか権能が発動しない。腕をよく見てみると腕は粒子になり彼女の手をすり抜けていた。だが通り過ぎた刹那のタイミングで俺の腕を掴みなおしていたのだ。

 なんという早業だ……。これは熟練の客引きかもしれない。


「私のお店に来ませんか。他のお店は浮かれたお客さんが多くて集中できませんから。お兄さんは私のお店でゆっくりする方が合っていると思います」


 通りの端だから人通りもほとんどなく、彼女のいう通り緩やかな時間を過ごせるというのはその通りだろうな。でもここで俺の鋼の理性が発動する。ここで本当にいいのだろうか。さっき見た店が良かったんじゃないかと比べてしまう。心に素直になるとエロくて目が泳ぎまくっていた。権能が無ければ俺は最初の店に入っていただろう。


「お客さんが多いのはいいことじゃないか。それに個室だろう?集中できる出来ないはあんまりないんじゃないかな」


「お兄さんは知らないと思いますが、最近あの辺りのお店はお客さんを多く入れるためにレイアウトを変更したのです。そのせいでサービス自体は悪くないのですがお隣さんの声がよく聞こえると評判です」


「それは嫌だなぁ。このお店だと何か違うのかい?」


「他店は2瓶のところを私は1瓶しか貰わない。それに時間も長いですよ。そちらの方が嬉しいのではないですか?」


 安易な客引きではなく、言葉で篭絡するタイプのようだ。よくわかってらっしゃる。それに俺の場合何回戦行うかわからない以上、確かに長いほうがメリットが大きい。

 それにしてもこの瓶が通貨みたいなものなのか。普通の人間なら3瓶も多いと思うが……気にしたら負けだ。


「そうか。じゃあお相手してもらうとするよ」


 俺はあくまで紳士的な振る舞いをしながら伸びる鼻の下を手で覆い隠した。ついでに緩みそうな口元も隠してにやにやを隠す。

 おっぱいはもうすぐそこだ。久方ぶりのお楽しみタイムがやってきそうで心臓は強く脈打っていた。


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