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へっぽこ魔人生  作者: 岸辺濫瀟
第6章

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1.スケベな心は男の原動力

ご無沙汰しております。

第六章は胸を揉みたいというそれだけです。それ以上でもそれ以下でもないです。目標は胸ただそれだけ。

「おっぱいが揉みたい」


 そんなあまりにも単純で欲望に忠実な言葉が心で反芻している。今はまだ堰き止められている欲望の濁流が気を抜いた瞬間流れ出しそうな、そんな今日。


 タルバが魔人のテストを受けてから2ヶ月が経過した。俺の生活はまたしても変化が起きた。

 テストの2週間後にカナンとその従者カエデが押しかけてきて男1女5という生活が始まった。俺としては窮屈極まりない生活だ。


 今もこうして自室のベッドから起き上がり、目元をこすっていると誰かが動いている音がする。俺の部屋のはずなのにな。


「おはようございます。タルバ様。お目覚めはいかがでしょうか?」


 丁寧な口調で話しかけるカナン。もう俺には慣れたことだった。カナンが押しかけてきてからというもの毎朝カナンが俺の部屋にいるのだ。

 かといって夜這いを仕掛けられているわけでもなければ、布団に入り込まれるわけでもない。毎朝起こしに来ているというだけだ。ロマンティックな展開は残念ながら訪れなかった。


「おはよう。今日も早いな」


「いえ、これくらい大したことではありませんので」


 カナンは俺が些細なことでも誉めていると考えているのか、少しだけ口角を上げて微笑むと一礼して退室していった。これが現在の俺の毎朝のルーティンというやつだ。

 まるで貴族がメイドに傅(かしず)かれているように偉そうな朝だろう?でもこれが雇用しているメイドならまだましなんだ。

 相手は破壊神様から権能を頂いている原初の魔人様だぞ?俺に優しいからといっていつ俺が彼女の逆鱗に触れてしまうかわからないじゃないか。


 人だろうが魔人だろうが一線を越えてデリケートなことをずけずけと言ってしまえば怒るのは当たり前だ。

 だから俺はリスクヘッジのためにもこの城内の相手に対して細心の注意を払って接している。というか男が1人しかいないのだから何かあれば女性陣が一致団結して居場所がなくなりかねない。


 お前魔人の王にされる予定なんだし、三人娘とカナンの従者に至っては格でいえば下だろうと思うだろ?実情は違うんだな、これが。

 三人娘は確かに俺の従者なんだけど、俺が関わるべきではないことはちゃんと陳情してくるんだ。論文のように客観的な根拠を元に合理的に説明してくる。だから俺は毎回そうだなと頷くしかないのだ。

 そもそも俺はそこまで賢くないのだから、アウローラはともかく商家出身のラキや数百年を生きるエルフのイリムのような知識・知恵があるタイプには歯が立たないのだ。


 俺が古城の中でも立場が弱いことはわかっていただけただろう。カナンとの力関係は正直微妙だ。

 カナンが俺を魔人の王にしようとしているから俺の下にいるように見えるだけで、実際の戦闘力でいえばカナンに軍配が上がることは確実だ。


 それは過去の歴史、魔人大戦の出来事で魔人を処分していることからもよくわかる。口からのでまかせでも不確かな伝聞でもなく、れっきとした事実が、実績があるのだ。

 カナンが戦っている姿を見たことがないので、想像できないがそれはそれは恐ろしい攻撃力がありそうだよ。


 さて、そんな崖っぷちで自分の立場をなんとか確保しているような俺なんだが、最近困ったことがある。見目麗しい女性たちに囲まれていることもあってか自分の欲望がこみ上げてくるのだ。

 婉曲的な表現でオブラートに包んだが、要するにとってもムラムラするようになっている。毎晩悶々としているのだ。


 いやいや、自分の部屋とか浴場で適当に済ませられるだろうと思うだろうが、それは大きな勘違いだ。

 俺の自室はカナンが入って来れるし、それに紋章が現れてから三人娘も入れる。なんなら恐らくだがカナンの従者カエデも月の紋章を持っていることから立ち入ることが出来るだろう。つまり自室だって誰でも来れてしまうのだ。プライベートが確保されていない。


 次に浴場だが、浴場を掃除するのは三人娘とスライム君だ。三人娘に掃除してもらうのは人としてどうなのかとも思う。それにスライム君に自分の事後の処理をやってもらうなんてそんなことのために来てもらっているわけではない。

 こうゆうときは自分がその立場になって考えることが必要だ。誰でもいいが近しい間柄で家族ではない相手にお楽しみをした後の片づけをしたいか?俺は絶対したくない。自分のブツならば抵抗はないがお金を貰っても気は進まないし何より気分はよくないだろうな。


 今回は自分の主人にあたる。それも将来的にまだ誰もなしえていない魔人の王になる可能性が高い存在。そんな男の情けない姿を見せるわけにもいくまい。俺が王になりたいかはともかくな!

 結論として城内に安全安心なパーソナルスペースは存在しないのだ。悲しいな。


 またカナンや三人娘、カエデに相手してくれなんてあまりにも下世話で気色悪い。男として人間としても最低だ。

 軽蔑に値する。それにそんなことを言う自分が余計に嫌だね。


 カナン達は一旦置いておくとして、三人娘と俺の関係は主従関係であって隷属関係じゃないんだ。そんな欲をぶつける対象ではない。

 ではカエデはというと、カナンの従者にそのよう狼藉はできない。したいとも思わない。

 じゃあ最期にカナンはというともしかしたらカナンは男女関係を仄めかすことを言っていたがこんなこと言う男など幻滅だろう。恋愛対象から外れ、大気圏外へ飛ばされてること確実だ。


 場所や相手がいないこともあるが、忘れられているかもしれないがカナンは俺の気配を正確に把握できるのだ。俺がお楽しみタイムに入ればすぐにばれそうだろ?

 だから俺は浴場でやることなどオリジナル権能技【伝説の鎮】を鍛え上げて少しでも衰えないように涙ぐましい努力を重ねるだけになっている。

 流石に一度見られているわけだから今更知られたところでどうということはないという開き直りが俺の心を支えている。


 まぁ要するに俺は彼女らから少しでも嫌われる要素を排したいだけなんだ。出来れば理想的な魔人でありたい。

 かっこいい戦い方は出来ない俺はいつも成り行き任せで流されてきているところだけど、管理できるところは管理しなくてはな。


 このような結論に辿り着いたからこそ、次のステージにステップアップしようと思うのだ。

 誰だってそうだが、家で出来ないなら出来る場所に行けばいいじゃないか。


 俺はただスケベ心を出してもいいようなところで女性と触れあいたいだけなんだ。


「俺の理性のダムも決壊してしまう前に処理しなければまずい」


 冒険者時代に聞いたとある小国に出向いてみようか。そうなんとなしに思う。

 風俗に行く前の妙な心持のようで心臓が妙に強く脈打つように感じる。緊張でもしているのか?それとも戦前の高鳴りみたいなものか?

 ある意味戦いではあるな。男と女の。


 だがこの戦いはお互いをいたわらなければお互いが不幸になる。よくないのだ。だから俺は創造神様くらい広い心で焦らず確実にことを進めようと思う。

 プロジェクトH、ここに始動だ。


 俺はヤルぞ!ヤル男だぞ。

 性欲を原動力にした男の行動力は異常なまでに精力的だ。別に下ネタじゃないのに下の話をしているときにそれっぽい言葉があると変に想像してしまうのは俺だけなのだろうか。

 そんなどうでもいいことばかりを連想してはだらだらと生活する俺だった。


 まずは情報をリサーチだ。それと三人娘やカナン達の行動パターン、スケジュールを聞きださなければならない。

 俺のやろうとしていることは情けない姿を他所で披露しようとしているようなものだからな。可能な限り最小限の情報しか与えないように心がけねばなるまい。

 女性にとって色狂いの男など嫌だろうからな。あくまでそうゆうところには行ったことがあるが、特別な執着はないように振る舞おう。


 今日明日でどれだけ情報を集めるかが成功の鍵だな。不肖このタルバ、まだ見ぬ桃源郷に向けて全速前進させて頂く所存。推して参る故、覚悟されたし。

 どこの誰に向かって決意しているのかわからないタルバだが、ただ一つ明確なことはただただスケベなことがしたいという1点だけだった。


――――――――――――――


 確固たる決断を神銀の心臓に秘めて俺はベッドから起き上がった。真っ白で清潔なベッドはいつも誰かが俺がいないうちに綺麗に取り換えてくれる。俺は元冒険者だったこともあって正直そこまで清潔にしなくてもとは思うのだがな。どうやら三人娘たちにとっては俺の世話も重要な仕事のようだ。生活環境から王へと近づけられているように感じる。気のせいか?


 禁欲を強いられていること以外は満ち足りた生活だ。自分がやらなくても炊事洗濯や家事全般をやってくれている。俺は用意されているものをただ使うだけ。

 図書室に籠って本を読むこともあればふらっとどこかへ出掛ける日もある。ミッド大山脈に住んで冒険者をほぼ引退していたころと似たような生活だ。


 しかし、だがしかし。当時と比べて楽な生活であることは確かだがやることがない。

 のそのそと1階の浴場に隣接している洗面台で顔を洗い、朝食を食べる。俺が遅く起きることや他の皆がそれぞれやることがあるため、ここ最近は1人で食事を取っている。


 元々はこの城に何もないからこそ様々な生活の準備を整えるために連れ立って行動していただけで今更寂しいとも思わない。朝というのは得意な人もいれば苦手な人もいる。

 冒険者をやっていたくせに今の生活になってからというもの朝に弱くなってしまった。情けない限りだ。


 今日はベーコンエッグだ。トーストもある。この辺の食事はカエデが主導して作成しているらしい。古の勇者の国の食事の中にはお手軽に作成できるものもあるようだ。

 宿の朝食で出されることもあるが、意外と卵は貴重だ。鮮度も大切だが卵を一定期間保存できる環境がある店は少ないからだ。


 魔力冷蔵庫はあるにはあるが、その中身に卵を多めに保存する店は少ない。卵は美味しいけれど卵よりも魔物の肉の方が利益が高いからだ。

 要するに魔力冷蔵庫の空間当たりの利益率を勘案するとどうしても卵の優先度は低い。それに多くの宿は朝食は宿の客からしか利益を出しづらいが、夜ならば町行く人がふらっと寄ることも多い。

 そんな時に肉を使用した満足度の高い食事を提供するほうが調理も簡単で利益も出せる。


 そんな都合もあって卵を提供する店は思いのほか少ない。カエデの故郷日本という国では卵に異常に情熱を注いでいたらしい。

 なんでも世界を見渡しても高い水準の衛生基準が設けられ、生食をできるという。この世界で生食なんてした日にはお腹を壊すか体調を崩すこと請け合いだ。


 卵にだけ執着しているのかと思えば、日本という国では食事全般にこだわりがあるようだ。寿司や刺身といった生食の文化があったことも強い影響があるように思える。

 この世界でも広められるくらいなのだから思い入れがあることは確実か。故郷の味は恋しくなるのかもしれないし、文化水準がこちらの世界よりも遥かに高ければ我慢できないのかもな。


 グラスに注がれたオレンジジュースで睡眠中に失った水分を流し込む。水でもいいが柑橘系のジュースを朝飲むのは爽快感を感じられる。

 窓から部屋に流れ込む陽光が穏やかな温かさを生み出し、二度寝したい渇望がこみ上げる。


 こみ上げる気持ちとは真逆に食道を流れ込む冷たいオレンジジュースは地面に向かうように落ちていく。

 さっぱりしたわ。朝はやっぱこれだな。


 俺の食事が終わるとカエデが俺の食器を片づけに来た。カナンの従者ではあるがこの城にいる以上働くと頑なに譲らなかったのでこうなった。

 日本の人間は皆こんな感じなのか?結構働くのが好きなタイプ?怠惰な俺とは違うかもな。


「カエデ、ちょっといいか?」


「なんでしょうか?」


 丁度食器を持って立ち去ろうとしたカエデを呼び止める。カエデはカナンと同じように俺に接している。だからこそ、何て表現が適切か悩むが友達の友達に何かしてもらっている気まずさがそこはかなくある。


「カナンの姿が見えないけど、何かしているのかい?」


 同格として扱ってくれている以上、俺もそれっぽい振る舞いで話しかける。柄じゃないんだがな。


「カナン様は今日一日は出掛けられるとお聞きしています。用事があるようです」


「そうか、明日も何か予定でもあるのか?」


「明日もお知り合いの方にお会いしに行かれるようです。詳細は私も知らされていないため、カナン様に直接聞いていただく必要がありますが」


 カナンは連日外出か。好都合かもな。強力な感知力を有しているカナンがいなくなれば俺がどこへ行っているのかばれずらい。一番動きがわかりづらい彼女がいないことは大きなアドバンテージだ。


「まぁいい。カエデは同行しなくともいいのか?」


 極々単純な連想のようにしれっとカエデのスケジュールを探る。


「私は本日は同行しないのですが、明日は同行する予定です。そのため明日の朝は朝食を用意した状態で外出予定でございます」


「俺が飯を食い損ねる心配もないと。至れり尽くせりだな」


「従者ですので」


 シンプル応答ではあるものの自分の仕事はきっちりこなしていくのだな。別になかったらそれっぽいものを見繕って食べるだけなんだけどな。

 俺だった一人暮らししていたんだから、魔力冷蔵庫や備蓄庫にある食料でも適当に拝借して食べれるさ。調理は面倒だからやらんが。


「タルバ様は何かご予定でもあるのでしょうか。」


 今度はカエデに俺が質問される。ここは平常心で何も予定がないとでも伝えておくか。あとは急用が出来たとかで外に出ればいいだけだし。

 最近はここぞという時に毎度のこと嘘をついている気がする。信頼を失いそうで何か嫌だな。


「いや、とくにはないな。しいて言うなら運動がてら少し外出するかなぐらいものだ」


 丸ごと嘘をついたわけではない。まだ予定を作成する前段階だからな。まだ未定だ。

 それに外出するのも運動するのも間違いではない。どんな運動かは言えないがな。鼻の下が伸びそうだし。


「そうですか。ラキ、イリム、アウローラもどうやら外出するようです。城の消耗品の購入と修行だそうです」


「そうか。教えてくれてありがとう。じゃあ明日は全員いないのか」


「そうですね。タルバ様には大変申し訳ありませんが、全員不在となってしまいます」


「いやいや、いつもよくしてもらってるからいいさ。俺もどっかにでも出掛けるとするよ」


「承知しました」


 俺が出掛けるといった時カエデの顔が一瞬固まったがそれも即座にいつものすました顔の移り変わる。役者か?よく考えればいつもの無表情とちょっとくぐもった顔しか見たことがない気がする。そのくぐもった顔もカナンが俺の前で軽い失敗をしたときにしか見たことがない。忖度なく表現するのであればカエデは表情の変化に乏しい女性だ。

 ただヘラヘラしているよりは何十倍も良いがな。


 カエデにどこへ行くのか追求されたとしてもまだ決めていないと言えば回避できる。話の流れで自然に発想したと思える展開に話を持っていった。運が来ているのでは?やっぱこれって創造神様の加護かな?世界を作った存在の運は偉大だな。


 俺は堂々とイスから立ち上がり、カエデに背を向けて自室へと向かった。今から下半身が元気でしょうがない。今日の風呂ではきちんとイメトレしておかないとな。人間を辞めたんだからその辺の力を細かく制御する練習だけしておこうかな。魔人よりも肉体的に劣る人間が相手だからな。



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