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へっぽこ魔人生  作者: 岸辺濫瀟
第5章

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15.古の勇者

 創造神様からのお説教は風呂から上がっても続いていた。


(あなたに与えた権能は戦うために与えたのではありません。それならば雷の方を渡していますからね)


「どっちもくれてもよかったんですよ?」


(業突張りですね。与えたところであなたでは持て余してしまいますよ)


「それはわかりません。やってみなければ」


(雷の権能の場合、神を裁くために使用する前提なので神以外の対象には意味がありません。他は早く動けるくらいのものですが特定の物体に引き寄せられることもあるので自由に移動できるわけではないです。そう聞くと光のほうがいいのでは?と思ったのです)


「話の流れ的に戦う場合渡していたという文脈だったのですが、もしかして俺は神様と戦うことになっていたんですか?」


(それならば私が神罰を落とした方が早いですね。そうではないのです。あなたの加護で権能も弱まってしまうのですよ。まさか権能よりも加護のほうが上位互換として扱われるとは…システムのエラーですね)


「俺の加護は呪いかなんかですか?弱くて嬉しいことってないんですけど…今日もそうでした。世界は弱い奴に厳しく強い奴に甘く出来ていると俺は思いますよ」


(それは世界がそうなるように発展しただけのことです。私の意思ではないのですよ。でもタルバの場合、全て都合よく解決策が出来ていることがほとんどでしょう?今日だってあなたが気づいていないだけであなたの持っているものを使えば突破できたじゃありませんか?)


「ぐぬぬ、言い返せない…」


(もっと言えば、あなたが三人の従者を迎えてから新しく得た力の研鑽を行っていれば早期に気づけたことでしょう。神具の効果はざっくり毒浄化、足の早さ向上、血の無限生成ですから。能動的に使用できるのは後ろ2つ。あとはあなたの技との組み合わせ次第ですよね?)


「たしかに…でも神具というわりに大した効果じゃないとしか……」


(おバカさんですね。神具以外でどこにリソースなしで無限に効果を発揮できる道具があるんですか?魔道具よりもポテンシャルはあります。それに毒が効かないだけでもいいことでしょう)


「神具っていいますけど、これ創造神様が作成者じゃないですか。もっとなんかなかったんですか?武器とか防具とか」


(文句ばかりですね。これは古(・)の(・)勇(・)者(・)の(・)希(・)望(・)で作られたものです。それに肺活量の増加までする優れモノですよ?体の弱い人間なら飛び跳ねて喜ぶ代物です)


「あいにくと健康体なので――待ってください。古(・)の(・)勇(・)者(・)の(・)意(・)向(・)で創ったものなんですか!?」


(そうですよ。これは彼の心臓を使って私が作成した神具。この世に残る彼の遺品といっても過言ではないですね)


「どういうことですか!?だって古の勇者は――」


(体(・)を(・)バ(・)ラ(・)バ(・)ラ(・)に(・)切(・)り(・)裂(・)か(・)れ(・)、(・)遺(・)体(・)は(・)ア(・)ン(・)デ(・)ッ(・)ド(・)と(・)し(・)て(・)世(・)界(・)を(・)彷(・)徨(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)――そう言いたいのでしょう?)


「そうです!彼の肉体はアンデッドの材料とされ残らなかったはずです」


(それは真実でありますが、事実とは異なります)


「一体何があったのですか?」


 創造神様が語る世界の真実。真の古の勇者の真実が明かされた。

 古の勇者は確かに魔王を打ち倒した。世界にあらゆる異世界の概念を定着させ、その勇名を轟かせた。


 彼を異世界から呼び出した国に帰還してこちらの世界の妻と生きた。そう伝説として語り継がれている。


 しかし俺の友、ブスカ=ドルが辿り着いた答えはそんな生易しい話ではなかった。


 古の勇者は魔王を打ち倒す。ここまでは同じだ。

 古の勇者は国に帰還するが彼の力を恐れた国々は協力して彼の力を削ぐことを考えた。それほどまでに隔絶した力を持っていた。


 妻を人質にとって彼は幽閉される。彼は素直にしたがって数年は囚人として生活していた。彼の異常なまでに素直な行動を不気味に思った権力者はさらに彼を押さえつけようと考えた。彼が何かを画策していると考えたのだ。


 そして生まれたのが彼の妻だったアンデッドだ。表面上はちゃんと人間に見える。しかし中身は別だ。もう人形としてしか動いていなかった。当時の能力者に死者の記憶を盗み見ることが出来、それを記録する能力をもった人間がいた。他にも他人の声と同一の声を出す能力、アンデッドを操作する死霊使いなどだ。


 もし古の勇者が暴れたときに彼の妻を戦わせる。死霊使いが彼の妻の魂を縛ることで彼女が健やかな死を迎えられなくした。古の勇者は万能だ。魔法も剣も一流。体を鍛え、質素な生活という清貧な男だった。


 古の勇者はもはや権力者には不必要な目の上のたん瘤だった。だからすぐにでも消えてほしかった。彼の妻が生きていれば奪還という策があったのだが、死んでいれば奪還も難しい。なんせ自分の意思で動いてくれないのだから。

 死んでいても魂を縛れば死霊魔法を使えない古の勇者では手も足も出ない。


 こうして古の勇者は密かに処刑された。ただの処刑ではない。彼に妻の魂を解放してほしくば自害することを迫った。彼は死に、各国の権力者たちはあたかも古の勇者とその妻が生存して、有名人だからひっそりと暮らせる場所で幸せにしていると情報を流した。

 それと同時に彼らの死体が見つかっては困る。だから処分を検討した。


 彼の妻は通常の火魔法で焼却して浄化した。彼の妻を操作することに協力した三人は葬られた。あとは古の勇者の死体だけだった。しかしこれが最大級に頭を悩ませた。


 古の勇者の肉体は魔法が通じなかった。例えば火魔法で焼こうとしても表面の色が変わるだけで意味がない。何日も焼いてそれだ。日焼けしたくらいの効果に彼の遺体をどう処分するか検討もつかなかった。


 消滅できないことを悟った権力者たちは誰か判別不可能なほど解体すればよいと考えた。何年も時間をかけて体をバラした。彼の体をばらした人間が処分された死霊使いの弟だった。彼は一矢報いたいと考えていた彼は古の勇者の遺体を使えばいいと思った。


 だからバラしたが捨てさせないように工作を施した。彼の遺体を使ってアンデッドを大量に作ったのだ。それを魔道具を使用して片っ端から世界中に転移させた。古の勇者の遺体を使用したアンデッドは6体。頭、胴体、右手、左手、右足、左手。この6部位を持ったアンデッドが世界を彷徨い続けている。


 そのアンデッドは決して人を襲わないらしい。だが敵対行動を取ると敵対者を瞬時に殺害する。彼らは何かを探している様子とのこと。


 ここまでがブスカ=ドルが辿り着き、俺に託した古の勇者の真実だった。


 ここに創造神様の話では違うのはアンデッドになるところあたりらしい。

 古の勇者の功績は創造神様も認めるものだった。彼の人間性を気に入っていたようだ。だから創造神様の魔人候補にも上がった。


 創造神様は彼に一度接触した。彼は人として生き、人として死にたいと申し出てこれを拒絶。とはいえ、彼の功績を見れば何か与えるべきだと思ったそうだ。


 この時、既に妻を人質に取られていた。彼は妻の奪還は出来ないかと聞いたが、創造神様の立場上直接の介入は出来ないと断らざるを得なかった。ならばと彼は自分の死後、自分の遺体が悪用されないようにしてほしいと願った。


 要するにアンデッドとして人間を襲うようなことが起きてほしくないということだった。アンデッドになることは止められないにしてもそれくらいのことだったらこっそりと叶えてやろうと思った創造神様は能動的に襲うことは出来ないようにしたとのこと。


 そして古の勇者の心臓と魂を込めた神具を作成した。これで6体のアンデッド達は彼の魂によって行動を縛られることになった。神銀の心臓の持ち主は創造神様の管轄下に置かれる前提で。そして今まで彼らアンデッドは攻撃されなければ攻撃をしないというようになった。


 浄化することも検討したが、創造神様としては直接介入になりかねないため、出来ないとのこと。人間たちの手で浄化してほしいが、アンデッドを作成した死霊使いの弟が憎悪と復讐心を込めてしまったこと、時間経過で悪化したことで簡単には行かなくなってしまった。


 なおかつ古の勇者の肉体は魔王を討伐した当時と同様の力を持ち、古の勇者の力の一端を行使可能なため太刀打ちできる人間はごくわずかになってしまっているらしい。


(ここまでが真実であり、私の知る全てです。彼は今でもあなたの心臓として鼓動しているのです)


「古の勇者がいるのですか?俺の心臓に?」


(意思はありません。ただ精神性は影響を与えるでしょうね。もしかしたらあなたの怠惰な部分は彼の勤勉さで打ち消されるかもしれません)


 そう笑いながら告げる創造神様。古の勇者は世界を救った。だが自分が守ったものに殺された。愛情の神と同じ。自分は対象外になってしまったようだ。

 創造神様にとっては優秀な人間だったのだろうが、俺にとっては憧れであり悲しい現実だ。英雄の末路としては惨めでみすぼらしい。悲劇的で救いがない。


 彼は救う側だった。でも彼を救う人はいなかった。救われたい人間は大勢いるが、等しく救える人間はほんの一握り。彼らは救う側であるから救われることはできない。支える側を支える者はいない、そんな役割だなと俺は思ってしまった。


 俺はそこから英雄というものや成り上がることを忌避した。情熱が冷めた。穏やかで安定した暮らし。それがある種の理想に思えた。

 そういえば、俺は戦争を止めたいなんて思うタイプじゃない。もしかしたら三竦み戦争の時、彼が俺の感情に訴えかけていたのかもしれない。


 古の勇者が救った世界で、子供が戦争の道具として扱われている現実に彼の心は蘇ったのかもな。面倒事が嫌いな俺を面倒事に引きずり込むのは辞めてほしいが、今は一心同体。全部は嫌だけど、彼の心に従うのも悪くない気がする。


 彼は死(・)ん(・)で(・)も(・)勇(・)者(・)だった。世を恨むでもなく、祟るでもなく。死後も世界のために戦い続ける勇者。俺はそんな彼の心に触れたような気がして、流石の勇者に俺は敵わないなと思った。


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