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へっぽこ魔人生  作者: 岸辺濫瀟
第5章

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14.お説教

 第三者視点で尋常ならざる態度で帰路についたタルバだったが本人にとっては貧血状態だった。血は無限に生み出され供給されるのだが、魔人の肉体は人間の頃よりも必要な血液が多いようだ。


 どうしても頭に靄がかかったように思考が纏まらない。空を飛行しているだけでもやっとだ。スピードが出ているため正面から吹く風の抵抗力が強烈だ。


 自分を回避していく大気の流れを肌で感じながら血がべったり付着して濡れた服に風が当たり寒い。体温を奪い去っていく風を忌々しく思いながらもこの程度では魔人の肉体に影響はないだろうとシカトを決め込んだ。

 我慢すればいいのだから我慢しようくらいのものだ。


 俺は廃城に到着すると風呂に直行した。血塗れの服を四苦八苦しながら脱ぎ捨て、風呂を入れる。それと並行して脱衣場にあった大きい桶に服をぶち込み、水に浸しておいた。これで多少は血が落ちるだろう。


 体を洗い、隅々までしっかりと汚れを石鹸で落とした。綺麗さっぱり流して風呂に浸かると口から安堵の息が零れる。風呂に入ると疲れが取れるというが、精神的には落ち着くからリラックスできて心労にも効くのかもしれない。


 戦いは短いものだった。1時間もしていないはずだ。創造神様の介入がなければ俺は今頃胴体と頭が切り離されていた。敵の力と連携は高い練度を醸し出していた。

 ただの人間たちではない。そんなこと頭ではわかっていたさ。でも話で聞くことと目で見て感じることは違う。百聞は一見に如かずというやつだ。


 魔人の肉体に追随する身体能力を有している者、魔人のように肉体変化出来る者、赤い結界に黒い靄の呪い。単一で見れば大したことはない。俺でも対処できる強さの敵だった。徒党を組むことで強さを発揮するのは人間という種族の特徴だ。俺は長らく人間をやっていたにも関わらず、失念していたようだ。


 苦戦というよりもあのままいけば惨敗だったな。そう思わせる酷い戦闘だった。魔人たちにも素っ気なく一言で帰ろうとしたのも頭が働いていなかったのもあるが、しょぼい戦闘を見せたように思えて気恥ずかしさがどこかあった。


 恥ずかしい時に口数が多くなるのはそれはそれで恥ずかしいだろ?だから言葉少なにそれっぽく帰ってきた。風呂の淵に背を預け、天上を眺めてごちゃごちゃした思考をリセットする。傷らしい傷は既に完治している。


 大きく攻撃を食らったわけじゃないからな。擦り傷くらいなら魔人の自己治癒力ですぐさま直る。この小さな恩恵も魔人のメリットだな。


 でもさぁ、あれはどうやって突破しろっていうんだよ。とはいえ、オリジナル魔法が出来たのは不幸中の幸いだ。かなり有用だが、狭い範囲に相手を閉じ込める必要がある。以前エルフにやられた結界魔法とかでな。


 使い勝手が悪いのは仕方があるまい。起死回生の一打であり、あの場での最高の攻撃だ。


 ある魔法でデメリットがあるとすれば血の噴き出し方だけだ。目、鼻はまだいいさ。なんかかっこいいから。でも股間と尻から血が捻りだされているとなれば汚くない?結構な勢いで噴出するんだぜ?おかげで俺のパンツは血が直撃していたところに穴が開いてるよ。水圧というか血圧のせいで。

 まぁ尻の方は血圧というよりもケツ圧と言ってもいいのかもな。


 くだらねぇことを思いながら生きて帰れたことに嬉しさがこみ上げる。つい手をグッと握りこむと手のひらに食い込む指の感触がした。


(お楽しみのところで悪いのですが、反省会をしますよ)


 !?


 創造神様の声で呆けた顔を引き締める。脳内に言葉が響くことが最近はびっくりさせられる時だけになっている。なんか予兆が欲しいなと思うわ。


「創造神様ありがとうございました」


(礼には及びません。時間が経てば気づいたことでしょうから)


「ですが、あのヒントのおかげでこうして生還することが出来ました」


(あの場で最も大切なことは私のポエムが世界に解き放たれることです。私の尊厳に関わることですから、お互い利があったと思ってください)


「わかりました。それで反省会とは?」


 俺は反省するところがあったのだろうかと気になった。創造神様はポエムがあくまで俺の脳内にだけ留まり、流布されずに済んだ。俺は窮地を脱して存在感をアピールできた。どこに反省する要素があるのだろうか。


(あなたにはきちんと私の存在がどれだけ影響力を所有しているかについて話さなければならないと感じた。それだけです)


「つまり――どういうことでしょう?」


 戦闘終わりだったため、勘の鈍くなっていた俺は創造神様が言わんとすることを察することはできず、困った顔をしてお茶を濁した。


(いいですか?創造神である私と交信が出来るのはあなたしかおりません。そしてあなたが私の代弁者でもあるわけです)


「それはなんとなくそうではないかとは思っていました」


(つまりですね、あなたが発する私っぽい言葉は全て私の言葉に変換されて聞こえてしまうわけです。そうするとあなたが創造神の魔人と知っている者は記録を残しかねません)


「記録――ですか?」


(そうです。今回のポエムのように私の言葉として未来永劫の残置されるのです。切羽詰まって話したようですが、そんな都合のいい代物があるとは考えないでください。私は無理矢理あなたを生かすことはしません。それは自然の摂理に反します)


 創造神様の反省会という名のお説教は懇々と続いた。


(私が関与したことはなるべく他言無用にしなさい。カナンか三人の従者にだけは伝えてもかまいませんが、それ以外には慎重にしなさい。いいですね?)


「わかりました。ですがなぜその四人はいいのですか?」


(カナンであれば魔人歴も長いですから情報の重要度を区別できます。また高い実力がありますから実力で口を割らされることもないでしょう。三人の従者はあなたの従者として私の力が間接的に供給されています。ですからあの三人に関しては強制的に話すことを禁じることが出来るのです)


「それを俺にも適用すれば良いのではないでしょうか?」


 俺は話を聞いていた素朴に出た疑問をつい口に出してしまう。だってそれで全て解決するし。


(そうはいかないのです。魔人は神から使命を与えられそれを成就させるために存在します。存在意義というものですね。他の魔人は使命が何かを知っていますから、当然それに沿った動きをします。神が魔人を縛るには使命に反した行いなどの違反行為がなければならないのです。そのためあなたを罰することは出来ないのです)


「俺にも使命を教えてもらえればわざと反して罰することが出来るようにいたしますが?」


(それはだめです。罰は罪を問うためのもので、違反を教唆することはこのルールを根底から変えてしまいます。使命を教えてないのは他の魔人たちの行いもあってのことです。あなたのせいではないのですよ)


「他の魔人の行いとはなんですか?」


(なんでも教えてはあなたのためにならない気がしますが、今日はいいでしょう。教えてあげますね。他の魔人たちはこのルールを知っています。つまり彼らは使命のために行動している間は神からの罰を受けないのです。例え魔人大戦のように魔人同士で戦うことになっても)


「!!」


(他の魔人たちは最初に魔人になったときに全てを教えられます。そして理解するのです。使命に沿った行動、或いは間接的に使命のための行動をしていれば何をしてもいいと。結果として現在もよろしくない魔人たちの行いがあります)


「教えなければ良いのではないでしょうか?」


(そう思うのは当然でしょう。ですがことはそう単純ではないのです。あなたは私の魔人だからこそ使命を知らないでよいのですが、世界を監視し安定させるためには彼らの担当領域というものを持ってもらわないと出来ないこともあるのです。例えばイグニストゥス。彼はベゼル王国をテリトリーとしていますが、火に関連したことで何かあれば彼が対処しています)


「だから仕事の時間が決まっていたのか……」


(ヘクターは風、イフィンティブは転移魔法などで歪んだ空間の保全などですね。それぞれ役割があり、他の魔人では代替不可能なのです。使命を伝えないことは出来ません。ルールを伝えないわけにもいかないのは、抑止力としてですね)


「抑止力といっても神様は直接干渉出来ないのではないですか?」


(そうです。そして他の神はあなたと私のように交信は出来ません。好き勝手されて何度も罰するよりは一定以上の行いをさせないよう最初に釘を刺すことになったのです。魔人を作るにしてもそう易々と生み出せるものではありませんからね)


「それで今の現状維持が見過ごされているというわけですか。新しいルールを決めることが出来ないのですか?例えば交信が可能にするとか魔人にだけは神様が干渉できるようにするとか」


(私も考えたのですが、まず初めに今の魔人に対してルール変更を伝える手段がありません。そのための交信を可能にするかなんですが、神には神の思惑があります。それが相反するときもまたあります。神同士の争いになってしまいかねません。ただ干渉していない間は魔人の暴走ということで手打ちにできるのです)



「蜥蜴の尻尾切りみたいなことですか。あくまでも下の者の暴走という体にすれば追及は逃れられますから」


(魔人に神が干渉するという話もなくはなかったのです。ですが、魔人強化を目論む神や魔人と関係を持とうとする神もいましたので全面的に却下しました。神もまた人間と同様に欲はあるのです)


「強化して何がしたかったんですかね。それに魔人と関係って神様なら必要なさそうですが……」


(神にも情欲があるのです。そこまで強くはありませんし、いつも仕事で忙殺して気持ちを押し殺させていますので世界に影響でないようにしていますが。魔人は神と唯一関係性がある立場ですから、その発露の矛先になりかねません。というかなりかけました)


「仕事で忙殺ってそれ創造神様のせいじゃないですかね……人間も死の淵に追い込まれている時は生存本能や種の存続などから子供を作ろうとしたりするらしいですし」



(世界とは神の努力によって成り立っているのです。それは仕方のないことで、効率化は測っているのですが、世界の拡大する速さと私たちが仕事をしながら拡大できる効率化のフレームワークは大きさが異なるのです。残念ながら)


「仕事のフラストレーションと気持ちのはけ口がこっちしかなくなっている感じなんですね」


(そういうことになりますね。魔人を強化しようとした神はただ自分の魔人が弱かったから生きてほしかっただけでした。神は自分の担当する分野で魔人の力も異なります。その神は戦闘には向かない神でした。それに神の中でも新参者でしたので、そこまで力もなかったのです)


「そしてなんとか力になってあげたくて干渉しようとしたということですか…それは悲しいお話ですね」


(いえ、ついでに仕事を減らすため一度世界を滅ぼそうとしていました。魔人を憐れんだのは一瞬だけです。だから神の審判が行われてごたごたしていました)


「少しでも優しい神だと思った俺の気持ちを返してほしい。ゴミくずじゃねぇか」


(関係を持とうとしたのは愛情の神ですね。彼女は世界を愛していますし、愛情という行いがある生物を全て愛しています。ただ彼女の広大な愛を受け止められる相手がいないのです。彼女が愛している者たちは相手がいるのに自分にはいないことが耐えられなかったようで)


「それで関係を持とうとしたと……」


(まぁまずは彼女の愛を受け止められるように洗脳から入ったので真っ当な関係ではありませんがね。精神構造の改革から進めて最終的には相手を神にして世界が続く限り隣に置こうとしたというのが真相ですが)


「ろくでもねぇ愛情の神もいたものですね。本当に愛がどのように育まれているかみたことがあったんです?」


(普通の愛は知っていても彼女の神という立場は例外になってしまうのです。だから普通じゃありえない手段に走ってしまったのですよ。自分が庇護しているものの恩恵を自分は受けられない。そう悟らせるには十分な時間が神にはありますからね)


「神様も人間臭いんですね」


(神が人間に近いのではありませんよ。我々が自由に生活できるようにしたものが人間なのです。私たち神に仕事の選択権すらありませんから。それは私が創ってしまったことで奪ったと言えるのですけどね)


「全部の元凶は創造神様になってしまいますね」


(世界を創るということはそうゆうことなのですよ。生命の創出に知恵の発達で世界が豊かになる反面、私は罪も闇も創出しているのです。光があれば闇があるとはよく言ったものです)


「創造神様って大変ですね。損な役割といいますか」


(何かを行うということはその行いに責任を持つことでもあります。私の場合は世界に対しての責任ですが、人間でもそうでしょう?スケールは違いますが冒険者が依頼を受ければ依頼に対しての責任が生まれます料理人が料理を提供すれば料理に対しての責任を負う、それと何ら変わりませんよ)


「創造神様のスケールは桁違いですよ。人間の仕事と比べてはいけないと思います。創造神様の仕事は世界にとってはありがたいことですから」


(そう言うのはあなたくらいのものでしょう。人間は神がいて当たり前で、祈れば何かしてもらえるとすら思っています。神を尊重し崇拝することはあっても神の仕事に感謝しているとは思えません)


「そうかもしれませんね」


(人間はいいのでしょう。神という縋る相手がいて。では神は何に縋ればいいんでしょうね。そこが人間と神の最大の違いかもしれません)


 人間をどこかうらやむような創造神様は生み出した神様に対する罪悪感を滲ませていた。先の2例は極端な例だったのだろう。

 善良な神に対して仕事で忙殺させてしまっていることに何も思わないわけじゃないようだ。


 創造神様でも心は創造できないし治せないみたいだ。全知全能の神は人間的な悩みを持つ存在でもあった。



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