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へっぽこ魔人生  作者: 岸辺濫瀟
第5章

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11.決戦当日

 あれから月日は流れテスト日当日。決戦の日だ。今日俺は魔人として適格かが判断される。今日まで何もしていなかったわけじゃない。テストのために対策を講じた。


 権能や魔法、魔道具。自分のとれる選択肢を考えて考えて出した結論がもうどうにでもなれだった。


 俺だって考えたよ?自分の得意不得意や魔人としての身体能力、魔法や魔力、魔道具や権能など俺本人の力はそうでもないけど能力×権能といった相乗効果でやるしかないと思ってたわけよ。


 でもさ俺の手持ちってパッとしなくない?ザクスやカナン、師匠みたいに攻撃力が高いとかでもなく、作戦を練る頭もなく、偶然とか運でなんとかしてきたから意図的に偶発的に起こる事象を狙ったところで無理なもんは無理なわけ。


 ってことで考えることを辞めて自分の権能や能力などを1から検証していたここ数日だった。わかったことは検証前と検証後では何も変わらなかった。それだけだ。そもそもの話《ウォラキアの指輪》でわかることが多かったからそれ以上が見つかりそうもなかった。


 徒労に終わった数日間は焦りと緊張で落ち着きがなかった。何度も風呂に入ったり部屋をぐるぐる歩いたり剣の素振りをしてみたりと何かしていないといられなかった。


 それも当日になってしまえば悟りを開いたように放棄できるのだから変な話だ。追い詰められた人間は成り行きに任せて責任感とか心配がなくなってしまうのだ。正常な思考の停止だ。


 うちの三人には魔人として適格であるかのテストが行われること、俺一人での参加でみんなはどこかで観戦という形になることを伝えてある。三人は俺が焦っていることなど露にも思っておらず、俺が活躍する姿を楽しみに待っていた。


 なんだろう、このイベントに対して周囲が期待してるんだけど本人は赤っ恥かくことを知っているみたいなギャップは。嫌な時間が流れることを俺は知っているけど、誰にも言えない息苦しさを感じる。


 今日はイフィンティブが迎えに来るから、彼の力で戦場へと転移する。そしてアステールの出すテストを受けることになる。


 敵は主に普通の兵士と一部の魔人の血を得た人外で構成されているそうだ。人外の数は4人。場所はドーガ側のミッド大山脈近く。昔俺が巨人と死闘という名のサンドバッグにされた思い出深き場所だ。


 当時の俺の胸当てには知らない美しい女性から貰った衝撃を無効化する鉱石がついていたのだが、今では砕け散って効果は減少している。見ず知らずの人間から貰った物をなぜくっつけていたのかと不自然に思う。

 しかし俺はあの時なんの違和感もなくつけた。まるで師匠に貰ったかのように。王都にいたあの女性は誰だったのか。何者だったのか。思い出そうとしても容姿が欠片も思い出せない。


 恐ろしいことに髪が長かったか短かったかや痩せ型か太っていたかも記憶にない。未知との遭遇だ。


 胸当ての効果を過信できない俺は今日が自分の命日だと腹を括っていた。特攻をかける兵士のごとき心境。死に場所は自分の伝説が生まれた地。もう一度奇跡が起きるわけがない。


 自分の使える手札として権能による物理攻撃の無効化、透明化による攪乱、水刃の攻撃力と異臭、権能と能力のコンボで圧殺。大まかにこれが俺が取れる有効手段だ。


 魔人の身体能力と神具《神銀の心臓》の効果で戦場を縦横無尽に駆け回り、的を絞らせないように戦うしかあるまい。


「やぁ~タルバぁ~迎えにきったよぉ~」


 何もない空間からにょきっと出てきたイフィンティブ。彼が出現した場所には紫色のゲートが生み出されている。これがどうやら彼の権能の効果みたいなもののようだ。空間を操る力、便利だなまったく。


「待っていたよ。もうあっちの準備は整っているのか?」


「もぉうバッチぐぅだよぉ~」


「なんだその言い方…まぁいいか。さっそく連れてってくれ」


 そう言った俺の手を取ってイフィンティブは紫色のゲートに俺を導いた。ゲートを抜けた先にはイフィンティブの空間があるのかと思っていたが、今回は現地にそのまま到着した。


「はいっとぉ~ここで始まるまで待っててねぇ~。時期に相手も来るからぁ~」


「誰とも会わない感じか?」


「そうだねぇ~でも皆見てるから大丈夫だよぉ~」


 ふざけた口調で喋るイフィンティブは一瞬で姿がかき消えてしまった。どうやら皆のところに転移したらしい。予兆なく消えるとびっくりするな。


 高みの見物を決め込まれていることに多少の不快感を抱くも、それ以上にもう少しで1人で戦うのだ。冒険者として1人で戦うことには慣れているけれど、あまりにも多勢に無勢だ。

 ただ突っ立っていただけなのだが、ドーガ方面から人間の軍勢が侵攻してきた。人の顔が所狭しと並んで空いている空間はない。俺はミッド大山脈を背に彼らに相対する。

 剣や弓、槍に槌などの武器を装備した兵士たちが綺麗に並び、陣形を整える。彼らは俺と戦うことは知らされているようだが、どんな相手かは流石に知らないみたいだ。


 もし知っているならば重い装備である槌を持ってくるとはならないだろう。また槍も微妙だ。槍は前衛が盾で抑えている隙間を縫って攻撃することで軍対軍の戦いでは有利になる。しかし今回の敵は俺一人だ。


 大勢を相手取ってじわじわ戦う戦争と違い、数の暴力で圧倒できる普通は思うだろう。その点で装備的には対俺というよりも普段のベゼル王国侵攻となんら遜色はない状態で来たのだろう。


 だからといってどこまでも立ちふさがる軍隊相手に有利になるわけじゃないのだが。しかし、よく考えれば敵の魔人の力を貰った人間以外は空を飛べないんじゃないか?そもそも血を得たからといって飛べるわけじゃない。とすれば俺は高所から一方的に攻撃も可能な気がしてきた。


 俺の作戦としては高所に退避。光弾で対象の位置を把握して圧殺。それと同時に【水刃】で殲滅といったところだ。魔法攻撃は出来る限り回避。弓矢などの遠距離武器に対しては光に変わってすり抜けるという寸法だ。


 数を減らして人外を早期に撃破することが鍵を握りそうだ。


 それにしても何が開戦の合図になるのか。俺は知らないんだよな。戦場での一瞬は命取りだ。それは魔人になってからも変わらない。わかりやすい合図でもあるのだろう。そう思っていた時期が俺にもありました。


 開戦の合図は突然だった。俺と帝国軍の間で吹き飛ばされるほどの大爆発が起きた。その瞬間なだれ込む帝国軍と爆風に吹き飛ばされて体制を崩される俺。


(空だ!ひとまず上に上がれば落ち着ける!)


 俺は翼を広げて舞い上がった。しかし赤い壁にぶちあたり5メートルくらいのところでストップをかけられる。


(なんだこれは!?赤い壁か?でもこんなものなかったはずだ……)


 高さ5メートル程度で戦場全てを取り囲む長方形の結界が気づけば完成していた。爆風の砂煙で気づかなかったが、一瞬で結界が構築されていたのだ。空からの攻撃はまずなくなった。


 それでもまだ距離があった。精確にはあった。

 軍隊から飛び出た二つの影が急速に俺に迫る。


 俺は慌てて剣を引き抜き先に攻撃をしかけてきた女性に対して剣を振るう。


「あら、ふせがれちゃった。クィスあとよろしく~」


「もう少し粘れエルーダ」


 あっさりと後ろに下がったエルーダの横からクィスという大男が躍り出てくる。いや、彼は容姿の時点で人間ではなかった。鳥の羽根やタコのような手、トンボの複眼など生物の特徴を各部位に再現したキメラだった。


(ちっくしょうが!これが魔人の血で力を得た帝陣十候かっ!)


 出鼻をくじかれたタルバだったがなんとか初撃は防ぐことが出来た。宙を飛んでいるがクィスという男が常に迫りタコの軟体生物特有のうねるような動きに翻弄される。

 そうこうしていると地上から跳躍したエルーダが一発当てようと接近する。


 体を光に変えてすりぬけると一旦距離を取ろうとした。しかし、体がうまいこと動かない。黒い靄が俺の肩や足の関節に纏わりついていた。


(これも人外の力か、こりゃ可能性も少なくなってくるな。呪いか?)


 俺は務めて冷静に対処することにした。動きづらいが動かないわけじゃない。クィスとエルーダの攻撃は権能ですり抜けられることもわかった。

 ふらふらと距離を取るが彼らに気を取られている間に帝国軍がすぐそこまで迫っていた。


 エルーダとクィスが下がったかと思えば魔法攻撃が飛んでくる。【炎球】や【ウォーターカッター】、【ウィンドカッター】、【ウォーターランス】など遠距離魔法や弓矢が飛来する。弾幕を張っている間に土魔法初級の【ウォール】で土の壁を構築。俺の遠距離攻撃を防ぐ要塞が着々と出来上がりつつあった。


 俺は負けじと光弾を乱発。着弾した者から能力で圧殺することにしたのだったが――能力が発動しなかった。


(やっぱきたか!能力封じ!)


 帝国には能力を封じる魔道具があると聞いていた。それによってドーガが陥落したという。これによって俺は魔法による攻撃以外で彼らに有効打を与えられなくなってしまった。


「水刃起動!射出!」


 俺は【水刃】を即座に起動させ横薙ぎで【ウォーターカッター】のように射出する。常に【水刃】を起動させることで多数の【ウォーターカッター】が飛来。【ウォール】を抉り帝国軍の前衛たちを削っていく。


「そっちばかりをやられると困るな」


「あたしたちのこと忘れてない?」


 帝国軍に注意を向けた途端、下がっていたエルーダとクィスが接近。俺の【水刃】を射出する妨害をしようとちょこまかと動いてくる。相変わらず呪いもあって俺は通常通りの動きが出来なくなってきていた。


(帝国軍を抑えなければすり抜けられない魔法攻撃の雨が降ってくる。かといってこの2人を相手取りながら呪いまでかけられちゃ対処が追いつかない。どうすればいい!?)


 【水刃】は能力が使えないことで圧縮できていないから威力はかなり落ちている。魔法のコントロールが向上したことでなんとか形を維持出来ているが余裕がなくなれば時期に維持は出来なくなる。


 能力は封じられているから当てにはできない。魔法を放つタイミングもない。八方塞がりか。


 空を揺蕩いながらなんとか攻勢を凌ぐタルバだった。


――――――――――――――


 遥か上空でタルバと帝国軍のテストを眺めているアステールは順調にことが運んでいることを喜んでいた。

 ぽっと出の魔人が魔人の王になるなど到底許せることではなかった。


 王とは時間をかけて培われる存在だと考えているアステールはタルバを認めることができなかった。星のように時間をかけて認められる存在が魔人の王にふさわしいと感じていた。


 自分が王になりたいという欲もあった。

 だから今回は帝陣十候という自分の実験体たちを導入して制圧することにしたのだ。


 事前の情報収集でタルバという魔人は確かに光の権能を所有していることは知っていた。創造神様の魔人であることは疑っていなかった。


 しかし、不自然な点が多かった。三竦み戦争でタルバが権能を持ちながら敵の殲滅には使用しなかったのだ。意図があることは明白な戦法だったが、彼は光の巨人になってもめぼしいけが人は出なかったという。


 むしろ先の戦争で股間を潰された者くらいしか彼が明確に意思を持って攻撃した相手はいなかった。


 そこからアステールは考えた。もしかしたら直接的な攻撃を行うことが出来ないのかもしれないと。安直でありえないと最初は一蹴した。荒唐無稽過ぎた。


 だが創造神様の対になる存在は破壊神様だ。攻撃特化のカナンを見ると創造神様の魔人は攻撃能力が著しく低い可能性が脳裏を再度過った。


 そして今、この戦場で証明されようとしていた。創造神様の魔人――タルバ。彼には攻撃系の権能がないと。魔人にしては半端者数名と人間の軍勢に押されすぎている。


 初見で突飛な攻撃をされているとはわかるけれど、魔人であれば権能でどうとでもなる。権能は神の力の一端だ。人間が徒党を組もうと軽々防げる代物ではない。


 タルバは権能を使用しているが、それは回避や防御の手段としてだ。相手に放った光の玉も付着しているだけで意味がない。


(やはりタルバは失敗作だ。手違いで魔人になった。そうに違いない)


 確信めいた気持ちに胸を躍らせるアステール。


 今回アステールが送り込んだ帝陣十候は4名。

 赤い結界を張っているのはギガという男。人間の生贄を殺害するたびに結界の強度や広さをあげられるという力に目覚めた男だ。権能の一端だからこそ権能で逃げることは出来ない。シンプルに権能で破壊すればいいのだが、タルバはそれが出来ないようだった。


 タルバに接近しているのはクィスとエルーダ。クィスは魔人のように肉体変化を出来るようになった半端者だ。ただし食べた生物の一部しか再現できない。例えば鳥を食べても片方の羽根だけというゴミみたいな力だが、相手に予期できない攻撃を与えられるし肉体も強化できるため前衛としては悪くない。


 エルーダは容姿に変化がないが、魔人の肉体能力を一時的に再現できる女だ。高速の動きにも耐えられるようになり体が頑丈になる。ただそれだけだ。本来は能力の俊敏が加わってさらに高速の戦闘を行うが、今回は能力封じありのためそこそこの速さだ。


 最後に黒い靄を纏わりつかせるだけのマルドバール。後衛として魔法で支援しながら呪いを付与している。呪いは悪意を吸い取ることで強化しており、悪意はストックしていると言っていた。このストックがある間は呪いが発動でき、精神攻撃や体に対するデバフなどをかけられるという。


 それに加えて帝国軍がちまちまと削っていた。普通の魔人なら能力が封じられたところであっさりと突破されるのだがタルバは魔人とは思えないほど弱い。


(テストすら突破出来ない魔人なら死んでしまってもかまわないだろう。イグニストゥスやカナンが介入すれば厄介だ。やつらが本気で戦うとなると他の魔人全員が全力で戦ったところで虫けら同然だからな。どうしたものか)


 アステールは自分の帝国側の勝利を確信してほくそ笑んだ。タルバの後始末だけを考えて眼下の戦場を眺めていた。


――――――――――――――


 苦戦を強いられ絶体絶命のタルバ。

 タルバの加護世界はタルバの使命のために意図的にタルバを弱体化させていた。そして創造神様の意向によって世界はタルバに都合よく動いていた。


 それも今日までの話だ。都合よく動かせるのは人間たちのような存在だけであり、魔人のように他の神が干渉している場合はそのようにはならない。


 タルバにとって都合のいい戦況の変化は起きないといえる。


(ジリ貧じゃねぇ…!体も鈍ってきたし避け損ねた攻撃で切り傷も増えてきやがった…死ぬのは時間の問題だな)


 万策尽きたタルバは攻撃を捌きながら脳のキャパシティが限界を迎えそうになっていた。 そんなタルバの脳内に清らかな女(・)性(・)の(・)声(・)が響く。


(万の大河に流れる神水満ち満ち溢れてうねりと化す)


 なんだこの声…いやこの声!創造神様!


 タルバの脳内に語りかけることが出来る存在は能力を発動したイリムか創造神様だけ。そしてイリムはこの戦いに介入できない。となれば創造神様に他ならない。


 でも何を言っているんだ?


(猛る渦潮水界を写し八雲が世界を覆い隠す)


 もしかしてこれは魔法の詠唱!?でも魔法とは思えない言葉たち。ましてや創造神様が唱える言葉。これは俺の権能に関係する力なのか?魔人は神様の遣い。そして下界に干渉するための存在のはず。だったらもしかするか?


(そぞろに降りし村雨の雫開きて蕾と化す)


 創造神様が下界に干渉しようとしているのだとすれば、それは俺の窮地を掬おうとしていることに他ならない。意味不明な言葉の羅列だがそれは創造神様のお言葉。俺が理解できるというほうがおかしな話だ。


(碧水手繰り世を穿て”落花流水”)


 俺は一か八かこれに掛ける!


 創造神様のお言葉が途絶えたことでここまでが詠唱の全てだと判断。

 俺は【水刃】を連続で射出して加速。さらに羽ばたくことで帝国軍やクィスたちから急速に距離を取る。剣の切っ先を大地に向けて両手で柄を持つ。【水刃】を解除して異臭を放つ水を消すと俺は集中して詠唱した。


「万(よろず)の大河(たいが)に流れる神水(じんずい)満ち満ち溢れてうねりと化す」よ


 俺の詠唱が始まると帝国軍は距離を取り、帝陣十候は距離を詰めた。それでも俺の詠唱は止まらない。急速に距離を取った俺を警戒して後ろに下がった帝陣十候の2人はまだかなり距離がある。


「猛(たけ)る渦潮(うずしお)水界を写し八雲が世界を覆い隠す」


 徐々に接近するがもう俺は止まらない。


「そぞろに降りし村雨の雫開きて蕾と化す」


 やはり創造神様は俺を見捨てていなかった。ずっと見ていてくれたのだ。

 ここぞという時、弱い俺を導いてくれる。創造神様に心からの感謝と敬意を捧げよう。


「碧水(へきすい)手繰(たぐ)り世を穿て”落花流水(らっかりゅうすい)”」


 俺の詠唱は完璧に終わった。戦いはここからだ。



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