3.不法侵入者
創造神様との交信が終わると、俺は着替えて敵スライムのことを思い出していた。
創造神様自ら介入を命じた魔物。確かにあのまま放置していれば太刀打ちできない可能性は大いにあった。
俺の権能と能力の組み合わせが非常に強力で相性が良かった。
それに引き換えうちの三人娘たちが攻撃してもダメージはなかった。能力しか効かない魔物だったのかもしれない。
戦闘時間は短かったし、攻撃も数回と結果だけ見れば圧勝。過程を見れば辛勝というものだ。
人間は成果で考えすぎる傾向にあるが、緑のスライムに関しては過程に重きを置くべきだ。今後魔法・物理攻撃が効かないような相手が現れる可能性を考慮しなければならない。
それって強すぎない?って思うが実物がいたんだから悪魔の証明は完了している。
俺が考えた最強の魔物じゃなく、実在した最強の魔物の一体だ。
もちろん、魔人の介入によって人工的に作成された魔物ではあった。だが自然発生ではないことから量産はあり得る。質的には量産は厳しいと思うが、俺よりも遥かに長生きしている魔人が作成したのであれば無理ではない。
どんな方法でかはわからないがな。
とはいえ、俺は戦闘に適していない。能力と権能の組み合わせでなんとか戦えている。この黄金コンボが効かなくなる時が俺の死ぬときかもな。
コンコンッとノック音が部屋に響く。
「主様、先ほど三人とも浴室を使い終わりました。これから城内での業務に戻ります」
イリムは律儀に俺に報告してきた。普通の貴族とか権力者ならば使用人や従者を先に風呂に入れることはしない。そもそも前提として別の物を使わせるのだろうが、その辺は庶民的な心を持ち合わせた俺だ。
気にせず使うようにした結果、こうなった。
「わかった。俺も風呂に入るとするか」
この城の水は一定時間ごとに全て入れ替わるようにしている。風呂の水やお湯作りという点ではイリムもやっている。
性別が俺と三人とは違うので配慮としても入れ替えるようにしている。
自分の実力的に彼女たちに反旗を翻されてはたまったものではないのでな。
下手なことをして刺激しないよう距離感を保って接している。男女の関係にすら発展することはないだろうな。
俺は着替えを持って風呂へと向かう。銭湯が大好きな俺にとって働かずに読書ばかりをして、生活に必要なことも任せっきりで浴槽に浸かれる富豪のような生活に満足だ。
不満としてはいい汗もかかないから以前よりも風呂の気持ちよさは減ってしまった。
いつも通り体を洗い、浴槽に浸かるとおっさんくさい声が漏れる。
「ふぅ~極楽極楽」
タオルを頭に乗っけて浴槽の縁に背中を預け、両手を乗せる。
ボケーっと天上を見つめながら風呂から立ち上る湯気の行方を目で追っていた。
豆知識だが人間は上を向いている時に思考をリセットしやすいみたいだ。
人間の視覚情報を下げることで余計なことを考えないようにするらしい。この前本で読んだ。
さっきの敵スライムに類似した敵を想像してもどうやっても勝てる未来がない。それに頭を悩ませていたわけだが、行き当たりばったりでやってきたんだからまたなんとかなるんじゃないかと思う。
それにしてもスライムの触手攻撃は中々興味深かった。通常のスライムは大きめの漬物石サイズ。体当たりや張り付いての溶解攻撃くらいだ。
触手攻撃は初めてみた。俺もできるんじゃ?というインスピレーションすら湧く。
……試して見るか。
やっぱ男の体で伸びるところと言えば股間だよな。創造神様も基本的に文章で管理しているって言ってたし、プライバシーに配慮してくれてるみたいだから流石に見てないよな。
股間に光を集中させて発光させてみる。
お~これは便利だ。もし全裸になってもセンシティブな場所は輝いて隠せる。
水面で輝く股間。金の斧銀の斧で湖面から女神さまが出てきそうな煌めきだ。
海に反射した太陽光のような眩さもある。発光元が男性の下半身じゃなければいいものだったな。
俺は集めた光を触手のように伸ばしていく。伸びる感覚に関しては手慣れたイメージだ。職人技といえるほど精確かつ繊細にイメージできるのは慣れ親しんだモノから延長させる感覚だからかもしれない。
水面が輝いた後、剣のように真っすぐそそり立つ光の剣。これ先っぽの方を剣の柄に変形させれば面白いかも?
さっそく左右に鍔を伸ばして握り手を少し細めていく。柄頭を丸めれば――伝説の剣の完成だ!。
御伽噺でよくあるやつ。祭壇とか湖面に刺さった伝説の剣があって引き抜けたら次の英雄~みたいなやつ。引き抜かれたら男として生きていけないが、光だから問題はないか。実体ねぇし。
誰かに見せたい気持ちとこの下品な技を生涯心の奥底に閉じ込めたい気持ちがせめぎ合うなぁ。
「技名はつけておくか。でもやっぱ伝説の剣じゃ安直だよな~発光元は股間だし。伝説の鎮とかどうだろう。いつでもいけるみたいな姿にあえて鎮まるを意味する字を宛てるのはセンスあるのでは?」
創造神様や《ウォラキアの指輪》すらも提案できない俺のオリジナル権能技。【伝説の鎮】。披露する時が来るまではお蔵入りかな。
「これをやるには俺が水中で隠れてなきゃならんな。そんな機会はないか」
創造神様から世界で初めて賜った権能で新たに誕生した技が下劣なものだとは創造神様や他の神々ですら予想はできなかった。
伝説の鎮を左右に振ってみたり鞭のようにしならせ、風呂の水面からアーチを描きながら出現させるなど試行錯誤をしたタルバだった。
風呂場で股間を振る姿が滑稽だったことは言うまでもなかった。
――――――――――――――
有意義な修行兼静養を取ることが出来たタルバの着替え中にまた創造神様からの交信があった。
創造神様の交信は俺が上裸じゃないと交信できないのか疑いたくなる。どうせ見てないだろうと思って【伝説の鎮】を発動し、動かしながら会話する。
(タルバ、言いそびれましたがそろそろ魔人の集いが開催されますよ)
「魔人の集い…ですか?」
股間の光を伸縮させ遊びながら創造神様の話に耳を貸す。
(そうです。あなたの体が半魔人から完全な魔人になり、権能を発現したことで資格を満たしたはずです)
「その集いは魔人たちが集まるんですよね?」
(当然です。唯一全ての魔人が一堂に会する場ですね。参加は絶対です)
創造神様の絶対という一言に俺は嫌な気持ちが湧き出てくる。じめっとした粘り気の強い行きたくないという気持ち。
俺が弱すぎて話にならないけど、そもそも魔人は魔王にすら余裕で匹敵する生物だぞ?化け物サミットに放り込まれるアリの気分だ。
伝説の鎮の柄が元気なく萎み、首を垂れる。俺の気持ちを反映しなくてもいいんだが。
「その~お断りは難しいのでしょうか?」
(無理ですね。あなたへの招待状を私に彼女が来ますから)
「彼女?それってだれの――」
俺が創造神様に問い返そうとしたタイミングで城内で俺以外開けられないはずの自室の部屋が開いた。ゆっくりと開かれるドア。硬直する俺。俺を見つめる絶世の美女。咄嗟に前かがみになり、なるべく背中を向ける。
「あなたが新しい魔人?」
ロイヤルブルーの瞳に光り輝いていると錯覚する金髪。腰まで伸ばした美しい髪を靡かせて歩いてくる。俺はその姿に見とれてしまった。
白い肌に華奢な腰、それに対して女性として魅力的で豊かな胸元と臀部。俺の人生で見てきたどの女性よりも美しい。黒いドレスに身を包んだ彼女は静かにたたずんでいる。
それが俺の感想であり、彼女を目の前にした俺の思考の全てだった。
(タルバ、聞かれてますよ?返事をしなくては)
創造神様の言葉に我に返る。この部屋に入って来れること、そして魔人かどうかを聞く時点で十中八九魔人関係だ。
(【伝説の鎮】を見られちまった……終わった俺……)
「そうだけど……あなたは誰だ?」
レイと初めて会った時のように丁寧に問いかける。決して彼女に悪印象を抱いてほしくないとか思ったわけじゃない。断じてない。今から巻き返そうにも第一印象が股間から光を生やした男だ。挽回できない。
「カナン。カナン=アズール。その紋章!!――そう、ならあなたが……」
カナンと名乗った彼女は俺の股間よりも背中に目を向けていた。どうやらドアに背中を向けていたことから【伝説の鎮】を見ていない可能性が出てきた。
何食わぬ顔で【伝説の鎮】を消す。本物もズボンにしまうのだから消すというよりも格納かもしれない。
「カナン……原初の魔人か。そんな大層な魔人様が何用で?」
「これを」
言葉少なに彼女は俺に一通の手紙を手渡した。きちんと蜜蝋で封をされた手紙。手に触れただけでわかる、高いやつだ。
「もっとお話ししたいところですが、あいにくと今は時間がないようです。申し訳ありませんが、お話はまたの機会に。詳細は招待状に記載しているので、必ず参加してくださいね」
彼女はそう言い切るとほ微笑みながら立ち去った。俺しか入れないと思った太陽と月の部屋。もしかして彼女はこの廃城について何か知っているのか?
(だから言ったでしょう。参加拒否は出来ませんと。来ないと彼女が迎えに来ますので。この集いの招待主ですから。行かなければ彼女の逆鱗に触れかねませんよ)
「でもそんなに怖そうじゃありませんでしたが……」
創造神様から盛大なため息が聞こえる。
(はぁ…タルバ、いいですか?彼女が怖くないのは見た目だけです。もしも彼女が怒っている姿や戦闘する姿を見ればそのような態度ではいられませんよ?)
「破壊神の加護を頂いているって話だったとはわかっているのですが」
(彼女の破壊力は純粋に強化された彼女本来の力です。権能は別です。つまり多くの魔人は勘違いしていますが、彼女の恐るべき点は破壊力ではなく権能です)
魔人になることで強化されたポテンシャルだけで地上最強ってえぐくね?権能抜きって俺と真逆じゃん。権能、能力、魔法の総合力で生きてる俺ってもしかしなくても魔人界ではちっぽけ?
(権能を使用しなくても魔人戦争を終結させたのです。ですが、彼女はあなたの敵になることは無いと思いますよ。彼女の待っていた存在があなたなのですから)
「それはどうゆうことですか?」
(単純な話です。他の神は複数の魔人を作成しますが、私や破壊神は別です。そのため加護を先例が自分だけの魔人はあなたとカナンだけです。あとは教えない方がいい方向へ転びそうですね)
「ちょっと待ってください創造神様!あれっ?交信が途絶えた」
創造神様はいきなり交信を途絶させ、意味深に言い残していった。伏線を張るミステリー作家みたいなことをしていくのはやめてほしい。
受け取った手紙を開封してみると開催場所、日時、会場への行き方などが書いてあるが、目的は書いていなかった。
(行って確かめろってことなのか?小心者にはきついイベントだな)
逃げることは出来ないみたいだし、三人娘は魔人ではないことから参加資格はなさそうだ。俺1人で出向くしかない。
事情だけ話しておくか~。
シャツに首を通しながらどう説明したものかと頭を悩ませるタルバだった。
――――――――――――――
「というわけで招待状をもらった」
ざっくりとした説明したら三者三様の驚きを見せてくれた三人。ラキとイリムはそんな集まりがあるとは予想外だったようで言葉を失っている。アウローラはどこが凄いのかわかっていなさそうだが、どっか行くのはわかっているみたいだ。
「主、その会には出席なされるのですが?」
「あぁ。出席は強制みたいだ。拒否権は最初からないらしい」
俺が創造神様にした質問を聞くラキ。そりゃそうだよな。そんないかれた会合に参加したいやつの気が知れない。
「主様、私たちが同伴することはできないのでしょうか?」
イリムからも俺と同じ疑問が出てくる。
「それは無理だろうな。この集いは招待状があることが参加資格みたいだ。俺も完全な魔人に変化したから参加資格を得たと創造神様も仰っていた」
この集いの唯一にして絶対の条件。魔人であること。どこで俺が魔人になったと知ったのか不明だが、どうやら魔人を探す方法があるらしい。カナンが俺を尋ねてきたから確定だ。
「そうですか。それはどうしようもありませんね」
食事の手を止めて質問をしてきたイリムは肩を落として食事を再開した。従者としては参加したい気持ちはあったみたいだ。主人としてはありがたい限りだ。
「タルバ様、いついくの?」
「それが明後日なんだ。急な招待で日時も急で参るよ」
心の準備がーという段階は明日一日しかないわけだ。招待状も原初の魔人がわざわざ渡しに来る豪華仕様。断れば死。四の五のいう前に明後日のために準備が必要だ。
「それは…かなり急な話ですね。もしかしたら何か手違いで主様への招待が遅れたのかもしれませんね。そうでなければわざわざ原初の魔人が届けに来るとは思えません」
「一応忠告しておくと、どこで誰が聞いているかわからない以上、他の魔人には丁重に接するようにな」
「「「わかりました」」」
返事だけはいいんだけど、本当にやってくれるのだろうか。俺の城内でのパワーバランスは割と最下位だからな。別にいいんだけど。
明後日までに光を貯めとかないとな。
いいね、高評価、ブックマーク登録をしていただけると励みになります。
少しでも面白いと感じていただけましたら☆☆☆☆☆を★★★★★に変えていただけると大変うれしいです。




