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へっぽこ魔人生  作者: 岸辺濫瀟
第4章

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ex.イリム

イリムの回想です。

 イリム=ビリャールにとってエルフの里が全てであり、それ以上に大切なものはなかった。里のために生き、里のために死ぬ。里がなければ世界樹の支えになることも叶わない。外界とは出来るだけ接触を断ち、自然と共に生活することこそがアイデンティティでした。


 エルフの役割は世界樹の守護であり、保全です。そのために組織化されたものがエルフの里になります。エルフの里には世界樹の若木が育てられており、世界のどこかに聳え立つ世界樹が枯れてしまった場合のスペアを保管することが私たちの仕事でした。世界中に点在するエルフの里は世界樹のスペアをを各自で育てているため、エルフが滅ぼされ里が焼き払われない限り世界樹が脅かされることはありません。


 エルフの種族としての特性も相まって長年閉鎖的な里で世界樹を守護することだけが生き甲斐の私たちは一つの目的を共有するチームでした。年上年下関係なく責務を全うするために必要な力を蓄える。寿命だけはどの種族よりも持ち合わせているので、時間をかけて力を付けていきます。


 人口だけが長命で子供が出来づらいこともあって少ないですが、それ以外には欠点らしい欠点がないと自負しております。魔法も運動能力も森で生活するため高い水準を維持している。


 私の人生はここで始まりここで終わることを生まれながらにして受け入れていました。エルフの長老であるエスペラール=プリームスに代表される里のエルフたちも同じ生き方しかしてない。


 私には同年代の幼馴染であるインバース=ピリアーとアモル=ラディーレンが運よくいてくれました。狭いコミュニティだからこそ隠し事すらありませんでした。私たちはいつでも一緒で全てを教えあう親友であり同胞でした。魔法の上達速度も同じくらいで差はありませんでした。


 唯一の彼らと私の違いは立場でした。私の叔父の名はピステヴォ=ビリャールと言います。叔父は10年前に獣人と友好を結びなおそうと尽力していました。里の中からはよく思わない者もいましたが、目的である砂漠化進行の阻止は自然と共に生きるエルフの本分でもありましたので反対派されていませんでした。


 叔父のピステヴォはエルフの里の代表として獣人の代表オニロ=フスクムと協力して砂漠化の阻止に向けて行動を始めていました。叔父は砂漠化を止める目途を立てられそうだと嬉しそうに語っていたかつての思い出が蘇ります。


 その数日後に殺害されるとは夢にも思わなかったでしょう。友好の架け橋として活動していた叔父がエルフ・獣人間の軋轢になるなど屈辱だったことでしょう。死後の世界でさぞ悔しい思いをしたことでしょう。私にはなかった行動力と積極性が望んだ方角と真反対に進むことになってしまいました。


 叔父は今どのような気持ちなのでしょうか。推測することでしか気持ちを推し量ることが出来ません。私の両親は50年ほど前から世界樹の若木を保全する役割を担っており、長らく会っていません。きっと叔父が死んだことも私が生贄になったこともまだ知らないはずです。


 一気に娘と叔父をなくすことになるのは申し訳ない気持ちがある。だからといって長年共に過ごしてきた私を潔く切り捨てることに割り切れない葛藤があることも事実です。薄情に感じます。二度と帰らないと思うのは当然ですから、割り切ることは大切です。それは否定しませんが数日で切り替えられる程度の存在だったのかと思うと自分の価値の低さを感じます。


 不運で人生のどん底を経験しましたがタルバ様という主に仕えられることは望外の喜びです。そもそもエルフには身分という上下関係はありません。そのため誰かに仕えるという行為自体知識として知っているだけでした。


 タルバ様が戦争を止めるために被害が最小になる選択肢が私たち三人の誘拐と戦争抑止のためのパフォーマンスを行うことだったと説明されなければ理解などできるわけがありません。


 タルバ様が何故戦争を止めようとしたのか、私にはそのお心の内にどのような感情が秘められているのか推し量ることもできません。私が誰かにお仕えした経験があれば繊細な心の機微を悟ることもできたでしょう。私は力不足に打ちひしがれております。


 私はエルフの里に帰れなくなったことで生き方に迷いました。この城の2階でタルバ様にお世話になって持ち直すことが出来ました。人生相談させて頂きましたが、何度も励ましてくださいました。私やラキ、アウローラをお世話したところで魔人であるタルバ様はメリットもございません。タルバ様は伝説の魔人なのです。戦争もあのような回りくどい方法を選ばなくとも皆殺しにすれば終わります。


 女性が欲しければ奪えばいいのです。文献に残される魔人の存在は人間、エルフ、獣人などの種族では太刀打ちできません。長老のエスペラールは当時を生きたと言われているエルフのため、話を聞くことがありましたが鬼気迫る顔で詰め寄られれば魔人の恐ろしさの一端を垣間見ます。


 行き場のない私は救ってくれた恩人であるタルバ様にお仕えすることを選択しました。それ以外の選択肢は考えられません。感謝の気持ちと何かお力になりたいという気持ちが先行してしまいます。徐々にタルバ様が素敵な方だと気づいてからは思慕の思いも強くなりました。


 下賤な感情が介在せず、命を大切にする姿に聖人かと錯覚したほどです。これは誇張ではありません。それに私たちにまで城の浴場を使用させていただけるなど本来はありえないことです。人間社会では貴族の使用する施設を使用にや配下の者が使用することは論外です。身を清める方法は水浴びで十分ですから。エルフは水浴びが主な手段ですからそれ以上は望んでいませんでした。


 しかしタルバ様は私やラキ、アウローラにも湯船に浸かることを許可してくださいました。私達でも話し合って主様が許可をしていただいたということは私たちに大して何か思うことがあるのかもしれないという結論に達しました。アウローラに匂いを嗅いでもらいましたが臭いというわけではないみたいです。主様に気に入っていただけるように気を配ることも配下として大切だと考えるようにしました。



 本日はなんと汚れを落とす優秀なスライムのスライム君様を招聘してくださいました。先ほどさっそく私たちでお風呂に入りましたが、スライム君様のおかげで髪の美しさや質感が桁違いに向上しました。


 ラキに教わったケアを私も行っていましたが、それでは限界がありました。人間のヘアケア商品を試しましたが少量過ぎます。長髪の私たちでは直ぐに使い切ってしまうことも難点でした。スライム君様にケアしてもらうことはいいものかと思いましたがタルバ様がわざわざお迎えされた方でしたので、遠慮する方が失礼かと思いました。


 スライム君様の素晴らしいお仕事っぷりに感嘆いたしました。世界は広いのですね。ラキもアウローラも大変喜んでいました。タルバ様も私たちが綺麗になることでお喜びになっていただければ幸いです。


 そうそう、タルバ様の配下として眷属になれました。ラキとアウローラと鏡を見てはキャッキャッと喜んでいました。ただラキとアウローラと違って私の耳は尖っているので、2人とは刻まれる位置が異なっていました。

 位置など些事ですが、ちょっと気になってしまいます。気にしすぎでしょうか。


 ただタルバ様の配下としてより一層頑張らなくてはならないと気を引き締めました。


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よければよろしくお願いいたします。

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