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へっぽこ魔人生  作者: 岸辺濫瀟
第4章

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ex.アウローラ

アウローラの回想です。

 タルバ様に出会うまでは集落での生活しか知らなかった。アトカースも集落の皆も祖父オニロによくしてもらったからとあたしを特別扱いしていた。実力があれば族長にもなれるって話も出たくらいだ。


 生まれた時にはまだ自然豊かな環境でも今じゃ砂の大地がどこまでも続いている。どこを歩いても砂が顔に当たる日常が当然になった。水も節約し砂漠の魔物を討伐して食材として活用する生活。エヴェイユと交易もあるにはるが、世情の変化でそれも減少傾向にあった。


 あたしたちの生活は刻一刻と限界が迫っていた。それを食い止めて生き延びるためには戦争が必要だと思われるようになってきた。獣人は強さを尊ぶ傾向があるため強さの証明の手段として戦争を行うことは一つの選択肢として残っていた。


 徹底抗戦とまではいかなくとも戦争をして水資源の掠奪は誰もが同調していた。かくいうあたしも戦争には賛成していた。祖父の敵討ちもあるが、今後の選択肢として得られるものが多いと理解していたからだ。


 毎日魔物と戦いそれでなんとか生活することがあたしの当たり前だった。これ以外に生活を変えられる方法も知らない。今でこそラキやイリムという知恵者に頼れば解決法が見つかるかもしれないと思えるけれど、獣人の集落では見つからなかった。


 憎しみと復讐心があたしの中で胎動し、徐々に膨れ上がることを抑えられなかったのも戦争に振り切った理由の一端だ。同年代の仲間たちが結婚したり子供を作ったりする中であたしだけは戦いと憎悪が全てだった。


 寂しい生き方になってることはわかっても、恋愛も結婚も考えたことはなかった。言い寄られることはあってけれど、祖父のことを考えると雲散霧消した。あたしには両親がいない。あたしが生まれた直後に魔物に殺されたと祖父から聞いていた。だからこそ唯一の肉親が卑劣な手段で殺害されたことに獣人としての誇りと祖父の命を同時に失ったことに怒りが収まらないかった。


 今ではムーソルってやつが裏で色々やっていたと知って如何に人生を棒に振ったのか理解させられた。空虚で思い返すこともない思い出。すっからかんだった。幸せな思い出は大抵祖父との思い出だけだった。祖父が死んで以降の10年の記憶は同じような毎日の繰り返しだ。


 集落の仲間たちからも生贄として役割を全うすることを望まれていたことで自分がなんのために戦ってきたのかわからなくなった。集落のために最前線で魔物を狩って食べ物を確保していた。集落のために水資源を賭けた戦争にも参加し、集落のために出来ることはしてきた。

 あたしが最後に集落のために行ったことは生贄になることだった。それでいて集落での幸福な思い出がないことが空しさを引き立たせる。


 戦場からこの城に連れてこられてから1週間が経過した。今は戦い以外の穏やかな生活に満足している。きっとあのまま戦争を続けていたら得られなかった。戦争が第二第三の憎しみを連鎖させ終わらない戦いが始まりかねない。


 あたしはタルバ様の城でファンタズマの世話をしている。世話といっても装備を脱がせてたわしやスポンジで洗ってあげたりするだけだ。あとは食事管理とかラキとイリムの手伝いが多めだ。スライム君様が来たことで洗うことは減った。それでも食事の調整はあたしの担当だ。ラキとイリムが資材の調達などを今は担当している。あたしの容姿だとばれてしまうため一緒に行けないと言われている。そればっかりはしょうがない。


 ただ魔物を討伐しての食材調達はあたしとイリムの担当だった。ラキの能力で食材として美味しい魔物が住む森や平原に転移して、狩っている。冷蔵庫もあるし氷室も作れば大量の食材を無駄にせず保管できる。氷室ってものはよく知らないけど、イリムが山の頂上で雪も多いからできるはずって言ってた。


 物理攻撃が効かない魔物も時々いたけどイリムが何とかしてくれるから順調だった。ただ森で戦うと木とか地面が凄いことになっちゃうことだけがダメなところみたい。イリムが余裕があるのに全力で戦うことはないと怒るんだ。出来る限り被害を抑えるように戦う工夫をしている。

 手加減って難しい。やりすぎても食べられる部分が傷んでしまうからな。


 ひと汗かいたら城に戻ってお風呂に入るんだ。湯船が広くて100人くらい入れそうな場所なんだ。そこをあたしたちにも使っていいって言ってくれるタルバ様には感謝しなければ。ラキに教えてもらいながらイリムとあたしは髪の手入れと石鹸を使った体を洗うことを教えてもらったり、知らないことばかりだった。


 最初に体を洗うと聞いたとき、布で拭いたりくらいかと思っていた。集落では水は貴重だったから時々しか体を洗わなかったこともあり、ラキとイリムに徹底的に洗われた。タルバ様の配下が体も清潔にできないと思われないためらしい。ごもっともだ。でもあたしにとってはそれが普通なんだけどね。


 それでもタルバ様に迷惑をかけないために、面倒だけどちゃんと体は洗ってる。城にいるだけの日でもお風呂には毎日入っている。入らなくてもいいやと思うんだけど、ラキとイリムが怖い。数日くらい変わらないと思うんだけど、ラキとイリム曰く、体臭に関しては当たり前すぎてアウローラの鼻が意味をなさないって言われちゃった。

 酷い言いようだよね。そこまで言わなくても綺麗にしてるつもりなんだけどな。


 でもスライム君様に髪の毛を洗ってもらってから髪の毛の傷みとか手を通した時の感触が全然違ったから、あたしの当たり前とラキやイリムの当たり前ってそれくらい違うんだろうね。種族も人生も違うあたしたちだけど、そこは話し合ってタルバ様にとってどのような配下がいいのかという基準で擦り合わせをしているから喧嘩もない。


 タルバ様は絶対で、あとの生物はそれ以外だ。タルバ様に恩返しをすること、タルバ様の望みを叶えることがあたしたちの役目だってイリムが言ってた。魔人って人たちはそれだけすごい人たちらしい。集落の族長が一番偉いと思っているあたしからしたら凄すぎて逆によくわからないけど。


 人間の国の王様とか千年近く生きるエルフの長老なんかよりも凄いみたい。そう言われると本当に凄い気がする。


 タルバ様の眷属になったら耳に太陽と雷のシンボルが刻まれてた。鏡で見たときあたしたちは正式な配下になれたとわかってほっとした。タルバ様が渋々配下に加えた感じだったから、受け入れられてないんじゃないかと思ってたけど、こうして形に現れると嬉しい。

 ラキは耳たぶだったけど、あたしとイリムは耳にそのまま刻まれてるから綺麗にシンボルが見えないことが残念なところ。


 ラキがピアスとかイヤリングをつけてる感覚に似ていると言ってたけど、イリムもあたしも耳に装飾品をつけないから感覚がわからない。でもタルバ様を表すシンボルだと思うと見せびらかしたくなる気持ちもある。

 でもラキとイリムと話し合って、不用意に見られることはタルバ様の不利益になるからと外に行くときは隠すようになった。


 面倒なこともあるけど、お城での生活はいい。タルバ様は図書室にばっかりいくけど暇なのかなって思う。でもそんなことはないはずだ。だってラキとイリムがタルバ様は雑事でお手を煩わせてはいけない。タルバ様にはやらなければならないことが多くあるのだからって言ってた。


 本ばっかり読んでるけど、ちゃんとやることもしないとダメだと思う。



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