11.決着
アウローラを部屋から連れ出し、拘束を解く。彼女を抱えて俺がテント生活をしていた場所に降り立った。
「アウローラ、何があっても声を出さないように気をつけろ。何があってもだ」
「わかったぞ。でも声が出ることはないとは思うな!」
アウローラは明るい声で何も起きないと思っている。俺が言ったよく思われていないという言葉も忘れて、仲間たちの元へ戻れることに喜んでいるようだった。
「族長のところに行くぞ。みんなきっとあそこに集まってる!」
ぱっと見集落に誰もいないと思ったが、どうやら獣人たちは族長のところに集まる習慣があるみたいだ。俺が行かなかった中心部の場所に集会所があるようだ。
俺とアウローラは扉のない集会所を入り口付近から眺めるのだった。
「アウローラは……”生贄”になった。魔人という強大な存在に子孫を残せなくなるように攻撃されるところ、”生贄”を要求した。それぞれ”生贄”を差し出し、魔人は去った。また戦争が起これば魔人が襲来するとも言っていた……それが戦場で起きたことだ」
「でも……なんでそんな攻撃が出来るとわかったんだ?族長」
族長と言われた男が今回の戦争に参加していなかった若いサイの獣人の質問に答える。アウローラ曰く、あれが族長のアトカース=フィデスというライオンの獣人のようだ。
「簡単だ。魔人は光の玉を戦場の男たちの股間にくっつけた。ある人間の男がそれをものともせずに魔人に近づくと、その男は発狂しながら股間を抑えて悶絶した。その姿を見て魔人が嘘を言っていないと信じてしまった」
「でもなんでアウローラなんだ?他にも獣人はいる。アウローラだった理由はなんだったんだ?」
「魔人から生贄の条件があった。その中に髪が長くて綺麗なことがある。獣人の中で髪が長く綺麗だったのはアウローラくらいだ。アウローラは遺伝的に髪がサラサラしていたからな」
「そんな理由を出したのか、魔人は」
「そうだ。何に使うのかはわからない。だが人質ではなく生贄と言った。生きている可能性は低いだろう」
「俺たちは……この後どうしていくんだ?井戸の水がなくなったら俺たちはおしまいだ」
フォスターがアトカースに戦争の理由になった水について問いただした。
「エルフや人間が協力してくれることが既に約束されている。あの戦場を去る前に口約束だが協力を取り付けられた。また戦争でも起こそうものなら魔人が来てしまう。魔人は興味本位で戦争にやってきた。今度は何をされるかわからない」
「そうか。人間と……エルフが。でも大丈夫なのか?俺たちは過去に代表者を殺害されているんだ。争いにならないか?」
「それなんだがな、エルフから聞いた話だとエルフの代表者や護衛も殺害され森の前に捨てられていたようだ。真実かはわからないが、きっと第三者が犯人であるという結論に落ち着くだろう」
「アトカース!何を言っているんだ!俺たちはオニロを殺されたんだぞ!」
年配の獣人が激昂してアトカースに詰め寄る。胸倉を掴もうとした腕をアトカース逆に掴む。
「今は!……そんな状況じゃないんだ。過去の憎しみに囚われ未来を潰すことは――族長として出来ない。それでもお前が邪魔をするというならば、俺はお前を殺す」
落ち着いていたのは表面上だけだったようだ。獣人たちを思って我慢し内に秘めていた激情がほんの数舜だけ浮かび上がる。
「お前以外にも言いたいことがある者もいるだろう。ただ今は未来のために我慢するべきだ。若い世代に昔の遺恨を引き継がせ、当事者でもないのに争わせ続けることは果たして良いことなのか?今俺たちにはエルフと人間と協力するという選択肢が、戦争をするまでそんざいしなかった平和な選択肢が生まれたんだ。俺たちが我慢すれば住む話なんだ……!」
アトカースは将来生まれてくる子供たちのことも慮った結果の選択であったと全員に伝えた。
「でもよぉ、アウローラはどうするんだ?魔人の気が変わって帰ってくるんじゃねぇのか?」
「もしアウローラが帰ってきたとして……それは本当にアウローラだとわかるのか?俺は信じられない。魔人の元で何をされたかなんてわからないんだ。姿かたちが同じで記憶を持っていたとして魔人の手先じゃないと――俺は信じられない」
その一言が仲間たちの姿をまた見れたと喜んでいたアウローラを落胆させた。昨日まで仲間として一緒に苦楽を共にした族長が帰ってきても信じないと宣言したことに少なくないダメージを負った。
「族長なんでそんなことを……アウローラはオニロの孫だ!大切な仲間じゃないか!」
先の若いサイの獣人が族長の宣言に反論する。
「仲間だったから――仲間のために疑うんだ。俺たちが明日を生きるために戦争の火種になるアウローラはいないほうが他の種族に対してはいいだろう。生贄になったといえばエルフも留飲を下げるはずだ。それにもしアウローラが魔人の手先になって俺たちの元に帰ってきたことを知ったら魔人はどうする?」
「どうするって……取り返しに……くる……だろう」
「そうだ。生贄が逃げ出すということは魔人がまた来るということだ。そのとき逃亡を幇助したとして俺たちに敵意が向けば皆殺しにされかねない。アウローラが生贄になったことで俺たちは未来をつかめたんだ。もしアウローラが帰ってきてしまえばオニロに世話になった立場として我慢がもうできなくなってしまう。いまが一番なんだ……」
「アウローラはいちゃいけないのか。それが俺たちのため……」
噛みしめるようにその言葉を反芻するサイの獣人やこの場に集められた獣人たち。涙を流している者もいるようにアウローラはとても慕われていたみたいだ。獣人同士の結束の強さを感じる。
族長アトカースのいうことはもっともだ。争いの原因になるアウローラが生贄になったことでエルフの憎んでいるオニロの孫が死んだことになる。それで憎しみを抑えられるかもしれない。それはこちら側も同じだった。アウローラという復讐を想起させる象徴の喪失はアウローラのためという動機がなくなるのだ。あとは年配世代が我慢するだけで復讐は起きなくなる。
獣人たちにとってアウローラの存在こそがエルフとの戦う理由になっていたのだ。生きる争いの元凶と言われたアウローラは気を失ってしまった。
(おっと、ラキやイリムと違ってアウローラは感受性が強いのだろうな。まさか身近な存在に手のひらを返され拒絶されるとは思ってもみなかったのだろう)
獣人たちの議論は今だ続けられている。俺は長居する必要もなくなったので気絶したアウローラを抱えて廃城に戻った。
――――――――――――――
帰還する途中にアウローラは目を覚まし、呆然としていた。帰還中は一言もしゃべらず、ただ下を向いていた。
アウローラを部屋に戻してラキやイリムと同様に自害しないように注意する。
「アウローラ、自殺だけはだめだ。おとなしくしているんだ」
アウローラを拘束して猿ぐつわを噛ませる。イスに放置して一旦退室した。
現在の3人は不安定な状態だ。自分で見せといてなんだが、ここまでボコボコに言われているとは思わなかった。三人とも似たようなこと言われてたし。今の状態では馬鹿なことを考えてしまうかもしれない。ここはどこかの部屋に押し込んで監視しないとならないのでは?
(帰りたいという意思を潰すために見せたのだが、ここまでショックが強すぎた。2階を掃除して修理して何とか生活させるか?それともテントで寝てもらうかだ)
タルバは勢いで廃城まで連れてきたがここに生活できる環境はない。だって昨夜見つけたばかりなのだ。何も整っていない。2階に至ってはボロボロだ。1階にベッドはない以上生活をするためには2階の整備が必要だ。
3人を放っておいて俺は2階の清掃を始めた。部屋によっては壁に穴が開いてない場所もいくつかあった。その部屋に絞って清掃作業を行う。窓を開けて布団の埃を外に出していく。壊れた廃材を部屋の外に出して綺麗にしていく。調度品を拭くためにタオルを水で濡らした。
壁紙を壁側に『圧縮』して張り付ける。一通り清掃を終え、同じ作業をあと二部屋行う。
やる手順が決まれば後は早かった。効率よく最低限の状態を整えて3人の部屋を確保した。
「はぁ……結構疲れたな~しっかしこの城、なんのための城なんだろうな。魔法陣が刻まれた部屋に2階だけ荒らされたなんて疑問が尽きない」
この廃城の設備を鑑みると過去に相当偉い存在が建てさせたはずだ。門が触れただけで開くのもそうだが、1階の綺麗さ、2階の汚さ、3階の不気味さはどれも異なるおかしさがある。
そもそもの話、2階を荒らした存在がいるはずだが何故1階は荒らさなかったのか。3階は魔法陣のせいで入れなかったという理由がある。けれど1階は自由に出入り出来るにも関わらず荒れてない。めぼしいものがないとは思うが、それは2階も同じだろう。
可能性の一つとして誰かを探していたというものだ。だったら2階の寝室スペースが荒らされていることはわかる気がする。廊下を歩きながら割れた窓をを見てみる。そこで初めてこの建物の異常な点に気づいた。
「なんで廊下に窓がついてるんだ?この建物に中庭はないはずだぞ?」
1階を散策して中庭の存在はなかった。普通の城としてキッチンや応接室、武器庫などが整然と並んでいた。中庭への通路はなかった。ここで俺は重大な思い違いをしていることに気づく。
(明らかな空間の異常。そして門と3階の魔法陣から高度な魔法の痕跡。これは……城に丸ごと空間魔法をかけているのか!?)
空間魔法の存在は知っていた。帝国には凄腕の空間魔法使いがいるという噂も知っている。だが人間の魔法力には限界がある。タンジバルにある魔法学院のセキュリティは特殊な機構を使って維持している。それが人間の限界だ。
しかしこの城は城全体に空間魔法がかけられている。そもそも城だからとその巨大さを受け入れていたが、外観と内観のサイズに差がある気がする。中庭の存在が空間魔法がかけられている証拠だ。
(もしかしたらどこかに魔力を貯める、或いは集める機構が隠されているのかも)
広大な城に空間魔法で敷地面積を拡大させているのならあり得る話だ。イフィンティブのように別空間に配置することも出来るだろう。この城は少なくとも魔人或いはそれに類する存在が建てたものという結論に落ち着きそうだ。
(じゃあまずくないか?家主が戻ってきたら怒るんじゃ……考えるのはやめよう)
タルバは何事もなかったかのように3人を呼びに行った。
――――――――――――――
3人の手足の拘束を外してそれぞれの部屋を紹介していく。携帯食料と水だけを渡して入ってもらった。
俺は廊下でテント生活をする決意をした。テントを慣れた手つきで組み立て、寝袋を準備する。ここからは彼女らが自殺しないように監視する。そのつもりだった。
3人は目に生気がなかった。生きる目的もない、そういわんばかりの姿だった。何をするにもゆっくりで魔法で意識を奪われているようだった。
(ここからが勝負だ。今回の最後の仕事。彼女らの居場所を奪った張本人は俺だからな。そこはきっちり責任を取らせてもらう!)
タルバと3人娘の命を守る戦い(監視)が今幕を開けた。
そして時は流れて数日後、タルバは戦いに勝利した。ただの1人も犠牲にすることなく、無事に彼女らを立ち直らせることに成功した。
途中で相談に乗ったり情緒不安定になった彼女らをサポートして少しは元気にさせることができた。生きる目標はを持ったわけでもないが新しい環境で生きていこうとするたくましい気持ちを持ってくれたようでなによりだ。
彼女らには優れた能力があり、魔法があり、身体能力がある。どこへ行っても大丈夫だ。その容姿から素敵な男性に出会う可能性も高い。3人それぞれ守ってくれる強い素晴らしいいい人と出会えることを祈って送り出そう。他の大陸に。
俺は連れてきた日と同じように彼女らを3階の部屋に集めた。初日とは違い、拘束するものは何もつけていない。正真正銘彼女らは自由だ。
「さて、初日に提示した選択肢の返答を聞こう。1人ずつな。選択肢にないことでもいいぞ。ではまずラキ。お前はどうしたい?」
「はい。私はタルバ様にお仕えしたいと考えております。生涯をかけてあなた様に忠誠を誓いたいとそう私は決断いたしました」
(えっと、それは拒絶とかできるのかな。まぁいいや。あとで他の選択肢を薦めてみよう)
「わかった。次にイリム。お前はどうしたい?」
「はい。私もラキと同じようにタルバ様にお仕えしたく存じます。受けた恩に報いるにはやはり私も生涯をかけてお仕えしなければと決断いたしました」
(あれ~予想に反して2人目が出てしまった。嫌な予感がしてきたな)
「そうか。ではアウローラ。お前はどうだ?」
「はい。あたしもタルバ様にお仕えする!そんで恩返しをするんだ!」
(oh……ポーカーでいうならスリーカードというところだな。他の選択肢を薦めて選択を逸らすか)
「俺に仕える以外にも選択肢はあるぞ。素敵な男性と恋愛をして結婚するとか冒険者として成功するとか商人として活躍するとかな。出来る限りの援助はするぞ」
「「「仕えられないのならば死ぬ」」」
俺の提示した選択肢は即座に拒絶された。拒絶の瞬間、イスに座る3名の女性たちから目のハイライトが消えた。明かりを反射して消えるはずのない瞳の中の明るさが消失した。瞬きすらしなくなり、俺の顔をずーっと見つめている。もう10秒くらいは経過している。
(30歳にもなれば多少なりとも女性経験をしてきた。だがこんな女性からの冷たく何を考えているのか読み取れない視線を感じるのは初めてだ。命の危険を感じる……)
「そっそうか。だがここは生活しづらいぞ。それに俺は魔人だ。もう人類の社会的な生活は難しい。金銭的に不自由をすることもあり得る。貧しい生活が待っているのがわかっていて仕えさせるのは忍びないんだ」
俺は一文無しで冒険者証もないためもう社会的・経済的な生活は望めないことを告げる。嘘ではない。きっとこれから俺を待ち受ける生活は魔物を狩って毛皮で服を自作するような自給自足の生活だ。もう俺は諦めて受け入れた。魔人なんだから人間の価値基準を大きく下回ってもいいじゃないかと。
すると真っ先にラキが意見を述べた。
「私は商人としての知識があります。人間の街に連れて行っていただければすぐにでもお金を用意できるように手を打ちます」
ラキの直後、イリムも俺の話した事に対して回答をした。
「私は植物に詳しく、魔法にも造詣が深いため素材の採取や魔法攻撃の効きづらい魔物でも倒すことが出来ます。能力も駆使すればできることはより増えます。問題ありません」
そして最後にアウローラが声を上げる。
「あたしは魔物を狩れるぞ。【身体強化】を含めて24時間戦えるスタミナがあるぞ。能力のおかげで1人でも大群を相手取れる。魔物を売ればラキが増やせる」
アウローラの言葉に同調するようにラキは続ける。
「イリムとアウローラが売り物を取ってきて私が適正価格で販売すればすぐにでも金の山くらい築いてみせましょう。経済活動でどこか街を手に入れてもいいかもしれません。我らが主がこのような辺境にしか土地を持てないなどおかしな話ですので。ねぇイリム?」
「そうですね。このお城も立派ですが、主様は愛しの偉大な存在。真実を明かす者でもあります。この世に求められる存在です。そのような方がひもじい思いなどあってはなりません」
イリムの熱弁に気圧される始める。この子達本気だ。さっきから人を殺しそうな目で真剣に話し合っている。これが俺が求めていた三種族の手を取り合う姿……なのか?。結果的にそうなっているけどなんか違う気がする。
「タルバ様は何もしなくていいぞ。あたしらで必要な物を集めれば済む!」
アウローラの言葉で俺はヒモになることを薦められていることに気づかされる。確かにヒモは働かずに好き勝手生きて、養ってくれる相手に依存して生きる。貴族も似たように家臣や民たちのおかげで苦しい労働をせずに生きられる。
しかしそれでいいのか?本当に。でも仕えられないなら本当に死にそうな勢いだ。恐ろしい眼をした女性を3人同時に拒絶出来るほど、魔人になっても俺の肝は座っていなかった。戦争で見ず知らずの人々を相手取るのと明確に目を付けられている存在に狙われるのは違う恐ろしさを感じる。
「わ、わかったよ……じゃあ君たちが初めての配下だ。よろしくな」
「「「よろしくお願いいたします」」」
こうして誘拐した女の子3人が配下になるのだった。
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よければよろしくお願いいたします。




