12.能力確認
新しく出来た三人の配下になぜ仕えることにしたのか、その詳細を聞くことにした。俺としては追い詰められている時に優しくしたから程度の認識でしかないが、彼女らは俺の想像以上に今後のことをちゃんと考えているようだった。
「なぁ、それにしてもなんで仕える選択を取ったんだ?俺が三人の居場所を奪ったことには変わりないだろう。そんなやつに仕えるなんて普通はしたくないんじゃないか?」
三人は顔を見合わせてアイコンタクトをする。自然とラキが最初に話始めた。
「主が行ったことはムーソルの悪事を打ち砕くには必須でした。なんとも思わないわけではございませんが、仕方のないことです。私の場合他所へ行こうともまた同じように誰かに踊らされるのではないかという疑念が消えません。それが同じ人間であってもです。主はこの城で私たちの世話を焼いてくれました。恐ろしい存在ならそんなことしません。ましてや生きる選択肢など与えるわけがない。ここ数日間の主の姿と行動を見て主についていくことを決めました」
ラキの話す説明はもっともだ。同種族であっても騙し奪い殺す。どの種族でも同じことだ。コミュニティが大きければ大きいほど誰かの企みは巧妙に隠蔽される。どこまでいっても人数が多ければ権力者に抗うことは難しい。階級社会の欠点だ。
「そうか。筋は通っているし不信感を抱くのは当然か。俺をどう評価してくれたのかはわからないが今は仕えるに足る存在だと認めてくれたんだな」
「当然です。もし男性としての下心があるのであれば甲斐甲斐しく世話などする必要などありません。今は主が神々しく見えます」
「冗談はその辺にしておいてくれ」
「冗談ではございませんが……」
俺はラキから目を離し、静かに待っているイリムに目を向ける。
「で、イリムはどうなんだ?寿命的にもこれから先が望めるんだ。新天地で生活しても時期に慣れるんじゃないか?」
イリムの種族であるエルフの特徴からして他のどの種族よりも長期的に見れば普通に生活できる可能性は高い。魔法も上級まで使えることを考慮すれば冒険者としても活躍できるだろう。
「お言葉ですが、先のラキ同様、私も同族を信用できません。また他種族も同様でございます。我々エルフは魔人に敵わないことは百も承知でした。だからといって何十年何百年も共に生きた同胞を理由があれどあっさり切り捨てることに絶望致しました。エルフは世界樹を守護する任がありますが、それにも戻れない私は価値がありません。セントラム大陸に行けば奴隷にされてしまうでしょう。ならば主様にお仕えすることが道理でしょう」
「いや、待て。途中まではわかるがなんで仕えることが道理になるんだ?」
「主様、よろしいですか?今の私がどこへ行こうとも誰も信用することなどできません。邪な思惑が裏に介在しているのではないかと邪推するからでございます。ラキが申し上げたように下心があれば世話などしません。私たちがいらないなら殺せばいいのです。しかし主様はお優しく、なにをすることもできない私たち足手纏いを気遣ってくださいました。聖人君主のごとき振る舞いに感激いたしました。私の心には主様しかもう見えていないのです。おわかりいただけましたか?」
イリムの早口でまくしたてるような息つく間のない説明は狂信者のそれと同じだった。暗い心を話すときだけ目の光が消えて俺の話をした瞬間だけ光が戻るあたり俺が心の拠り所担っているみたいに思える。イリムの演説を面と向かって言われると謎の圧を感じる。エルフは長い生命活動の一環で演説能力も磨いているのかもしれん。
「そっそうか、そうか。イリムがどう思ってるかそれはもう十分に伝わったよ」
「まだ話したりませんが……アウローラもおりますからまた後日にしましょう」
(後日でも聞きたくないんだがな。信奉者を作りたくて世話を焼いたわけじゃないし)
最後に残された話したくてウズウズしているアウローラに向き直る。
「じゃあ、アウローラはなんでだ?24時間も戦えるなら冒険者で大成できるぞ。レルバって男をボコボコに出来るようになればもう安泰だ」
「あたしもラキとイリムとおんなじで帰れる場所も信用できる人もいない。それに獣人の古い伝統には強者に従うというものがあるんだぞ。だから誰よりも強いタルバ様に仕えることにしたんだぞ」
最初は暗い顔だったのに徐々に楽しそうな顔で朗らかに語るアウローラは獣人の伝統を持ち出していた。強ければ従えられるルールがあったみたいだ。
「でも古い伝統なんだろ?それは今じゃ受け入れられないから廃れたんじゃないのか?」
「そんなことないぞ。今でも族長は強者がなる決まりだぞ!アトカースは誰よりも強かったから族長になったんだ」
「でも俺より強い奴なんてごまんといるんだから、仕えるのは俺じゃなくてもいいんじゃないか?」
「タルバ様じゃなきゃダメなんだぞ!この数日間どんなに失礼なことをしても怒らなかったんだぞ!そんな優しい人は家族以外居ないんだ……」
「……そうか。後悔していないならいいんだ」
そんなところを褒めてくれる冒険者は居なかったことから気恥ずかしさを覚えた。彼女らに背を向けて嬉しいやら面倒やらなんとも言えない顔になっていた。俺は手で顔をほぐして普段の表情を取り繕うことに必死だ。俺は席を立ち、テーブルの周囲を歩きながら治らない顔を見られないようにする。
「さて、まずはそれぞれルールを決めようか。配下なんて初めてだからな」
俺の提案に三人は頷く。
「そうですね。やはり主様の命令だけで判断することは難しいですからね」
イリムは俺の命令だけで全てが決まると想定していたようだ。だがそれは俺の負担が大きすぎるし、俺よりも博識であろうラキやイリムの方が良い判断をくだせる。俺は君臨すれども統治せずを目指すぞ。配下のヒモ生活の始まりだ。
「まず多用な意見を取り入れ、適材適所を行うため重大なことは合議制で決めるとしよう。それ以外の事はそれぞれが担当分野を受け持ち、担当者が決定権を持つことにする」
「主、担当というのはなんの担当のことでしょう?」
「いい質問だ、ラキ。食料や武器、資材管理とこの廃城の管理に必要なものが多くある。これからもし人が増えるならなおさらな。それ以外にも諜報活動や外貨を稼ぐ資金調達が必要になるだろう。前もって決めておくに越したことはない」
「タルバ様はもっと配下を増やすつもりなのか?どのくらいの人数にするつもりなんだ?」
「アウローラの質問はもっともですね。私も主様が配下をどれだけ増やすのかによっては色々と手を加える必要がありますし……」
アウローラが首をかしげながら今後の展望について鋭い質問を投げかけてくる。それに便乗したイリムが不穏なことを呟くがここは気にしたら負けな気がする。
「それはおいおいだな。安易に増やすつもりも誰でもいいというわけでもないからな。君たちはある意味特別だ。行き場所がなく誰かの思惑の疑う余地がないからな。でも他は違う。君たちと同じで俺も疑いの目を向けないといけないからな」
「主の懸念は最もですね。それに私たち三人がいることで大抵のことはできてしまいますからね」
「そうだ。外貨の調達と並行して資材管理をラキが担当できるだろうし、食料や素材、資材の収集をイリムとアウローラで担当できる。この廃城は高所にあることから外敵の心配は主に空からだ。ファンタズマと俺でそれは対処するし、イリムの魔法でもなんとかできるはずだ。今のところ問題はない」
俺の説明にわかりやすくうんうんと頷いている三人。何でも肯定してくれそうな勢いがちょっと心配ではあるが、流石にやばければ指摘してくれるはず。
「では主様。私たちの役割については決まりましたが、この廃城内でのルールはなにかありますでしょうか?例えば触れてほしくない物や使用禁止の設備など何かあれば教えていただきたく思います」
今度は城内での制限事項についてイリムが問いかけてきた。ラキが確かにという納得した顔をしていることから主従関係において制限事項が課されることはありきたりなことのようだ。アウローラだけチンプンカンプンという呆けた顔をしている。
「しいて言うならば3階は何もするな。この部屋もそうだが、3階はまだわからないことも多い。俺も城の全てを把握しているわけではないのでな。例えばこの部屋の逆側にある台座たち。あれは触れてはいけない。触れると何が起きるかわからないからな」
「主、台座が一つ空いておりますが……」
ラキの指摘した方向を向きながら配下に加わった三人に正直に説明する。
「この廃城はつい先日来たばかりでね。俺もよくわからない。あの空いた台座には金属製の銀色の心臓が置かれていたんだ。他の台座の物は触ろうとしてもすり抜けて触れないんだ。これがどのような作用をするか不明だ」
俺の発言に今度はイリムが首を傾げ始めた。ラキとアウローラは台座に乗っかる品々をじろじろと見ている。
「主様、それならば《ウォラキアの指輪》を使用してはいかがでしょうか。《ウォラキアの指輪》ならその心臓の効果がどのようなものか判別できるやもしれません」
「たしかにそうだな。あとで《ウォラキアの指輪》を使ってみるとしよう。何かわかるまでは台座に触れないようにすること。これは命令だ」
「「「はい」」」
「それ以外には特に今決めるルールはないな。しいて言うならば先ほど話した合議制についてだが、最終決定権は俺が持つことにしよう」
「承知いたしました、主。それでは私たちの能力についても主にお話すべきかと思います。イリムやアウローラの能力を私は知りませんので、これから協力していくうえで重要なことかと思います」
ラキが自分たちの能力を伝える必要性を説く。俺はラキの能力を《ウォラキアの指輪》で見たがイリムとアウローラの能力を見る機会はなかった。正直どのような能力があったとしても三人とも強みがあるため、気にしていなかった。
「じゃあラキから能力について教えてもらおうか。次にイリム、アウローラの順で」
「承知いたしました。では早速話させていただきます――」
ラキが話した能力は『目印転移』という能力だった。俺が先日《ウォラキアの指輪》で見たあの能力だ。自分が作成した目印を設置することで、自在に転移することが可能。ただし目印が移動している場合は転移が出来ないなどの制約もある。転移するには自分が目印の場所をイメージすることが必要で、必ず自分も転移しなければならない。他人だけなどは不可能。人に目印を付け、立ち止まっていればその目印に向かって転移することも可能という移動系の強力な能力だ。
商人として活動するのであればこの上なく重宝される。それに軍事行動や緊急時の避難など目印が必要だが便利さは一番だ。この能力があれば遠方にいってもこの拠点に帰ってくることが出来る。俺やファンタズマはともかく彼女らが帰還する方法はラキがいれば解決する。
「これまた便利だな。移動距離の制限はあるのか?」
「いえ、今のところベルルム王国内で転移できなかったことはありません。ただ大陸を跨ぐといったレベルになると難しいかもしれません」
「そうか。今度試してみるとするか。じゃあ次にイリム、教えてくれ」
「はい。私の能力は――」
イリムの能力は『コンタクト』。遠方にいる相手と会話することが出来る能力だ。会話する対象は自分が会ったことがある人物かつ相手の本名を知る必要がある。これは《ウォラキアの指輪》を使用して確認したため間違いがない。後はイリムを中継して複数人が同時に会話することも可能だ。ただし距離が離れてしまうと会話できなくなる。この能力はイリムが『コンタクト』を繋いだことがある存在からイリムに話しかけることも可能だが、これは相手との関係性に左右されるようだ。どちらかが会話する気がない或いは敵対しているなどの心が閉ざされた状態では会話することが出来ないらしい。
「イリムの能力でどこにいても意思疎通ができそうだな。これまた便利な能力だが、なんでそんなに微妙な顔しているんだ?」
「いえ、今まで里付近で生活していたので、大して役に立つことがなかったので……」
「これは凄い能力だぞ。相手あってのことだが遠距離での連絡は特殊な魔道具を使わないとできないんだ。この能力なら物が必要ない時点でかなり有用だ」
「お誉め頂き大変光栄です」
照れくさそうに頬を赤らめているイリムは下を向いてもじもじしだした。綺麗な女性が可愛らしい動きをすると破壊力が凄いな。
「じゃ、最後はアウローラだな。どんな能力なんだ?」
「あたしの能力は――」
アウローラの能力は『戦神招来』。発動することで戦神がアウローラに憑依して戦闘を行うようだ。戦神は雷を操り、あらゆる武器を使いこなす。敵の攻撃を見切ることも容易で並大抵の攻撃はかすりもしない。アウローラの獣人としての特性獣化や【身体強化】を加えると手が付けられなくなる。ただしデメリットは数日間意識を失うこと、戦神が憑依する時間は1時間だけということだ。1時間だけ圧倒的な戦闘力を手にするがデメリットがでかすぎる。安易には使用できないようだ。
「前に使った時は視界に入った魔物が全て死んでいたぞ。近くにいた仲間が何とか連れて帰ってくれたけど、それ以来使ってない」
「それは使いどころが難しいな。切り札として残しておけばここぞというときに使えそうではある」
「でもラキやイリムみたいに便利じゃないんだぞ……」
「それは気にしなくていいさ。むしろ戦闘面では不安があったからな。安心したまである」
「そっか。それならよかったぞ!」
アウローラは沈み込んでいた表情をほころばせ、笑顔に変わる。楽しそうにイスを左右に揺らして髪を靡かせる。
「君たちの能力はわかった。後はいいだろう。ラキは目印を早速どこかにつけてくれ、1階のどこか適当なところで。イリムとアウローラは『コンタクト』を試してみるように」
今日やることも決まっていないからひとまず今日のやることを決めておく。それはそうと他にも仕事を振り分けておかないとな。
突然配下を持つことになった光の魔人タルバ=ゼノ。やることはたくさんあるけれど何から指示していいのか困惑していた。他にも割り振れそうなことを考えながらうろうろしていたのだった。
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