ex.レイ
あと1話閑話を投稿する予定です。
私がタルバと別れてから数日が経った。私はガナーシュ辺境伯の代官に話を通し、早急に王都へと帰還した。ドーガでの戦いについて詳細に報告し、すぐさま軍を再編成したが、一向にヴェルフ帝国から侵攻を受けたという報告がなかった。
ヴェルフ帝国が仕掛けた情報戦の罠かと思い、調査を命じたところなんとヴェルフ帝国は少ない手勢だけを残し、本隊が撤退していた。このことには我が国の軍部も驚愕を禁じ得なかった。
大々的な侵攻作戦を成功させ、私に追っ手を差し向ける余力すら残されていたにも拘わらず、撤退を選択した真意が誰にもわからなかったからだ。我が国の将軍ラペルが一矢報いたのではという憶測もあったが、彼一人で数万の軍を止めることは不可能だ。
だからこそ他国の介入や災害級の魔物の出現を疑った。ヴェルフ帝国が我が国に間者を差し向けるように我が国も間者を密かに送り出していた。
昨今は戦争もなく平和な時代が続いたため、いつ戦争が起きてもおかしくはなかった。平和な時代というものは一時の休憩のようなものだ。この世界では魔物という脅威があるため、戦争ばかりしていれば魔物に国を滅亡させれれることもある。
過去に戦争に明け暮れた軍事国家は戦争で疲弊し、災害級の魔物の出現によって1日で滅びた。災害級の魔物というのは1等級冒険者が討伐できるかどうかという存在だ。1等級冒険者を失うことは人類の損失であるため、安全マージンをとって複数で討伐することもある。
かの軍事国家は戦争を行いすぎたため、国が荒廃した。食料生産といういわば国家の支柱を蔑ろにしたことで継戦能力も豊かさも欠けていった。
災害級の魔物は自然発生するには条件がある。現段階で判明していることは魔力の異常な高まりや周囲一帯の魔力が欠乏することで発生することが判明している。
例えばある場所で戦争し両軍が魔法を連発し続ければその一帯の魔力が枯渇していく。世界は魔力によって数多の生命を支えているため、その魔力の欠如は一大事と捉え、緊急措置として世界の余剰魔力をその場所に一気に流入させる。その結果、その地域に必要な分の魔力以上が注がれ、その余剰魔力が集まり国を滅ぼしかねない魔物が誕生する。この事象のことを『収縮生誕』と名付けられている。
この世界において戦争にはいくつかの暗黙の了解がある。戦争の長期化や魔力が欠乏しかねないほどの魔法の使用といった事柄だ。先の魔力が枯渇するようなことは早々起きない。
魔力が減れば他所から充填されるからだ。だが補充する速度以上に消費されてしまえばその限りではない。『収縮生誕』が発生した場合、戦争の即時停止と災害級の魔物の討伐を行わなければならない。
行わない場合は戦争を行っていた両国を滅ぼしてでも他国が行う必要がある。他国にとってメリットがないが、これはハラベル教に女神からの天啓によって命じられている。
女神の保護がなくなった国は作物が育たず、子供が生まれず、魔力を扱えず、言葉を徐々に失う。他国から食料を輸入しようとしても女神から見放された国に関わりたい国はない。歴史上過去にそのような国があったとあるが、国名すら残されていないあたり、歴史から抹消されるほどの出来事だったようだ。
そんな世界のルールがあるため戦争を行うにも気に掛けることが多い。情報をどれだけ得られるかが戦局を左右すると言っても過言ではない。ヴェルフ帝国が撤退した以上はその理由いかんによっては我が国の存亡に関わる。
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魔法学院にてヴェラゴにヴェルフ帝国が開発した魔道具について相談をしていた。大規模な能力封じを行える魔道具は脅威であり、その魔道具の魔力消費が莫大だった場合、『収縮生誕』が発生しかねないと案じたからだ。
私が見たことを伝えたがロジックがわかっていない以上、有効な対策は取ることができない。私が少しでも能力を用いて魔道具を解析できていればと歯痒い思いに耐える。これでは冥土へ旅立っていった兵士に顔向けができない。
途中ヴェラゴが魔法学院の職員から何かしらの連絡を受けていたが別件だろう。ヴェラゴは多忙なため、私の要件が済めばまた次の用事があるはずだ。
それは私にも当てはまるのだが、今日に関してはヴェラゴに会うという口実で仕事を少なめにしてもらっていた。
ヴェラゴに相談が終わったころ、ドアをノックする音が部屋に響いた。ヴェラゴが私との予定にダブルブッキングしたとは考え難いため、突然の来訪者ということだろう。
ドアの外から聞こえてきた声に私は喜色の笑みを浮かべてしまった。つい先日別れたばかりの恩人にまた再会できるとは思っていなかった。ましてやベゼル王国最強の魔法使いヴェラゴ=ジャラガの研究室で再会するなんて誰が想像できただろうか。
「すみません、4年前まで手解きを受けていたタルバです」
「入れ」
短い入室許可の言葉には複雑な胸中が込められているかの如く、普段のヴェラゴとはまた違った声色だった。それに外の恩人が発した手解きを受けていたという言葉に頭を殴られたような衝撃を受けた。
あのヴェラゴに弟子がいて、それが辺境で『不死』と呼ばれる冒険者だったとは。私の能力『情報開示』では見られる内容に運が絡むため、全てを知ることができるわけではない。また一度情報を見た者に対しては同じ情報しか得られない。
だから私がもう一度タルバの情報を見たところでミット大山脈で会った時の情報しか見ることができないのだ。それにしても私が知る限り弟子を取らないヴェラゴに弟子がいたとは意外だ。
それからタルバがあまりに簡潔な近況を話し、ヴェラゴが紅茶を飲みながら話を聞いていた。タルバは緊張しているのか汗ばんでいるようだ。タルバが他国へ旅立つということにはびっくりして話に割って入ってしまったが、冒険者というものは定住するものは少数だ。依頼の関係で他国へ赴くこともあればダンジョンを攻略しに行くこともある。
ヴェラゴが退室し私はタルバに符丁を伝えた。タルバが王宮にいる私と連絡をつけたい場合、あの符丁を伝えれば私まで連絡が届くのだ。符丁は複数あるため、現状【天上の鷲、精巧の鍵の符丁】を使うものは必然的にタルバになるわけだ。
彼がこの符丁を使うかはその時になってみなければわからないが、願わくば恩人の手助けになれたら幸いだ。
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その日の夜は戦場でしか聞いたことがない爆音で無理矢理意識が覚醒した。王宮内の誰もが目を覚まし、一体何事かと忙しなく動き回っている。
かくいう私も原因の究明に向けて動き始めていた。寝ぼけた頭をもたげながらベットから起き上がり、部屋の外で待機している近衛兵に指示を出し報告を待った。事態の把握が終わる頃には日が出始めていた。家臣たちからの報告を逐一聞いていたが、口から魂が抜け出るような気が遠くなる話が飛び込んできた。
例の爆発音は魔法学院が襲撃を受けた音で、魔法学院の被害は甚大だった。さらに古の勇者の剣が汚されたとの報告もあった。よりにもよってベゼル王国内でも重要施設である魔法学院と人類の救世主の象徴を狙うとは――。
直視したくないとはいえ、早急に対応しなければ我が国は他国に攻め入られる口実を与えてしまう。それは王子としてなんとしてでも避けねばならない。根本の舵取りは父であるメルクーラ3世が行うにしても次期王が緊急時に安穏と惰眠をむさぼるわけにはいかない。
ひとまず私は古の勇者の剣に関する調査を担当することとした。魔法学院に関しては被害の大きさから厳重な警戒態勢が敷かれることは言わずもがなだ。それよりも古の勇者の剣《海誓山盟》のほうが重大だ。報告には魔法学院襲撃の昼頃、巡回の兵士や職員が発見したようだ。
当日はあまり客も来ておらず、一般客からは見えない位置に液体がかかっていたこともあって発見が遅れたとのことだ。また発見時の《海誓山盟》はあまりの激情に握った騎士や職員と会話をすることもできなかったほどだという。
そのため何者が犯行に及んだのかは《海誓山盟》が落ち着くのを待つ必要があった。そして判明した事実として魔人が来た事、液体の正体が魔人の小便であったことがわかった。神が作りし聖なる剣に小便をかけるなど正気ではない。
加えて、古の勇者の剣は人類にとって重大な意味を持ち、粗雑に扱えば戦争の火種になりかねないものだ。他国が細工をしたとわかればその国は滅ぼされかねない以上、細工することはないだろうと漠然と考えていた。だが犯人が魔人であれば話が異なる。
魔人という存在は御伽噺にしか存在しない架空の生物かと思っていたが実在し人類に宣戦布告をしたということだろう。何食わぬ顔で侵入したのであれば人間に擬態しているのだろう。
そして同時期に起きた魔法学院の一件。全く関係がないとは思えない。《海誓山盟》を穢したことは人類の宣戦布告で間違いないだろうが、魔法学院はなぜ襲撃したのか。もっとも謎であることとして誰にも気取られることなく侵入したのであれば、いくらでも王都を恐怖に陥れることはできたはずだ。
王宮、貴族街であっても魔法学院で解き放たれた魔法を鑑みれば一撃で防御魔法を突破し、ベゼル王国中枢をずたずたにできた。魔人の真意が皆目見当がつかない。あえて被害を出さずに王国を挑発している可能性や愉快犯の路線も考えられることが厄介だ。なにより他国からすれば王国の自作自演を疑うだろう。
被害は建物が壊れただけで人的被害がなく、ヴェルフ帝国と戦争中である。もし魔人が出て《海誓山盟》が穢されたのであれば、他国が協力をする必要が出てくる。その際に戦争は中断され、ベゼル王国は立て直す時間を得られるのだ。これでヴェルフ帝国がさらに侵攻作戦を続けようものなら他国が遠慮なく介入するだろう。
敵の魔人は相当な切れ者だ。歴史の陰に隠れた軍師や全てを見通す目でも持っているのではないかと疑いたくなる。今回の襲撃によって我が国は魔人の存在を明確に意識するが、他国は事件自体に疑念が生じる。ましてや御伽噺の存在を持ち出して襲われたというのだから疑うほかない。
人類国家間に不和が生じ、魔人の狙いが不明。魔人を取り逃し圧倒的な力を持っている点、緻密に練られた計画的な犯行という点以外に情報がない。敵の数、組織の有無、容姿や特徴がベールに包まれたままだ。
ついこの間まではヴェルフ帝国の侵攻をいかに食い止めるか、あの能力封じにどのような対策を講じるかだけが頭痛の種だったのだが、次から次へと問題が舞い込む。頭を掻きむしりながら私は我が父であり国王、メルクーラ3世のもとへと向かった。
私が入手できた情報が少なすぎて報告をしたところで他の面々も既知のことが多いだろう。私が行った調査結果から言えば大した成果もない。なんの結果も出せていないことを報告しなけれならないなんて嫌な立場だ……。
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父や宰相、軍部から騎士団とあらゆる関係各所の責任者を集めた会議で冷ややかな目を受けた魔法学院襲撃当日は私の人生の中でもトップクラスに嫌な出来事だった。言葉で叱責を受けたわけでもなく、ましてや家臣たちから指摘されたわけでもないが王子にはこれっぽっちのことしかできなかったのかという視線を感じた。
私は会議を終えると自室で倒れ込むようにベッドに飛び込んだ。王族として生を受けて何十年と経ち、厳しいルールやマナーを学んできたが誰もいない自室くらいでは羽目を外したいと思うのは誰でもそうだろう。外用の理想的な王族の仮面はいつまでも被るには疲れる。どこで誰が私の行動を見ているかわからないのだ。
そんな状況で一瞬でも気を緩めれば下世話な風評をたてられることや暗殺の危険がある。階級社会の最上位に君臨する者にだって求められるものは多いのだ。隣の芝生は青く見えるというもので、タルバのような自由な冒険者という職業に憧れすら抱く。
頭を枕にうずめていたが、ベッド横に置かれているサイドテーブルになにやら報告書が置かれているため、脱力した腕を伸ばす。うつ伏せから仰向けに体制を変え、報告書に目を通す。報告書の内容はヴェルフ帝国の撤退理由だった。
「帝国の撤退理由が雪崩……?運がこちらに味方したのか?」
にわかに信じがたいが、報告書には雪崩に巻き込まれ軍に大打撃を受けたとある。読み進めると雪崩が一人の冒険者によって引き起こされたとヴェルフ帝国側で報告されており、その男の名前はタルバだった。
「――タルバ!?なぜこんなところに名前を連ねているのだっ!?ヒルドでノルマを達成するんじゃなかったのか……」
時系列としてはヴェルフ帝国が再編成した軍が侵攻を開始したころ、ヒルドにおいてタルバが帝国の暗躍を看破し間者とゴブリン数百体と交戦。
敵の間者を倒す位置とミッド大山脈に攻撃できる角度を計算し、光の奔流を放つ。結果として帝国の間者の殺害と侵攻していた帝国軍を雪崩で壊滅。帝国は特殊な能力を用いてことの元凶を特定したところ、タルバという冒険者が浮かび上がった。
たった一人で地形を変化させられる冒険者がおり、帝国の作戦を熟知しているかのようなタイミングでの攻撃。帝国側ではタルバの調査が既に進められており、『不死身の英雄』の男冒険者であることも判明している。
(『不死身の英雄』は私も読んだことがあるが、ガナーシュ辺境伯やシャベック伯爵からは空想上の物語と伺ったぞ。だがこの報告が真実であれば我が国の貴族は冒険者の功績を掠め取ったことになるとともに、その隠蔽工作を図ったことになるぞ)
私に友好的に接してくれた恩人が貴族によって不当に不利益を被っていたことに腸が煮えくり返るような思いがこみ上げる。きっと彼はノルマを達成していなかったのもこの功績が露見することを避けるために冒険者として成り上がることをやめたのだろう。
貴族とは庶民を軽く捻り潰すことができる権力と影響力がある。良識のある貴族もいるが、光があれば闇があるように悪辣な貴族も存在してしまっているのだ。だがシャベック伯爵はともかく、ガナーシュ辺境伯は冒険者から功績を取り上げるような人物ではないはずだ。
私が知る限りそのようなことを進んで行うとは思えない。自分が見てきたガナーシュ辺境伯の人柄とここに書かれている人物像が天と地ほど乖離している。全くの別人と言っても過言ではないだろう。
少なくともこの一件に関しては追加調査とガナーシュ辺境伯に聴取する必要がある。この件はひとまず置いておくにしてもタルバという男が持つ力は異質だ。そんじょそこらの1等級、2等級冒険者の持つ純粋な力とは別ベクトルに肥大した脅威とでもいうべきか。
彼が一人で敵軍を壊滅させることができる力を有していることは疑うことのない事実だ。冒険者ギルドにあるヒルドでの人工スタンピード事件を解決したタルバの映像は私も拝見した。彼が全てを消し去る光の剣で一太刀浴びせると敵は消滅していた。そしてこの報告書の通りであればあの一撃の余波がミッド大山脈の一部を吹き飛ばすという地形を変えるだけの切り札だったということだ。
今まで彼が置かれた立場が彼の栄光の道に立ちはだかっていたが、国家の危機に彼は立ち上がり、敵国の暗躍を止め侵略を阻止した。詳細な情報を入手でき、全体像を把握している立場の人間しか彼が何をしたのか把握できないだろう。他の人には偶然の雪崩で帝国軍が壊滅したと受け取られるだろう。
パッとしない冒険者と思ったが、策士であり英雄だったのだな。どれだけ凡夫が束になり、歴史の陰に隠そうとも英雄の天命が秘匿を許さない。包み隠そうとする悪意の外套は英雄に吹く追い風で引きはがされるのだ。
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私は手錠を嵌められた男を前にしている。執務室で仕事を進めていたのだが、近衛兵によって連絡が来た。今日裁かれる予定の裏組織の長が私に繋がる符丁を伝えてきたという。
【天上の鷲、精巧の鍵】という符丁はタルバにのみ伝えたので、この男がタルバと関係があることは明らかだ。タルバが考えなしにこの符丁を伝えるとは思えない。彼は帝国の策を打ち破った知恵者だ。私には及びもつかない意図がそこに介在しているはずだ。
仕事を切り上げ、この男の話を聞かなければならない。ただでさえタルバの功績を隠蔽したという恐ろしい事が発覚し、襲撃を受けているのだ。国を守ったタルバがこの男に何か価値を見出したのであれば非才の身であれど機械的に裁いてはいけない。
情報組織『報老』。ベゼル王国貴族のスキャンダルからリアルタイムの情報まで彼らが取り扱う情報は千差万別だ。依頼者は必要な情報を金を払うことで入手することができる。
生半可な金銭では入手できず、不都合な情報が出回らないように口止め料としてお金を払う者も多い。口止めされた情報は他の物には提供されないが、口止め料の供給が止んだ時に情報提供が始まる。
恨みを買い、組織ごと潰そうとした貴族もいたが、彼らは実態が掴めないことで有名だ。長であるカペリッツォには私が『情報開示』で偶然見たため見つけ出せたのだ。形の定まらない雲のように組織の輪郭がわからなければ、潰そうにも手が出せない。誰が構成員かもはっきりしないのだから狙われた者は一方的に餌になるというわけだ。
そんな組織の長が私の前に連行されている。私が見つけたとはいえ、彼らに恨みを持つ人間は多い。だからこそこじつけの罪状で強制的に裁こうとしているのだろうな。
「貴様が情報組織『報老』の長、カペリッツォだな。なぜ私の前に連れてこられたのかはわかっているな?」
私は感情がない無機質さを醸し出しながら淡々と膝をついている男に向けて言った。
「はい。先日お会いしたタルバという御仁からもしもの際には符丁とあなた様のお名前を出すようにとお聞きしておりました」
肝が据わっているのかカペリッツォは聞かれたことに素直に答える。顔色は悪いが緊張もなく、堂々としている様は一組織の長としての貫禄を感じる。
「タルバが第一王子である私に貴様をよこしたということは何かしらの意味があるのだろう。何か聞いているか?」
私の問いに逡巡した後、カペリッツォが答える。
「お言葉ですが、私は何も伺っておりません。タルバ殿とは一度しかお会いしたことがありませんので」
「ふむ。そうなるとひとまず貴様の処遇は私が預かるとしよう。今回の件、貴様らの処罰が提起されていたが罪状が不適切だ。何者かの思惑があるのだろう」
「ありがとうございます。『報老』はどういたしましょうか。解散させたほうがよろしいでしょうか」
私は口元に咳ばらいをするかのごとく握りこぶしを添え、『報老』を残した時のメリットとデメリットを考える。だがそもそもタルバがカペリッツォを生かすことを選択したのであれば残して活かす以外ないだろう。
「『報老』は残す。表向きは私が関与していない扱いで存続させる。裏向きは私直轄の情報収集組織として使用する。ついては現在入手している情報の接収を行うとする。異論はないな?」
「はい。承知いたしました」
私は直轄の情報組織を入手することができた。正直『報老』が持っている情報を吸い上げるだけでもいいのだが、他国に影響を与えられる情報組織は国内にもない。当分は帝国からの侵攻を気にしなくとも良くなったので今は情報だ。
我が国が置かれた国際情勢は吹けば崩れるほど脆い足場だ。今回の襲撃事件に関しても客観的な証拠に欠ける。他国の貴族に『報老』の持つ情報を用いてベゼル王国に利するよう立ち回ってもらう必要がある。
(もしかしてベゼル王国が襲撃されることを知ってここまで根回しをしてくれたのか?タルバだったらあり得てしまうのだから困るな……)
やはりタルバの影響力の守備範囲は広大だ。戦闘力に加えて情報を操り自ら動くだけでなく、他者を巻き込み大きなうねりを生み出す。何が起きるのか知っているかのごとく先手を打つ様には神から預言を受けているのではないかなんて考えてしまう。
(流石にそれは考えすぎか。にしても恐ろしい男が旅に出るな。辺境の英雄がちょっと行動しただけで国家レベルの影響が出るのだ。旅なんてしたら何が起きるのだろうか)
ベゼル王国を旅だった男がこれから何を成すか楽しみにしながら、自国から英雄がいなくなってしまうことに寂しさを感じるレイベルだった。
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