ex.ザクス
転職活動をしていたら思うようには書けませんでした。これからまた間が空くかと思いますが気長に待っていただけるとありがたいです。
タルバと別れた後、ザクスは王都のギルド長を呼び出していた。タルバに約束した通り、タルバの旅に同行するためのつまらない雑事を片づけるためだった。
正直言って自由を尊ぶ冒険者を冒険者ギルド側が留めることはしないが、ザクスは1等級冒険者であるため世間一般の「普通」という括りでは捉えきれない。
個人で戦争の戦局を左右するほどの実力がある人型兵器のようなものだ。冒険者ギルド側で把握できているうちは問題ないが、把握できなくなれば大問題だ。
その冒険者にまともな道徳的観念があればよいが、人の心というものは雲のようにうつろいやすい。善人で居続けることは困難だが、悪人に成り下がるのは一瞬だ。
昔は等級が上がれば自分を遮るものなどなくなると思っていたが、立場ができるにつれてまとわりつく柵や制限されることが増えた。自分の望みとは反比例して自由がなくなるとは思っても見なかった。
「ザクス様、ギルド長がお呼びです。3階の執務室まで向かってください」
受付嬢にタルバが王都を出るときは連絡を入れるように入念に念を押す。そして俺を担当する受付嬢の案内に従ってギルド長の待つ執務室まで向かった。
ギルドの1階と違い、2階や3階は床の傷みが少ない。1階は多くの冒険者によって踏みしめられ欠けているところも多い。何度直してもまた傷んでしまうことからギルド側もあまり積極的には修繕しないのだろう。ある意味2階以上は選ばれた冒険者の特権だ。階段一段一段の高さがそのまま権力や地位の高さに直結しているように感じる。
「入る」
執務室は正方形で窓際にギルド長の机が配置されている。部屋の中央に置かれたローテーブルと2対の椅子からはシンプルながら光沢のある良いものを使っているようだ。
壁には書類や本がずらりと並び、窮屈な印象を受ける。狭苦しい雰囲気の部屋に神妙な顔つきのギルド長が中央の椅子に腰かけていた。俺はギルド長に向かい合う形で座る。
「話というのはなんのことだ、ザクス。依頼内容や報酬に不備があったのか?」
「問題はなかった。今回は依頼内容とは別件だ」
「別件……。まさかお前遂に貴族でも殺してしまったのか?その隠蔽の手伝いか?」
真面目な顔をして見当違いの話をし始めるギルド長。無理もないか。俺がこれから話すことは突拍子もないことだからな。
「いや、違う。旅に出る。だから新規依頼の受注を停止する。ただそれだけだ」
「はあぁあぁぁあぁああ!?ちょっとまて、意味が分からん!この前の依頼でなにがあったんだ!」
一瞬硬直した直後、ギルド長は聞いたこともない声をあげ、焦りはじめた。先の神妙な顔から青白い顔になった。人間の顔はこれほどまで変化に富んだ動きができるのかと関心する。練習したら一発芸にでもなりそうだ。久しぶりに会ったギルド長は感情表現大げさになったようだ。
「報告で聞いていると思うが、タルバという男に出会った。彼が俺の探していた、冒険者になるきっかけを作った冒険者だった。彼が旅に出ることを聞いて俺も着いていくことにした。単純な話だ」
「いやいや、どこに最上位冒険者を簡単に動かせる人間がいるんだよ!言ってることおかしいって気づいてくれ!さては洗脳でもされたか!?」
「そんなもの効くわけないだろ。あの類の能力は戦闘力に彼我の差がなければ通用しない。たとえ1等級冒険者であっても俺にはかけられないだろう」
「真面目な顔でそんなこと言わなくてもわかるわ!そんな話じゃない。タルバという男は3等級冒険者じゃないか」
「そうだが?」
「なぜおまえがついていくんだ……。冒険者が旅に出ることは不思議ではない。だがあったばかりの冒険者に国内最高の戦力が帯同するなんて話聞いたことがないぞ」
「前例がないなら作ればいいだろう」
「そうゆう問題じゃないわ!はぁ、どうしてこうも問題ばかりを起こすんだ……」
どうやらギルドで最近冒険者が問題を起こしているようだ。そのせいで頭を抱えているらしい。1等級冒険者の存在は他の冒険者の抑止力にもなり得るからな。ここで俺がいなくなったらギルドとしても困るようだ。だから旅に出ることについて悩んでいるのだろう。
「わかった。そうゆうことならば仕方ないな」
「お、おう。わかってくれたか。ありがとうザクス」
「問題を起こしている冒険者を全て再起不能に殴り飛ばしてから旅に出るとしよう。とりあえず目についた奴は片っ端から手足をへし折る方向で」
「ちょ、、ちょっと待て!!ザクス、旅に出ないって話じゃなかったのか!?」
「そんなわけないだろう。もう旅に出ることは確定している。ただギルドも大変なようだからな。今まで世話になった恩もある。だから最後くらい手を貸してやると言っている」
「昔からお前とは絶妙に考えていることがわからない。なんでそんな考えに……。泣いていいか?」
青白い顔に滝のような汗をかいているギルド長を見ると、俺がいなかった間に散々な目に遭っていたようだ。上には上がいるということを馬鹿に教えてやるとしよう。
「泣いていいぞ。泣き終わるころには全て終わらせる」
「あ、何言っても通じないなこれは。王都にいる全ての冒険者に警告を出さなければ……」
その日、王都で活動している多くの冒険者は戦慄した。1等級冒険者『怪物』が最近調子に乗っている生意気な冒険者を再起不能にまで叩きのめして回ると宣言したとギルドから緊急警告が発せられ、重軽傷者を多数出す事件が起きた。
幸い、回復魔法によって後遺症は残らなかったが勢いづいていた駆け出しの冒険者から中堅冒険者まで多くの冒険者が心と骨を折られ、トラウマを負った。冒険者間での出来事であったことや発生した場所がギルド内であったため、ギルドが全力で隠蔽したため誰に知られることもなく事件は風化したのだった。
ギルドに残された廃墟のような砕けたテーブルや依頼の掲示板の残骸が何事かが起きたことを物語っていたが、事情を知る冒険者たちは口を固く閉ざしていた。
――――――――――――――
翌日。ザクスは魔道具屋に来ていた。これから新たな旅立ちを控え、快適な旅のための準備を整えに来た。といってもいつも一人で依頼をこなしていたため、特別自分に必要なものはない。依頼で遠征することもあるため旅もその延長だと考えていた。
(必要なものはタルバの補助できるものだな。なんといってもタルバは魔法鞄がないからな)
魔道具屋には有名な魔道具から無名の魔道具まで幅広く取り扱っている。店主のおっさんは顔なじみだ。一時期この店の嗜好品のような魔道具を片っ端から買ったことがある。
その後、店の品ぞろえが一時期貧相になった。そんなことを何度かしていたら誰だって覚える。
「店主。魔法鞄のような魔道具を探している。容量が大きく、機能性に富んだものがいい。金はいくらでも出す」
「ザクスさん魔法鞄なら持ってるじゃないですか。もしかして容量が足りなくなりましたか?」
「いや、人に贈る物だ。その人物は魔物馬を連れていて、今度一緒に旅に出る。だから魔法鞄が必要だと判断した」
店主はあきれたような顔でこちらを見てくる。自分が店主と同じ立場なら同じ気持ちにもなるだろう。1等級冒険者が金に糸目をつけないから人に贈呈する魔道具が欲しいと言っているのだから。
贈り物といっても強力な効果を持つ魔道具はたった一つで王都で家がいくつも乱立できるような額になる。平民ではまず一生かかっても購入することは困難だろう。
「ザクスさん、こう言いたくはないのですがその人になにか騙されてないですか?」
「いや、大丈夫だ。それに俺の旅を快適にする目的もある」
「まぁ買ってくれるのであれば別にいいんですけどね。それにしても旅ですか。どのくらいいくんですか?」
「期間は決めてない。国内をめぐる予定だが他国にも足を延ばそうかとも考えているくらいだな」
「冒険者は元々根無し草みたいなもんですからね。むしろザクスさんがずっと王都にいたことが例外でしたし。ですが寂しくなりますね~」
細かくは詮索してこないところもこの店主のいいところだ。店主は言い終わらないくらいには踵を返して店の奥へと向かった。俺も彼に続いて奥へと向かう。いつものように彼に案内され、高価な魔道具が保管されている地下に通される。何重にも設置された魔法陣によるセキュリティを一つずつ解除しながら階段を降りていく。
幾何学模様が描かれた無骨な金属のドアを開けると国が買えるとまでまことしやかに囁かれる魔道具屋の商品が陳列されていた。
回廊のような長方形の部屋の壁に高さや形を自由に調節できる棚が備え付けられている。魔道具のサイズは一定じゃない以上、安置するにしても可変型でないと保管も難しいと以前店主が話していた。
「魔法鞄じゃなくても収納系の魔道具であればいいんですか?」
「あぁ。魔法鞄に限らず旅で使用する道具を収納できればいい。俺の魔法鞄ほどでかくなくていい。1週間分の食料と水、その他野営用の道具が最低限入ればいい」
「承知しました」
そう言うと店主は棚に置かれていた奇妙な壺を手に取った。
「こちらはどうでしょう。《ユビラーの壺》といいます。この壺は魔法鞄と同様に収納することが出来ます。お求めの機能としては十分かと」
「デメリットはなんだ?」
「はい。この壺、魔法生物が中に入っており、その魔法生物が収納を担当してます。そのためこの壺を使用するために魔法契約を結ぶ必要があります。その契約内容に魔力を一定量固定で使用するとあります。そのため魔力が低い方ですと魔法が使用できなくなります」
「では却下だな。残念ながら魔力は冒険者が旅をするうえであればあるだけ便利だ。固定量を使いつぶされてしまうとなると窮地で挽回することが不可能になる場面もあるだろう。だから却下だ」
「やはりそうですよね。商人であれば欲しがる方もいらっしゃるんですけどね」
店主は壺に目を落としたかと思うと、元のあった場所に壺を戻した。そしてすぐ隣に置かれていた長さ1メートルの漆黒の鎖を手に取って戻ってきた。
「ではこちらの鎖はどうでしょう。こちらは《マクェスの転鎖》といいます。この鎖を円形に繋げて使用すれば魔法鞄のように収納できます。魔法鞄と同じように取り出すことも可能です《ユビラーの壺》と違って使用者に厳しいデメリットがありません」
「だが多少のデメリットはあるのだろう?」
「はい。デメリットとしは使い勝手が悪い点です。この鎖自体を持ち運びが微妙で、使用するにも毎回円形に繋げなければなりません。咄嗟の使用は無理でしょう。また時間経過によって致命的な問題が発生します」
「問題とは?」
「はい。長期間取り出していない物は消滅してしまうという問題です。鎖の収納量はなくなった分戻るのですが、消滅した物は二度と取り戻すことはできません。大体1ヶ月で消滅します」
「ならだめだ。毎月収納した物を必ず一度出さなければならないとなると時間がかかる。それに物が消滅しては使い勝手が悪すぎる」
「やっぱそうですよね~。そういえば魔物馬を連れているでしたよね?ならとっておきがあります」
店主はまた魔道具を置くとさらに奥の方へと向かっていった。薄暗い部屋の奥で俺を手招きしている。
どうやら簡単に持ち運べる魔道具ではないらしい。
「ザクスさん、こちらの魔道具なら満足いただけるかもしれません。これは《ディームコンシータ》という名前の馬鎧です。どの馬にも装着できるように自動サイズ調節機能があります。さらに魔法鞄の機能もくっついているポーチにあります」
「ほう、これならよさそうだが、これのデメリットは?」
「はい。馬鎧に付属しているため通常の魔法鞄とは利便性が異なります。どうしても魔法鞄よりは使いづらいかと思います。また通常の馬では魔道具を装着しながら移動が長時間できません。魔道具の荷重がかなりあるため通常馬には向きません」
「その点魔物馬なら問題ないな。他には?」
「他には定期的に魔力を補充する必要があります。といっても3カ月に1回初級魔法程度の魔力ですね。補充を怠ると補充するまで魔法鞄としての機能が使えなくなってしまいます」
「その程度であれば問題ない。なぜこれが売れ残っているのか甚だ疑問だな」
「それにつきましては魔法鞄のように自由に持ち運べないことが挙げられます。魔法鞄を購入される方は緊急時に持ち出しやすい通常の魔法鞄のほうがいいとおっしゃられてました」
「魔物馬でなければ装備が難しく、利便性が微妙で魔力の補充が必要とあれば通常の魔法鞄を買うか。魔法鞄のほうにはこのデメリットはないからな」
「使用者が限定されてしまうので不人気なのですよね~」
「わかった。これを買うとしよう。金はいつも通りギルドの口座から引き落としておいてくれ。あとギルドにいるファンタズマという魔物馬に装着しておいてもらえると助かる」
「かしこまりました。ではそのように取り計らいましょう」
店主は俺の支払い能力にかけらも疑うことなくいつも通りの会話をしてタルバへのプレゼントは決まった。店主はあえて口に出さなかったと思うが、あの馬鎧一つで王都の一等地に大層立派な家が建つ金額だった。装備を整えることは冒険者の鉄則だ。だがタルバは小市民的な価値観を持っているから金額は伏せておこう。
――――――――――――――
旅に出るためにギルドでの手続きに消耗品の補充や今住んでいる賃貸の引き払いなど雑事を済ませた。ギルドからの連絡でタルバが王都から出発するとの知らせが入った。
いまかいまかと待ちわびた旅立ちの日。こんな晴れやかな気持ちを感じたことは冒険者人生の中で一度もなかった。
住み慣れた家に別れを告げ、勝手知ったる街並みを風のように疾駆する。人にぶつかれば死んでしまいかねないためそこだけは注意をする。
下道以外にも建物の屋上を伝って王都の外壁を目指す。鍛え上げられた身体が屋上のタイルを蹴る。着地したタイルが割れ、粉々になった残骸が宙を舞う。
全力とまではいかなくとも最大速度で移動したため、10分も経たないくらいで外壁の近くへと到着した。外壁は多数の人々が行列を作っていた。
話を聞く限りでは先日の魔人騒ぎで王都を危険だと判断し脱出しようとしているようだ。どうやら一撃で魔法学院を消し飛ばしたとかなんとか。事件の時には俺にも連絡が来たが、俺が近くに向かったころには魔人は既に去っていた。事件は魔法学院主導で対応するため、俺はそそくさと帰ったのだった。
人の波をかき分けて検閲を行っている門へと近づく。1等級冒険者の冒険者証を見せれば顔パスできるのだ。前へ進むと強い口調でどうやら何か揉め事が起きているようだ。聞きなれた声が聞こえてきたことで嫌な予感に駆られ、検閲が行われている場所へ向かう。
嫌な予感は的中した。タルバがズボンに手をかけている。周囲を兵士たちに囲まれている様子からズボン内に何かを隠し持っていると疑われているようだ。今朝から続いた晴れやかな気持ちは雲散霧消した。王都の兵士はいつからここまで横柄で無礼な振る舞いを許されたのか。奥歯をかみ砕きかねない程の激情が湧いてくる。
感情に身を任せず、できる限り冷静に兵士とタルバの間に入った。冷静さを取り繕えたのは1等級冒険者としての矜持かはたまたタルバに迷惑をかけないためか。
「下がれ。貴様らが行おうとしていることは許容できない。もう一度言う。下がれ」
タルバは俺の憧れた理想の冒険者だ。出会ってからも実力はともかく国のために体を張り、名誉や功績を求めない姿は理想の極致だ。
誰もが知っている御伽噺の英雄であり国を守り戦っていた彼が、公衆の面前で辱めを受けるなどあってはならない。王侯貴族が、法が、世間が許したとしても俺は絶対に許さない。
ベゼル王国最強の『怪物』は初めて自分ではなく憧れの恩人のために全てを捨てる覚悟を決めた。
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