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へっぽこ魔人生  作者: 岸辺濫瀟
第2章

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11.新たな旅立ち

これにて王都編は終了いたします。数話ほど王都編の別視点を投稿後、新章に入りたいと思います。

 奇跡的に生きて宿屋のベッドから起き上がる。泥のように眠った今朝はもう二度と起きれないのではないかなんて考えながら意識を手放したがちゃんと生還したようだ。


 朝まで名も知らないアンダーグラウンド在住の中年のおっさんと飲んだだけなのだが、奇妙なテンションでしょうもないダジャレやブラックジョークなんてものでげらげら笑っていた。境遇が似通ったおっさんと俺は終始気が狂ったようにおちゃらけていた。一度名前を聞いた気がするのだが、ずっとおっさんと呼んでいたから忘れてしまった。


 二日酔いで気分が悪い。胃もたれに胸やけ、吐き気が体の内側で大運動会を繰り広げている。体に鎧でも纏っているかのように動きが鈍い。

 酒を飲んでいる時は楽しいけれど、飲みすぎれば嫌な気分にさせられる。そうわかっていながら飲んでしまう中毒性がある魔の飲み物。酒の席で楽しいと思うのは翌日分の気分を前借しているだけで、翌日には二度と酒なんて飲まないなんて気になる。


「げろ吐きそう……。あ、だめかも」


 胃の中に詰め込まれたマスター特性の豪華な飯が外の空気を吸おうと進軍を開始した。喉元を無理やり押し込んで液化した飯達を押し戻す。昨日と同じように魔法鞄から低級のポーションを取り出し、一気に飲み干す。ポーションの効能の激流が反旗を翻していた胃の飯達と体調不良を癒す。


「ふぅ、これでよし」


 平静さを取り戻したがどこか寝ぼけている俺はずっと冒険者ギルドの厩舎に預けているファンタズマを返してもらわなければと思った。脳の歯車が空回りするかのように頭が空っぽで思考停止してしまっている。既視感を感じながらも身支度を整えて外へ出た。


――――――――――――――


 外気を目一杯吸い込み、だらだらと歩いていると段々俺が置かれている状況を再認識し始めた。俺はすぐさま宿屋に戻って荷物を担ぎ、冒険者ギルドへと小走りで向かった。

 胸中は全力疾走で王都から立ち去りたかったがそれでは怪しすぎると思った。街を歩いても捕まることはない。ということは俺の人相や情報がまだ出回っていないことを意味する。指名手配もされていないことで束の間の安心を得る。


 冒険者ギルドに入り、ファンタズマの返却手続きを始める。受付嬢は流れるように書類作業を終わらせ、5分ほどで手続き自体は終わった。


「あと伝言をお願いします。ザクス=ルードに先にゲルニーツァに向かうと伝えてください」


「承知いたしました。タルバ様。ザクス様には可及的速やかにお伝えいたします。恐らく王都を出るまでに追いつくのではないかと思います」


「そんなに急がなくてもいいですよ。大したことではないんですから」


「いえ、ザクス様よりタルバ様が来られた場合、連絡を入れなければただじゃおかないとおっしゃられておりましたので。私たちの保身のためにもすぐに連絡させていただきます」


 受付嬢との会話はこれで終わり、俺は厩舎からファンタズマを引きながら王都の城門へと歩き出す。ファンタズマには全身を覆うような馬具が装備されている。俺がつけていた馬具とは異なるもので、ファンタズマの奇異な容姿を隠している。


 目を凝らしてみれば魔力が微かに流れており、馬具型の魔道具であることがわかる。冒険者ギルドが勝手に冒険者の道具を付け替えるようなことはしないため、大きな魔道具になるほど回収するコストがかかるため、地味に高値で取引されることが多い。あくまでも有用な魔道具の話ではあるが。


 高価な魔道具を買うことができ、俺にあげることができる人間は俺の知る限り師匠かザクスくらいだろう。ウィンティだったらいきなりこんなことせずに確認を取るだろうし、レイは貴族じゃないんだからそんなお金はないだろう。

 

 王宮勤めでも給料なんて高が知れている。高価な魔道具を俺にプレゼントする金銭的な余裕なんてないだろう。ファンタズマのことを知っているのは候補の中ではザクスだけだ。よって消去法でザクスが俺のファンタズマに魔道具を装備させてくれていたということになる。全身を覆う馬具型魔道具であることからファンタズマの外見を隠そうという気遣いをそこはかとなく感じる。


 このまま旅に出れたらザクスに会った時に何かできることをしよう。でもザクスって欲しいものがあれば自分で手に入れられるだろうし、俺ができることって何だろう。それは会うことがあればの話だ。広大な世界だが連絡手段に乏しいため、一度別れれば狙って再会することは難しい。冒険者の場合は冒険者ギルドで照会してもらえれば大まかな位置を知ることはできるが、情報の悪用を防ぐために教えてもらうことはない。


 1等級冒険者であれば別かもしれんが、そこまでして俺に着いて来たいなんて思ってないだろう。俺とザクスはタットルンで偶然会った同業者でザクスは俺のことを大して知らない。そんな知人程度の人間に馬具を送るなんてかなりお金に余裕があるみたいだ。話を聞く限りでは戦うこと以外に楽しみがないみたいだし、ありがたく受け取っておこう。


 外壁までの一本道をファンタズマを引きながら歩く。ファンタズマの外見が露出していないため、周囲をすれ違う人々は何も気にかけない。タットルンでは散々注目を浴びていたが、立場の変化した今では誰にも顔を見られたくないとすら思う。


 ファンタズマが注目されることで俺が目立たないという魂胆だったが、ファンタズマが検問で止められたように容姿が特殊なため安全上の観点から足止めをされることは必定だ。

 検問をしている兵士や職員たちは仕事に徹しているだけではあるんだが、俺にとって不都合が多い。清廉潔白でいられたら気にならないことでも悪行の沼に両足突っ込んでいる俺は忠実な人間を鬱陶しく感じる。


 魔人騒ぎが起きたためか王都から外へ出ようとする人々が長蛇の列を作っていた。俺は外套のフードを被り、顔がわからないように縮こまる。下を向いてどこから見ても気づかれないようにする。怪しく見えるかもしれないが、馬車の中や帽子を被る人もいるため顔が見えないからと言って疑われることに直結するわけでない。商人の中には特定の人間から憎まれているため、街中では顔を隠すというタイプの人間もいるくらいだ。正直憎んでいるなら顔くらい知っていそうで、意味があるとは思えないがそれが商人の護身術の一つとして広まっている。


 5分に1人くらいしか進まないけれどあきらめるほかない。俺の前には10人ほど並んでいる。後姿ばかりしか見えないが商人や旅人、冒険者といった職業の人に見える。女性は俺の列には見当たらない。男性専用の列なんてなかったはずだが、偶然だろうか?暇だから前の2人組の男性たちの会話を盗み聞きでもするか。


「なんでこんなに時間がかかってんだよ……。いつもならとっくに検問終わってヒルドに向かっているってのに」


「仕方ないんじゃないか?伝説の魔人が蘇ったらしいし。それにしては誰も死んでないなんて変な感じだよな」


「別に死人が出なくてもおかしくないだろ。むしろ喜ばしい話じゃないか」


「魔人って魔王と手を組んで人類を滅ぼそうとしたじゃないか。そんな危険な存在が勇者の剣に液体をかけて魔法学院をボロボロにしただけで済ませるのか?勇者の剣以外魔人の存在を知らなかったんだから、いくらでも殺すことはできただろ」


「もしかしたら優しい魔人だったのかもしれないじゃないか。そんなに気にすることか?」


「おいおい平和ボケでもしたのか?魔人の目的が不明で力を誇示するために魔法学院を吹き飛ばすような化け物だぞ?今回の目的が別にあったのか、これが前座としか俺には思えないがな」


「これから本命がくるってことか?猶更王都にはいられないじゃないか。魔法学院の件はそれで説明つくが、勇者の剣はなんでだ?」


「そんなもん決まってんだろ?人類の救世主の残した剣を汚すってことは宣戦布告って専らの噂だぜ。だが勇者の剣が魔人を見ているらしいから人類のいる場所に潜むことは難しいんじゃないか?」


(おいおい、マジかよ。そんな大層な野望を抱いて侵入してないって!ちょっと国家予算レベルの貴重品パクって隠蔽しようとしただけだって!)


「魔人も終わったな。この王都には1等級冒険者の『怪物』や『雷剣』が殲滅するだろう。それに魔法学院には『死魔』のヴェラゴ=ジャラガがいるんだぞ?どれだけ魔人が強かろうと『死魔』には勝てないさ」


(ザクス、『雷剣』どちらかだけでも戦ったら負けるのに、師匠まで!?でもよく考えたら師匠のマジックパスを使ったことはばれているはずだし、責任の所在はマジックパスを盗まれた師匠に行くよなぁ……。そこまでは考えていなかった)


「人類に喧嘩を売り、王国最強の魔法使いのテリトリーを荒らしたんだ。魔人が見つかれば王都はよくて焼け野原、悪くて更地になるんじゃないか?」


(王都が消し去る前に俺の命が尽きちゃうよ!魔人になったらしいけど、翼も生えないし強くなった感じもしない。魔力が上がっただけで生まれてから世話になってきた人類と決別するなんてデメリットしかない。誰か魔人の説明書でもくれよぉぉぉ)


 男たちはジョークを飛ばしながら他愛もない雑談を始めた。彼らの真後ろにいる噂の魔人は下を向いたまま顔を上げられないでいた。

 検問では魔人であるか確認をする魔道具があるだろう。何十分と並び、もうすぐ検問というところで踵を返すフードを被った存在はどのように映るのだろうか。後ろをちらっと見れば30人以上の人間が列をなしている様が蛇のように見える。ここ数日の内に何度腹を括ったのかわからないが、また俺は覚悟を決めるしかないようだ。


 ここまでくると運よくなんとかなるんじゃないかって思える。勇者の剣に立ちションしても俺についての情報が出回るのは遅いし、魔法学院も事故とはいえ脱出できたんだ。

 検問も時間がかかっているのは荷物のチェックを入念にしているだけなんだろうと思い込めばおかしな話でもない。もしかしたら魔法学院でジグライトがなくなったという情報を受けて、ジグライトを探しているのかもしれないが、本物のジグライトは俺の剣に『圧縮』されて合体しているのだから見つかりようがない。

 そもそも魔人を判別する魔道具があるのではと怯えていたが、御伽噺レベルの魔人を判別する魔道具が果たしてあるのかと言われれば疑問が残る。


 世に出回っている魔人の情報は曖昧ではっきりとしない。新聞に書かれている魔人は翼が生えてしっぽがあるとかないとか悪魔に類似しているなどの記述が多い。

 各新聞社で言ってることに齟齬があり、時には矛盾している説明もある。新聞社の場合はどれだけの人に自社の新聞を読んでもらえるかが重要なため、正確な情報というよりも人目を惹く内容がいいみたいだ。心の整理をしていると不意に前から声がかかる。


「次っ!早く前に進め!」


 遂に俺の出番のようだ。俺は運を信じて胸を張り、肩で風を切りながら堂々と検問に向かった。歩きながらフードを外し、検問に協力的であることをさりげなくアピールすることを忘れない。自分のことで手一杯だったがファンタズマはずっと寄り添っていてくれたようだ。今は心強い。もしもの時はファンタズマに乗って一点突破だ。


「身分証を呈示しろっ!」


「冒険者証でお願いします」


「確認する。冒険者タルバ、数日前来たようだが短い滞在の理由はなんだ?」


「依頼に同行して王都に来ました。知り合いに挨拶が終わったので当初の目的であった旅に戻る予定です」


「隣の馬はお前の馬か?」


「はい。ヒルドで購入した馬型の魔物です」


「その馬具、、、魔道具だな?それはなんだっ!?」


「それが冒険者ギルドから返却された時にはすでにこの馬具が取り付けられていたのです。効果もわからないため、つけたままにしております」


「それは危険だ!魔人の新たな布石かもしれない!馬具を改めさせてもらうッ!」


 ファンタズマの馬具が取り外され、ファンタズマが白日の下に晒される。馬具を外した時の驚愕の表情は目に焼き付いた。俺とファンタズマは検問をしていた王都の警備兵に取り囲まれた。


「貴様の馬は明らかに一般的な馬型魔物ではないッ!貴様は何者だッ!」


「確かにファンタズマは一般的な馬型魔物ではないですが、ヒルドの馬貸しに聞いてもらえばわかることです!。俺は人間です、信じてください!」


「見たこともない馬型魔物に効果不明な魔道具の馬具、貴様の居た期間に事件が起きていること、そして事件が起きた直後に王都を出ようとしている怪しさ。貴様が魔人かッ!?」


 疑わしさ満点の俺とファンタズマがすんなり出れるとは思っていなかったが、まさか警備兵の名推理で事件の犯人と推測されることは考えていなかった。

 それか他の出発しようとしている人たちに同じように聞いているのかもしれない。きっと警備兵たちも些細なことに敏感になっているだけだ。魔人であることも犯人であることも事実のため、パッションで無実を訴えるしかない。


「さっき言った通りファンタズマはヒルドで馬貸しから購入しました。馬具に関しては依頼で一緒になった1等級冒険者ザクス=ルードが買ったものだと思います!。短期間で出発するのは王都にようがなくなっただけです!」


「だから用がなくなったというのは事件を引き起こし終わったからだろッ!言い訳に1等級冒険者の名前を使うなッ!」


「事実ですッ!冒険者ギルドで確認してください!俺は事件なんて起こしてないんだ、魔人じゃないんだ、信じてくれよぉぉぉ!」


 溢れ出る情念で何とか説得しようと試みる。王都に来るまで散々な醜態を晒しているのだから、恥も外聞も無い。出せるものだったらなんでも出してやるという覚悟の表れでもある。面子やプライドは無価値でしかない。人間もやめているんだから人間としての尊厳に固執する必要もない。


「今すぐ確認を取るが、貴様を拘束させてもらうッ!勢いで誤魔化そうとして無駄だッ!無実だというならおとなしく拘束されるんだなッ!」


(形勢はすこぶる悪い。ファンタズマは王都に入るときに許可を貰えている以上、大丈夫だろう。問題は俺のほうだ。こうなったら注意を別の何かに集めるしかないッ!今やるんだッ、ここでッッ!!)


 煙幕玉や炸裂玉は補充ができていないから選択肢にはないため、俺が注意を引けそうな道具は持っていない。だが誰もが注意を向けざるを得ないことが一つだけできる。


 俺は下着の内側に親指をかけ、下半身の服を脱げるように準備する。警備兵たちは俺の一挙手一投足に注意を払っているため、俺がやることで隙を作れるだろう。服を下げた瞬間に捻りださなければ強制的に拘束される。

 であれば、腹を殴ってでも押し出すしかない。幸い、今日はトイレに行ったが小しかしてないのだ。昨日食ったものが今日の秘密兵器に進化した。刮目せよ!これが魔人タルバの切り札だッ!。


 俺が大きく息を吸い込んで服を下げようとした瞬間に、警備兵と俺の間に割って入る人影がいた。


「下がれ。貴様らが行おうとしていることは許容できない。もう一度言う。下がれ」


 俺の前には見覚えのある巨漢の男が立っていた。赤みがかった茶髪に2m以上の背丈、丸太のように太い手足、体格とアンバランスに思える整った顔立ちをした青い眼の青年。2日前に別れたばかりのザクスが俺を守るようにして警備兵を見つめていた。冷静だが声色に怒気が混じっている。


「貴様、何者だッ検問の邪魔をすれば王国法に則って裁かれることになるぞッ!」


「裁けるものなら裁いてみればいいだろう。1等級が全力で戦えば王都など消し飛ばすことも容易だ。貴様らが束になろうが時間稼ぎにもならんだろうな」


 隔絶した実力から齎されるザクスの自信は有無を言わせない説得力があった。警備兵は運悪くザクスのことを知らないようだ。俺はザクスがスタンピードを一人で片づけた事後処理をしたからわかるが、正面から戦えば1秒後には塵になって消えてしまうだろう。

 王都に来るまでの道中では魔物をぶん殴って爆発四散させていたから、頭でも殴ればシャボン玉みたいにパンッて潰れそうだ。強者の持つ強さと実績は不当な弾圧に対抗するためにあるのかと錯覚する。まぁ今回の場合、全ての元凶は俺で間違いないんだけどね。


「隊長ッ、彼は1等級冒険者ザクス=ルードです!『怪物』の異名を持つ王国内最強の冒険者の一人ですッ!落ち着いてください!」


「なっ何ッ!それは本当か?」


「確認したければ冒険者証を出そう。冒険者ギルドにも確認してもらっても構わない。だが俺の後ろに控えるタルバは魔人ではない。タットルンで出会った時から彼の実力は把握している。少なくとも魔法学院の一件を引き起こせるとは到底思えない」


(庇ってくれるのはありがたいけど、若干傷つく言い方だな。おじさん悲しくなってきた)


「それは1等級冒険者が保証するということで相違ないかッ?タルバというそこの男が今回の事件の首謀者でないと貴殿が担保するということでよろしいのか?」


「あぁ、それでいい。だから通らせてもらおう。俺たちは先を急ぐのでな」


「承知した。それでは一時的に預かっていた馬具の魔道具も返却させていただく。通っていただいて結構だ」


 そう言い残して警備兵の隊長は去っていった。俺の身体検査も行わず、ザクスも素通りでファンタズマを引きながら王都を無事に出ることができた。昔憧れた1等級冒険者の地位というものは伊達じゃないことを実感する。全部俺が悪いんだけど、ザクスには感謝しかない。当分は感謝し続けよう。あと馬具のお礼もしなければな。

 外壁をでてファンタズマに跨る。ゆっくり歩きながら、俺はザクスに声をかけた。


「ありがとな。助かったわ。あのままだったらどうなったことやら」


「気にしなくていい。旅に同行したいと申し出たのは俺だ。それに魔人が出たからと言ってあの警備兵たちの行いは度を過ぎている。たとえ王都には世話になったとはいえ、次はない」


「そんな大げさな。あとこの馬具はザクスがくれたものか?」


「そうだ。ファンタズマの見た目は注目を集めてしまうからな。金に余裕もあったから今後の旅のための先行投資だ。気にしなくていい」


「そんなこと言われてもはいどうですかとはならないだろ。なんかお礼するから期待しないで待っててくれ」


「そこは期待して待ってろと言うところだとおもうが、楽しみにしてよう」


「だから楽しみにするなって。それはそうとこの馬具の魔道具は何の効果があるんだ?」


「この馬具型魔道具はダンジョン産のものみたいだ。馬のサイズに合わせて自動的に大きさを調節し、どの馬にも装備することができる優れモノだ。ファンタズマでも問題なく装備できると思ってな」


「おお、思いのほかいいものじゃないか。ファンタズマの外見もカバーできるし一石二鳥だな」


「それだけじゃない。この魔道具には魔法鞄と同様の異空間にものを収納することができる。俺が持っている魔法鞄であればいくらでも収納できるが、貸すわけにはいかない。旅を快適にするには必要な物が多い。だから買っておいた」


 ザクスが買った馬具型魔道具はサイズの自動調節機能に加えて魔法鞄が付属しているようだ。ご飯を奢るなんて程度では済まないほどのプレゼントをくれたことに驚きを隠せない。なぜならザクスはファンタズマに乗らないのだ。こいつはどこまで俺の旅についてくるつもりなのだろうか。


「そんな高価なもの、普通プレゼントなんてしないんだけど1等級冒険者は違うのか?」


「金額は問題ではない。もちろん見ず知らずの他人に贈り物をするつもりはないが、必要な装備に金をかけない冒険者はいないだろう」


「それはそうだけどさ、相場ってもんがあるだろ」


「一般的な冒険者の相場など知らない。俺は金に困ったこともなければ足りなかったこともない。必要になれば依頼をこなせば調達できる。使ったのであればまた稼げばいいだけじゃないか」


「そういう発想は1等級冒険者らしいな」


 王都を旅立った俺は連日の悪夢のような現実から抜け出した。狭い籠から解放された鳥のように羽根を伸ばそう。向かうは古の勇者が食べたとされる「刺身」がある南の港町、ゲルニーツァ。王都では古の勇者の剣である《海誓山盟》に悪戯をしてしまったわけだが、決して古の勇者が嫌いになったわけじゃない。あの剣がふざけたことを抜かすからあいつの言葉通りやりたいことをやっただけだ。俺は悪くない。


 タルバは秘密兵器を使わずに済んだことに胸をなでおろしながらザクスに一般的な冒険者というものについて話をした。雲一つない青空に雪が残る道を2人と1匹は進む。


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