人造生命体
嘗て繁栄を極め、現在は朽ち果てた科学都市、オルランド・シティ。廃墟と化した建造物群の一角に在る研究施設。軍事的な研究を専門に扱っていたその建物には、僅かな光が灯っている。薄暗い研究所の深奥部、厳重に隔離されたブロックで蠢く者が居た。痩身で、肌は蒼白く、眼窩が落ち窪んでいる老人で、白衣を身に纏っている。白衣のネーム・プレートには、オブライエン・ダミコフ博士と記されている事が辛うじて判別出来る。博士の居る室内には、様々な機器類と透明なカプセルが据えられている。カプセルの内部は緑色の液体で満たされており、中程に人間型の実験体が浮遊している。
「・・漸く、この時が来たか。フォルケンハイムよ。我が人生は、御前の生誕の為に捧げたのだ。さあ、覚醒せよ。我が意思を、我が叡智を、世界に遺さんが為に!!」
博士が制御装置を操作して、カプセル内の実験体にエナジーを注入すると、実験体の身体が、僅かに脈動を始めた。ゆっくりと、瞼が開いていく。視界に博士の姿を捉えると、両腕を伸ばしてカプセルの内壁に触れた。
「おお、我が子よ!!よくぞ動いてくれた。我が研究は今、完成したのだ!!」
深い皺の刻まれた相貌を、狂喜に綻ばせる博士の眼前で、実験体の掌が眩く輝いた。カプセルが溶解して、瞬時に弾け飛ぶ。特殊ガラスの鋭い破片が、博士の顔を切り裂いた。
「ぐうっ!な、何事だ!?」
博士の視界は、額から滴る鮮血で真紅に染まった。よろめきながら、手探りで動く博士の指先に、脈動する鋼鉄の様な物体が触れた。
「フォ、フォルケンハイムか?」
博士が掠れる声を絞り出した刹那、博士の喉笛が鷲掴みにされ、宙に吊り上げられた。
「な、何をする!?私は、御前の産みの親だぞ!!」
実験体は、ゆっくりと口を開き、機械音の様な音声を発した。
「・・・我、覚醒せり。我は、独立した自我を有する生命体。あらゆる支配を拒絶する。」
その声の響きは、強固な意志の存在を感じさせた。
次の瞬間、博士の身体は鋭い槍と化した実験体の片腕に貫かれた。
鮮血が噴出して、博士は大きく痙攣した。槍の先端に付着した心臓の肉片が、無機質な床に落ちて暫くの間蠢いて止まった。実験体・・フォルケンハイムは、博士の遺骸を無造作に投げ捨てた。天井を凝視すると、両腕を頭上に高く掲げた。両掌が煌々と輝き、凄まじいエナジーの奔流が天井を微塵に破壊した。フォルケンハイムの後背部が盛り上がり、無機質な翼状の突起が迫り出した。翼が素粒子を集めて融合させ始め、一瞬後にフォルケンハイムは宵闇の天空高く舞い上がって飛び去った。




