8話 友人の意見は大事です
翌日、久しぶりに外出をする為に他所行きに着替えるとアロンはすかさず
「どこへお出かけです?」
と聞いてきた。
「エミリー、友達よ。
ほら、あなたも知り合った時に一緒だった子いるでしょう。
その子よ。
夕方には帰るわ」
と告げるが
「お供します」
と彼は乗り気だ。
「ショッピングに行くんじゃないから荷物持ちなんていらないわよ」
馬車を用意してもらえれば充分。
あとの事はエミリーの屋敷の人達に任せればいいのにアロンは
「私はマーリン様の執事ですので」
としつこい。
「なんのつもり!?」
小声で彼に突っかかる。
「僕を連れて行けば友人とやらに愛人だと紹介ができるだろう」
と子供がいい事を思いついたという顔をしている。
がー、私にはただの馬鹿にしか見えない。
「だから執事を愛人って言う令嬢なんていないわよ」
♦︎
と、彼には言い聞かせたのに彼はしつこく私に着いてきた。
案の定、エミリーは私が執事を引き連れて来訪した事と彼の美貌を賛辞した。
「あなたは馬車で待ってなさい」
と命令したがエミリー反対する。
「大丈夫。彼には別室を案内させるから」
エミリーはそう言うとメイドを呼び、アロンを別室に案内させると彼女と2人きりになった。
「急に来てごめんなさいね」
「大丈夫よ。夫も出掛けてるわ。
それよりもマーリン、あんな素敵な執事がいるなんてどういう事?」
と目を爛々と輝かせ聞いてきた。
(どこから話そうかしら?
確かギルにアロンとして紹介された時はエミリーと遊んでいた時に知り合って私が彼を助けた事になっているのよね)
「仮面舞踏会があったでしょう?
あの後、会場から出たら彼がいて。
仕事でミスをしてクビになるかもって話をしていたからうちの屋敷に来ないかと提案したのよ」
「ミス?
彼って優秀に見えるけど」
鋭いエミリーは何気なしに返すが、何とか話題を変える。
「まあ、いいじゃない。
それに今日はエミリーに相談があったの。
この間の愛人を探してるって言った件よ」
「ええ!進展があったの?」
彼女はまだ何も言ってないのに嬉々としている。
「もし、とある人に好かれていると言ったらどうする?」
ズバリ、彼女に聞いてみる。
「まあ、やっとマーリンの事を愛してくれる人が現れたのね!」
やったじゃないと彼女は私以上に喜んでくれて私も一緒に喜びたいが補足を付け足す。
「待ってエミリー、彼はあくまで愛人を所望よ」
そう告げると彼女はなーんだと肩を落としてしまった。
「マーリン、こんな事言いたくないけどあなた自分からこじらせてるわよ」
エミリーはズバっと忠告する。
そんな気は私もしていたけど実際にされると耳が痛い。
「まあ、話だけ聞くわ。
どんな方なの?」
「黒髪で背が高くて」
「もしかしてこの間、舞踏会にいたお方?」
また、彼女は驚いた表情で私に聞く。
「そうよ」
するとエミリーは不満があるのか
「あんな彼でも愛人を欲しがるなんてー。
本当世の中嫌な男だらけなんだから」
と私の心中を代弁して吐露してくれたかと思ったら
コホンと咳払いをした。
「ああ、聞くだけって言ってたわよね。
続けて?」
「だから、エミリーとしては愛人として彼はありかしら?」
「私は価値観はともかく、家柄よね。
家柄によってはギルバート様と対等じゃなきゃね」
(確かに)
貴族達が愛人を持つ事はステイタスという価値観はあるものの、こじれた時がややこしい。
特に自分の家柄よりも下の家柄の者が愛人になった場合、パートナーに他の貴族の前でどういう事だと責め立てられると家柄に泥を塗って痛い思いをするのは自分ではなく愛人側だ。
愛人側の家の評判は悪くなり、爵位は落ちる事にもなる。
ギルは伯爵。
私も結婚前は伯爵家の一人娘だった。
私がギルの不倫を皆の前で大ごとにしなかったのももし、このまま離婚しない状態が続いた場合にはギルや私の実家、双方の家に泥を塗る事になるからだ。
でもー。
「それだったら大丈夫よ。
夫公認だし。
愛人になりたいって言ってる人は伯爵だから」
「あら、じゃあギルバート様とはマーリンを巡って戦える相手なのね」
よかったじゃないとエミリーは笑う。
「戦うって。だからギル公認なのよ」
戦うも何も愛人なら取り合いにもならないわと笑うがエミリーはそうじゃなかった。
「どうしたの?」
彼女が塞ぎ込むなんて珍しい。
「マーリンから恋話を聞けて嬉しいけど、愛人って聞いて少し悲しくなったの。
マーリンは新しい恋をしてさっさとギルバート様とお別れして幸せになって欲しかったから」
「エミリー」
彼女がそんな風に思ってくれていたなんて思わなかった。
「でも、愛人と新しい恋ってどう違うのかしら?」
思ったままを答えるとエミリーは肩を落とした。
「だこらあなたこじれるのよ」
「だってそれって離縁をしなさいって事でしょ?
バツが付くのよ」
「でもそんなんじゃ一生離縁できないわよ。
ギルバート様もあなたを舐めていすぎよ!」
確かに。
(エミリーの言う通りだわ)
答えが出ないまま、私はエミリーに礼を言うとアロンを呼んでエミリーの屋敷を後にした。




