9話 魔法使い伯爵の領地へデート?
「どうした暗い顔をして?」
帰りの道中、アロンは私の顔色を伺う。
自分の事も分からないけどアロン、デミトリアスの事を私は何も分かっていない。
「あなた自分の領地はどんなとこなの?」
「なんだ急に。
そんなに僕の事を知りたいか?」
からかっているのか恋の駆け引きなのか分からない質問返しについムッとして
「べつに!
ただ、素性の分からない人を雇うのはどうかと思っただけよ」
と返す。
「まあ、確かにそなたからしたら僕はただの怪しい男と思われても仕方ない」
「今更?」
ここに来てやっと私の話をまともに取り合ってくれた気がして胸を少し撫で下ろした。
「よし。まだ昼過ぎだからちょうどいい。
今からそなたに我が領地を案内しよう」
アロンはいきなり私に提案する。
「今から?
そんな急に言われても困るわ!
私、着替えとか何も準備してないしギルや屋敷の者達にも何も言ってもいないしー」
そう言いかけるとアロンは私の口に指を当て
「僕を誰だと思っている?
魔法使いだと言っているだろう。
長距離移動くらい魔法で容易くできる」
そう心配するなと言う。
「今から行って夕方にでも帰ろう」
まるで遊びに誘うかのように提案する。
「できるの?」
「僕を舐めてもらっては困る」
そう言われたら私は断る訳にはいかない。
そうして一旦、馬車には街外れに送ってもらい、私とアロンは日が暮れる前にまたこの場所に来るよう
御者に伝えて別れると人の気配がない場所へ移る。
そしてある大木の前に来るとアロンの姿から変身を解いたデミトリアスが呪文を唱えてしばらくすると
突然、何もない林だった場所が瞬きをするとカラフルな街並みが現れた。
不思議な事にはこの場所には初めて彼と出会った時に見えた蛍みたいな光が昼なのにところどころに浮かんでいた。
「それは魔力の粒だ」
不思議がっている私にデミトリアスが答える。
「魔力の粒?」
「僕の周りにもあるだろう?」
そう言われると彼の周りにはいくつかの粒が舞っていた。
「ここは魔法使いが住む街。
すなわち僕みたいな者が多く住んでいる。
だからその分、その数もここでは多い訳なんだ」
「へえ。
じゃあ、田舎に行けば少なくなるのね。
あなたが住んでる場所はどうなの?」
「僕が住んでる屋敷はここから離れた場所になる。
まあ、そこには後で案内するつもりだったがそなたはどちらから行きたいか?」
「選んでいいの?」
「かまわんよ。
どうもそなたといると街で声を掛けてくる子どもに見えてしまう」
「どういう意味かしら?」
一応、貴族教育を受けた淑女よと言いたいがそういう事じゃないらしい。
彼はやれやれとため息を吐いて先を歩く。
「待ってよ。
選ばせるって言ったじゃない!」
アロンの時は私の後に着いていたわよと小言を言いながら彼に追いつこうと私は歩みを進めた。
♦︎
魔法使いの領地は何もかもが新鮮だ。
「これ、すごく美味しいわ」
カフェのテラス席でケーキセットに舌つづみをした。
「ここはこの街で指折りの喫茶店だからな」
「当たり前だけど、この領地はみんな魔法が使えるのよね」
私はさっき、魔法を使って空中でポットからお茶を淹れてくれたウエイトレスを見て改めてここは本当に魔法使いの領地だと実感した。
「ああ。
皆各々が得意とする事を研鑽し、魔法の腕を磨き商売をしたり仕事をしている」
「へえ。
確かあなた副業で占いをしていたんだったかしら?」
なんでもこなす彼をこの際だとからかう。
「なんだ占ってもらいたくなったのか?
金貨は持ってきたのだろうな?
この間も言ったが恋愛運は良くないぞ」
「なんでよ!
そもそも私、恋愛運を見てなんて頼んでないし」
「しかし図星だろう?」
「うう・・・」
悔しいけど言い返せない私はケーキを食べ終え、デミトリアスとお店を出た。
♦︎
「ここが僕の屋敷だ」
「わあ!」
目の前の黒い真鍮の門の奥には白亜の豪邸があった。
広い庭の花壇には季節の花が咲いていた。
そして更に私を驚かせたのは正面の入り口にいたたくさんの召使い達だ。
彼らは人型だがシルエットが光ってるだけにしか見えない。
しかしデミトリアスが今帰ったと言うと光るシルエットはきちんとお辞儀をする。
「彼らも全て家にかかってる代々ある魔法だ。
僕以外の家でも貴族なら使える」
「家にかかった魔法って、一体誰が?」
「さあ?この屋敷を建てた時に先祖がかけたと父や母が言っていたような」
「そういえばあなたご家族が家にいるんじゃない?
急に来てよかったのかしら?」
「心配ない。
両親は鬼籍だからな」
「心配ないって」
なんだか申し訳ない事を聞いた気がした。
「ここには客以外なかなか来ないからそなたは久しぶりの客といったとこだろうか」
「何よそれ」
心配して損したと思ったが彼が気を遣ってくれたのだろうか。
私は彼と召使いと応接間に通された。
♦︎
「では、久しぶりの客の相手をしよう」
しばらく屋敷の使いが淹れてくれたお茶を味わった後、デミトリアスはからかうように占いを開始した。
「ちゃんと占ってよ」
「分かっている。
今回は手相にしよう。
手を出してくれるか?」
「こう?」
私は両手を出すと彼は私の手を取りジイっと見る。
「どう?」
「よくも悪くも優柔不断だな」
「もっと具体的にお願い!」
そんなのありきたりだ。
「知能線が下向きだ。
一緒にいる者の影響を受けやすい。
よってそなたのパートナーや友人になる者は誠実な者が良しとする」
(うっ!友人はともかくパートナーの事は耳が痛いわ)
「他は?」
「金星丘の真ん中にほくろがある。
結婚生活が上手くいっていない証拠だ」
「そんな事も手相に出るの!?」
「ああ。
他の客でもそうだが実に色々な事がある」
「悪い事ばかりね。
アドバイスとかないの?」
「そうだな。
結婚線が2つあるだろう」
「2回結婚するって事?」
「まあ、その可能性もあるという事だ。
なんだそなた手相を独学していたのか?」
「たまたま気になって占い本をかじっただけよ」
「なるほどな。
まあ、そもそも恋愛なんて己に自尊心があれば悩まない」
「何それ?
占い師がお客に言う事かしら?」
「大抵僕のとこを訪れて複雑愛で悩んでる者はみな1人になるのを恐れている者が多い」
彼の言葉にギクリとする。
『あなた、こじらせてるわよ』
さっきのエミリーの言葉を思い出す。
私の両親は優しかったし良くしてくれた。
でも互いを本人がいない場所で罵り合っていたのも事実だ。
気の利かない父様には母様が
「あの人ったら本当に分からない人」
そんな溜め込む母様に父様は
「すぐに癇癪を起こすな。
煩わしい」
離婚こそはしなかったものの私は2人をいつも夫婦なのにどうしてと疑問視していた。
でも今なら分かる。
私がいたから離縁しなかったのだ。
分かってる。
デミトリアスの言いたい事が。
「でも、しょうがないじゃない」
私は何に対して言い返してるのか分からなくなった。
ただ分かるのは涙が溢れ出して頬をポタポタ伝う事だ。
「ーっ!すまない」
彼にハンカチを急に渡され涙を拭く。
そうしていると彼はトレーとカップを持っていき部屋を出ようとしていた。
「どこに行くの?」
「キッチンだ。
なあに、すぐに戻ってくる」
デミトリアスは私の頭を子どもをあやすみたいに撫でるとそのまま部屋を出て行った。
「お茶なんて魔法で淹れていたじゃない」
メイドに淹れてもらえばいいのにとも思ったが。
(急に泣いたから驚かせたかしら?)
彼が戻ってきたら平然としとかなきゃと私は思った。
♦︎
落ち着くとしばらくして彼は私に新しい紅茶を私に出した。
「気を遣わせたわね」
「いや、僕もすまなかった。
それにそなたの意見も分からなくもない。
両親は両方とも鬼籍だが僕だって生きていたら縁談があってもおかしくないからな」
「そうよ。
結婚は家のつながりよ」
「否定はしない。
でも、相手が己を不当に扱うなら実家にでも帰るなり長く続くなら別居なり何でもするといい」
「離婚しろとは言わないのね」
「今はクライアントだからな。
占いでもない、長く生きた経験者のアドバイスだ。
まあ、僕は今まで結婚した事はないがな」
「ふふ、何それ」
適当な彼の発言につい笑ってしまう。
「やっと笑ったな」
彼もさっきの反省顔からやっと笑顔になったみたいだ。
「そうそう、そなたは僕にした方が幸せになると名前占いでは出ている」
「また、調子のいい事言っちゃって。
前から思っていたけどあなたってナルシストよね?」
「今更だな。
まあ、すぐにとは言わないよ」
(え、口説いたのは本気なの?)
てっきり笑って冗談だと返されると思っていたのに。
私は彼の屋敷を出た後も、なぜかずっと彼の言葉が真意をずっと考えていた。




