6話 私は愛人を所望です
「どういうつもり?
私は執事じゃなくて愛人を募集しているの!」
部屋に戻るなりアロン、もといデミトリアスに詰め寄る。
「いいじゃないか。
いくらでも姿かたちは変える事ができるぞ。
それに銀髪の紳士をそなたは所望したではないか」
「だからってなんで執事なのよ?」
信じられないとため息を堪らず吐く。
「まあ、そなたの夫がどんな奴か見たくてな。
先入するにはこれが一番と考えてこの様なかたちをとった。
しばらくしたら解雇でも何でも好きにするがいい」
「はあ」
(まあ、こっちの都合で動いてくれるならなんでもいいか)
「仕方ないわね!」
ちょっとアロンの姿がタイプなのが癪だけど、割り切り私はデスクに向かい仕事道具の帳簿に向き合う。
「何をしている?」
「見てのとおり、ここの領地の帳簿付けよ。
月末が近いから今日は忙しいの」
「全部そなたが1人でか?補佐はどうした」
「いないわよ」
いや、最初はいたが徐々に夫ギルの指示で管理者が私しかいなくなったのだ。
「どれ、手伝おう」
アロン、もといデミトリアスは急に補佐を名乗り出た。
「あなたには任せられないわ」
「何故だ?」
彼は不満そうな反応をした。
「だってあなたデスクワークは苦手なタイプに見えるし。
占い屋を副業でしてるって言っていたし、とてもじゃないけどどんぶり感情なイメージだもの」
「ぐう、悔しいが否定できない」
彼は私に図星を食らったからか不服そうだ。
でも彼の善意を無駄にはできない。
「帳簿付はいいから休憩の時にお茶やお菓子を持ってきてくれない?」
「分かった。僕が淹れる紅茶は美味いぞ」
「本当?楽しみだわ!
うん。なんかこの感じ。執事って感じね」
そう笑うと彼はピタッと動きを止めた。
「待て。さては僕をからかったのか?」
「いえ」
と否定するけど私は笑いを必死に堪えていた。
「覚えておけ。
僕をからかうとはいい度胸だ。
貴様は僕の紅茶に驚いてすぐ腰を抜かすだろう」
と宣告される。
「私、紅茶淹れてって言っただけじゃない」
大袈裟ねと思ったが後で彼が淹れた紅茶は腰は抜けなかったが驚きのあまり一口飲めば息が止まった。
(美味しいわ!)
舌鼓をしていると彼はそうだろうと上機嫌になった。
(思ったより早く片付きそうだわ)
そうして月末。
思いの外、早く仕事が終わった私は中庭で読書をしているとメイド達の浮かれている声を聞いた。
どうやら裏で洗濯物を干しているのだろう。
「アロン様って素敵よね。
どこのお国から来られたのかしら?」
「確かにそうよね。
言葉だけじゃなく、執事としても完璧だし以前も執事をしていたのかしら?
休憩がもっと被れば聞いてみようかしら?」
「え~、じゃあ私も一緒の時がいいわ」
「抜け駆けなんてしないわよ」
「本当にい?」
銀髪と紫がかった珍しい目の色と柔らかい眼差しに執事として完璧な立ち振る舞いにデミトリアスもといアロンはメイド達からたちまち人気になってしまった。
(顔と淹れるお茶は確かだわ)
そしてやはり、物腰が柔らかい中性的な外見に年頃の女性が惹かれるのも納得だ。
(まあ、でも魔法使いなんだけど)
彼は今は私の執事だけれどお茶や私の急な呼び出し意外仕事はない。
着替えはメイドの仕事なので普段は仕事は与えてない。
じゃあどこにいるかって言うと、
「にゃーん」
私の足元で黒猫になって日向ぼっこをしている。
「全くもって魔法って便利ね」
と声を掛けるのだった。
その日の夕食前には早い時間、彼はメイド達に囲まれていた。
「アロン様、気になっていたのですがここに来る前はどちらに?」
「差し支えなければどちらのご出身かお聞きしてもいいですか?」
メイド達は彼に興味津々だ。
「ここよりも北のノルヴァールの領地の屋敷の屋敷に仕えてましたが主人が先日亡くなってしまい、新しく執事の探していたらマーリン様にお声掛けをしてもらってこちらに来ました」
スラスラ勝手にありもしないストーリーを作る彼に私は呆れた。
「ああ、だから奥様に助けられたと言っておられたんですね」
「はい。
それに北の方では色素が薄い者も多く、私のように異国のハーフも多いのです」
「まあ、そうだったんですね」
メイド達は納得したように頷くが全て作り話だ。
(悪い男の一面を見た気がするわ)
と自室に入ろうとした時、アロンがメイド達に質問をした。
「そう言えば旦那様はいつも外出していますが領主はそんなに出張が多いのでしょうか?
帳簿はマーリン様が付けていらっしゃいますが?」
と探るように聞いた。
「それが」
ララが事情を話そうとするがリリーがちょっと!と
注意する。
「何かおありなんですね?」
とアロンは問う。
するとリリーは諦めてララが
「実は、旦那様は仕事ではなく奥様以外の女性とも外で会っていらっしゃるんです」
「なんと!それは不倫という事じゃないですか」
「はい。大きな声では言えませんが」
(メイド達は私がまだギルに愛人を作れと言われた事は話してないし、彼女達の中ではグレーな旦那を不審に思ってる奥様という認識なのよね)
「マーリン様は黙認してらっしゃるのですか?」
「奥様は不審がっていますが、旦那様に何も仰らないのです。
私からも何も言えませんし」
「奥様はずっと悲しんでおられるように見えるわ」
(え?)
リリーの発言に驚いた。
(私、そんな風に見えていたかしら?)
少なくとも、メイド達の前では取り乱さないようにしていたはずだ。
「私はマーリン様のもの。
直接、旦那様には物は申せなくとも精一杯マーリン様が笑えるように尽力致します」
「はい!」
「ぜひ!奥様もアロン様が来てここ数日機嫌が良さそうですもの。
よろしくお願いします」
茶番みたいな会話に流石に恥ずかしくなる。
「丸聞こえよ」
とアロンやララ達の前に出ると
「奥様!?」
と驚かれる。
「ギルが不倫をしているのは知ってるわよ」
その発言にララとリリーは動揺した。
「申し訳ありません。
私達から奥様にお話しする事ができず」
「いいのよ。
ギルを許すつもりはないけど、今は私はここの伯爵夫人だから仕事はするつもりだし」
「奥様」
「大丈夫よ。
心配してくれてありがとう」
ララとリリーは目を潤ませた。
「私も、マーリン様により一層尽くせるよう尽力します」
アロンがすかさず一礼をする。
「ハイハイ、分かったから。
恥ずかしいからやめて」
彼を適当にあしらったが
「奥様、アロン様が奥様に本気で元気になってもらいたいとお思いですわ」
と念押しされる。
「気持ちだけ受け取るわ」
そう断り部屋に戻る。
(たしかにタイプの顔で言われると心臓に悪けど私はただミーハーなだけ!
そもそも採用したのは執事としてよ!)
「そうよ。
私に必要なのは新しい執事よりも私を理解してくれる愛人よ」
そう呟き、私は夕食まで胸に湧いた戸惑いを鎮めていた。




