4話 彼は自称 魔法使い
「乾杯」
彼の提案で私達はホテルのバーに移った。
高い景色から見る街並みを見ながらのお酒なんて中々ないから楽しい。
「ごめんなさい。わざわざ誘ってもらって」
「そなたは恩人だからな。腹が減ってるなら食べ物も遠慮なく頼むといい。
しかし、よかったのか?
そなたは他の者達から声を掛けられていただろう?」
「いいのよ。
どうせ皆好奇心だもの」
投げやりにそう言ってワインを一口飲む。
「あなただって会場に残らなくてよかったの?
ご令嬢達に声を掛けられていたわ」
「いや、巷ではこういった界隈があると聞いて雰囲気を知りたかっただけなんだ」
(貴族の第二の出会いの場だものね。
という事は彼も誰も出会いを探してるとか?)
会場を去るとき仮面は返したから今は私達は素顔だ。
ワインやつまみを楽しむ彼を横目で見る。
長い黒髪に金色のつり目が綺麗な彼は黒い礼服を着ていて静かな神々しさを感じる。
彼は話を続ける。
「どうも僕は人の注目を集めるのが苦手らし?い。
せっかくそなたが紹介してくれたのに申し訳ない」
だから好きなだけ飲み食いしてくれと彼は言ってくれた。
「気にしなくていいのよ。
私は言い寄られるのが嫌だったからあなたと同じよ」
「そうだったのか」
「私はマーリン・ダグラスよ。あなたは?」
「魔術師と同じ名前だな。
そういえば名乗ってなかった。
僕はデミトリアス・ドラモンド、魔法使いであり伯爵だ」
「?へえ、そうなのね」
(頷いたけど今この人、まじゅつしとかまほうつかいとか聞き慣れない言葉を言ったような)
ワインを飲みながらふと考えたが聞き間違いかもしれない。
「しかし、そなたはダグラス家の人間だったのか」
「あら、知ってくれてるの?
正確にはダグラス家に嫁いだのが私よ」
「なんと!じゃあそなたは結婚しているのにこんな場所に?」
デミトリアスの言葉にムッとする。
「しょうがないでしょう!?
浮気された上にお前も愛人を作ればいいとかアイツが言い出したのよ!」
大きな声が出たのか周りがシン・・・と静まり返る。
(うっ、しまった)
周りに頭を下げるとデミトリアスは話を続ける。
「ああ、確かにそなたの顔の相は男に悩むと見受けられる」
「なんであなたにそう言われなきゃいけないのかしら?」
(当たってはいるけど不服よ)
「趣味でな。副業がてら占いをしているのだよ」
「ああ、魔法使いとか言っていたかしら。なんだ、そうよね。占い師だから魔法使いって訳ね」
つまり宣伝文句よと結論付けた私の言葉を聞くと彼はいささかムッとした顔を向けた。
「そなた、私の事を疑っているな?」
「疑うって?」
魔法使いだなんて宣伝文句以外の何があるのかとチビチビワインを飲みながら考えるが思いつかない。
「仕方ない。
人間がいるところではあまり使わないが」
そう言うと彼はバーテンダーにシャンパンを注文して私の前に出した。
「いいの?私が飲んでも」
「ああ・・・。でもその前に・・・」
彼はそう言うとカウンターに置かれたグラスを指差すとグラスの周りが赤や緑の光が舞った。
「わあ、すごい!花火かしら?」
サプライズとは粋ねと思ったが何故かバーテンダーは困惑の表情を浮かべている。
私の反応が面白くなかったのかデミトリアスは
「そなたは何だったら魔法を信じるんだ?」
と聞いた。
「魔法?」
そんな事考えた事なかった。
(魔法って現実を無視して何でもできるって事よね)
だったらー
と自分の欲のあらん限りを尽くし考える。
夫の愛は戻ってこない。
結婚すれば愛を知ると思ったがそれは叶わなかった。
それなら!
(夫のギルに会う前の理想ならあったわ!)
「銀髪の素敵な紳士が私に夢中になってくれたら信じてあげてもいいわ」
「なんだそれは?」
半ば呆れたようにデミトリアスは苦笑いする。
「そんな事でいいなら雰囲気だけなら味合わせられなくもない」
「本当!?」
「まあ、待て。今日は人が多い。
また明日そなたの屋敷にお邪魔する事にしよう」
「何それ、こんなの私の赤恥じゃないの」
(欲望全開で頼んだのに。やっぱり占い以外は無理って事じゃない)
「まあ、聞け。明日、そなたの家に私は別人の姿でそなたに会いに来る。
その時はその馬鹿なそなたの夫に私が愛人だとでも吹いてしまえ」
「へえ、適当に知り合いを連れてくるつもりね。
その知り合いには事情は話してよ」
「貴様、信じてないな。まあ、明日が見ものだな。
今日のところは私は失礼する」
私の分のお代まで払い彼はバーから出て行く姿はやっぱりどこか不思議な光が纏っていた。
「変な人」
呟く私が自分が愚かだと気づいたのは翌日だった。




