12話 一方、夫とその愛人達
夕方、ギルバートは着替えると外出にはまだ時間が余り手持ち無沙汰になった。
こういう時はキセルで煙草を吸いたいが新しい執事はそれを許さない。
「おい」
イライラとソファ横のテーブルを指でコツコツ叩いてアロンに煙草を持ってくるよう指示するが奴は
「今お着替えをしたので控えた方がよろしいかと」
シェリー様と会うんでしょう?匂いが付きますよと可愛くない返事をする。
「うるさい!
私の一声でお前なんか即クビにできるんだぞ」
そうなじるとアロンは静かにキセルの火皿に入れマッチで皿を炙り主人に渡す。
「そんなにクビになりたくないか?」
アロンはそれには無言だった。
シェリーの屋敷は下級令嬢とはいえ立派だった。
主人に代わりアロンが屋敷のベルを鳴らしてギルバートが入り口前に立っていると今日のオペラ鑑賞に合わせて派手に髪を結い着飾ったシェリーが上機嫌でギルと抱擁を交わした。
「あなた、また煙草吸ったわね」
仕方ないんだからとシェリーは猫をあやすようにギルバートを撫でる。
「あら、そちらは新しい執事?」
見ない顔だわと若くて珍しい銀髪の執事に彼女は興味津々になった。
「こいつは人の妻を誘惑した無礼者だ」
ギルバートの発言は容赦ない。
「そう言いながらあなたに付けてるの?
もう、この人ったら大変でしょう?」
井戸端会議をするようにシェリーはアロンに話しかける。
「もしこの人のところを辞めたら家にくるといいわ」
「シェリー、やめろ。
こんな者を屋敷で働かせるなんて私は許さないよ」
いつでも辞められるとはいえ主人には歯向かえない。
アロンはお辞儀だけするとギルバートとシェリーの後ろの馬車に乗り、会場に向かった。
オペラ会場は今日は思ったより空いていた。
にも関わらず、2人は二階席からオペラグラスを使い鑑賞するのが好きみたいだ。
周りと席の間隔が空いているからか2人は親密そうに喋っている。
「ねえ、あなたワインを注文して」
シェリーがそう言うとアロンは躊躇したがギルバートに睨まれ、言われた通りにする。
しかし、それが回数を重ねるとシェリーはギルバートにも止められる。
「いいじゃない。
あなただって飲みたいでしょう?」
「私はこれ以上は遠慮するよ」
ギルバートはこれ以上飲んだら眠ってしまうからね
と彼女に言うが
「まあ、でも私も飲めないわ」
飲みかけのグラスをあなたが飲んでよと強引に隣にいるギルバートに渡す。
ここで飲まないと男が廃るのかギルバートはワインを飲み干すと、オペラ終盤には案の定眠りこけてしまった。
「旦那様、起きて下さい」
アロンは主人を起こそうとするがシェリーは
「大丈夫よ。
寝かせておきなさい」
と寄り掛かるギルバートをそのままにしておく。
「あなたもこちらに座りなさいな」
こちらとはギルバートとは反対の隣の席だ。
「遠慮いたします。
これ以上、無礼を働いてはクビにさせられてしまいます」
「だからその時は私のところに来ればいいじゃない」
「それも先程旦那様に止められました」
「釣れないわね。
私があなたを飼うって言っているのよ」
執事ではなくギルバートとは違う遊び相手が彼女は欲しいらしい。
「お辞め下さい。
淑女たる者このような事、噂になればお家の名前を汚しかねません」
「汚さないわよ。
だって少なからず私を支援してくれる方達は増えていっているのよ」
つまりギルバートの他にも愛人枠とは違うパトロンが他にもいるという事だ。
「やはりお断りします」
アロンはキッパリ拒否をする。
「なんでよ!?」
「本物の淑女はもっと気高く懸命ですよ。
少なくとも男で囲って自分を保身しようなんてしない」
「あなた私を侮辱しているの!?」
「シェリー、何を怒っているんだい?」
彼女の声に眠っていたギルバートが起きてしまった。




