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1頁 自我(心)に興味

 男 「失礼します・・・」


誰も出て来ない。

男は棚に展示されている標本瓶の中の『脳』を観ている。

暫くすると、店の奥から初老の男(神耶氏)が出て来た。

親しみやすい笑顔を浮かべて、


 神耶「何か気に成るモノが有りますか?」

 男 「あッ、いや、この島(種子島)に奇妙な店が在ると鹿児島駅前のバスターミナルで『チラシ』を渡されたもので」

 神耶「奇妙な店? ・・・どこから来ました?」

 男 「出張で、千葉から」

 神耶「あ〜あ、千葉大ですか?」

 男 「い〜え」

 神耶「たまに、千葉大附属病院の脳外科の先生(医師)がお見えになりますよ。アナタも先生ですか?」

 男 「いや、私はただ哲学の『自我』に興味を持つ者です」

 神耶「オッホ〜、自我に。・・・よかったらアナタの眼を見せてくれませんか」

 男 「目? あ、どうぞ」


神耶氏は男の眼の中を覗く。


 男 「・・・何か気になる所があるのですか?」


神耶氏は自分の脳内に2個有る(A・B)、上部の脳(A)を使って男の眼の中にピントを合わせる。


 神耶「う〜ん。・・・アナタの歳は七五歳で血液型はO、膝が悪い。今朝ケサの朝食は駅の立ち食い蕎麦屋でコロッケをトッピングして食べて来ましたね」

 男 「えッ! 目を見ただけで解るんですか?」

 神耶「眼は心の窓ですから」

 男 「なるほど。ただ、心は脳に支配されてるんでしょ?」

 神耶「いいえ。脳と心は全く別です」

 男 「? 脳の作用が無ければ心に刺激を受けないのでは(唯物論)?」

 神耶「逆ですよ。脳はただの心の道具です(唯心論)。そのバランスが悪くなると自我の安定が崩れてムカついて来たり、思いやりに欠けてたりするのです。ムカつくと血圧が上がり心臓の鼓動が激しくなる。ソレは脳と心(自我)のバランスが崩れるからです。所謂イワユル『ストレス』です。コレが続くと『鬱の状態』に成ります。え〜、たとえば、こちらの脳ですが・・・」


神耶氏は棚から脳の入った標本瓶を一つろして、テーブルの上に置く。

瓶にはシールが貼ってあり『ロシア兵の脳』と書いてある。

神耶氏はその脳の説明を始めた。



 神耶「この脳には『シナップス』は付いていません。と言うよりも、ハズしてあると言った方が良いかな。今、シナップスを取り付けて彼が見た生前の最後のシーンを、あちらのモニターに映像化してみましょう」

 男 「えッ! そんな事が出来るのですか?」

 神耶「出来ます。海馬が短期の記憶を整理・選別して大脳皮質に長期に記憶として保存して有りますから。この海馬にシナップスを繋ぐと生前、彼が見たシーンが大脳皮質から引き出され、映像化されます。但し、この店では完全にリニューアルした脳を販売しておりますから特殊な器具を使って記憶を数値化し、映像に反映して行きます。少しお待ち下さい」


神耶氏は電子レンジの様な『黒いトランス・ボックス』をテーブルの上に置いた。

蓋を開けて、一本のコードを取り出し、標本瓶の下部に有るコンセントプラグに差し込む。

暫くすると黒い箱の上部の小穴から、水蒸気の様なものが立ち上がって来る。

すると壁のモニターに、ロシア兵とウクライナ兵が格闘しているシーンが映し出される。

ロシア兵は格闘中、ウクライナ兵のシューズに仕込まれたナイフで脇腹を刺された。

モニターは徐々に心に残された更に遠い『過去のシーン』が再現(映し出す)されて行く。


幼年期の頃、ママと公園で遊んでいるシーン。

徴兵されて兵隊に成り、敵を殺す訓練を受けているシーン。

そして、キーウの町に侵攻しているシーン。

怖さと怒りで震えながらロシア兵を狙ってマシンガンを撃っているシーン。

そして死の寸前の格闘シーン。

ナイフで脇腹を刺され、ウクライナ兵を恨めしそうに睨むシーン・・・。


そこまででモニターに映る映像は消え、暗黒に成る。

暗黒とは心臓の活動が停止し、自我の想起も同時に停止したのである。


 神耶「・・・終わりました。シナップスからの脳への接続が止まったのです。コレでこの兵士の脳は殻に成りました。」

 男 「シナップス?」

 神耶「自我から脳に作用している超微量な電流です」

 男 「こッ、これは凄い! こんなモノを見たのは初めてです」

 神耶「あ、そうだ! 脳を変えてみましょう。シナップスを別の脳に接続させましょう。アナタの血液を一滴摂らせて下さい」

 男 「えッ!」

 神耶「いえ、ただDNAを採取するだけですから。・・・面白いですよ。採取が終わったら、別の脳を使ってアナタの自我とコラボさせてみましょう。別室のモニターに映し出されますから、後でコピーしてお渡しします。ところで何か『ご希望の脳』は有りますか?」

 男 「ご希望の脳?」

 神耶「そうです。たとえばアナタは自我に興味を抱いて居ると言いましたね。そこの隅に置いてある『科学者の脳』と書いてある物などいかがですか? 先週、ドイツの脳バイヤーから届いた新鮮なモノです」

 男 「新鮮なモノ? 脳の・・・」


男は気持ち悪そうに隅に置いてある標本瓶の中の脳を見詰めている。

                               つづく

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