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先触れも寄こさずにやってきたせいで、わたしは修道服のまま。なんのもてなしも用意できていなかった。
心なしか疲れた様子のリーンハルト殿下は、修道女長の挨拶に一瞥もくれず、つかつかとわたしに歩み寄った。
「なにやら面白いものを作ったそうだな」
前置きも無しに言われ、わたしの身体がぎゅっと強張った。
──もう王都まで知れ渡っているのか。
「エルネスティーヌ、ご案内して差し上げて」と、喜色満面の修道女長に促され、震えそうな足取りで殿下を井戸まで先導する。
「酷い顔だ」
断りも入れず、化粧気のない頬に触れられた。
「あまり、張り切りすぎるなよ」
という言葉と共に、リーンハルトの掌はすぐ離れたが、わたしはしばらく顔も上げられなかった。
──石鹸のときも。
──蒸しパンのときも。
殿下はこうやって現れた。
「悪役令嬢がいい子にしてるか見張りに来ただけよ」
あの時アンヌにはそう言ったけれど、本当に殿下が見張りたかったのは。
──わたしが、「何を作っているか」?
「……懇意にしている男がいるそうだな」
わたしは弾かれたように顔を上げた。
「違うんです! 井戸は、わたしが……! 拓人にはただ、職人として協力を依頼しただけで」
「……ならば、良い」
殿下は頷いた。
「しかし、王都はまだお前を忘れていない。──あんまり目立ちすぎるなよ」
そう言い残して去っていく王家の馬車を見ながら、わたしは拓人の言葉を思い出していた。




