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「……で、ここに支点を置くだろ。この長いのがレバーだ。こっちの端には桶、反対には重り。重りが力点で桶が作用点。レバーが長いほど少ない力で作用点が移動する」
「うぐぐ……簡単なことじゃない。なんで気づかなかったのかしら」
修道院の井戸を視察に来た拓人に、構造を説明される。
修道院に来るにあたり、拓人はきちんとした人物に見えるようにアンヌに身なりを整えられていた。 おじさんだと思っていたが、無精髭をあたられた拓人は思ったより若く、端正な顔立ちをしていた。
「難しく考えすぎなんだよ。最先端の技術がすべてこっちに合うわけじゃない」
高校生だった拓人は、多くの知識を持っているわけではない。わたしの専門だったPCまわりやプログラムについても、ほとんど知らない。
しかし物理法則に関する理解の高さと手先の器用さが群を抜いている。
「なんか、拓人の方がスローライフのチート主人公っぽいよね」
「ねえよ、そんなうまい話」
アンヌがお茶を淹れてくれて、お茶請けに出された救済パンを頬張りながら井戸改良の計画を練った。
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修道女長から井戸改良の許可が下り、わたしたちは時間の許す限り工房に通った。
拓人は本当に腕のいい職人で、片手間に蒸しパン用のせいろみたいな蒸し器まで作ってくれた。
作業する彼の手を見ながら、私はとめどなく話し続けた。
「ちょっと、あの名作をアニメしか見てないなんてなんなの? あれはね、大魔法使いが実は異世界転移者って原作設定がエモいんじゃない」
「……めんどくせーオタクだな」
……あまり趣味は合わなかったようだが、とにかくふたりとも、話すこと自体が楽しかった。
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穴の開いた木の板と葦。渡されたものを見てわたしは首を傾げた。
「何よ。わらしべ長者でもやれって言うの?」
言葉足らずな拓人は葦を板の穴に差し込みながら説明した。
「お前ほんと阿呆だな。こうやって酵母の瓶に乗せとけ。葦の反対側は水を張った盆に浸けろ」
「……そうすると?」
「雑菌は通れず、ガスだけが逃げる」
「──エアロック!」
わたしは頭を抱えて天を仰いだ。こんな、その辺で拾ってきたような材料ふたつだけで、すぽーん問題を解決されてしまった。
「嘘でしょ? こんな才能持ってて、なんでチートしようと思わなかったの?」
「思ったよ。王都でな」
拓人はふいとわたしに背を向けると、指先で何やら弄りだした。
「だよね! 異世界転生すなるものとしては、スローライフとチートはお約束だもんね。それでそれで?」
長い沈黙のあと、やっと言葉が絞り出された。
「…………家が、燃えた」




