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拓人は高校生の時にこちらに来たそうだ。
学生服のまま、気付いたら王都で道の真ん中に立っていたらしい。
身の回りの物を売って食いつなぎながら木工職人に弟子入りし、手先の器用さを生かしていろいろなものを作るようになったようだ。
わたしは断罪真っ最中の転生とはいえ、初めからエルネスティーヌとして衣食住を保証され、守られながら生きてきた。
それなりにいい歳の社会人として、人生経験と根性も持ち合わせていた。
寄る辺もない子供が異世界に放り出され、独り生き抜いてきたのかと思うと、ちょっと胸が痛くなった。
「ラノベとかでさ、生まれ変わってないのに異世界行ったらぜんぶ転生っていうの何なんだろうな」
「それな」
拓人はわたしも転生者だとわかってから、いきなり別人のように打ち解けてきた。
それがまた、彼が抱えてきた孤独を感じさせた。
「俺とお前で、なんで転生の仕方がちがうのかなぁ」
見た目は偏屈なおじさんだが、前世のことを話せるのが嬉しくて仕方がないというふうに、高校生のような笑みを見せた。
お供でついてきたアンヌが目をまん丸くして、そして、黙って隅の椅子に腰かけた。
「それで、これなんだけど」
わたしが改めて井戸の設計図をみせると、
「ああ、ピストンポンプな。やめとけよ。木材で作るには複雑すぎるし、パッキンがないから皮で代用するんだろ。そのうち腐って水を傷めるぞ。はねつるべでいいだろ」
拓人は私の設計図の端に大きく張り出した弧のようなものを描いた。
「これなら水に触れるのは木桶とロープだけだし、何かあった時もメンテしやすいだろ」
わたしもアンヌもぽかんと設計図を見つめた。
「あんた、転生したとき高校生だったんでしょ? なんでそんなこと知ってんのよ」
「は? てこの原理なんて小学校でやっただろ」
言い方にいちいち棘がある。転生者ということは置いても、偏屈と言われる理由はここにありそうだ。
「なあ、お前のことは何て呼べばいい」
帰り際、拓人は私にもう一度尋ねた。
「……エルネスティーヌよ」
わたしはアンヌにちらりと目を走らせてから答えた。
前世の姿のままで転移した拓人とは違い、捏ね回されたわたしは自分をエルネスティーヌだと思うことに違和感がなくなっていた。
それに何より、ここにはわたしをそう呼ぶ人が多すぎた。
拓人は、少し寂しそうに。でもしっかりと頷いた。
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「なんですか、あの男! エルネスティーヌ様にあのような態度」
帰り道でアンヌが憤慨している。
拓人の横柄な態度や、帰り際に名を呼び捨てしたことが気に入らないようだ。
わが国の国教に輪廻転生の概念はない。
わたしたちが話す内容は、アンヌにはほとんど理解できなかっただろう。
聞きたいことも山程あるだろうに、触れないでいてくれるアンヌが今はありがたかった。
「いいのよ、あいつは。それにわたしも、もう令嬢じゃないんだし……。アンヌも、呼びたかったら呼んでもいいのよ」
「……もう!」
アンヌが子供のように腕にくっついてきて、わたしたちはそのまま手をつないで帰った。




