猫じいからの亜空間なクエスト報酬
コムギさんと一緒に部屋を出て、まずはロビーに向かうとそこには猫スタッフもいなく、ルルさんの姿も見当たらなかった。
「う~ん。いないね」
俺とコムギさんとで辺りを見回すも、ロビーは見事に静まり返っている。これが人間の宿屋であれば、誰かしらいてもおかしくないのだが。
「宿の中にいるのニャ?」
「そのはずなんだけどね。俺にお使いを頼んでおきながら外に出るとは思えないし、そうなるとどこかの部屋にいるとしか……」
「お昼の時間までは忙しくしてるんじゃニャい?」
「あ、そうか。部屋の掃除とかがあるのか」
……とはいうものの、ここには俺とコムギさん以外に客の姿はなく、猫の姿も見えない。
そうなると勝手に出歩くのも良くないと思うのだが、どうするべきか。あるいは部屋でルルさんを呼べばすぐに来てくれそうな気も。
「役場が宿屋の中にあるらしいんだけど……」
「ふんふん?」
流石のコムギさんもぺルーシャ亭のことは分からないようで、俺の話を頷いて聞いているだけだ。
「コムギさん。とりあえず部屋に戻ろうか? それとも適当に歩いてみる?」
「ウニャ。トージ、ごめんニャ」
「うん?」
「ぺルーシャ亭の中は自由に歩けないことになってるのニャ」
いつもならコムギさんがあちこち歩いて探してくれるが、宿屋の中に関しては勝手に歩けないことになっているらしい。
猫の世界のルールかもしれないが、これは人の世界でも同じなので無理はさせないようにする。
下手に動き回っても仕方がない。そう思いながら泊まってる部屋の中へ入ろうとすると――
「――あれれ、トージさんとコムギさま?」
そう言いながら隣の部屋から人化のルルさんが出てきた。
「ルルさん、いいところに! ぺルーシャ亭の中に役場があるって聞いたんですが、どこにありますか?」
俺の言葉にルルさんはハッとした表情で。
「……あ。うっかりしてたニャン。トージさんに会いたがってる猫じいは隣のお部屋にいるニャン」
「えぇ!?」
「うっかり外に送り出してしまったニャン。ごめんなさいニャン~」
……意外とおっちょこちょいなんだな。
「トージが外に出て別の猫たちの依頼をこなしてきたみたいなのニャ。外に出る必要がなかったのなら、もっとしっかりしてくれないと困るニャ!」
「本当に本当にごめんなさいニャン」
コムギさんに厳しく言われたルルさんは、俺に深々と頭を下げた。
「気をつけてくれればいいですよ。それより、隣の部屋が役場で間違いないんですね?」
「はい。猫じいは隣の部屋にいますニャン。ではでは、一緒に行くニャン~」
申し訳なさそうにするルルさんに続いて隣の部屋に入ると、役場と書かれたハンモックベッドで丸くなっている猫の姿があった。
「猫じい、起きてますかニャン?」
「ンナ~?」
「トージさんを連れてきましたニャン」
「ン~??」
相当な高齢猫のようだ。目は開いておらず、耳も若干遠くなっているように見える。
「高齢猫なのは見れば分かるニャ。だけど、本当にトージに依頼を出したのかニャ?」
「それはもちろんですニャン」
コムギさんが厳しい目でルルさんを見ているが、どうやらお使いクエスト自体は嘘じゃなさそう。
「トージさん。猫じいに近づいてくださいニャン。そうすれば気配に気付いて起きてくれるニャン」
「あ、はい」
確か猫じいのお使いクエストは、植木鉢の収穫で出来るおやつだったはず。だけど寝たきり状態の高齢猫に食べさせられるのだろうか。
やや不安だが、とりあえず猫じいの元に近づいた。
すると――
「――おぉぉ! おぬしがトージ・ムギヤマじゃな?」
俺が近づくと、猫じいはまるでスイッチでも入ったように体を起こして俺に声をかけてくる。目は見えないようだが、気配は分かるのか俺をじっと見つめている。
しかし猫じいの姿はどう見ても和猫なのでは?
「そ、そうです。猫じいですね? 俺に依頼があるという話ですが……」
「そうなんじゃ。おぬしの話は猫づてに聞いておってな。不思議な力で猫の為のごはんやおやつを生み出せると聞いておったのじゃ」
「そうなんですね」
「トージが日本から来たことも知っておるよ。わしもかつて日本猫じゃったから分かるんじゃ」
やはりそうか。
「オスの猫たちは旅に行くと聞いてますが、異世界へも行くのですか?」
「そうじゃな。全てではないが、行っておる猫もおる」
コムギさんとは別にそういう猫たちもいるんだな。
「トージ。では、早速頼むのじゃ。わしは日本でしか食べられないおやつが食べたいのじゃ。植木鉢で出してくれ」
「え、日本のおやつ?」
もしやそれはチューブタイプのおやつなのでは?
……具体的な商品名は避けるとして、俺は亜空間収納から火属性の亜空間植木鉢を取り出し、魔導師特製の種を植えることに。
日本の物は流石に育たないと思うが、コムギさん用に一度収穫出来ているのでそれに似たものが出来上がるのを待った。
「……トージ。何やら焼けたニオイがするが……」
「焼カツオですね。もうすぐ食べられますので、お待ちください」
チューブは用意出来ないが、練られた状態にすれば食べられるはずだ。
「香ばしいニャ~……」
「あはは。コムギさんも後で食べようか」
「欲しいニャ」
すくすくとあっという間に育った焼カツオは、ルルさんに細かくしてもらい、猫じいの口元にゆっくりと運ばれた。
「おおぉぉ……これじゃ! とても懐かしい味じゃ! めしいた目で見えぬが、味とニオイは感じられるぞ!!」
ゆっくりと味わって満足そうにしている中、猫じいにルルさんが近づいて反応をうかがっている。
「……ルル。報酬はトージしか届かないところに……」
「了解ですニャン」
猫じいはルルさんにぼそぼそと話しかけたと思ったらすぐに静かになった。
「それではトージさん。これでお使いクエストは完了ですニャン。報酬は外の猫たちの分も含めて、猫じいから与えられますニャン」
そう言ってルルさんは部屋を出て行ってしまった。
「あ、あの~……」
「ンン~……スース―…………」
猫じいから報酬を与えられるというので猫じいに話しかけると、すでに寝息を立てているようで俺の声はまるで聞こえていないようだった。
「完全に眠ってる? でも、報酬がまだのような……」
まさかの無報酬?
「全く、ルルは肝心なことを言わない猫ニャ。トージ、亜空間収納に何か入ってないかニャ?」
「え? 亜空間収納?」
コムギさんに言われるがままに、俺は亜空間収納に手を突っ込んだ。
「……これは、チケット?」




