コムギさん、魔導文字を解読する
「トージ。亜空間収納にあったのは何なのニャ?」
「うん。多分だけど、チケットなんじゃないかなと」
「ふんふん?」
指先から感じられる感触は摘まめるくらいの紙切れで、記憶しているチケットとは程遠い。
触れた感触は切符のような感じに思えたし、何らかのチケットと考える方が楽だ。
「見たいニャ~見たいニャ~」
「それもそうだね。何となく亜空間に手を突っ込んでいるだけで、まだ手元に出していないのも変だよね。今すぐ出すよ」
コムギさんがお使いクエストの報酬に興味を示すのは珍しいし、すぐに見せてあげないと。
俺は亜空間収納から報酬を取り出した。
「ニャ? 紙の切れ端?」
「……本当だね。チケットだと思っていたけど、思った以上にただの紙切れだったね」
「触って確かめてもいいかニャ?」
「もちろん」
出てきたものは厚さのある黒く煤けた板紙の切れ端で、文字らしきものは全く見えず、仮に見えたとしても形を成していないのでそれが何なのか分かりようがない。
苦労こそしてないものの、まさかこれが成功報酬だとは想定外すぎる。
「ウニャニャニャニャ!!! ウニャニャニャ~」
しばらく板紙を手に取って眺めていたコムギさんだったが、黒くなっている部分に対し一所懸命に手でこすり始めた。
その勢いはまるで穴掘りのようだ。
「コ、コムギさん?」
「ウニャニャニャニャ~!! もう少しニャ、もう少しで何かが見えてくるニャ」
「え?」
もしかして、黒い煤けが取れた先に何らかの文字が見えるのだろうか?
一応俺には鑑定スキルがあるのだが、ただの板紙だと思ってしまったうえ報酬そのものに落胆して興味を失っていたせいか、スキルそのものが反応しなかった。
俺の無関心とは別にコムギさんがここまで興味を示しているなんて、これは反省しなければならないところだな。
「見えてきたニャ」
「え、本当?」
「これニャ」
「コムギさんの手が真っ黒になってるね」
相当な力でこすったようで、コムギさんの手がすっかり黒くなっている。
「私の手じゃなくて、板紙を見てニャ!」
「ごめんごめん。どれどれ……」
完全に煤けが取れたわけじゃないものの、それまで見えなかった文字の羅列が表面に刻まれていて目に見えて分かるようになった。
しかし――
「――えっと、メ……ΩΩRバ※※! ΔΔN sea??」
何だこれ。
この世界に来てしばらく経つが、これまで読めなかった文字はなかったはずなのに、てんで読めやしない。
もしくは今の俺にはそのスキルが足りてないのか?
「読めないニャ?」
「読めそうにない文字が使われてるね。それこそ、この世界で使われていた古代文字のような感じがするかな」
「フニャゥ……」
猫じいに貰った報酬なのに、まさかの解読不可だとは。読めたら俺やコムギさんにとっていいものかもしれないのになんてこった。
……あの二人なら古代文字に詳しいのでは。
「ちょっとレイモンと連絡してみるよ。コムギさん、少し待ってて」
「分かったニャ」
板紙を眺めるコムギさんを見つつ、俺は魔導イヤリングで訊くことにした。
≪……レイモンかハーゼに訊きたいことがあるんですが≫
≪もう我に会いたくなったのか、トージ≫
応答してくれたのはレイモンだった。
「い、いえ。そうではなくて、古代文字について何か知りませんか?」
「……古代文字? トージでもまだ読めない文字があったのか?」
「実はクエストの報酬で貰った板紙に読めない文字の羅列がありまして……」
古くから生きているレイモンなら簡単に読めそうだが。
「……ふむ。現物を見てみないと何とも言えないが、この世界の文字は基本的に古代文字であっても魔導の力が働いている。魔法文字は魔法が使えなければ読めないが、魔導の力を持つトージであれば読めるはずだぞ」
魔法じゃなくて魔導の力なのか。
「ですが、俺にはさっぱりでしたよ」
「それならば、コムギに読ませてみるといい。コムギならば魔法、魔導どちらも読めるぞ。コムギはトージの命令がなければ読もうとしないはずだからな」
「そ、そうですね」
「我はキリのいいところでトージの家に戻る予定だ。ふふ、それまで魔導装置の設置を頑張るといい! ではな、トージ」
……ハーゼの魔導装置についてはレイモンも乗り気なんだな。
「コムギさん~! お待たせ」
「レイモンと話したのかニャ?」
「そうなんだよ。えっとね、コムギさん。コムギさんなら読めるはずだって言ってたから、板紙の文字を読んでくれないかな?」
俺の言葉にコムギさんは目を細めながら聞いていて、少し嬉しそうにしている。もしかしたら俺の許可を待っていたのかもしれない。
「じゃあ、読んでみるニャ」
「うん」
「……ふんふんふん」
コムギさんは鼻息を立てながら板紙の文字列をじっと見つめ始める。
するとその直後。
「……メルバ漁村の魔導機船で外海へ! って書いてるみたいニャ」
「え!? メルバ漁村のことが書かれてたの?」
「私にはそう見えたニャ」
魔導の力が強い猫さんが頼もしすぎる。
「なるほど……。まさかメルバ漁村だったなんて」
「あの漁村は猫を崇めているニャ。もしかしたら、そのきっかけは猫じいのことかもしれないニャね」
猫じいが旅の最中にメルバ漁村を訪れ、そこから何らかの関係を築いた。ない話じゃないな。
それにしても、移動手段をどうしようかと悩んでいた俺にとって最高の報酬になるとは、お使いクエストはこれからも続けていくのが良さそうだ。
「すぐに行くニャ?」
「ん~。クウが戻ってきてないし、あと一泊だけしてから出発しようか」
「はいニャ!」




