ぺルーシャ亭のお使いクエスト 1
「そういえばコムギさん。ルーナさんと遭遇してたよね? 何か話してたと思ったらいつの間にかいなくなってたけど……」
「ニャッ? 何のことニャ?」
俺の問いにコムギさんが可愛く首を傾げている。
おかしい。確かに魔導師ルーナがいたはずなのに。
……とはいえ、コムギさんがいきなり倒れた時にルーナさんの姿も初めからいなかった感じだから俺の見間違いだった可能性もあるのか。
「え、だってコムギさんが急に倒れて……」
「倒れたんじゃなくて、眠たかっただけニャ。トージこそ疲れていたんじゃないのニャ?」
「ううむ。それもあるのかもしれないな……」
魔導装置のことで頭がいっぱいになってたせいもあるのかも。
「でしたら、ウチの宿で休んでいかれてはいかがですニャン?」
おっと、ルルさんがいるのを忘れてた。
「そうですね。すぐに出発する予定もないし宿で休もうか、コムギさん」
「それでいいニャ」
クウにもすぐ出かけないと言ってあるし、急ぐ必要はないよな。そもそも移動手段をどうすればいいのかという問題があるわけだし。
「お客様をごあんな~いニャン!」
ルルさんの掛け声で、宿屋近くにいた猫たちが宿の前に一斉に並び、前足を伸ばして背筋を立てるポーズを取った。
お嬢様座り、いやエジプト座りか。
ジッと見られてると流石に緊張してしまいそうになるが、猫さんみんなが可愛いからあまり緊張しないかも。
「トージがここに来たことで良いことが起きると思っているのニャ。人間の客はトージしかあり得ないから、何かを期待せずにはいられないのかもしれないニャ」
「な、なるほど」
「猫だけの村は確かに平和ニャ。だけど、何も起きないのも退屈だからニャ~」
ここに初めて入った時は案内でレイモンがいたが、今は正真正銘俺しかいないから何かしらが起きると思われてるんだな。
「ようこそニャン~!」
「あ、どうも」
「……休ませてもらうニャ」
可愛い猫たちに見守られながら、俺とコムギさんは宿屋へ入った。
「ふぅっ!」
人間が入れない村ではあるが、人間用のベッドなどは完備されている。そのおかげで俺はすぐにモフモフなベッドにダイブした。
「気持ちよさそうニャ~」
「コムギさんも休んでいいからね」
いきなり眠気に襲われて眠っていたみたいだけど、横になるのは別だしな。
「……トージに甘えてもいいかニャ?」
「おぉぉ……!」
「ニャフフ」
自分の家を出てからあまり甘えてもらってないし、存分なモフモフも堪能出来てなかった。
だが、こうした時間をもっと作ればいいわけで。
「おいで~!」
「ニャゥゥ」
コムギさんの頭を優しく撫でつつ、こういう時じゃないと許してくれないコムギさんのお腹に向かって顔を埋め――
「――スーハ―スーハ―……」
……などと猫吸いを開始。
この行動自体、コムギさんは滅多に許可してくれない。
「フニャゥゥ~」
しかし宿の中という限られた空間が良かったのか、俺へのご褒美として受け入れてくれている。
満足した俺は横になりながらぐっすり眠るコムギさんをしばらく見つめつつ、俺も少しだけ寝ようとすると、部屋の扉をコンコンと叩く音が響いた。
「はい?」
「トージさん。ルルですニャン。入ってもいいですニャン?」
……何だろう?
コムギさんは寝てしまっているので、とりあえず部屋の扉を開けると、ルルさんは人間の女性姿になっていた。
「お休みのところ、失礼しましたニャン」
でも言葉遣いはそのままだ。
「いえいえ。えっと、どうかしましたか?」
「トージさんにお使い……じゃなくて、頼みごとがあって来ましたニャン。お疲れでなければ是非お願いしたいと思って……どうですかニャン?」
もしやこれはお使いクエストというものでは?
この世界に呼ばれてから冒険者のようなことをやる機会はほとんどなかったが、これがお使いクエストなら何かのきっかけが生じるかも。
「コムギさんは寝てますけど、俺だけでも出来るものですか?」
「もちろんですニャン。お使いはトージさんへの報酬になるので、トージさんだけでやってもらうのがいいと思いますニャン」
「危ない目に遭うなんてことは……」
「そんなことには絶対にさせませんニャン!」
確かに猫だけの村で危険な目に遭うことなんてないよな。
「分かりました。えっと、俺に頼みたいことは何ですか?」
「ミネット村の役場の猫じいに、おやつを持っていってあげてほしいですニャン」
「お、おやつ?」
しかも役場なんてあったのか。
「トージさんと一緒に来た男の子から聞かされたのですけど、トージさんは猫のおやつを種から育てることが出来ると聞きましたニャン。コムギがとっても満足したものだとも聞いてますニャン。もしそれがまだあるなら、そのおやつを持って行ってほしいですニャン」
クウのことだな。単純に歩き回っているだけじゃなくて俺のことを教えに回ってるのか。
「おやつといっても、そんな大したことはないですよ?」
「トージさんが出すものは大したことありますニャン! 猫を大事にするトージさんだから間違いないですニャン!!」
ここまで言われるとやるしかなくなるな。コムギさんは起きる気配がないようだし、俺だけでやるしかなさそう。
「じゃあ、えっと、やります」
「ありがとうございますニャン! ではでは、こちらがクエストの詳細が書かれた依頼書……羊皮紙なので、こちらにサインをお願いしますニャン」
はっきりとクエストの依頼書って言ったぞ。それにしてもペンとか紙とか普通に出てくるけど、これも魔導師のおかげなのか。
「ええと、トージ・ムギヤマ……と」
軽く引き受けたつもりなのに随分と本格的な気が。
「それでは、ペルーシャ亭のお使いクエストにいってらっしゃいニャン~」




