コムギさん、かつての主人に遭遇する
メルバ漁村の家に戻った俺はすぐに魔導装置を置いて遺跡と繋げた。しかし、ハーゼはもちろんレイモンから特に何の連絡もなかった。
≪俺の声が届いてますか? 届いているなら声を出してもらえると~≫
≪ん? この声はトージか? どこから……あぁ、このイヤリングからだな。聞こえるぞ、トージ。我だ、レイモンだ!≫
しかし駄目元で魔導イヤリングで問いかけたら、ハーゼではなくレイモンがようやく返事をしてくれた。
「えっと、レイモンはしばらくそこに留まるんですか?」
「うむ。ハーゼが研究していたものが面白いのでな」
「なるほど。ところで魔導装置のことなんですが、装置を使うとコムギさんに影響がありますか?」
「……む? コムギに? なぜだ?」
あれ、レイモンは知らないのか。
「俺のスキルはコムギさん依存なので魔導装置もそうなのかなと」
とはいえ、コムギさん曰く自分の力もかなり強くなったから心配しなくていいとも言ってたけど。
「それなら影響ないぞ。魔導装置は魔導の力で動くからな。影響が出るとすれば、我やハーゼのような魔導師に出るだろうな。そもそも設置する苦労をするのはトージなのだから、使いたいときに使えばいいと思うぞ」
遺跡から見つかったものだし、ハーゼが手を加えた魔導器だからコムギさんとは無関係なんだろうな。
「分かりました。それじゃあ、遠慮なく使わせていただきますよ」
「うむ! 我もそのうち魔導装置でトージの家に戻るから頑張るのだぞ、トージ」
「はは、そうします」
ハーゼとレイモンは同じところにいないみたいだったが、あまり気にしなくても良さそうだ。
「ココアが出たのニャ?」
「うん。そうなんだよ」
「元気にしてるようなら何よりニャ」
何だかんだでレイモンと仲良しなんだなぁ。
「トージトージ! まだか~? まだ行かないのか~?」
魔導装置設置が旅そのものだと思ったのか、外で待っているクウがすぐに行きたそうな感じで俺を呼んでいる。
「クウはじっとしてるのが嫌いな猫だから仕方がないかもしれないニャ」
「そうだね」
クウが張り切っているし、すぐに出発するか。
「待つニャ!」
「うん? どうしたの、コムギさん」
「トージは設置する場所を決めているのニャ? ハーゼが言ってたようにその辺の道とかに設置しても意味がないと思うニャ」
「それは……」
魔導装置の設置場所は町の中とか村とかになるだろうけど、メルバ漁村と小屋以外となるとすぐには思い浮かばない。
今まで俺が行ったことがある場所ならすぐに思い浮かぶが、それはあくまで移動手段がある前提だ。今はコムギさんとクウと一緒に徒歩で回る範囲でしか行けないだろうし、そうなるとどこに行けばいいのか。
「ないものはないから考えても仕方がないニャ。だけど、トージなら何とかなると思うニャ~」
ないもの? あぁ、魔導車のことを言ってるんだな。
確かにその通りなんだよな。魔導車がなくなってしばらく経ってるし、今さら言って戻ってくるでもないし、ないなりに何とかしないと。
「そうだね、ありがとうコムギさん」
「フニャゥゥ~」
俺を応援してくれるコムギさんの気持ちが嬉しくなったので、頭を撫でてあげた。
「まだか~? お~い、トージ~」
おっと、やばいやばい。何事かと騒ぎになりそうだしすぐに出ないと。
「先に出ておくニャ」
コムギさんが気を利かせてすぐに外に出てくれたので、俺は小屋の植木鉢から育った猫のおやつやいくつかの野菜を収納しておくことに。
……魔導ボックスも収納したままにしておく。
部屋の鍵をかけ外に出ると、クウがすぐに駆け寄ってくる。
「トージトージ! どこに行くんだ~?」
「え、う~ん……」
クウならそう訊いてくると思っていたけど、なんて言えばいいのか。思わずコムギさんを見てみると、彼女は俺にサイレントニャーを見せた。
コムギさんの無音アピールの期待に応え、俺はコムギさんを優しく抱っこしてなでなでを実行する。
「フニャゥ~…………」
「あっ! ズルいぞコムギ! おいらも抱っこしてもらいたいぞ~」
……などとクウが嫉妬して俺の足元で猫パンチをみせてくるが、甘え声のコムギさんが密かにしてくれたアドバイスは――
「――行くところは決まったよ、クウ」
俺がそう言うとコムギさんはすぐに俺の腕から離れ、クウも猫パンチをやめてくれた。
「何だ、そうなのか~。で、どこなんだ~?」
「まずはどこなのニャ?」
「小屋から近いのはミネット村だから、まずはそこに行こうか」
「そっか~近いもんな! 分かったぞ」
「ウニャ」
抱っこしたコムギさんから聞こえたアドバイスは単純だった。まずはメルバ漁村から移動出来る場所を起点に、そこから魔導師がいる場所に向かうというもの。
魔導師が拠点としているところなら、何とかなるというのがコムギさんの意見だ。
「トージは猫たちに認められたからすぐに村の入り口が開くはずニャ」
「え、そうなの?」
「奥まで歩かなくても大丈夫ニャ」
コムギさんの言う通り、以前は小屋からかなり森の奥まで歩いてたどり着いた。だが今回は、森に少し入った時点でミネット村の大木が突然目の前に現れ、すぐに村への入り口が開かれた。
「トージさん、いらっしゃいニャン!」
入ってすぐにルルさんに迎えられた。
あぁ、猫さんに出迎えられてるだけなのに何だか故郷に帰ってきたような気がする。
「トージ〜すぐに出発しないなら、おいら何か食べてくるけどいいか〜?」
ミネット村の次の場所はまだ考えてないし、少しだけなら滞在してもいいか。
「いいよ」
「ありがとうな〜トージ!」
言いながらクウは足を弾ませながら駆けていく。やはり外を自由に歩けるというのが嬉しいんだろうな。
「早速宿屋に行きますかニャン?」
「そうですね、ええとコムギさんは……あれ?」
クウはともかく、コムギさんがいなくなるのは珍しい。
俺に声をかけずにいなくなるなんてほとんどなかったのに、どこに行ったんだろうか。
「ルルさん、コムギさんがどこに行ったか見てませんか?」
「ニャッ!? ええとええと……」
ルルさんは俺の質問に困りながら、目を逸らしている。
逸らしているところをやたらと気にして見ているようなのでそこに目をやると、そこには――
「――久しぶりの再会ね、コムギ」
コムギさんのかつての主人だった、魔導師ルーナの姿があった。




