魔導師ハーゼのお手製魔導器
「ここに来るのは久しぶりだね、コムギさん」
「本当だニャ~」
遺跡都市からメルバ漁村に移ってしまった俺とコムギさん。その時、耳に着けていた魔導イヤリングから聞こえてきたのは原因を作った魔導師ハーゼの声だった。
そんな彼女の指示はレイモンの小屋で待つこと。その指示どおり朝を待ち、俺とコムギさんはレイモンの小屋の前に来ている。
思えばここの小屋を見つけた時から新たな行動が始まっていたんだよな。移動販売が出来なくなってはいるものの、何だかんだでどこかに移動してるから運動不足解消と健康の為には丁度いいのかもしれない。
「誰かが侵入する心配があったけどなさそうだね」
「あるわけないニャ。私とクウがちゃんとしたからニャ~」
「魔法で何かしたんだよね?」
「ウニャ」
この世界は魔導によるものがほとんどだ。魔法ももちろんあるのだが、魔法を使っているのは猫や狼、人魚といった種族が多い。
魔導の力を使う魔導師が魔導を使い、魔法は主に猫たちが使っている。そう考えると、やはりこの世界は猫中心に回っていると言っても間違いじゃない。
「トージ! コムギ~! こっちだこっち~!」
小屋を眺めつつ中に入ろうとすると、俺とコムギさんを呼ぶ声が裏側から聞こえてくる。
「あれ、この声って」
「クウニャ」
クウといえば、レイモンと一緒にハーゼの研究室に閉じこもっていて外に出てこられなかったはず。それがどうしてここに来ているのか。
コムギさんと一緒に小屋の裏側に回ってみると、そこには少年姿のクウと手を繋いでいる金色の長い髪をした見知らぬエルフの少女がいた。
「遅いぞ、トージ~」
「ごめんごめん。でも、どうしてここにクウがいるのかな? それにハーゼの姿が見えないけど、まだ来てない?」
「ん~? 何言ってるんだ~? 目の前にいるぞ。なぁなぁ、もう戻ってもいいか~?」
「うむ。良いぞ」
クウは少女と繋いでいた手を離し、猫の姿に戻った。
「……トージの目はまだ衰えていないはずじゃが、わしの姿が見えてないのか?」
そういえばコムギさんがハーゼの真の姿は大人な女性じゃないとか言ってた気がするけど、もしかしなくてもこの少女が?
「クウ。彼女は魔導師ハーゼで間違いないニャ?」
「ん~? そうだぞ。コムギは知ってるはずなのにどうしてそんなことを訊くんだ~?」
「トージが戸惑っているニャ。確認の為に訊いただけニャ」
――なるほど。俺の為に訊いてくれたのか。
レイモンは綺麗な女性だったのに、ハーゼの方は幼さの残る少女だったなんて。エルフが長命なのは分かっていたけどハーゼの真の姿は少女だったわけか。
「何じゃ、トージには教えてなかったのか?」
「姿を見せた方が分かりやすいと思ったからニャ」
「それもそうじゃな。何か言いたいことがありそうじゃな、トージ」
「遺跡都市での姿は魔導人形の研究成果があったからでしたか?」
俺たちを教会へ案内した挨拶専用の魔導人形もそうだし、教会での身代わり人形もそうだった。
「そうじゃな。研究もそうじゃが、あそこでは真の姿を晒す必要がなかったからじゃな」
地下へ沈めた遺跡都市なら確かに。俺たちが訪れなければ地上に出る必要もなかっただろうし、真の姿を見せる必要もないよな。
「――というより、クウも少年の姿になってるけどそれは何で?」
「そういえば何でだ~?」
何だ、クウも分からずに来たのか。
「人の姿でなければ転送装置に不具合が起きそうじゃったからな」
「転送装置?」
「うむ。これじゃ」
そう言うと、ハーゼは中心部分の宝石が回転を見せている手の平サイズのジャイロスコープのような装置を俺に見せてきた。
「わしが作ったお手製のウェイポイントじゃ。……いや、正確には遺跡から見つけた魔導装置じゃな。宝石は今の方が質が良いから宝石は今のものじゃが。これをトージに頼みたいと思ってるんじゃ」
そう言ってハーゼは、回転していない魔導装置をいくつも取り出し俺に見せてくる。動いてないということは壊れてるのでは。
しかし、ハーゼは遺跡から出てきた物を上手く活用してるっぽいな。
「壊れてますが、俺に何を頼むんです?」
「今見せた魔導装置を各地に置いてもらいたいんじゃよ。そうすればわしも移動が楽になって遺跡から気軽に外に出かけられるようになる……」
まるでそれを設置しないと外に出たくないと言わんばかりだ。
「でも、移動する手段がないから凄い時間がかかりますよ?」
「魔導車じゃったか?」
「そうです。それに販売するスキルも……いや、そもそも壊れてる魔導装置を設置したところで……」
外ならまだしも、各地の村や町に魔導装置を置くのは大丈夫なんだろうか。
「売ることが出来なくても直すスキルが芽生えたんじゃろ? 魔導装置はそのスキルで直せば使えるし、各地を回って直す商売をすれば何とかなる!」
直すスキルはコムギさん依存だからあまり多用したくなかったけど、今はコムギさんもかなり強化されてるからコムギさん次第だな。
「そんなわけだけど、コムギさん。……あれ?」
目を離すとクウはいつもどこかに行きがちだから気にしてなかったが、コムギさんの姿も気づいたらいなくなっている。
「それでじゃな、トージの――んん? 何じゃ、どこを見てる?」
「う~ん? コムギさ~ん?」
小屋の裏側は木々が生い茂っているせいか、コムギさんがどこにいるのかさっぱり分からない。
「……ぬぅぅ。やはりトージはレイモンのような女が好きなのか……。じゃが、負けてられん!」
「コムギさ~……んぎゃっ!? い、いてて……あ――」
――痛さで目をつぶった一瞬、コムギさんの姿が木々の間から微かに見えた。だが、その前にハーゼに腰をつねられてしまったので、今は彼女の話を聞いておくしかなさそうだ。
「トージ! コムギが大事なのは分かるが、今はわしの話を聞け!!」
「そ、そうします」




