注文履歴で分かるはずニャ
コムギさんの気づきで収納した謎の魔導ボックスは、海藻まみれということもあって、部屋に戻ってすぐに取り出した。
「う~ん……それにしても凄い海藻だなぁ」
流れ着くまでかなり流されまくったことが想像出来るが、ボックスそのものは傷一つなく、壊れたようには見えない。
「もらっていいかニャ?」
「え、海藻を?」
「ウニャ」
確か海藻は猫にはあまり良くないような。でも、コムギさんは普通の猫じゃないから大丈夫か。
「ちなみにだけど、食べたりするの?」
「違うニャ。綺麗にしてあの魔導師に売りつけるのニャ。ニャフフ」
あの魔導師というと、スープ作りをしてるあの人しか思い浮かばないな。その人だとすれば、コムギさんも案外逞しく商売してる感じがする。
俺と一緒にいるだけなのに、コムギさんも商売する猫さんになっていようとは。
「……よし、と」
こびりついた海藻を全て取り除き、改めて魔導ボックスを眺めてみる。まじまじと見ても、亜空間倉庫で購入しただけあってかなり頑丈なものだと再認識。
そうなるとこれがどこからきて、誰が失くしたものなのか。今の俺は魔導ボックスを介して連絡出来ないうえ、魔導車もないので連絡手段がない。
もっとも、魔導ボックスを落としたどこかの誰かも連絡手段がないとは思うが。
「ニャフフ~……」
……コムギさんが楽しそうに海藻を洗っている。
それはともかく、これまで俺が販売、あるいは譲ってきた魔導ボックスは王国や帝国、道中で世話になった狼の女性だったりと、身分や国に特定したものたちではなかった。
直接出会って話をした者ばかりがほとんどでもあるだけに、意図的に捨てたとは考えにくく、そうかといって海に流してしまうというのも考えられない。
とりあえず魔導ボックスに触れてみれば持ち主が分かるはず。そう思いながら綺麗になった魔導ボックスに触れてみた。
【ーーーーーードラ●アイ●●??切れ】
「……ん? あれ?」
「どうしたのニャ?」
「魔導ボックスに触れてみたんだけど、表示が変になっててよく見えないなぁと」
「ふんふん……」
コムギさんは魔導ボックスにちょこんと手をつけるが、コムギさんには反応しないせいか、首を傾げてウニャウニャ呟いている。
「ウニャ……。トージじゃないと反応しないニャ。トージは触れただけなのニャ?」
コムギさんが不満そうだ。
「手を置いただけだね」
そう言って俺は魔導ボックスの天板に手を軽く置いてみせた。
「それならもっとべたべたと触りまくるニャ!! トージが元々の主なのだから分かるはずニャ! 注文履歴とか見たらいいだけじゃないのかニャ?」
あぁ、注文履歴か。
それなら性能や故障のそれとは別だし表示が出るはず。
魔導ボックスそのものには押しボタンスイッチなどはなく、魔力による操作をしてもらうことになっている。もちろん使用する者の中には俺のように魔力がない者もいるので、単純にタッチパネル操作だけでも可能なのだが。
「えっと、履歴履歴……あぁ、これだ」
【視覚遮断の羽衣:アドリアナ専用】
【聴覚遮断の粉末:ルゴー洞門商店街向け】
【人間の冒険者を手っ取り早く追い出す書】
……ん?
何だか穏やかじゃない注文だな。というか、ルゴー洞門?
「どうかニャ?」
「うん。それがね……ルゴー洞門の人魚たちが使ってた魔導ボックスっぽいんだよ。注文履歴だけで判断すると、相変わらず人間たちに迷惑をかけられているみたいでね」
「あぁ、あの人魚たちニャね! 人間に迷惑かけられてるなんて、フニャゥゥ。困ったものだニャ」
この世界の人間は狼女性も口々に言っていたが、攻撃的な人間が多いと聞いた。そのほとんどが冒険者だと。悪い奴はどの世界にもいるってことなんだな。
「魔導ボックスの持ち主が分かったのはいいけど、どうしようか?」
「ニャゥ……届けようにも届けられないしニャ~。石板も車もいつ直ってくるのか分からないからニャ」
任せた相手が猫魔導師だからその不安はあるが、こっちとしては連絡を待つしか出来ないしどうしたものか。
≪トージトージトージ……聞こえるか~? 返事をしてほしいのじゃ≫
耳に響くこの声は――
「――魔導師ハーゼ?」
「ニャ?」
思わず声を出してしまったせいか、コムギさんが首を傾げている。
「おおぅ。そうじゃ、ハーゼなのじゃ! トージ、夜が明けたらレイモンの小屋とやらにいてくれ。そこに着くはずじゃからの」
「レイモンの小屋ですか?」
「うむ! 魔導師がいたところというのは……」
話が長くなりそうだし返事しとこう。
「わ、分かりました」
「じゃあ、またのぅ!」
魔導ボックスの問題が解決しないままなのに、ハーゼがレイモンの小屋に?
「魔導師ハーゼだったのニャ?」
「うん。明日辺りにこっちに来るみたい」
「ニャ……トージともっと一緒にのんびりしたかったニャ」
「……うん?」
誰かといる時も一緒にいると思うけど、そういう意味じゃないのかな?
「えっと、コムギさん。抱っこしてもいいかな?」
「ウニャウ!」
また騒がしい日々が始まると感じてるのか、コムギさんが俺に飛びついてくる。嬉しそうに飛び込んできたので、俺も存分にモフモフを楽しんだ。




