漁村に流れ着いた謎ボックス
コムギさんの寝かしつけのおかげか、体はすっかり軽くなっていた。目覚めた俺の胸元にはスヤスヤと眠るコムギさんの姿がある。
「ムニャ……」
気持ちよさそうに眠ってるコムギさんを優しく撫でつつ、起こさないようにゆっくりと体をずらし、外へ出ることにした。
外に出ると上空からの強い日照りが降り注いでいて、ここに戻ってから丸一日眠っていたことを気づかされる。
「お~トージ! 体の具合はもういいのか?」
「はい、おかげさまで!」
……って、不調なことを話したっけ?
「コムギさんに感謝を忘れないようにな。猫は一家の守り神、いやトージの守り神でもあるからな。家を長く開けるにせよ、猫には常に感謝を忘れないようにすることだ」
もしかしてコムギさんの様子でそう判断したのだろうか。
「そ、そうですね」
「はっはっは! それでいい」
メルバ漁村の人たちは、俺とコムギさんが暮らすようになる前からも守り猫に対する信仰心が強かった。もしかすれば猫信仰が強いおかげで猫の状態判断をしてるかも。
それにしても、漁村から離れてダンジョンだったり猫の村だったりと、体感的にはかなり留守にした気がする。だがそれほど月日が経ったようには見えず、漁村の風景はあまり変わっていない。
悠久の魔導師であるレイモンを素直に受け入れたことといい、外からの人間を歓迎しないことを考えると、やはりここは時があまり進まない村なのではないだろうか。
異世界である日本からここに来た俺がとやかく言えないが。
「お~い、誰か来てくれ!!」
「むぅぅ、何だこれは?」
……ん?
メルバ漁村が騒がしくなることはほとんどないのに、数人が声を張り上げている。危険はなさそうだろうし、人の助けが必要そうなので行ってみることにした。
俺とコムギさんが住んでいる岩山部屋とは真逆で、普段は船が置かれている海辺に人だかりが出来ていた。
「あの、何かあったんですか?」
何かを囲んでいるように見えるが恐れおののくような感じはなく、どっちかというと物珍しいものがあるといった感じがする。
「いや、箱のようなものが流れ着いてな……。どうしたものかと皆で考えていたところなんだ」
「箱ですか?」
海に囲まれてる漁村だから何が流れ着いてきても不思議はなさそうだが。
「……もしかしたらトージなら分かるかもしれないな。どう思う?」
「おぉ、そうだな。外から来たトージなら分かるかもしれん」
「トージ。こっちへ来てくれ」
漁村の人たちは囲んでいたものから離れ、俺をそこへ通してくれた。海藻がこびりついてて謎な箱に見えるが、間近で見てすぐに分かった。
「……これは――」
――どう見ても魔導ボックスそのものだ。しかしどう言って説得させるべきか。
「……ん? 何なのか分かったのか?」
「えっと、実は旅先で海に落としてしまった箱がありまして。もしかしたら、あの時落とした箱なのかもしれません」
流石に苦しいだろうか。
「むぅ、そうか。そういえばトージはずっと旅をしてきたんだったな。外に出ないわしらはそれが本当か嘘なのか調べようがないからな」
「確かになぁ。もしトージが落とした箱であれば、トージに預ける方が安心だろう」
「危なくはないのか?」
これが魔導ボックスなら危険なものではないと言えるが。
「それは、はい」
「……なるほどなぁ」
漁村の人たちは考えがまとまったのか数人が頷いている。
「では、トージに任せる。大変かもしれないが、持ち帰ってくれ」
「わ、分かりました」
追求しようがないと判断したのか、漁村の人たちは一斉にこの場から離れていく。
それはいいとして、これを持ち運ぶのは流石に厳しいような。海藻まみれの魔導ボックスを前に、俺はしばらく眺め続けるしか出来ない。
「フニャゥ。トージ、何をしてるのニャ?」
と、そこについさっき起きてきたのか、眠そうなコムギさんが俺に声をかけてくる。
「コムギさん! 実は――」
流れ着いた魔導ボックスについて、コムギさんにかいつまんで話してみた。
「ふんふんふん……」
「どうしようか?」
「それが魔導ボックスなら運ぶ必要はないニャ。トージが出したものだから、とりあえず亜空間収納すればいいだけニャ」
「あっ、そうか!」
移動販売スキルが使えなくなってからあまりスキルを使わなくなっていたせいか、使えるスキルすらすっかり忘れていた。
コムギさんに言われた通り魔導ボックスに手を触れると、まるで重さを感じずに持ち上げられたうえ、目に見えない亜空間に収納することが出来た。
「出来たよ、コムギさん!」
「やれやれニャ」
亜空間収納が上手くいったので、コムギさんと一緒に岩山部屋へと足を向けた。




