まったり過ごす時間なのニャ
「……うん。メルバ漁村で間違いないみたいだね。見知った人たちが普通に歩いてるし、いつもの日常って感じ」
魔導人形を動かした時に違和感に気付いていたのに、まさかコムギさんが光り出したうえ違う場所に移動してしまうなんて。
「戻って来ちゃったけど、トージはどうするつもりニャ?」
「え? う~ん……」
まさにそれが問題だ。
猫の村から全然違う新しい場所に行けた時は刺激があってよかったものの、ここにきて異世界疲れが一気にきたのか、疲れやすくなっている。
だが今回、偶然のテレポートだとしてもコムギさんと新生活を始めたメルバ漁村に帰ってこられたのは、いい機会だと思うのがいいかもしれない。
「とりあえず家に帰ろうか」
「ウニャ!」
漁村の人たちにとって、コムギさんを抱っこしながら外を出歩いているのは何ら不思議はない。だが、外にいれば何かしらの話をする羽目になる。そうなるとやはり自分の家の中にいる方が無難だ。
そんなわけで久しぶりに部屋の扉を開けると、自然と出てきた言葉は。
「ただいま~」
……うん。やっぱりこれだよな。
「ただいまニャ~!」
自分だけ感慨深げにしていると、コムギさんも同じ声を出していた。
――それにしても。
「う~ん、しばらくぶりの我が家は埃だらけだね」
漁村近くにあるレイモンの小屋を見つけて以降、そこから漁村に帰ることなくずっと外に出まくりの日々だったせいか、部屋はすっかり汚れていた。
「植木鉢のお花のせいかニャ?」
「あ、そうか。小屋から持ってきてそのまま放置してたんだ」
レイモンの小屋にはいくつかの植木鉢を残している。小屋の植木鉢は俺の新たなスキルと謎の種を植えたものだけだが、漁村の部屋に置いている植木鉢は普通の観葉植物を植えていた。
そのせいか、日当たりがいいこの部屋で育った植物の白い綿のようなものがいくつも飛びまくっている。
「窓を開けて自由にさせてもいいかニャ?」
コムギさんが窓に手をつけて開けたそうにしているので、俺は素直に頷いた。窓を全開に開けると、種子をつけた綿が一斉に部屋から飛んでいくのが見える。
……こういうのも必要だったんだな。
「トージトージ! ついでに私も外に出てくるニャ」
「え、どこに?」
「心配いらないニャ」
コムギさんが遠くに行くわけがないのに、何となく心配になる。
「それよりも、お部屋は掃除しないのニャ?」
「……あ。そ、そうだね。掃除しないとご飯も食べられないね」
「私はその間におつかいに行ってくるニャ。トージが食べたいものを持ってくるから待っててニャ~」
「そうだね、そうするよ。いってらっしゃい、コムギさん!」
「ニャ~」
……メルバ漁村で暮らすようになってからいつもこんなやり取りをしていたはずなのに、ゆっくりと休むことを忘れていた気がする。
今は休む機会なんだろうな。なので、今はコムギさんが気遣ってくれた部屋の掃除をすぐに始めて綺麗にしておこう。
う~む。小屋の植木鉢をどうするべきなんだろうか。見に行ってみないと何とも言えないけど、放置しても枯れずにいてくれればな。
この部屋と小屋は亜空間移動で繋がっているのですぐに確認は出来るが、まずは目の前の部屋を何とかする。
――よし、これで床も綺麗だ。
俺とコムギさんだけの部屋なので掃除はすぐに終わった。そうなると、いつものようにコムギさんの帰りを待ちながら床に横になって待つだけになる。
「…………?」
それほど疲れてなくても横になると自然と眠ってしまう俺だったが、どこからともなく誰かの声が聞こえているような気がした。
≪……トージ、聞こえ……か?≫
どこからともなくというか、正確には俺の耳に直接聞こえる。
≪わしの声が聞こえてるじゃろ? お~い、トージ~?≫
――あ。そういや、耳にリングをつけっぱなしだったな。つまりこの声は、魔導師ハーゼの呼ぶ声か。
このままだと間違いなく独り言を言うことになるし、そういう意味では部屋の中にいて正解だったかもしれない。
「聞こえてますよ、ハーゼ」
「おおぅ! よかった、上手くいったようじゃな。トージがつけてるリングはな、わしが遺跡都市で見つけた連絡用のカフリングを改良したものなんじゃよ」
「遺跡都市の……」
「それを耳につけたままであれば、遠隔地にいるわしと会話が出来る魔道具で――」
――魔導人形の耳から外したカフリングが伝達用の魔道具ってわけだ。ぎりぎりのところで連絡手段が出来たわけか。
「俺とコムギさんが移動してしまった原因は何です?」
「遺跡都市が元々テレポート装置を備えていたからで……とにかく、トージとコムギはわしが迎えに行くまでしばらく今いる場所で待ってるのじゃ」
「え? 迎えに?」
「…………じゃぞ」
むむ?
「あれ? ハーゼ? 聞こえてます?」
「…………ザーザー」
肝心なのが聞こえないまま途切れてしまったみたいだ。クウやレイモンのことも心配になるが、今はどうすることも出来ないな。
「ただいまニャ! ニャニャ? トージ、今すぐ眠ってニャ!!」
「お帰り、コムギさ……ん?」
おつかいに出ていたコムギさんが魚をくわえながら窓から部屋に入ってきた。そうかと思えば、魚を放り出して急に焦りだし可愛い手を俺に向けてくる。
「トージはきっと体力の限界がきたのニャ! 一人でぶつぶつと言ってたのが何よりニャ!」
ああぁ、やっぱりそうなるか。
「いや、これはそうじゃないんだよ?」
「つべこべ言わずにゆっくり休んでニャ!!」
こうなると何を言っても無駄なので、コムギさんに言われた通りベッドに横になって眠ることにした。
「おやすみにゃ~」




